抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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執行‥‥‥?

‥‥‥‥‥‥村雨、です。

どうして‥‥‥どうしてこんな事になったんだっけ。

 

「村雨‥‥‥いい加減認めたらどうなの?目撃者もいる、通信記録っていう証拠もある、被害者の証言もあるのよ?」

 

薄暗い、窓の無い総コンクリートの部屋にテーブル。向かい合わせに置かれたパイプ椅子。鉄格子の填まっている扉から遠い方の、部屋の奥側に座り俯く私。前に組んだ私の両手には、手錠。

その向かいで尋問を続ける能代さん。私の供述を書き留めようとペンを持っている親潮の右手は動いておらず、供述調書は白紙。だって、私は何も話していないから。

 

「貴女ねぇ‥‥‥‥‥‥そうね、それじゃこうしましょう。村雨が全部認めて、レ級の居場所と深海側が今企んでる事を話してくれたら、上に減刑してもらえるように掛け合ってあげる」

 

冷たい表情で、私の顔を覗き込みながら話す能代さん。どうして信じてくれないんだろう。

 

改二になって。欧州救援っていう重要な任務に抜擢されて。これからは私がみんなを引っ張っていくんだ、育ててくれた由良さんの期待に応えなきゃ、って思ってた。なのに、由良さんに裏切られて攻撃されて、私は今や叛乱罪に問われてる被疑者。

 

尋問が始まって何日目だっけ。最初こそ必死で罪を否定して『信じて』って叫び続けた。けど全く聞き入れてもらえなかった。罵声を浴びせられた。私の全てを否定された。私の心は、砂山が崩れていくように少しずつ折れていった。私の味方は、誰も居ない。

 

「はぁ‥‥‥何とか言いなさいよ。‥‥‥貴女のせいで一体何人死んだと思ってるの!!顔くらい上げなさいよ!」

 

怒りの籠った表情の能代さんは、その右手で私の顎をグイッと持ち上げる。私の視線は動かない。焦点は能代さんの顔には合っていない。

 

能代さんはバンッ、って左手でテーブルを叩いた。「能代さんっ」て親潮が叫ぶ。勿論私が何かされる事を心配しているわけではなくて、能代さんが私に手をあげてしまわないか、を心配しての事。

 

「大丈夫よ親潮。私はまだ冷静よ」って乗り出していた身を引いて向かいのパイプ椅子に座り直した能代さん。流石に反応の無くなった私に苛立っている。私だって、かなり滅入ってる。無実の罪で、しかも誰も助けてくれない。そのうえ連日「罪を認めて知ってる事を吐け」って責められる。辛い。食事は貰えるけど、喉を通る筈もないしもう何日も食べていない。もう、ここから逃げたい。逃げ出したい。こんな生活、もう嫌だよ‥‥‥。

 

「粘っても何も良い事なんて無いわよ?村雨がそうやって粘れば粘るほど、貴女の立場は悪くなってくんだから。このままなら間違いなく死刑よ?」

 

誰か。誰か助けて。私を解放して。こんな辛い状況から助けて。

 

「私だって本当ならこんな事したく無いのよ?村雨だって罪を認めて早く楽になりたいでしょ?」

 

その言葉に、私の心が揺れた。楽に‥‥‥なれるの?罪を認めれば?この辛い状況から解放される‥‥‥?罪を‥‥‥認めれば‥‥‥。

 

楽になりたい一心で、「私は深海棲艦のスパイです」って口に出しそうになった。けど、何故か私はその言葉を飲み込んだ。『認めちゃ駄目』って声が聞こえた気がしたから。

 

‥‥‥そうよ、認めちゃ駄目だったのよ。私はスパイじゃない。だから深海棲艦の情報なんて全く持ってない。だから司法取引できる材料なんて無い。認めたら私は間違い無く死刑。耐えなきゃ。辛くても、逃げたくても耐えなきゃ。

 

そう思い直した私の口からは何故か「夕立を‥‥‥沖立少佐を呼んでください。あの人になら、話します」って言葉が出ていた。自分でも何故そう口にしたのか理由が分からない。

 

 

 

‥‥‥翌日。私は呉鎮守府に移送される事になった。

 

◆◆◆◆◆◆

 

佐世保鎮守府、食堂の隅。静かに朝食を摂っていた私に、一人の少女が話し掛けてくる。

 

「おはようございます、由良さん。その‥‥‥調子はどうですか?」

 

「おはよう。私なら、平気だから」

 

私は敢えてぎこちない笑顔を作り答える。「そうですか。けれど無理はしないでくださいね?」と私の事を気にかけてくれたのは、初春型駆逐艦の初霜。ロングの黒髪に青い鉢巻、黒に近い紺色のブレザーを着た彼女も改二。その足元の靴下は右が短く左が長い、大和さんと同様のスタイル。お揃いにしてるのかな?まぁ、そんな事はどうでもいいけれど。

 

由良です。

私は現在、上の判断で療養中って事になってる。村雨に裏切られてショックを受けているだろうしそのせいで深海棲艦との戦闘に影響が出たら困るから、というのが理由みたい。

 

ハァ。ショックを引き摺ってる演技をするのも楽じゃない。早く時間が経ってくれないかな。村雨に情が残ってるフリなんて面倒なだけだし。他の事に専念させて欲しい。例えば‥‥‥今度は目の前の初霜をどうやって葬るか、とかね。改二になって目覚ましい活躍を見せる貴女も目障りよ?私達の為にも早く沈んでくれないかな?

 

心配そうな表情をしつつ名残惜しそうに私から離れていく初霜の背中にそんな悪意を向けながら、今後の事を考える。

 

あの三人の提督をどうやって葬るか。バラバラに、というのは都合が悪い。もしも誰かが殺されたと分かれば他の生きている者は警戒して警備を強化するなり艦娘の護衛を付けるなりする筈。そうなるとバレずに殺害するのが困難になる。出来るなら三人同じ場所でまとめて、そうでないなら他の者に気付かれないよう同時刻に殺害する必要がある。出来ればあと二人、私以外に人手が欲しい所。暗殺に向いてる深海棲艦って誰がいるかな?それに殺害方法も工夫しないと。三人が何処かで会合や密会する予定でも有れば楽なのだけれど。

 

そうそう。そろそろ定期連絡も入れないとね。あの子‥‥‥海軍は『潜水新棲姫』って名前を付けたみたいだけど‥‥‥あの子に渡した人類側の動きの情報を元に次の作戦の擦り合わせをしておかないといけないし。

先ずはどうやって此処を抜け出そうかな。何時もなら艤装を持ち出すのは簡単なんだけど、今は療養中って事になってるしね。艤装を持ってたら変に思われちゃうもの。

 

初代雷妖精さんに艤装の靴の部分だけ持ってきてもらおうかな。初代漣もそうやって靴だけ持ち出してスケートの要領で海面を滑って時々鎮守府を抜け出してた、っていうしね。

 

そうと決まれば‥‥‥っと、何だろう?向こうで何か話してるみたい。ええっと。

 

「ねぇねぇ、聞いた?」

「うん。村雨のヤツ、呉で死刑執行されたんだって」

「知ってるよ。深海棲艦の情報は持ってなくて用済みだからって銃殺になったってさ」

「死刑になったんだね。自業自得だよね」

「ほんっと、許せないよね、アイツ」

 

‥‥‥‥‥‥危ない危ない。危うく高笑いする所だった。本当に間抜けで扱い易い連中。騙されて村雨を死刑にするなんて。夕立も大した事なかったわね。ちょっと彼女の事買い被ってたみたい。でもこれで私はノーマークになった。村雨が生きてたって分かった時は流石に動揺したけど、これで落ち着いて行動できる。

 

待ってて、夕立。貴女もすぐにあの世で村雨と再会させてあげるから。死んで自分の愚かさを後悔しなさい。ねっ?

 

◆◆◆◆◆◆

 

「村雨さんの様子は?」

 

「相変わらずですね」と表情を変えない不知火さん。後部に村雨さんを乗せ移送するトラックに揺られ、呉へ移動中。鎮守府ももうすぐですね。どうやら途中で深海棲艦が襲撃したりはして来なさそう。不知火さんはこの移送の責任者、私の役目は護衛ですね。

 

大和です。

佐世保鎮守府や他の泊地に『村雨は銃殺刑に処された』と情報が回る2日前の事。

 

夕星さんが呉に戻って来たのは昨日の夜です。夫だけでなく山本中将にも会ってきたようですね。今までは『スパイが居るかも知れない』という疑惑の段階だったのが確信へと変わったのですから無理もありません。現在行っている作戦の全てを組み直す必要があるでしょうし。何より金剛さん達はもう欧州へと向けて出発してしまっています。彼女達がアイオワ妖精さんを連れている事は深海側に伝わってしまっていると見て間違いないでしょうし。金剛さん達が辿り着く前に作戦の変更をする、それも急ぐ必要があります。

 

それにしても、村雨さんは随分と大人しいですね。こう言ってはなんですが、とてもスパイをするような子には見えないのですけれど。

衰弱もしているようです。拘束されている間、食事もロクに摂っていないと聞いていますので。‥‥‥もしかしたら村雨さん、深海棲艦に何か弱味を握られているんでしょうか?例えば人質を取られていて、知ってる事を話したらその人が殺される‥‥‥とか。私には、どうにも村雨さんがやったようには思えないんです。目撃証言や証拠を出されれば納得せざるを得ないのは分かっているのだけれど。

 

何事も無く鎮守府へと到着。私と不知火さんは人目を避けるように村雨さんを連れて、ある場合へ。

私も呉に長く居ましたし夫の秘書艦も長く務めましたが、初めて来る場所。呉の営倉の更に奥。薄暗い階段を下りた先にある鍵の掛かった厳重な扉を開けた更に先。細い廊下を抜けた、狭い地下の空間。元の用途は別にあったらしいですけれど、今は重罪人を閉じ込めておく為の部屋。

村雨さんの表情が更に曇っていくのが分かります。私も心苦しいのですけれど、これも重罪を犯した村雨さんの為。仕方ありません。本当なら、仲間である同じ艦娘にこんな事はしたくない。

 

「さて、どうしますかね‥‥‥まあ、大和さんなら大丈夫でしょう。一応ポイポイに許可は取りますが」

 

不知火さん、それは一体どういう意味でしょうか?この扉の先に何か重要な機密でもあるんでしょうか?

 

部屋に入った不知火さん。先に中で待っていた夕星さんと何かを話す声が聞こえてきます。少し話した後、「どうぞ中へ」と不知火さんが私と村雨さんを招き入れる。手錠をした上から上半身を縛られ自由を奪われた状態の村雨さんから伸びる縄(妖精さん特製ワイヤー)を引っ張り、私は中へと足を踏み入れました。

 

中には特別な何かがある様子はありません。部屋の真ん中で鉄格子で区切られて逃げられないようになっている独房、といった場所でした。有るのはテーブルと簡易的な椅子とベッド、それにトイレ。夕星さんは何かを考えている様子で背中を向けて立っていました。

 

「待ってたわ」

 

振り返った夕星さんの表情は何時もと変わらない穏やかな表情。憎悪の感情は見えません。妙ですね。

そう疑問に思った矢先の事でした。

 

 

 

 

 

『迎えに来るの遅い!危うく村雨がスパイって認めちゃう所だったじゃん!』

 

 




さてさて、最後の言葉は一体誰のでどーゆー意味なんですかねぇ(すっとぼけ)

村雨さん起死回生の一手、という所で次回は来月?(イベント後)の更新になります。今回も情報待たずにヒャッハーしてきます。資源All30万、バケツも2400まで回復したので何時でも行けますので。

※おまけ。

漣「タピオカチャレンジktkr!」

浜風「どうして私が‥‥‥まあ飲みますが」

萩風「飲んじゃダメーー!」

漣「えっ?なんで?」

萩風「タピオカミルクティーは身体に良くないの!カロリーは一杯約700kcal、糖分は角砂糖24個分も入ってるの!!」

浜風「‥‥‥」コトッ ←コップ置く音

サミュエル「そんな事ないよ!タピオカの原料は草のデンプン、つまりタピオカは野菜だよ?それにミルクも紅茶も身体に良い飲み物でしょ?だからタピオカミルクティーは身体に良い飲み物だよ!」

漣「お前どっから出てきた」

萩風「」

浜風「流石アメリカ理論&声帯妖精補正は違いますね」

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