抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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Extra Operation

どうして。どうしてなのですか。陽炎や萩風だけでは飽き足らず、ポイポイまで奪うというのですか。

 

『何トカ言ッタラドウナノ?ミットモナク泣キ喚キナサイヨ』

 

由良が何か言っているようですが、不知火の耳には入りません。無様にもその場に仰向けに倒れて動けない状態のまま、ただ呆然としてポイポイを見つめていました。不知火の脳は、事態を理解する事を拒否しています。認めたくない。ポイポイを失うなんて、決して認めたくない。

 

『ハァ‥‥‥興醒メネ。ホンット使エナイ』

 

由良の尾に一層力が込められて。ポイポイの両手足は力を失いダラリと垂れる。由良は、ポイポイを不知火の身体の上へと放り投げました。ピクリとも動かないポイポイから完全に興味を失った由良が、不知火達に背を向けゆっくりと武蔵さん達の居る方へと歩いていく。

 

『飽キチャッタ。サッサト片付ケテ次ニ行コウ。ソレジャ先ズハ神通カラ、ネッ』

 

嗚呼、嫌です。嘘だと言ってください。やられたフリをしていると。倒れているのは演技だと言ってください。ポイポイ、お願い嘘だと‥‥‥。

 

まだ動く左手をポイポイの顔へと伸ばします。指先でその唇に触れて。呼吸の吐息が一切感じられない、愛しい唇をそっと撫でます。

 

震える左手を唇から離し、ポイポイの左胸に当てる。やめて‥‥‥やめてください。嘘だと言って。鼓動が一切感じられないのは、不知火の左手の感覚が鈍っているせいだと言ってください。目の前の事実を信じたくない一心で、ポイポイの左手首の橈骨動脈に指を当てます。けれど、脈は全く感じられない。

 

嗚呼‥‥‥嫌です‥‥‥嫌‥‥‥目を‥‥‥目を覚ましてください。不知火を一人にしないで下さい。凍りついた表情のままの不知火の瞳から、ポロポロと涙が流れ始めました。約束したではありませんか。深海棲艦を滅ぼしたら返事をくれると。不知火を独りにしないと。待っていてくれと。不知火を幸せにしてくれるのではなかったのですか。

 

「嫌‥‥‥嫌ぁ‥‥‥」

 

涙は止まりません。左手でポイポイの左頬を撫で、ただ『起きて』と願いに縋る。

 

「起きて‥‥‥起きてください、ポイポイ‥‥‥」

 

白目を剥いたまま、呼吸も鼓動も止まったままのポイポイに必死に呼び掛けます。それがどんなに無駄で意味の無い行為だとしても、不知火はただ呼び掛け続けます。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

また、一面真っ白な空間。そっか。思い出した。レ級‥‥‥初代雷の成れの果てにやられた時も此処に来たっけ。今度こそ駄目かな。あの時みたいなあやふやな状況ではない、首を締められて殺されたんだものね。まさかあんなに呆気なくやられるとは思わなかった。由良を止めるのは、きっと無理。みんな、ごめんね。私の力が足らないばっかりに。みんなも此方に来る事になりそうね。謝らなきゃ、ね。

 

ほら、あそこに見覚えのある鋼鉄製ベンチがある。あれから更に傷が増えている背中の艤装を慎重に持ち上げて、ゆっくりとした歩みで近付いていく。

 

私に気付いたからか、それとも初めから気付いていたのか。初代雷は振り返って私に苦笑いを向ける。同時にその隣に現れた先代夕立が、膨れっ面で凄く不満そうに私に向かって走ってくる。

 

『約束したのに!戻って来るの早すぎるっぽい!約束破ったっぽい!!』

 

「ごめん。頑張ってみたんだけど、無理だったわ」

 

先代夕立の頭を撫でつつ、私は謝るしかなかった。でも相手があれじゃあ‥‥‥力の差があり過ぎて。艦娘としての力も満足に振るえない今の私には、到底敵いっこない。ヌイヌイちゃんとは、もっとちゃんとした形でお別れを言いたかったんだけど。

 

『無茶言ったら駄目よ。幾ら沖立さんでも、あの深海棲艦が相手じゃ仕方無いじゃない』

 

初代雷は立ち上がって、先代夕立をそう宥める。先代は『でも!この人ならもっとやれるっぽい!』って聞かないけど。

 

「沖立さん、なんて他人行儀だし夕星でいいわ。私もみんなが来るまでもう少しここに居るつもりだし」

 

もう知らない仲でもないし。少しの間かも知れないけれど一緒に居るんだもの、名前で呼ぶくらいいいっぽいわよね?

 

『何言ってるの?夕星は此処に居たら駄目に決まってるじゃない』

 

え?初代雷、それって‥‥‥そっか。初代雷と先代夕立は特別、なのね。私はみんなを待つ事すら許されないのか。残念だけど、仕方無いか。

 

『‥‥‥?夕星は何か勘違いしてるっぽい?』

 

え?先代夕立、それどういう意味?私はすぐ成仏しろって事じゃないの?合点のいかない様子の私を見て、初代雷はクスクス笑ってる。そんなに変な事だったのかな?

 

『そうじゃないのよ、夕星。いい?貴女は戻って由良を止めないといけないの。それはきっと、貴女にしか出来ない。此処に来て私達と会っている貴女にしか、ね』

 

どういう事?例え生き返る事が出来たとしても、私の艦娘の力は今の由良には通用しないのに。私にこれ以上どうしろっていうの?

 

『すぐに分かるわ。私にも借りを返させてよ。夕星達が苦しむ原因の責任の一端は私にもあるんだから』

 

初代雷の母親は、今の深海棲艦が生まれる切っ掛けとなった、人類の生み出した最初の姫級、南方棲戦姫。初代雷はその南方棲戦姫を沈める代わりに、自身がレ級の元となった。だから自分にも責任がある、って。

 

それでも。私が今戻ったところで結果は見えている。由良の力は強過ぎる。技術や戦術ではどうこう出来ない程に。

 

納得いかない様子の私に笑いかけた初代雷が、私の背中の駆逐艦夕立の艤装に手を伸ばしてポンポン、って軽く叩く。

 

『ねえ、夕立。どのみち貴方はこのままなら消える運命よ?それなら、今度こそ守ってみない?護国の英霊の力で、国の人達をね』

 

初代雷は勿論私にではなく、艦艇・駆逐艦夕立の魂に語りかけてる。『そう、ありがとう』って言ってる所をみると、初代雷の話は駆逐艦夕立の魂に通じたみたい。

 

『それじゃ、夕星。貴女は戻って由良を止めて。私も少しだけ力を貸すから』

 

初代雷の右手が、私の胸に触れる。少しだけ身体が軽くなった、気がした。

 

『頑張ってね、夕星。貴女ならきっと出来る筈だから』

 

「やれるだけやってみるわ」

 

私の意識は薄れていく。また二人の事は忘れてしまうのかな?ううん、今度はきっと覚えてると思う。『また後でね?』って二人に見送られて、私は在るべき場所へ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

不意にポイポイの頬がピクリ、と動きました。その瞳に生気が戻り、呼吸音が聞こえてくる。トクン、トクン、と鼓動が感じられる。ポイポイ‥‥‥やはり生きていたのですね。良かった‥‥‥本当に。嗚呼、涙が止まらない。

 

「逃げて、ポイポイ。由良が此方に気付かないうちに」

 

不知火は最早満足に動けません。神通さん達には申し訳ありませんが、由良の意識が向こうに向いている間にポイポイを逃がす。万が一の場合はしがみ付いてでも由良を止めてみせます。ポイポイの為ならその位出来るわ。

 

不知火の上に倒れていたポイポイが身体を起こします。駄目よポイポイ。もっと目立たないように、気付かれないように動かなくては。立ち上がって、不知火をお姫様抱っこで抱えたポイポイは、その場を一時的に離れる。不知火の事を由良から見ても目立たない、瓦礫の陰に座らせました。不知火の事などどうでもいいのです。だからポイポイは逃げて、今すぐに。

 

「大丈夫よ、ヌイヌイちゃん」

 

落ち着かせるように、ポイポイの唇が不知火の唇を塞ぎます。

 

ほんの2、3秒で離れた、愛しい人の唇。まだ不知火にその温もりが残っています。駄目、行かないでください。行ってしまったら、今度こそポイポイは‥‥‥。

 

ですが。先程とは少しばかり雰囲気が違う。嫌な汗が不知火の額に流れます。ポイポイの瞳が、赤というよりも血のような紅黒い光を放ち始める。その身体も、瞳と同じ色のオーラに包まれて‥‥‥。纏う空気も艦娘よりも禍々しいものに。まさか‥‥‥ポイポイまで深海棲艦に‥‥‥そんな‥‥‥。

 

「大丈夫よ、ヌイヌイちゃん。深海棲艦にハならナいかラ。心配しナイで』

 

違う‥‥‥というの?そう言えばその肌は人間の肌色のまま。艤装や服装も深海棲艦の有機的なものではなく、艦娘のそれのまま。

 

『初代雷に感謝カシら。此処で待っテイて、ヌイヌイちゃん。由良ヲ止めて来ルワ」

 

ポイポイは立ち上がり。遠くの由良を睨む。その身は禍々しさと共にポイポイの温かみも感じられます。何が起きているというのですか。

 

『もウ時間ガ無い。ソレじゃ、行っテ来ルワ」

 

 

 




書き留めは此処まで。

夕立、初代雷の力を借りて艦艇の魂の力を引き出しelite化。再び由良と対決です。但し‥‥‥。

といった所で次回に。
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