抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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決戦兵器

「誰からよ、優男」

 

「沖立からだな。フム‥‥‥」

 

曙よ。

夕立からメール?何で優男のスマートフォンに態々メール?何か秘密にするような事でもあるの?気になるじゃない。

べっ、べべべ別に何でもないからね?ただ普通に連絡してくればいいのにメールで隠れてやり取りする事が気になるだけなんだから!クソ提督と夕立に秘密の関係でもあるんじゃないかって気になってるわけじゃないんだからねっ!

 

「ちょっと、それ私にも見せなさいよ」

 

「ああ」

 

あれっ、意外と簡単に見せてくれるんだ?隠さないのね?そっかそっか。夕立と特別な関係になってるとかじゃないんだ?ちょっとホッとしたわ。スマートフォンを奪おうと伸ばした私の右手はまだちょっと震えてるけど‥‥‥って、ハッ!?ちっ、違う!これは違う!!

 

えっ?何よこれ、意味不明な単語の羅列‥‥‥って、そうか、暗号だ。間宮さんとやり取りする時のオリジナルの暗号‥‥‥って、どうして態々暗号にしたの?個人のスマートフォンでそんなやり取りする意味は?‥‥‥まさか、やっぱり優男は夕立とデキてるの‥‥‥?

 

「ええっと‥‥‥」

 

流石に暗号表が無いと読めないわね。私は、だけど。優男は読めるみたい。

 

「夕立は何て?」

 

「その前にカーテンだけ閉めておこうか」

 

この執務室に盗聴器の類いが無いのはスパイの存在が確認されてからの調査で確認済み。それでもカーテンを閉めるのは、まあ無いとは思うけど口の動きから会話内容が推測されるのを防ぐって意味で念の為よ。これで外からも見えない密室に二人きりになってちょっと役得、とか思ってないからね?

 

「曙にも暗号表で後で確認してもらいたいが、内容を要約するとこうだ。『村雨は冤罪、スパイは由良』『村雨を書類上処刑した事にして由良の油断を誘う』」

 

‥‥‥なんですって?

由良がスパイ?ちょっと、それ不味いじゃない!だって、ついこの間、対中枢棲姫の作戦内容を夕張が艦娘間だけど外部に洩らしたのを怒鳴ったばっかりなのよ?その洩らした相手って確か由良だったわよね?つまりそれってコッチがアイオワ復活を狙って中枢棲姫に近づこうとしてるのが敵に筒抜けになってた、って事じゃないの!

 

「それヤバいじゃない!早く作戦を中止して金剛さん達を呼び戻さないと!アイオワ妖精が殺されたら全てパーじゃない!」

 

「待て。金剛達にはこのまま欧州に向かってもらう」

 

はぁ!?優男、アンタ何言ってんのよ!絶っっ対待ち伏せされてるに決まってるじゃない!敵が大人しくやられるのを待ってる筈無い!囲まれて嬲り殺しにされるわよ!金剛さんを一度轟沈させた事、忘れたんじゃないでしょうね!?

 

「アンタねぇ!絶対罠張ってるに決まってるでしょ!」

 

バンッ、と執務机を叩く。こんな危険な賭けは認められない。幾ら優男の判断でも、私は盲目的に従うってわけじゃないんだから。轟沈の可能性が高い作戦なんて‥‥‥認められないんだから‥‥‥。

 

「危険は端から承知だ。それに、当初の作戦通りにするわけじゃない」

 

優男が変更内容を私に教えようとした丁度その時だった。優男のスマートフォンがまた鳴る。誰よこんな時に‥‥‥と思って覗き込んで通知を見てみると、相手は漣だった。今度は速攻で手を伸ばして取り上げて、内容を確認してやったわ。そのメールにはこうあったの。

 

『御主人様、改二改造終わりましたよ!』

 

ん‥‥‥?改二?改造の予定、誰か居たっけ?漣‥‥‥なわけは無いし、他の鎮守府の誰か?いやでもそれなら態々メールで報告なんてする?秘密兵器、っていうんなら分からなくもないけど、大和さん‥‥‥はまだ無理って言ってた筈だし。でも漣が知ってるのに秘書艦の私が知らないって‥‥‥?

 

優男は私の手からスマートフォンをゆっくり回収。そのまま漣に通話。

 

『あり?御主人様?』

 

「漣、丁度いいタイミングだ。今から曙を連れてそっちに行く。『彼女』にはそのまま待機してもらってくれ」

 

『ほいさっさー』って返事をして漣が通話を切った。『彼女』って誰なのよ?何?私はそんなに信用出来ないって事なの?優男とは長年一緒に組んでやってきたけど、相棒みたいなものだと思ってたのは私だけだったのかな‥‥‥。

 

「そう落ち込まないでくれ。曙に黙っていたのは事実だが、君には気持ちの整理も必要だと思ってね」

 

「ばっ‥‥‥バッカじゃないの?私は落ち込んでなんてないっ!」

 

なんでアンタはいつもそうやってコッチの心を見透かしてくるのよ。そんなだから好きになっちゃったんじゃないの、このクソ提督。それにしても気持ちの整理、ってどういう意味なのかな。

 

優男は執務室から出て、ドックへと向かう。私は無言でその後を着いていく。私の心境は複雑。本当の意味で信頼はされてないって思う虚しさと、優男の言った通りなら私の事を心配して配慮してくれたのかな、っていう気持ちがグルグル回る。私きっと今面倒な表情してるんでしょうね。

 

そんな不安定な状態で、第四ドックの奥へと入る。「お疲れ様です、御主人様」って何時もの調子で出迎えた漣の後ろにいる誰かの姿を確認して、私の頭の中は真っ白になった。

 

なんで‥‥‥なんでアンタが‥‥‥?

 

 

 

「待ちくたびれたぞ、提督よ」ってその改二になった艦娘がニヤリと笑う。その制服は私が知ってるコイツのものとはまるで違う、決戦兵器の名に相応しい凛々しいもの。

優男はと言えば「ああ、感想はどうだ?」って特に何時もの様子と変化は無し。

 

「これが改二か。力が溢れてくるようだ。今ならghostとも渡り合えそうだぞ」

 

「冗談は止してくれ。またghostとやろうなんて僕は御免だ」

 

は?何でアンタ等そんなに打ち解けてるのよ?なんなの?この蚊帳の外感‥‥‥。

 

「ところで提督よ、私は何時までこうしていれば良い?待つのもいい加減飽きてきた所だ」

 

「その事なんだがな。例の由良の警護の話は無しだ。状況が変わったからね」

 

優男、本当はコイツを由良の警護に付けようとしてたのか。また由良が狙われたとしても、まあコイツなら充分過ぎるわよね。でも由良がスパイと分かった今、どうするつもりよ?今から金剛さん達に合流させるのは無理だろうし。

 

「沖立や不知火の警護に付ける、という策も有るんだが呉には大和がいるからね。君まで西にやるって訳にもいかない」

 

そうよね。コイツまで呉に行かせるのはバランスが悪い。夕立と大和さん、それに熊野さんと瑞鶴さんが居れば駆逐水鬼が来ても対処は出来るだろうし。なら何をするのかな?

 

「では私は何をすればいい?」って腕を組むその艦娘に、優男は答える。

 

「少し考えたんだけどね。深海棲艦‥‥‥というより由良が僕達にされて今一番困る事は何か、をね」

 

由良がされて困る事?そうね‥‥‥由良がスパイだとまた疑われるのは困るでしょうね。あとは中枢棲姫を失う事?あ、同じ理由でレ級に居なくなられても困るか。

 

「多分だが、由良は深海が呉を今攻める事はさせないと思う」

 

そっか。由良が訪れた後のすぐのタイミングで呉に深海棲艦が、っていうのは少し怪しいものね。まあ村雨が来た後だし村雨のせいって見る事も出来るけど由良はなるべくなら少しでも自分から疑いの目を遠ざけたい筈だもんね。同じ理由で、村雨がスパイをしていた事の目撃者って事になってる由良が偽装で襲われるのも無いでしょうね。下手に迎撃されても困るだろうし、仮にコッチの迎撃が失敗したら由良は轟沈しなかったら不自然になっちゃうからね。

 

「中枢棲姫には強力な護衛を付ければ済む事だ。それなら残るは」

 

「成る程な、レ級か」ってその艦娘が頷く。レ級か。萩風が呉に着任してる所を見た由良なら、深海棲艦の消滅の条件に人類側が気付いたって思ってても不思議じゃない。そうなると‥‥‥レ級を消されない為に由良が取る選択は?

 

そうか、雷を襲う!駆逐水鬼が奇襲をかけて雷を殺してしまえば、レ級の中の『駆逐艦雷の魂』を消滅させられるのを防げる。だからコイツを雷の所に行かせれば。

 

「ああ、そうだ。だから君には美鈴の所に行ってもらいたい。向こうには君の事は箝口令を敷くよう言っておく」

 

優男の言葉に「由良に洩れないように、か?了解した」って頷くソイツ。ソイツはそれから私の方に近付いてきた。なっ、何よ。今更現れて何を言うつもりなのよ。

 

「久しいな、曙よ。お前には迷惑を掛けたな」

 

アンタにそんな事言われる筋合いは‥‥‥駄目だ。最近こんなのばっかり。涙腺がすっかり弱くなったわね。ほんっと、嫌になる。

 

「私なんかより妙さんに会ってあげなさいよ」

 

私の声は震えてる。全く、まさかアンタに泣かされるなんてね。確かにアンタの身体が沈んでる場所は分かってたし、サルベージも可能だった。それにしてもアンタの妖精姿、見てやりたかったわ。それで指差して笑ってやりたかった。全く、どうして私に一番に教えてくれないのよ。

 

「分かっている。落ち着いたら足柄のヤツの所にも顔を出すさ。アイツには迷惑ばかり掛けたからな」

 

私の頭をワシャワシャと撫でるな。髪が乱れるじゃない、このクソ戦艦。

 

「頼んだ」って優男に「ああ」ってソイツは返事をした。

 

 

 

 

 

「了解した。萩風とはこの横須賀で一緒に切磋琢磨したからな。ヤツの戦い方は知り尽くしているつもりだ。‥‥‥‥‥‥この武蔵に任せておけ」




決戦兵器武蔵、改二になってこのタイミングで復活。「武蔵が生きていたらな」って何時か立てたフラグをここで回収。
という所でまた次回。
皆さん台風にお気をつけ下さい。




イベントお疲れ様でした。

宣言通り後段解放と同時にヒャッハー、そのままその日のうちにクリア(徹夜)してきました。アンツィオ沖棲姫を無事撃破。基地航空隊、決戦支援に加えコチラの対地艦&ネルソンタッチが見事に嵌まりました。

最後は毎回夜戦の出番が回ってくる前に大破させられてたジャービス(第二艦隊6番目に配置)が生き残り魚雷カットイン(ダメージ57)が刺さってゲージ撃破。アンツィオ沖棲姫壊の耐久残り53だったのでギリギリの勝利でした。うへぇ……硬ぇよ……。

仮眠して仕事して一息ついたあとに参加型攻略サイトに情報コメントしようと見てみたら……
え?スタートマス前進ギミック?装甲破砕ギミック?そんなんあったのかよ……そりゃアンツィオ沖棲姫硬いわけだわ。

結論:ギミック解除せずともゴリ押しでクリアできる(但しラストで堀の無い小規模イベに限る)

寧ろそのあと行った4ー5が7回連続でラスダン割れず。いつもならストレートで割れるのに。使ってる艦娘も載せてる装備もいつもと同じなのになんでだよ……。

アンツィオ沖棲姫の所S勝利で未所持限定でネルソンドロップするらしいですね。持ってない提督さん頑張って。今回も欧州艦大盤振る舞いイベのようですからね。

突破報酬のジェーナスは改で対潜値13のソナーを持ってきてくれますよやったね!これで先制対潜のハードルが対潜値60まで下がるよ!


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