抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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憎悪

時雨に見送られて佐世保を出発、陸路で呉に着いた私。今回は佐世保からの選出は私だけ。他のメンバーは別の鎮守府から選んだみたい。対潜、対空、制空、雷撃、何でも一通り対応できる私みたいな艦は貴重みたい。

 

由良です。

駆逐水鬼の動向についても探りを入れておきたかったし、呉への呼び出しは好都合だったかな。あまり目立たないように動かないといけないけどね。初代雷の妖精さんが一足先に呉に着いてる筈だから、何かは掴んでくれてるとは思うけど。

 

それにしても今回は何処に派遣されるんだろう?スエズ運河には別の艦隊が派遣されたらしくて今も交戦中、一進一退。もしかしたら戦局を変える為にスエズに派遣、なのかな?それなら艦娘側の動きや情報を運河の深海側により伝えやすくはなるけど。

 

正門ゲートで私を出迎えてくれたのは不知火さん。あれ?夕立の側で執務を手伝わなくても良いのかな?今日は別の艦娘が秘書艦をしてるのかな?

 

「お待ちしていましたよ、由良さん。では、こちらへ」

 

硬い表情のままの不知火さん。夕立が居なければ彼女はこんな感じだものね。どうやってその表情を苦痛と後悔に歪めてあげようかな?やっぱり夕立を目の前で失うのが一番効果的よね?あ、でも不知火さんを目の前で失って絶望してる夕立を見るのも悪くないわよね。うーん、どうしようかな。考えただけでゾクゾクしてくる。

危ない危ない。悟られないようにしないとね。ちょっと反省。不知火さんは‥‥‥うん、気付いてない。夕立の居る執務室へと真っ直ぐ歩いてる。

 

「どうぞ中へ」

 

入室を促しその場で待機する不知火さんに「案内ありがとう」って微笑んで、私はノックの後にドアノブに手を掛ける。何時も通り演じれば大丈夫。面会が終わった後は情報を集めに行こうかな。不知火さんに気付かれないよう小さく深呼吸して、私は扉を開いた。

 

「待ってたわ、由良」

 

部屋の奥の椅子に深く座って、机の上に肘を着いて両手を口の前で組んでいる夕立。何時にも増して真剣な表情。そんなに重要な任務なの?夕立の右隣には大和さんが私を見つめ立っている。今日の秘書艦かな?でもなんだろう、二人の雰囲気がいつもと違う。ピリピリしている。もしかして駆逐水鬼が動いたの?あの子、やっとやる気になっ‥‥‥待って、やっぱり変。多分そうじゃ無い。二人が私に向けている視線に籠った感情は、まさか‥‥‥。

 

私の本能が『不味い』と警告している。右足を一歩後退、退出しようとノブに手を伸ばした。

 

けれど、右手はドアノブを掴めなかった。あと数センチ、という処で誰かの手が私の手首をガッチリと押さえ離さない。その手の主に怒りの籠った視線を向けるけど、相手を見て驚いた。

 

「何処に行くつもりだ?悪いがお前にはもうその自由は無い」

 

「どうして貴女が生きてるのっ!?そんな情報誰からも聞いてな‥‥‥っ」

 

私の手首を掴んでいたのはあの武蔵さん。それで私は理解した。何て事なの‥‥‥まさか‥‥‥気付かれて泳がされていた‥‥‥。

 

抵抗しようと右手に力を入れるも、私は武蔵さんに呆気無くその場にうつ伏せに押し倒されて左手に手錠を掛けられた。両手を後ろに回させられて、右手にも手錠を掛けられる。大和型に力で敵うわけはない。技術でも、多分武蔵さんには敵わない。

 

憎しみの籠った視線を夕立に向ける。その夕立は、椅子から立ち上がって私の顔の前まで来て立ち止まって、ポケットから紙を取り出した。

 

「逮捕令状です。由良‥‥‥貴女を叛乱罪で拘束します」

 

叛乱罪‥‥…やっぱり気付かれていたのね。私を安全に拘束するために呉へと呼び出したんだ。それなら此処に送る手筈になっていた艤装も、きっと届いてないわね。初代雷の妖精さんを先に呉に寄越させたのも、私とあの子を別々に引き離しておく為か。あと‥‥‥あと少しだったのに‥‥‥。

 

「出来れば全て話して欲しい。貴女の死刑を回避するのは無理かも知れないけれど、出来る事はするから」

 

夕立の表情に変化は無い。自分達のしてきた事は全て棚にあげるってわけ?父さんや母さん、あの人を死に追いやった癖に!!

 

「『夕立』としての私へのせめてもの情けって事?‥‥‥‥‥‥謝罪して心を入れ換えろって言うの!?冗談じゃないわ!!」

 

許せない、許せない、許せない、絶対に許せない!!

 

何とか逃れようとジタバタと身体を動かすも、武蔵さんの拘束が強すぎて逃れられない。かと言ってこのまま裁判を受ける?冗談じゃない。深海棲艦の情報を得る為なら、口を割らない私に自白剤を使う可能性もある。こんな奴等に有用な情報は何一つとして渡さない。レ級と中枢棲姫なら、きっと私が居なくても人類を滅ぼしてくれる。それに、彼女達の次の世代だってもうすぐ‥‥‥。

 

私は舌で左の上の奥歯を外す。歯は二つに割れて、中に入っていたカプセルを思い切り噛み砕いた。即効性の猛毒。勿論、妖精さんと二人で改良して私達艦娘にも効くようした代物。本当ならこれと同じ物で夕立や山本中将を殺す筈だったのに。まさか最初に使うのが最悪の場合に備えて仕込んだ自殺用のカプセルだなんてね。

 

毒は一瞬で回り、全身が痙攣。私は苦痛に襲われ白目を剥いて泡を吹いた。鼓動も止まり、私の人としての生は終わりを告げた。

 

 

 

許さない。絶対に許さない。死んでも呪ってやる。また生まれ変わって、この手で人類を滅ぼすその時まで。

 

◆◆◆◆◆◆

 

「駄目だ。もう手遅れだな」

 

武蔵は、由良さんの脈を計り、呼吸しているかを確認。‥‥‥服毒自殺。やられました。まさか毒まで用意していたなんて。これで振り出しに戻ってしまいました。初代雷の妖精さんは何も話そうとしませんし、由良さんの協力者達がどの程度の規模なのかも不明なままです。

 

大和です。

立ち尽くしていた夕星さんは深い溜め息をつきました。きっと、由良さんを死なせずに済んだかも知れない、もっと別の突破口があったとでも考えているのでしょうね。

 

「夕星さん‥‥‥由良さんの死は不可抗力ですよ。悔やむ気持ちは分かりますけれど」

 

「‥‥‥由良を追い詰めたのが私達なのは変わらない」

 

やっぱり。責任を感じているのですね。けれど、由良さんがやってきた事は大罪です。死刑は免れませんでしたし、それが少しばかり早まっただけだと割り切るしかありません。

 

「大和さん、悪いけど由良を遺体安置所まで運んでおいてくれない?それから、少し1人にしてもらえる?」

 

「はい。分かりました」

 

 

 

由良さんの実況見聞が終わった後。

不知火さんが用意してきてくれた担架に由良さんを乗せて、上から真っ白なシーツを掛けました。その担架を押して、私は目立たないよう裏の倉庫の方へと回ります。不知火さんは一旦自室へと戻り、武蔵は報告の為に執務室から退室して間宮さんの所へ。

 

陸上で亡くなった艦娘が深海棲艦へと変わる現象は確認されていません。深海棲艦へと変わるには触媒として海が必要なようですので、陸にある限りは由良さんの遺体が深海棲艦になる可能性はない。

 

由良さんの犯罪に同情の余地はありません。ですが、由良さんの人生を考えると私達にも悔やまれる点が多数あります。由良さんの父親や恋人の自殺を止められていれば。あの時もっと早く由良さんを見つけて保護できていれば。

「はぁ」と小さく溜め息をついて、シーツの顔の部分を捲ります。今は瞳を閉じて穏やかな表情になっている由良さん。私の脳裏にはあの時の、怒りと憎しみに染まった由良さんの表情が焼き付いています。あんな思いをする人を増やしてはいけない。これは私達に対する戒めなのでしょう。

 

‥‥‥あれ?由良さんの肌、こんなに白かったでしょうか?それに、何だかシーツが先程より盛り上がっている‥‥‥‥‥。

 

不味い、と思い夕星さんを呼びに行こうとした瞬間でした。由良さんの瞼が開いて、妖しい金色に染まった瞳が私を捉えました。シーツから由良さんの右手が伸びてきて、私の首を掴む。振りほどこうにも、物凄い力で掴まれていて大和型である筈の私の力でも微動だにしません。

 

「うっ‥‥‥くっ‥‥‥くるし‥‥‥」

 

私の身体をそのまま片手で持ち上げ、由良さんはゆっくりと立ち上がりました。深海化‥‥‥!そんな、陸上で?

由良さんの全身を覆う、その瞳と同じ妖しい金色のオーラ。その肌は青白く。腰には太く長い、忘れもしないあの深海棲艦と同じ尾が。ま‥‥‥さか‥‥‥。

 

「レ級‥‥‥‥‥‥flagship‥‥‥‥‥‥?」

 

その尾が跳ねて、私の左脚を膝まで喰い千切りました。艤装の補助もない状態ではどうする事も出来ない。思わず「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」と悲鳴をあげた私を宙に放り投げた彼女は、この至近距離から砲撃。私は嫌な音と共に向こうの倉庫まで吹き飛ばされました。辛うじて意識はありますが、身体は全く動きません。生きているのが不思議なくらいの状態です。放っておかれればこのまま死ぬのは間違いないでしょう。怪我がどんな状態なのかですか?聞かない方がいいと思います。一言でいうなら『グロ画像』というアレです。

 

私の身体の様子を見て死んだ、と判断したのか、それとも取るに足らない雑魚と判断したのかは分かりませんが、由良さんは背を向けて歩き出しました。同時に尾の先にあるおぞましい怪物の口が開いて、飛び魚艦爆が次々に発艦、資源の備蓄倉庫と基地航空隊の方へと飛んで行きます。

 

止めなくては‥‥‥けれど、このままでは私の命が‥‥‥誰か‥‥‥。

 

 

 




由良自殺で事件終了、と思いきや呉鎮守府にてラストバトル発生。同時に大和が戦線離脱。
艦これでは未実装のレ級flagshipになった由良との戦闘は次回。


‥‥‥てか運営さん、レ級flagship実装するなよ、するなよ‥‥‥。


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