村雨です。
あれから数日、今は海上です。強い低気圧が発生してるみたいで、かなり海が荒れてて危険。
『みんな聞こえとるか?前方に島が見えるやろ?彼処で少し様子見するで』
龍驤さんから通信。確かに暴雨風の向こうに島が見える。由良さんが見つけたみたい。本来なら立ち寄る場所じゃないけれど島まで行って天候と海の状態の様子を見た方が良さそう。
『よし、決まりやな。ほな行‥‥‥ブフォッ‥‥‥くぉ~らリベッチオ!笑うなや!』
あ、龍驤さん波を顔にモロに被ったみたい。リベッチオちゃんも指をさして笑ってるわ。良かった、リベッチオちゃんはずっと沈んだ表情だったけど少し元気になったみたいね。
‥‥‥ふぅ。これで少しは休めるかな。呉を出てからずっと移動しっぱなしで気も張ってたし。
周りを気にしつつ、慎重に上陸。雨や風を凌げるような場所が有ればいいけど。制服が肌に張り付いて気持ち悪いし、乾かせるような所でも有れば嬉しいな。
とても小さな島。砂浜の先には鬱蒼と生い茂る木々。無人島かな?地図には載ってないみたい。由良さん、よくこんな場所見つけたなぁ。
海へと流れている、暴風雨でもあまり水量の無い小さな川に沿って上流の方へ。流石に艤装を持ったまま陸を、しかも足場の悪い所を行くのは疲れる。でもこの天候じゃ何があるか分からないから艤装は置いては行けないし。万が一流されでもしたら大変だものね。
由良さんによると、上陸する時に洞窟らしきものが見えたんだって。その方角へ向かってこの森の中を歩いていってるんだけど、そろそろ現れてくれないかな‥‥‥‥‥あっ、見えてきた。良かったぁ。
やっと着いた。少なくとも洞窟の入口のここからは海は見えない。ホント、由良さんこんな場所どうやって見つけたんだろう。
入口は少し小さめ。中までは雨風は入ってこない。これでやっと休める。ふぅ、って息を吐いてその場に腰を下ろす。疲れたぁ。
‥‥‥あれ?マックスちゃんもリベッチオちゃんも疲れた様子は無いみたい。勿論龍驤さんも由良さんも。一緒にスエズ運河まで行く大鷹さんも。あー、私ももっと精進しなきゃいけないみたい。佐世保に戻ったら由良さんに鍛え直してもらわなきゃね。
「交代で哨戒程度はしておきましょう。先に私とリベが出る。1時間したらユラとムラサメが交代して」
マックスちゃんが私の様子を見ながらそう提案してくれた。確かにこんな天候でも哨戒は必要よね。上陸する所を深海棲艦に見られてない、とは言い切れないし。暴風雨のせいで深海側が艦載機を使えないのが不幸中の幸い。まあそれはこっちも一緒だけどね。
「それとムラサメ。貴女は少し鍛え方が足りないようね。私達が出ている間に少しでも体力を回復させておきなさい」
うっ‥‥‥。マックスちゃんも容赦無いなぁ。本当の事だから反論なんて出来ないけど。「はーい」って苦笑いで答える事しか出来なかったわ。
「それじゃ、少し出て来るわ」って言ってマックスちゃんはリベッチオちゃんと一緒に来た道を海の方へと戻っていく。私はどうしてようかな?暖は取った方がいいわよね?何か燃えそうな物でも探して来ようかな。
「私達でやっておくから。村雨は少し寝てても大丈夫だから。ねっ?」
座り込んでる私の頭を、そう言って由良さんがポンポンって撫でてくれる。も~ぅ、由良さん、それ卑怯よぉ。私、だから由良さんに甘えちゃうのに。
「せやせや。そーゆーのはこういう時役に立たないウチらがやったるわ。由良、ついでやしそのまま膝枕でもしてやったらエエねん」
龍驤さん!?まあでも‥‥‥由良さんならいいかぁ。疲れてるのは確かだし。お言葉に甘えておこう、かな。
「時間になったら起こすから。少しゆっくりしてて」
そう言って自分の膝をポンポン、って叩く由良さん。
艤装は外して、濡れた制服も脱いで。由良さんの膝に頭を乗せて横になる。んーっ。由良さんの膝、気持ち良い。あ、焚き火が付いたみたい。暖かい‥‥‥良く眠れそう‥‥‥。
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ふぁ~、良く寝た。そろそろ交代の時間ね。由良さんはもう準備してるみたい。私も艤装‥‥‥の前に制服着なきゃね。
艤装も装備したし。さあ、行きましょうか。って言っても海まで少し歩くんだけどね。
「ねぇ由良さん、この任務が終わったらまた訓練見てもらってもいいですか?みんなの足を引っ張りたくないし」
「‥‥‥‥‥‥そうね、分かった」
あれっ?今の間、なんだろう?由良さん、何とも言えない表情してたし。うーん、あんまり乗り気じゃないのかな?それとも何かあるのかしら?
そうしてるうちに浜に着いた。後はマックスちゃん達が此方に戻って来たら交代。あ、二人の姿が見えてきたわ。良かった、何も無かったみたいね。
「二人ともお疲れ様。後は私と村雨に任せて」
由良さんは二人を労って海面へ。私も行こう。さあて、ちょっといいトコ‥‥‥見せる機会が無いといいんだけれど。
島から離れ過ぎない程度の位置。島を中心に時計周りにグルっと哨戒を始める。彩雲とか水偵が飛ばせれば楽なんだけど、そういう天候ならそもそもあの島に寄ったりしないし仕方無いわよね。
海を周り始めて丁度半周くらいの位置。島の洞窟の正反対の方角くらいに差し掛かった時だった。私の艤装の何処かから突然「ボンッ」っていう破裂音がした。えっ!?何かあったの!?
「妖精さん?」
『通信設備がショートしたようです。すぐに修理に取り掛かります』
通信設備が?もうっ、こんな時に!でも大事じゃなくて良かった。きっと修理もそこまで時間掛からないだろうけど、一応由良さんにも伝えておかないと。
私は少し速度を上げて、前方を走る由良さんの右隣へ。「由良さん、私の通信設備がショー‥‥‥」まで口にしたんだけど。
一瞬私の視界は暗転。気付いた時には私の目の前には海面があった。あれ?私、どうして倒れて‥‥‥?
顔をあげてみると、由良さんが私を見ていた。その姿は、私にはまるで理解出来なかった。由良さんは嘗て見たことも無いような冷たい表情で見下していて、まるでゴミでも見ているかのような瞳を私に向けていた。え?え?私、由良さんが機嫌を損ねる程の酷い事したっけ?
‥‥‥そして私は、言葉を失った。由良さんは私に単装砲を向けていて、その砲口からは微かに煙が上がってる。ハッと我に返って自分の状態に気付く。中破。推進機関を撃ち抜かれていて、ここから動けそうもない。
うそ‥‥‥私、撃たれたの?由良さんに?
「どう‥‥‥して‥‥‥由良さん‥‥‥」
私の言葉には答えてくれない由良さんは、単装砲でもう一発私を撃った。それで私は大破。左足太股の魚雷が誘爆、左足は使い物にならなくなった。これでこの場から逃げる事も叶わない。
「由良さん、どう‥‥‥して‥‥‥」
「貴女とお喋りしてる暇は無い。それじゃ、後はお願いね」って由良さんの言葉の後。私は右足を掴まれて水中へと引き摺り込まれた。助けて‥‥‥息が‥‥‥。
薄れていく私の視界に映ったもの。真っ白な潜水艦の深海棲艦。姫級!?どうしてこんな所に。でも、聞いてたよりもずっと小さい。新型‥‥‥‥?どうして?そういえばさっき由良さん、『後はお願いね』って。まさか、まさか、由良さんは深海棲艦と‥‥‥。それじゃあ通信設備の故障も由良さんが‥‥‥?
海面が遠い。苦しい。この右足首を掴んでる手をどうにかして振り払って、海上へ戻らないと。みんなに伝えないと。私まで深海棲艦になっちゃう‥‥‥。まだ、まだ死にたくない。
!!
掴んでる手が離れた!早く、早く海面へ‥‥‥。
でも。私は気が付いた。私の四方から迫る、深海魚雷。今の私じゃどうやっても逃げられない。直撃する。私の瞳から涙が溢れ出てるのが分かる。
助けて‥‥‥誰か‥‥‥助
ドゴォォォオン
村雨ぇぇぇぇえ!!
今回は村雨オンリー。という所でまた次回に。
因みに由良さんとケッコンカッコカリしてきました。黒幕にしちゃったからね。責任は取らないとね。
夏イベE1はフランスのブレスト防衛。ブレストは去年の夏(初秋)に仏棲姫から奪還した所。なんとフランスさん、あれから一年間守り切っていた模様。