抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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落ち度

‥‥‥目、覚めちゃった。まだこんな時間か。総員起こしには少し早いし散歩でもして身体を起こしてこようかな。

 

風雲よ。

改めて歩いてみると、呉鎮守府の絢爛さが目につく。明治とか大正くらいの時代の迎賓館っていう感じの内装は、私達が普段生活している軍の施設には見えない。あ、それ言ったらあの元水族館の鎮守府もそうね。私がこんな場所でこうして艦娘をしてるなんて、少し前までは考えもしなかった事。

 

まだ薄暗い廊下をゆっくりと歩く。ここが軍事施設じゃなければ、少しでも趣を感じていたかも知れない。

 

あっ、あそこに居るの神通さんだ。やっぱり早起きなんだ。ちょっと挨拶しておこうかな。

 

「神通さん、おはようございます」

 

「おはようございます。早起きですね」

 

ほんの少し前までは、神通さんは凄く怖くて厳しい人って印象だった。完全にそのイメージが抜けたわけじゃないけど、今の印象は少し違う。厳しいのは私達の為を思っての事だし、優しい面だって沢山ある。そう思えるようになったのは暁先輩に色々聞いたのもあるけど、一番の理由は自分に少し自信が持てるようになった事。

何をしても駄目だって思ってた、こんな私でも取り柄があって。それが結果として阿賀野さんやみんなの命を助ける力になった。勿論今の私は艦娘としての練度も技術も駄目駄目だけど。いつか暁先輩みたいな‥‥‥うーん、いやいや、それより神通さんみたいな頼れる先輩になりたいかな。暁先輩は愛嬌があって好きだけど。

 

「風雲さん、早起きも大切ですけれど、疲労が残っているままで活動するのは善くありませんよ。総員起こしの時間前まで良く眠って体力を回復させる事も大切ですから」

 

ほらね。神通さんはちゃんと私達の事を心配してくれてる。もっと早く気付きたかったな。

 

「はい、神通さん。でも疲れは取れてますので大丈夫です」

 

疲労ならちゃんと取れてる。それに今は毎日が楽しいって思える。そりゃ訓練はキツいけどね。

 

「それでは、また訓練で」って言った神通さんと別れて、また歩く。っていってもぐるっと艦舎を回って部屋に戻るだけだけどね。戻ったら暁先輩と陽炎を起こさないと。二人とも朝は強くないみたいだからね。

 

あれ?あそこに立ってるの、由良さんだ。あんな所で何してるんだろ?立ち止まって何処かをじっと見てるみたい。視線の先は‥‥‥提督の部屋?何かあったのかな?

 

あ、部屋から誰か出てきた‥‥‥ってあれ?曙秘書艦だ。どうして呉に居るんだろう?曙秘書艦はそのまま廊下の奥へと歩いていく。方向的に食堂に向かってるのかな?由良さんは曙秘書艦の背中をじっと見たまま。声くらい掛ければいいのに。由良さん、私にも気付いてないみたい。私から声掛けようかな。

 

ゾクリ、と背筋が凍った。由良さんの表情は一見穏やかに見える。でもその瞳は少しも笑ってない。穏やかには程遠い、まるで親の敵でも見ているかのような憎悪と殺気に満ちた瞳‥‥‥私にはそう見えた。気のせいだよね?だってあの優しいお姉さんの由良さんだよ?それかきっと曙秘書艦と喧嘩でもしてるんだよね?由良さんだって人間だし。うん、きっとそう。

 

「おはようございます」

 

私が声を掛けると、由良さんはビクッとしてこっちを向いた。あ、やっぱり私には気付いて無かったみたい。

 

「風雲さん、おはよう。早いのね」

 

由良さんの瞳からは憎悪みたいなものは無くなってる。良かった。

 

「由良さん、任務頑張ってください」

 

「ありがとう。風雲さんの事も『あっちのみんな』に伝えておくから。『こんな凄い子がいる』って」

 

凄いだなんて。私はまだまだだし。でも由良さんにそう言ってもらえるのはちょっと嬉しいかな。

 

「そうだ、風雲さん。良かったら少しだけお茶しない?実をいうと重要な任務の前で少し緊張してて。世間話でもどうかなって。ねっ?」

 

由良さんからお誘いかぁ。時間、まだ大丈夫だよね?少しだけならいいか。

 

「それじゃ、お言葉に甘えます」

 

そうして私は由良さんの泊まってる部屋へと向かう事にした。他愛のない話や近況とか、悩みとか話して。由良さんみたいな大人のお姉さんには憧れちゃうなぁ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あの‥‥‥ヌイヌイちゃん?」

 

ツーン、と視線を逸らせます。駄目です。返事などしてあげません。不知火がどれだけ恥ずかしかったのかポイポイに分かりますか?

 

「そんなに拗ねないで」

 

「‥‥‥ポイポイは少し反省すればいいわ」

 

さて、どうしてくれましょうか。不知火の恥ずかしさをポイポイにも味わわせつつ反省も促す罰‥‥‥ウムム、なかなか思いつきませんね。

いや、一つ思いつきました。これなら先の要件を満たしていますね。善は急げといいますし直ぐにでも実行に移すとしましょう。

 

「反省ならしてる。今度からは場所は弁えるから。ね?ヌイヌイちゃん」

 

「それなら不知火の罰を大人しく受け入れなさい」

 

 

 

‥‥‥‥‥‥嗚呼。その時はまだ寝起きで頭が覚醒しきっていなかったのです。今にして思えばどうしてあんな諸刃の剣のような事をしたのでしょうね。後悔しかありません。

それで。今はポイポイと共に食堂に居るわけなのですが。すれ違う皆がポイポイのある一点に視線を向けます。ポイポイの左の首筋に貼られた絆創膏に。皆それから不知火に視線を向け、ニヤニヤしていますね。

 

なんたる事でしょうか。不知火はポイポイに罰を与えたつもりだったのに。まさかそれが不知火自身に返ってくる事になろうとは。

不知火はただ、ポイポイの首筋にキスマークを付けただけのつもりだったのです。ですが後から考えてみると、他から見ればそれは昨晩不知火がポイポイと一線越えたようにしか見えないわけで。

 

瑞鶴さんに至ってはポイポイを見たあと不知火をニタニタと笑いながら見つめ「やったじゃない不知火。で?後学の為に聞いておきたいんだけど、どうだった?」等とほざく始末。

曙は曙で「別にやるのは構わないけどね。執務には影響が出ない程度にしときなさいよ?」と。

 

なっ、なっ、なんという恥辱。今度という今度は許さないわ。覚悟しなさい、ポイポイ!

 

 

 

朝からそんな事がありましたが、午前は概ね予定通り。大きな問題もなく過ぎ去りました。無論、用件があって執務室を訪れた艦娘達からはそういう視線を受けましたが。

 

午後になり曙も横須賀へと戻りました。

さて。もうじき龍驤さん達が到着する時刻ですね。ですがスパイが居るとなると今回のスエズ運河への支援、敵に漏れていると考えた方が良いでしょう。念のため当初の予定進路を変更した方が良いでしょうか。待ち伏せという可能性もありますし。旗艦を務める由良さんとも話し合っておく必要がありますね。それに敵の旗艦はあの伊19のようですからね。油断ならない相手です。準備が多いに越した事はありません。

 

「司令、進路について由良さんと話しておく必要があるのでは?」

 

「そうね不知火さん。由良を呼んで話しておきましょう。勿論スパイの件は伏せて」

 

何でしょうか。ポイポイも不知火も今は仕事モードです。公私混同は善くありません。

‥‥‥不知火に落ち度でも?




ドーモ、作者デス。
風雲が由良と接触。今回の不知火さんは落ち度全開でした。


oh、ぬいぽいは前回朝食食ってるじゃんよ‥‥という事で訂正しときました。

2019春イベントはクリアはしましたが現在フレッチャー掘りの泥沼にはまり中。イベ開始時に30万あった燃料が10万を切りました。現在掘り中断して遠征ブン回して燃料回復してる間に執筆してます。
ではまた次回に。

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