抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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真実の証人

『迎えに来るの遅い!危うく村雨がスパイって認めちゃう所だったじゃん!』

 

 

 

村雨です。

‥‥‥え?今の、誰の声?大和さん‥‥‥とは違うし、沖立少佐でも不知火の声でもない。じゃあ、誰?

俯いていた顔を少しだけ上げて周りを見てみるけど、他の誰かが居る気配は無い。けど私の視界の下のほう、胸の谷間の辺りにエメラルドグリーンの何かが映り込む。

 

『全く、みんなまんまと騙されちゃってさぁ、村雨は無じ‥‥‥グエッ』

 

誰かの言葉が、途中で途切れる。下に視線を向けてみると、エメラルドグリーンの髪をポニーテールに纏めた妖精さんが、私の上半身に巻かれ自由を奪っているワイヤーに首が引っ掛かって苦しそうにしてる。このままじゃ妖精さんの首が絞まっちゃう‥‥‥あれ?この妖精さん、いつの間に、どうやってそんな所に潜り込んだの?

 

その様子を見ていた沖立少佐、「大和さん、村雨の拘束を解いてあげて。両手の手錠も」って。少し信じられなかった。どの人も私を危険な犯罪者扱いしていたし、牢獄に入れられていた時も取り調べの時も常に手錠は繋がれたまま。それを外してくれるなんて。

 

けれど、直ぐに恐怖の感情が込み上げてきた。ワイヤーを解くのは妖精さんを助ける為、これは分かる。でも手錠を外すのは‥‥‥私がもう用済みになったからなんじゃないかな、って。私を他の艦娘の目に付かないこの場所に連れて来たのは、ここで処刑する為なんじゃないかな、って。枯れたと思っていた涙が、瞳の奥から溢れてくる。残った力を振り絞って、微かな声で必死に訴える。

 

「私じゃ‥‥‥私じゃ無い‥‥‥」

 

戸惑っている様子の大和さんを他所に、不知火が私に近付く。私は思わず目を瞑った。

 

「ええ、そうでしょうね。運が良かったですね」

 

そう言うと不知火は私を拘束しているワイヤーを解いて、手錠を外す。恐る恐る瞳を開いて不知火に目を向けてみると、その表情は本当に僅かにだけど微笑んでいるように見えた。

 

『ったく、死ぬかと思ったじゃん』

 

首絞め状態から開放された妖精さんは不知火の右肩にぴょん、と飛び乗る。事態が全く飲み込めず呆然としてる私に気付いた妖精さん、そのまま私の左肩に飛び乗ってきた。

 

『いやー、村雨も死ぬ所だったよね。覚えてる?一瞬だけど深海の魚雷で身体がバラバラになった事。私が居なかったら今頃あの世行きだったよ』

 

四方からの深海棲艦の潜水艦の深海魚雷。あの地獄のような衝撃と痛みは‥‥‥。あ、やっぱりあれは夢じゃなくて現実だったんだ。あれ?妖精さん、どうしてその事を知ってるの?

 

『どうして知ってるの?って顔してるね?知ってるに決まってるじゃん。私あの時あの場に居たからね。全部見てたよ。由良が村雨を攻撃する所も、深海とつるんでる所もね』

 

妖精さんは、ニッヒヒッて笑う。じゃあ、じゃあ、妖精さんは私の無実を証明する唯一の証人‥‥‥。

 

「その子は応急修理女神妖精。こっそり村雨の中に潜伏してもらってたってわけ」

 

沖立少佐の言葉で、私は漸く少しだけ理解した。知ってたんだ‥‥‥スパイが居る事を。不知火も、沖立少佐も。

 

沖立少佐の説明はこう。スパイが居る事はかなり濃厚だった。けれど、誰がそうなのかは分からない。勿論、その時は私にもスパイの可能性はあった。だから私にも気付かれないように、妖精さんを潜伏させた。あの時‥‥‥航路の変更を説明しに私の居た部屋に少佐が来た時に。

 

何事も起こらずに作戦が成功すれば良し。誰かが轟沈するような状況になったら私の中から妖精さんが飛び出して助ける。そしてもしもスパイが事を起こそうとしたら‥‥‥。

 

『そーそー、それが私の仕事だったってわけ。村雨に潜伏したまま帰投して、事の次第を提督に報告する手筈だったんだよ』

 

沖立少佐や不知火が応急修理女神妖精さんを信頼しているからこその、彼女の仕事。

 

それが、私は嵌められてスパイに仕立てあげられた上に沈められて。妖精さんが私を死から救ってくれた。応急修理女神としての力を放出してヘトヘトの状態だったにも関わらず、妖精さんは意識の無い私の身体を操作してどうにか岩まで連れていってくれたみたい。後は、知っての通り。まんまとスパイの嫌疑をかけられて拘束された。

 

じゃあ、これで私の嫌疑は晴れるんだ‥‥‥由良さんを逮捕して、私はやっと解放される‥‥‥。そう思って、身体から力が抜けた。安心のあまり腰が抜けてその場にへたり込む。涙が溢れて止まらない。

泣きじゃくる私の頭を撫でる沖立少佐は、一つの提案‥‥‥というより決定事項を告げる。

 

「それでね、村雨。村雨には悪いんだけど、少しの間ここに隠れていて欲しいの」

 

本当なら私の無実を全艦娘に知らせて、今すぐに由良さんを逮捕したい所なんだと思う。でも、スパイが由良さんだけとは限らない。組織だって潜伏してる可能性もあるし、艤装を使って私を沈めてる所からも分かるように妖精さんの一部が由良さん達に手を貸してるのは確実。

 

それに、私はこのまま裁判になったら死刑が濃厚。何故なら被害者の証言、目撃者、証拠と私が犯人だと示す物が揃ってるから。客観的には応急修理女神妖精さんの証言だけじゃひっくり返せない。応急修理女神妖精さんがスパイとしての私の仲間だと由良さんに言われたらそれまでだもの。

 

「だから、村雨は書類上は呉で処刑された事にする。そうして由良達を泳がせて、スパイの全容を掴んで叩く。だから村雨、窮屈だけど少しの間我慢してね」

 

私を安心させようと微笑みながらも、その瞳の奥に沸々と怒りが見える沖立少佐。由良さんに裏切られた事実は私にとってはスゴく重いし由良さんへの気持ちは簡単には変えられない。けれど、スパイをこのままには出来ないのは分かってる。私がここで少しの間大人しくする事で他の艦娘達の為になるのなら。私は小さく頷いた。

 

「それと。夕立、でいいわ。村雨の事をこんな窮屈な所に閉じ込めるわけだし。ここに居る間は敬語も要らない。それと、一人じゃ退屈でしょう?信頼出来る娘を交代で会いに来させるから」

 

優しい表情で笑う夕立に「‥‥‥ありがとう、夕立」と今出来る精一杯の笑顔を向けた。

 

夕立とは、もっと早い時期に会いたかったな。本当にありがとう、夕立。

 

夕立の隣の不知火、「村雨さん、貴女の着替えも用意しておきます。その格好では落ち着かないでしょう?」って言ってはくれてるけどその表情は何処か不機嫌そう。そっか、私と夕立が仲良くしてるのが気に入らないのね。嫉妬かぁ。不知火も可愛い所有るのね。ふふっ、少しだけ余裕出てきたかも。

 

 

 




村雨の嫌疑、鈴谷妖精のお陰で晴れる

書類上は処刑された事になった村雨は暫く隠れる事に。
由良の動向を探る事になった夕立達。


イベント中につき短めで失礼。
と言っても前段クリアしてグレカーレと御蔵堀りまで終ってますけど。ロリビッc‥‥‥ゲブンゲブン、グレカーレは20周ほど、御蔵は30周ほどでドロップ。

次回はイベント後段クリア後になります。
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