抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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内通者

どうして大湊に居る筈の萩風が此処に?不知火さんの心の傷だってまだ癒えていないでしょうし、呉に呼び寄せる理由が見当たらない。まさか‥‥‥駆逐水鬼の事が‥‥‥ううん、まだそうと決まったわけじゃ。でも念の為に少佐に聞いておこうかな。

 

由良です。

思わず萩風の事見つめちゃったけど、変に思われてないかな?会釈程度はしたし無視した訳じゃないから大丈夫だとは思うけど。

 

沖立少佐から呼ばれているし取り敢えず執務室に入ろう。それにしても。龍驤さん達が着くのはまだ先の筈なんだけど、何の用なのかな?やっぱり駆逐水鬼の事かな?それとも別の何か?

 

「提督さん、由良です」

 

扉越しに声を掛けてみると沖立少佐から「どうぞ」って返事。声に緊張感や棘がある訳ではないみたい。それなら何の用なんだろう。

ノブに右手を掛けてゆっくりと扉を開く。不知火さんと沖立少佐は仕事モードみたい。不知火さんにソファへと誘導されて、私は静かに座る。書類に目を通していた沖立少佐はその手を止めて椅子から立って、私の向かいのソファに座る。不知火さんはその右脇に立った。あ、沖立少佐の首筋に絆創膏‥‥‥例のキスマークかな?その話は一旦置いておこう。

 

「早速本題に入るわね。今回の遠征、航路を変更して欲しいの」

 

「変更‥‥‥ですか?」

 

沖立少佐からの提案‥‥‥ううん、命令か。作戦当日になって変更なんて何が目的?

 

「ええ、由良」

 

少佐の表情は変わらず、その心境は読み取れない。彼女が昔の夕立のままだったら本心を読むのは簡単だったのに。一度引退に追い込んだけどそれもいい事ばかりじゃなかった、って事かな。

 

「理由を聞いても?」

 

沖立少佐の説明だと、『深海棲艦が此方の動きを事前に察知して動いているような節は前からあった。だから今回は直前に作戦を変更し様子を観てみる』みたい。

 

「つまり、深海棲艦達に本当にそういう察知能力があるかどうか確認する、って意味ですか?」

 

「簡単に言えば、そういう事になるかな。その事に関しては確定情報ではないっぽいし。私達が動いた先に偶々深海棲艦達が居ただけって可能性もあるから」

 

少佐は表情を崩さない。

本当に、それだけかな?他に意図があるんじゃないのかな?深海棲艦側の察知能力を確認する為の機会なんて今まで幾らでもあった筈。重要な作戦で私が旗艦を勤める今回を選ぶ理由は?まさか、私の事を試して‥‥‥。

 

動揺しては駄目。落ち着かなきゃ。冷静に、普段通りに。まだ私の事がバレたと決まった訳じゃない。でも‥‥‥。

心の中だけで深呼吸をする。勿論、私の表情は表面上は変わらない。

 

「‥‥‥本当に、それだけですか?」 

 

私の言葉に、沖立少佐の表情が少し動いた。フフッ。身体は成長してもこういう所はまだまだみたい。この程度でボロを出してくれるなんてやっぱり夕立は夕立ね。これじゃ前言は撤回かな。これは、きっと『存在』には気付いてる。

 

「‥‥‥あらゆる可能性を考慮してるのは否定しないわ」

 

やっぱり。内通者が居る事を疑ってはいる。そうよね、深海棲艦側があれだけ的確に動けば内通者が居ると考えてもおかしくはないもの。‥‥‥少し派手に動き過ぎたかも知れない。折角此処まで来たんだもの。これからはもう少し慎重にいかないと。

 

「つまり、内通者が居るって事ですか?」

 

普通なら、自分から内通者の存在を疑わせるような発言は控える筈。だから、私がそう発言する事によって私を疑惑の対象から逸らす事が狙い。これで万が一『内通者が居る』って事になっても時間が稼げる筈。

 

「今は‥‥‥確実な事は何一つ言えないわね」

 

私の事を疑っている訳ではない、か。でも。

慎重に、けれど大胆に。計画を早める必要があるのかも知れない。もう少し、もう少しだから‥‥‥。

 

「分かりました。航路は仰る通りに変更します。深海棲艦の動きには充分に気を付けます」

 

「お願いね。スエズ運河を奪われる訳にはいかないから」

 

沖立少佐と不知火さんに新たな航路の説明を受けて、私は静かに執務室を出た。本当は私に内通者の事を言うつもりは無かったんでしょうね。『可能性の一つという段階だから口外は控えて。無駄に不安を煽りたくはないから』って口止めされた。

 

スエズ運河での『私達の優勢』は揺るがない。でもそれをひっくり返す可能性がある以上、油断はできない。現に夕立はそうやって激戦をくぐり抜けてきた。だからそういった芽は今のうちに出来る限り潰しておかないと。

 

 

 

だから、村雨。貴女とはスエズ運河に辿り着く前にサヨナラね。改二になった貴女の力は『私達』にとって邪魔以外の何者でもないから。それに、貴女が私達側に来てくれるなら大歓迎。村雨ならきっといい姫級になれると思うわ。あの子も喜んでくれるんじゃないかな?

 

それと、こっちも予定変更。だってそうでしょ?『ハギカゼ』を態々萩風や危険な夕立にぶつける必要なんて無いもの。『艦艇の魂の消失が深海棲艦の消滅の条件の一つ』だと気が付いたのなら、その芽も予め摘んでしまえばいいだけ。つまり、『ハギカゼ』の撃沈目標は‥‥‥駆逐艦・雷ちゃん。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「結局由良には知られちゃったか‥‥‥」

 

ソファから執務机に戻り、ふぅ、と息を吐くポイポイ。何と言いますか、やはりポイポイはガードが甘い所がありますね。特に第二駆逐隊の3人と由良さんに対しては。あれでは『スパイが居る』と言っているようなものではありませんか。

 

不知火です。

 

「司令は精進が足りませんね。そんな事では東郷総長に追い付くのは何時になる事やら」

 

ハァ、と息を吐きます。呆れている訳ではありませんよ?由良さんに対する嫉妬を誤魔化しているのです。これまで不知火の気持ちを散々受け流して取り合ってもくれず、つい先日ようやく受け入れてもらえたというのに。由良さんに対してはこうも簡単に折れてしまうのですから。嫉妬するな、というのは無理というものです。全く人の気も知らないで、この人は。

 

「‥‥‥ヌイヌイちゃん?」

 

「何でしょうか。不知火に落ち度でも?」

 

少し反省すればいいのです。不知火の気持ちを軽んじた罪は重いですよ?勿論、仕事は仕事としてキッチリやりますのでご心配無く。

 

「もしかしてご機嫌斜めっぽい?」

 

「いえ、何も問題はありませんよ?それより手を動かして下さい」

 

苦笑いで不知火の顔を覗き込むように見ているポイポイ。クッ、その表情は反則です。ですが、不知火は屈しません。

 

「‥‥‥ふふっ」

 

なっ‥‥‥なんなのですかポイポイ、その笑みは。笑う要素など何処にも無いではありませんか。貴女はそうやって何時も何時も不知火の事を‥‥‥。

 

「おいで、ヌイヌイちゃん」

 

ポンポン、と自分の両膝を叩くポイポイ。なんですか、その『不知火が嫉妬してるのなんてお見通し』と言わんばかりの表情は。ポイポイの膝の上に座れ、という事ですか。そんな事で不知火の機嫌を取ろうなんて‥‥‥。

 

そんな不知火の思考に反して、身体はポイポイの方へ。ストン、とその膝の上に腰を下ろしました。自分のチョロさが情けなくなりますね。

 

「由良はほら、別のカテゴリだから」

 

「分かってるわ。ハァ、此処にはプライベートは持ち込まないつもりだったというのに。ポイポイのせいね」

 

暁は『頭をナデナデしないでよ』等と言いますが。これは駄目ですね。癖になります。ポイポイの膝の上で、抱かれながら頭を撫でられる事はどんな甘味よりも不知火を高揚させてくれます。

 

もう少し浸っていたい所ではありますが、此処は執務室。それにポイポイの仕事は山程有ります。何時までもこのままという訳にはいきません。それに。由良さんは何というか、違和感を感じる。ポイポイや村雨さんが由良さんに向けるような気持ちと比べ、どうも表面的な感じがしてならないのです。それは不知火が感情の機微を感じ取れる、という意味ではなく、ポイポイに出会う前の嘗ての不知火がそうだったからです。

それに、由良さんは。

 

「それとポイポイ、少し真面目な話だけれど」

 

ポイポイに抱かれ頭を撫でられながらなので絵的には全く締まりませんが、不知火は一抹の不安を伝えました。不知火の記憶が間違っていなければ、ポイポイの言うスパイの候補に由良さんも当てはまるという事を。所謂クーデターの後に海軍に入り、第一次対深海棲艦戦争が終わっても海軍に残り今の今まで軍で活動している。勿論当てはまる関係者は大勢居ますので由良さんがスパイ、と断定するのは早計なのは分かっていますが。

 

「そうね、由良が内通者だとは思いたくはないけど」

 

可能性がある以上、余り機密を洩らす訳にはいかないでしょう。由良さんと話す時は今後はもう少し気を使ってもらいたいものです。それに、今回の遠征で由良さんがスパイかどうかは分かるでしょうからね。スエズ運河には念の為にもう一部隊出る事になりそうですね。

 

「念の為に山本中将に報告はしておかないとね」

 

ポイポイはそう言うと不知火から手を離し、椅子から立ち上がりました。もう少しあのままで居たかった所ですが、仕方ありませんね。

 

「航路については村雨にも話しておかないとね」

 

ポイポイは執務室の外へ。さて、すぐに戻ってくるでしょうし、不知火は書類の整理くらいしておいてあげる事にしましょう。




内通者は由良だった、だと(棒)
次に狙われるのは村雨と雷に。という所でまた次回に。

因みにわたくしごとですが6月28日(不知火の進水日)にぬいぬいさんとケッコンカッコカリしました。(ぬいぬいで丁度ケッコンカッコカリ20人目)

※※以下ネタです※※

コロラド「ココがニホンのanchorage(泊地)ね!私の力を見せてあげないとね!」

大淀「お待ちしていました、コロラドさん」

コロラド「!!‥‥‥貴女、聞いていた印象と随分違うわね」

大淀「‥‥‥はい?」

コロラド「貴女、あのナガトでしょう?もっとこう、サムライのような感じだと思っていたわ」

大淀「‥‥‥ええっと」

コロラド「もしかしてナガトではないの?ああ、sorry、ムツだったのね」

大淀「大淀です。私は軽巡洋艦・大淀ですよ。ええと、Light Cruiserです」

コロラド「Light Cruiser!?だって貴女、私より‥‥‥」ミアゲル

大淀「申し訳ありませんがbattleshipではありませんよ」ミオロス

※大淀は全長192m、コロラドは全長190.2m

コロラド「」

大淀「ああほら、長門さんならあそこに」

長門「何だ大淀、呼んだか?」←全長224.94m

コロラド「‥‥‥‥‥‥」←長門より頭一つ小さい

長門「お前がコロラドだな?私は長門だ。同じビックセブン同士、宜しく頼む」

コロラド「BIG7?BIG5なら分かるけど‥‥‥?」

※向こうではテネシー級2隻とコロラド級3隻を合わせてBIG5と呼んだ。『ビックセブン』という呼称を使っていたのは当時日本だけ

長門「そうそうコロラドよ。ウチの提督には注意しておけ」

大淀「‥‥‥そうですね。コロラドさんは提督の好みかも知れませんし(ロリ戦艦的な意味で)」

コロラド「えっ」









八丈「ガッキー(石垣の事)はうまく逃げ切れたみたい、良かった」

国後「あの□リコン司令に見つかったら何されるか分からないもんね。ハチも気を付けなよ?」

八丈「うん」



じじニキも私同様に石垣掘れなかった模様。これは危険を察知して逃げたという事なのかそうなのか!?チクショウメ!

因みに
古鷹(全長185.166m) < コロラド < 最上(全長200.6m)
なのでコロラドさん、日本の殆んどの重巡洋艦より小さいです。利根や羽黒より小さいです。

しかもコロラドさんは28900馬力。これがどのくらいかというと……同じビックセブンの長門が82000馬力、神風38500馬力、清霜52000馬力、大淀110000馬力、金剛136000馬力、大鳳160000馬力、アイオワ221000馬力。つまりコロラドさんは駆逐艦並み(以下)のパワーという事に。
そりゃ『清霜に「どうやって戦艦になったの!?」って言われる系』に分類されますわ。

コロラドさんは小さいエロカワイイ。ちょっとケッコンカッコカリ前提でレベリングしてきます。パセリニキは偉大、はっきり分かんだね。


夏イベント告知が来ましたね。あと1カ月程あるようなので備蓄はいけそうです。泥版使って遠征ぶん回して燃料28万まで回復したので。燃料28万、弾薬27万、鉄26万、ボーキ24万って所ですかね。大規模で沼らなきゃいける程度には回復。あとは大量に減ったバケツがどうかですかね‥‥‥

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