抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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『一騎当千』

「でさー聞いてよ村雨、そん時の風雲がさー」

 

「ちょっと陽炎!それ誰にも言わないって約束だったじゃない!」

 

‥‥‥。

村雨です。

暫くは深海棲艦と戦う事もしない、ちょっと窮屈だけど穏やかな日常。この生活にも少しだけ慣れてきた。っていっても動ける範囲は決まってるし、そろそろ外の空気も吸いたいんだけど。誰に見られてるか分からない以上、此処を出るのは危険だって事くらい理解してるけどね。

もう死刑に怯える事も無いし取り調べで心を折られる事も無い。あの時とは比べるべくもないもの。

 

それに『もうすぐカタが着く。そうしたら此処から出られるから』って夕立が言ってたしね。もう少しの辛抱よね。

 

‥‥‥ん?なんだろう?今微かに『ドーン』って音が聞こえたような?少し揺れた気もする。花火とか?近くでお祭りでもあるのかしら?

 

「ねぇ二人とも、なんか今揺れなかった?」

 

風雲と陽炎はお喋りに夢中で気付かなかったみたい。「え?そうなの?」「気付かなかったわよ?」だって。うーん、やっぱり私の気のせいだったのかな?

 

あ、また。今度は連続で鳴ってる。3、4、5‥‥‥7回?連発みたい。花火なら見に行きたかっ‥‥‥あれっ?まだ昼間よね?

 

「今の何?」って、流石に風雲も気付いたみたい。陽炎は「近くの小学校とかで運動会でもやってるんじゃない?」って呑気な事言ってるけど、そんな雰囲気じゃないような気がするんですけど。

 

その直後。今度は凄い地響きと鼓膜に響く爆発音。この部屋も大きく揺れる。ちょっと!?これ絶対花火じゃ無いっ!

 

「何事よ!?」って姿勢を低くしてる陽炎と、「ひっ」て頭に両手を乗せて小さくなってる風雲。私達が事態を飲み込めてない所に、勢い良く奥の扉が開く。

 

「3人とも、無事!?」

 

息を切らせて走って入って来たのは暁ちゃん。やっぱり何かあった‥‥‥まさか、深海棲艦の襲撃?

 

「3人とも、地上に行くわよ!暁に付いてきて!」

 

私も行かなきゃいけないって事はやっぱり非常事態なのね。言われるままに扉から出て、3人と共に私は久しぶりの屋外へ。でも待っていたのは澄んだ空や快適で美味しい空気とかじゃなくって。

 

「何‥‥‥これ‥‥‥」って思わず声が洩れたわ。あちこちから上がる黒煙、燃え上がっている最中、又は崩れ落ちた建造物。上空ではプロペラ付きの翼が生えた緑色のたこやきみたいな、所謂『深海解放陸爆』と呉の航空隊『雷電』と『四式戦・疾風』の編隊が戦闘中。でも雷電と疾風の数が聞いてるより少ない。撃破まで行けずに押し留めるのがやっと、って感じ。

 

私達の居た営倉の隣の建物は完全に破壊されていて、瓦礫の山になってる。営倉の建物自体も半壊って所。深海解放陸爆の攻撃があと少しずれていたら、私達は生き埋めになってた所だったのね‥‥‥ゾッとした。

 

暁ちゃんが「こっちよ、早く!」って手招きして、私達はその後を追う。向かってるのは工廠みたい。

 

「暁達は瑞鶴さん達を援護するわよ!」

 

目的は、工廠に保管されてる艤装と装備。主に高角砲と高射装置。資源の備蓄倉庫の防衛に行ってる瑞鶴さんと鈴谷さんを援護して敵機を迎撃するのが役目みたいね。

 

工廠と入渠ドックは共に半壊してるけど、どうにか使えるって状態だった。ここの上空にも雷電の編隊が居て、迎撃を行ってる。でも、基地航空隊ってこんな数じゃ無かったわよね?他の機体は?襲撃してきた他の深海棲艦の迎撃に出てるのかな?

 

「それなら良かったんだけど。向こうに先手を取られたのよ。陸攻隊は壊滅、生き残った局戦や陸戦をかき集めてどうにか凌いでるの」

 

奥歯を噛み締めた暁ちゃんの説明が、逼迫した現状を伝えてくれる。つまり大元を叩かなきゃこのままじゃこっちは壊滅しちゃう、って事。暁ちゃん、風雲、陽炎の3人は艤装を身に付ける。私の艤装は此処には無くて横須賀の倉庫。だからあんまり役にはたてないかも知れないけど、高角砲は持って備蓄倉庫へと急ぐ。

 

「‥‥‥待って、3人とも!」

 

途中、風雲が私達を呼び止めた。今は急いでるのにって思いつつ、私達は足を止める。

 

「あそこ‥‥‥何か居る」って風雲が指を差した方にあるのは、崩れた倉庫と瓦礫の山。何か居るって‥‥‥どこ?何か見えてるの?

 

「深海棲艦じゃないでしょうね?」って陽炎が砲を構えて、風雲の指差す先へと近付く。相手に動きはないみたい。私達も慎重に近付いて‥‥‥傍まで来て漸くそこに誰かが埋まっている事に気が付いた。

 

暁ちゃんが「深海棲艦かも知れないんだから、油断しちゃ駄目よ!」って叫んで、その埋まっている誰かに砲を向ける。陽炎と私はそっとソレに近付いて‥‥‥思わず吐き気を催して口を押さえた。

 

「うっ‥‥‥これ、艦娘の誰かなんじゃ‥‥‥」

 

そう言った陽炎の右手人差し指が、その人の左肩部分を差している。確かに深海棲艦のものとは違う肌色。でもその左肩は、二の腕辺りから無くなってて、酷いって表現じゃ足りないくらいの火傷とブスブスと焦げた音がしてる。右手はどうにか肘辺りまで残ってるみたいだけど、その‥‥‥表現するのは憚れる。下半身は吹っ飛んでるのか埋もれるのか分からないけど見えない。瓦礫のせいで胴体は良く分からない。顔も半分瓦礫に埋まってる。でも見えてる右半分はちょっと‥‥‥これも表現はしたくない。駄目、吐きそう‥‥‥。

 

そんな私達を他所に、暁ちゃんは瓦礫を懸命にどかしていく。その人の首の辺りに割れた何かが付いてるのが見えてきた。ねぇ、これ、菊花紋章じゃ‥‥‥嫌な予感が‥‥‥。

暁ちゃんは手を止めず、今度はその人の顔の左半分が露出。掛かっていた髪を避けると、隠れていた無事な顔の左半分が見える。

 

「うそ‥‥‥大和さん‥‥‥?」って思わず声を洩らしたわ。これ、死んでるの‥‥‥?大和さんでもこんな状態になるような敵って‥‥‥。未知の恐怖に思わず身が竦む。

 

「‥‥‥生きてるわ!手を貸して!」

 

暁ちゃんは大和さんの弱々しい呼吸を確認、私達は慎重に瓦礫をどけていく。その全身が露になって、私は再び吐き気を催す。こんな状態でも生きてるなんて奇跡じゃないかしら?なんて呆けてる間に、暁ちゃんが私達の目の前で服を脱ぎ始めた。なっ、何してるの!?

 

「3人とも上着脱ぐのよ、早く!」

 

言われるままに私達は上着を脱いだ。暁ちゃんはその辺から長い棒を2本取ってきて、私達3人の上着の袖に通して布をピンと張る。あ、そうか、担架ね。

 

「時間が惜しいわ!手伝って」

 

暁ちゃんは脱いだ自分の上着を破って大きな一枚の布にする。私達は各々四隅を持って、慎重に慎重に大和さんの身体の下に滑り込ませた。

ゆっくりと布を持ち上げて、静かに担架に乗せる。大和さんは思った以上に軽かったわ。

 

「司令官ごめんなさい、緊急事態なの!瀕死の大和さんを見つけたわ!私と村雨で入渠させるから、瑞鶴さんの援護は陽炎と風雲に行ってもらうわ」

 

暁ちゃんの通信に『分かった。くれぐれも注意して。大和さんの回復を確認次第、暁ちゃんは戦線に戻って』って応える。

 

「了解よ、司令官」

 

私と暁ちゃんは再び工廠の方へ、陽炎達は備蓄倉庫へ。

 

「でもこんな状態なのに‥‥‥入渠して治るものなの?」

 

「大丈夫よ!暁がイギリスに居た時、同じような怪我した艦娘が居たもの!その子はちゃんと全快したわ!」

 

だから暁ちゃん、冷静だったのね。普段の姿からは想像しにくいけど、やっぱり優秀な先輩なのね。

 

◆◆◆◆◆◆

 

天龍だ。フフッ怖いか?

なーんて言ってる場合じゃ無ぇ。今は武蔵と二人で時間稼ぎ中だ。何の、かって?決まってるじゃねえか。足手まといの新人の連中が避難するまでのレ級flagship、もとい由良の相手だ。

 

「クソッ、この化け物がよっ」

 

悪態をついて吐き捨てる。ったく由良のヤツ、折角武蔵と再会したってのに感傷に浸る時間もくれないのかよ。

 

「来るぞ天龍、抜かるなよ?」

 

「うるせぇ、分かってるっての」

 

オレは刀を構え直す。オレも武蔵も艤装は最低限。オレは刀、武蔵は51㎝砲一門。何せ陸上だからな。必要以上の装備は動き難くて邪魔なだけだ。まっ、目の前の化け物にどこまで通用するかは疑問だけどな。

 

由良が尾の先をオレ達に向けて、砲撃と共に走り出す。オレと武蔵が砲撃を避けた隙に、オレには蹴り、武蔵には尾をぶつける。オレは刀の刃の部分でそれを受けるも、由良の足には傷一つ付かねえ。なにで出来てやがるんだよ、そのダイヤモンドみてーな固さの足は。武蔵の方も尾の一撃を紙一重でかわしたみたいだな。アイツもよくやるぜ、全く。

 

「流石決戦兵器様だなおい」

 

「気を抜いたらやられるのには変わりない。私も改二になっていなければあっという間にあの世に逆戻りだな」

 

チッ、武蔵のほうに余裕でもあればと思ったんだがな。こりゃ期待出来そうも無いな。クソッ、神通と夕立はまだかよ?流石に長くは持たないぞ?

 

にしても由良のヤツ、あれ一応戦艦だろ?レ級だし恐らく雷撃も出来るだろうし、あの馬鹿力だろ?阿呆みたいな数の陸爆と艦爆もありやがる、それに馬鹿みたいな威力の砲に、陸上でもあれだけのスピードで動き回れるとか完全にチートじゃねぇか。勝算がまるで見えねぇ、クソッタレめ。

 




村雨達が瀕死の大和を発見。一方で武蔵と天龍は戦闘を開始。タイトル通り深海由良さんは一騎当千の化け物と化しています。
という所でまた次回に。



某おー●んにちょっと書いてあったのですが、任務が全部で残り6ページというのは廃人基準だそうな。そんな事無いと思うんですよね、私も6ページとかですし。廃人ってアレですよね?
・司令部レベル120 ←今118なのでセーフ
・甲勲章全部持ってる ←全部なんて持ってない上にフレッチャー堀でなけなしのを砕いたのでセーフ
・ランカー常連 ←2回しか入った事無いのでセーフ
・艦娘はフルコンプ ←天城と石垣が居ないのでセーフ
・EOは毎月全部割ってる ←5ー5は必要な時しか割らないのでセーフ
・重い改修も余裕 ←ネジ万年不足でまだまだ改修終わらないのでセーフ
・イベント前は全資源30万余裕 ←全資源じゃない時もあるのでセーフ
・イベントは先行勢 ←ヒャッハーしたのは前回だけなのでセーフ

‥‥‥あれ?わりと廃人に片足突っ込みかけてる?

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