清霜です!
川内教官は任務で長期不在。教官が戻るまで清霜達は各々の鎮守府に帰る事になりました。折角荒潮ちゃん達と仲良くなれたのにお別れなのはちょっと寂しいです。
それで、しれーかんが横須賀までお迎えに来てくれる事になってるの。この間もしれーかんは用があるとかで横須賀に来たんだけど、しれーかんは元気そうでした。
‥‥‥あっ!正面ゲートの向こうにしれーかんの姿が見えた!おーい、しれーかーん!
あれ?初めて見る子が居る。紫の長い髪の子。制服からして陽炎型よね?
「この間振りね、清霜ちゃん」って笑顔で出迎えてくれたしれーかんの、右隣の陽炎型の子が挨拶してくれた。
「初めまして。呉に異動してきました萩風です」
萩風かぁ。良い子そうで良かったぁ。清霜も「清霜です!宜しくね!」って笑顔で挨拶しました。でもどうして萩風を連れて来たのかな?お迎えならしれーかんだけでも大丈夫だよね?挨拶なら呉に戻ってからでもいいのに。
しれーかんが説明してくれたんだけど、清霜も連れてこれから演習に行くんだって。他のみんなも後から現地に合流するみたい。そっか、演習か!川内教官の特訓の成果を見せるチャンスね!清霜の成長ぶりをしれーかんにも見せなきゃね!
え?現地って横須賀じゃないのかって?うん、違うよ。山本中将の奥さんの所よ。メンバーは清霜と、萩風と、妙高さんと、熊野さんと赤城さん。呉と横須賀の混成艦隊みたい。赤城さんはアメリカから来た艦載機F6F-3Nと、それを参考に改良した夜艦攻撃機・九七式艦上攻撃機改の性能試験も兼ねてるんだって。
ん?あれ?メンバーが一人足りなくない?これだと5人しか居ないよね?それとも5人で演習するのかな?
「もう一人は向こうに着いてからのお楽しみ。それと、絶対に気は抜かないようにね」
お楽しみかぁ。良い人だといいなぁ。それにしてもしれーかんったら『気は抜かないように』なんて大袈裟ね。清霜だって演習でも真剣にやります。相手が誰でも手加減なんてしないよ。
そうだ、向こうに着いたら『どらまんぼう』買わなきゃね。一度食べてみたかったの。
そうと決まれば善は急げね!しれーかん、早く向こうに行こ‥‥‥え?移動は明日なの?しれーかんも今日は横須賀に泊まる?それなら一緒に妙さんのお店に行こ‥‥‥え?明日に備えて早く寝るから駄目?ブー、折角しれーかんと一緒なのにー!
‥‥‥次の日。昨日の夜のうちに仲良くなった萩風と一緒に、青葉さんの運転する車に揺られて目的の鎮守府に向かいます。しれーかんは助手席、清霜と萩風は後部座席です。
「こうやって会うのもお久し振りですねー。今や提督ですもんね。いやー、世の中分からないものですね」
「本当ね。私もあの頃は自分が提督になるなんて思ってもいなかった」
青葉さん、しれーかんと親しいみたい。しれーかんが提督になる前の艦娘の時からの付き合いなんだって。なんだっけ‥‥‥一緒にgho‥‥‥ナントカ、っていう強力な深海棲艦と戦ったんだってさ。しれーかんと共闘できて羨ましいなぁ。
それに比べて隣の萩風はちょっとソワソワしてるみたい。
「着任してすぐに演習なんて。私なんかが代表でいいんでしょうか?」なんて言ってる。
「大丈夫!清霜も早い時期から神通さん達と出撃してたもん!」
そんな会話をしながら、目的の湊町の鎮守府に到着。今の時期は長閑だけど、お祭り(あん●う祭り)の時期になると町の人口の8倍以上の人(13万人超)が訪れるんだってさ。凄いね!
話に聞いてた通り、鎮守府に水族館の施設が残ってる。いいなぁ。そうだ、呉で熱帯魚とか飼えないかな?
イルカを型どった像のある正門を通って、施設の中へ。入口で鯨の骨格標本がお出迎えしてくれた。うわー、ちょっとここに着任してみたいかも。「久し振りに来ました」って萩風は、新人の頃に研修で暫く居た事があるんだって。羨ましいなぁ。
しれーかんを先頭に、清霜達は執務室を目指します。
途中で『あの春雨ちゃん』とバッタリ会いました。今や日本で知らない艦娘は居ない、あの春雨ちゃん。その特殊な艤装はええと‥‥‥なんだっけ?忘れちゃった。あ、春雨ちゃんはしれーかんの実の妹なんだよ!『美人』のしれーかんに対して『可愛い』妹の春雨ちゃん。久し振りに会ったみたいで「姉さん!」って凄く嬉しそう。
「姉さんも来るなんて聞いてませんでしたよ?」
「言って無かったもの。春雨を驚かそうと思ってね」
うーん、しれーかんも楽しそう。春雨ちゃんがちょっと羨ましい。清霜ももっとしれーかんと仲良くなりたいです。あ、大和姉さまとはもう仲良しだよ!
「電ちゃんは執務室?」
「はい、姉さん達を待ってますよ」
春雨ちゃんの先導で、清霜達は熱帯魚の水槽やマンボウの剥製の間を通り抜けて執務室へ。中では山本中将の奥さんが待ってました。
「お久しぶりなのです」
「ええ。直接会うのは何時振りっぽいかしらね」
笑顔の中に何故か緊張感も感じさせる、山本美鈴提督。なんだろうね?演習なのにそんなに緊張する事ってあるのかな?
「雷ちゃんは?」ってしれーかんの質問に「天津風ちゃんと二人で哨戒に出てるのです」って美鈴提督。あれ?しれーかんにも少し緊張が見える。本当になんだろう?
‥‥‥いつもは雷ちゃん、春雨ちゃん、天津風ちゃんの三人で哨戒してるんだって。今日はしれーかんが来るから春雨ちゃんは待機なのかな?確かに姉妹で会えるのは嬉しい事だけど、それだけの理由で哨戒休んだりするのは変だよね??
「電ちゃん、他のみんなは?」
「何時でも出られるように待機してるのです」
え?あれ?何だか雰囲気が演習とは違うような?
そんな時でした。『提督、例の敵、見付けたかも!』って通信。確か秋津洲さん‥‥‥だっけ?ん?あれ?秋津洲さんの二式大艇なら確かに見付からない高高度から広範囲を索敵可能だけど、それなら雷ちゃん達が哨戒に出る意味って無いよね?ん?んんっ?
それで、清霜と萩風も他のみんなと合流して出撃する事になりました。他のみんなはもう抜錨できる状態。最初から演習弾じゃなくて実弾を装填してたみたい。最初から演習が目的じゃ無かったって事なの‥‥‥?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
愚かな駆逐艦。たった二隻で哨戒なんて。由良の言う通り油断してるみたいね。でもそれでいい。雷が消えてくれれば、イカヅチが消える可能性がグッと下がるもの。
どうやら私には気付いてないみたい。このまま近付いて、懐に飛び込んで一気に沈める。この戦い方は非常に有効ね。教えてくれた夕立には感謝しないと。フフッ、フフフッ。
まだ気付いてないようね。このまま後ろから近付いていって‥‥‥よし、一気に行くわ。じゃあね、雷。
私が雷に向かって空を駆け上がった、その瞬間。右舷側から衝撃。私は砲の直撃を受けて大きく吹き飛ばされた。
『ナッ‥‥‥何?一体何ガ‥‥‥?』
あり得ないわ。向こうには確かに戦艦が居るけど金剛型。金剛型にこれ程の火力が有る筈が無い。当たり所が悪かったら、幾ら今の私でも危なかった一撃。中破で踏み留まったのは不幸中の幸い。
「ほう、あれを耐えるか。流石だと言っておこうか、萩風よ」
『馬鹿ナ‥‥‥ドウシテ貴女ガ』
私を砲撃したのは‥‥‥武蔵‥‥‥?あり得ない。どうして武蔵が居るの?由良からの情報には彼女が蘇ったなんて事無かった筈。どういう事‥‥‥?
「お前が現れるのを待っていたぞ」
『何デスッテ‥‥‥!?』
待っていた?待ち伏せ‥‥‥?雷が無防備に哨戒に出ていたのも向こうの作戦?
『ドウヤッテ此方ノ動キヲ‥‥‥』
「さあな。そっちに内通者でも居るんじゃないのか?」
なっ‥‥‥。まさか‥‥‥でも、内通者なんて一隻しか思い浮かばない。騙されていたのね。所詮は艦娘‥‥‥話を真に受けた私が馬鹿だったって事ね。
『クソッ‥‥‥由良ノ奴、私達ニ仲間ノフリヲシテタノネ!ヤッパリ艦娘ナンテ信用デキナイ!』
「‥‥‥言質は取ったぞ」
言質?何の事?まあいいわ。ここで武蔵を沈めれば、強力な味方になる!先に貴女を沈めてあげる!
改めて距離を取って、武蔵に向かう。何度か砲撃をしてきたけど、その程度避けられるわ。一度大きく右舷へ旋回。魚雷を右に投げて砲撃。その爆風と同時に煙幕。煙で身を隠し爆風に乗って急旋回。さっきの真逆の角度から武蔵に向かい突撃‥‥‥もらった‥‥‥!
と思った瞬間。私の正面に砲弾があった。避けきれない!身体を右に捻って、頭部への被弾は免れたけど、そのまま左肩に被弾。私は半時計回りに回転しながら後方へと吹き飛ばされる。
『グハッ‥‥‥ゲホッ‥‥‥』
真っ黒なオイルを吐き出す。信じられない。武蔵のほうを見るとその顔は私の位置とは真逆を向いていて、砲が一つだけ私に向いていた。私を見ずに砲撃したの?
『馬鹿ナ‥‥‥』
信じない。きっと紛れ当たりに決まってる。動かない左肩を無視して、私は身体を起こす。
再び武蔵に向かい走る。その砲撃を避けつつ、魚雷を二発発射。一発は武蔵の少し前で爆発させて視界を奪い、同時に爆破したもう一発の爆風と波に乗って空へ。これで、私は武蔵の視界から消えたように見える。今度こそ、武蔵に魚雷を食らわせ‥‥‥。
でも。今度も武蔵は正確に私を撃ち抜いて来た。今度こそ直撃を受けて、私は墜落。海面に叩きつけられた。
『ドウシテ‥‥‥』
「そうだな‥‥‥お前は夕立や川内のようにセンスで戦ってきた訳ではないからな。私と地道な訓練を繰り返したな」
それが?それが何だというの?
「実戦でもすんなりと動けるよう、何度も何度も同じ動きを繰り返し身体に覚えさせていった。悪い言い方をすると『ワンパターン』なんだ、お前の突撃は。だから共に訓練した私には、お前の突撃してくる先が読める」
‥‥‥クソッ。私が『ハギカゼ』である事が裏目に出ていたって事なの?まさか、これも全て由良の策略‥‥‥。
駄目。身体がいうことを利かない。大和型改二の砲撃を三度も受けては、この身体でも耐えられないか。何とかしてイカヅチ達に武蔵の事を伝えないと。由良の事も。
動けない私の視界の先に、萩風の姿が見えてきた。クソッ、クソッ、クソッ。全て向こうの手のひらの上だったって事ね。暗殺の為に単騎で来たのが裏目に出たわ。
「さて、これで終わりだ」
『クソッ‥‥‥由良メ‥‥‥許サナイ‥‥‥!』
私は武蔵にトドメの砲撃を受けた。身体から力が、艦艇の魂が抜けゆくのが分かる。私の意識は薄れていく。同時に、目の前の萩風と一体となっていくのが分かる。
完全に艦艇の力を失った私の身体は、水底には沈んでいかず。武蔵さんに抱きとめられた。有機的な深海棲艦の艤装は全て失われ。真っ白な肌は、既に血は通っていないけれど肌色を取り戻す。艦娘・萩風になる前の、人間としての『不知火姉さんの妹』の身体を取り戻した。
勿論、命は失われている。武蔵さんの腕に抱かれ、懐かしい陸へと運ばれたわ‥‥‥ありがとう、武蔵さん。
武蔵改二、駆逐水鬼を単艦で撃沈。流石決戦兵器。
それではまた次回。
※オマケ※
フレッチャー「今回の担当は私達ですか」
夕立「ソロモン海戦繋がりっぽい!」
フレッチャー「その‥‥‥あの時は何と言いますか‥‥‥」
夕立「え?夕立は気にしてないっぽい!」
※ソロモン海戦で夕立を沈めたのはフレッチャー、という説有り(混戦だった為真偽は不明)
フレッチャー「そうですか」
夕立「ぽい!」
フレッチャー「それで、本当に今更なんですけれど、どうして提督は夕立さんや不知火さんの事を『ポイポイ』『ヌイヌイ』と?」
夕立「ぽい?」
フレッチャー「ほら、一般的には『ぽいぽい』『ぬいぬい』と平仮名で表記するでしょう?」
夕立「それなら知ってるっぽい。某リリカルでマジカルなSS書いてる時に『名前が平仮名だと読みづらいなぁ』って提督さんが思ったからっぽい!」
フレッチャー「そうなんですね」