「くっそー、どうなってるのよコレ!キリが無いっ」
瑞鶴が吐き捨てる。そうだよね、フツーに考えたらさ、あの量を発艦させてまだなお艦載機増やしてくるとかあり得ないからね。
「もうムリ!コッチも艦戦補充しなきゃ維持出来ないっての!」
鈴谷も悪態をついてる。友軍機の被弾も徐々に増えてきて、このままじゃ防衛線を維持出来なくなる。
あーそっか、名乗らなきゃいけないんだよね?メンドーだなぁ。まあ、鈴谷妖精って言っとけば分かるよね?
私達が陣取ってるのは、備蓄倉庫の屋根の上。屋根に登った方が見晴らしがいいからってだけの理由だよ。今の所下なんて気にする必要は無いし。敵は由良が変化した深海棲艦だけだからね。もし夕立達が突破されて此処を襲撃してきたら?いやいや、突破された時点で詰みだから意味無いよ。
しっかしまあ、由良ってばどんな構造してんのかね?こんなのどうやって発艦してんの?コレじゃまるで航空基地じゃん。由良って軽巡洋艦だよね?色々オカシイでしょ。初代雷が戦艦になったのも大概だけどね。
これはもう仕方無い、奥の手だね。何をするか?そりゃ勿論ギンバ‥‥‥じゃなくて倉庫のボーキサイトと鉄をちょーっと借りるだけだよ。つまり、コッチも艦戦補給しながら戦うって事。仕方無いじゃん。瑞鶴と鈴谷が突破されたら備蓄資源全部パァだよ?そうなったら戦えないじゃん。
『二人とも待ってて。ちょっと倉庫から補給物資取って来るから』
「頼んだわ、ありったけ持ってきなさい」
お、流石瑞鶴、話が分かるね。それに引き換えウチの妹と来たら「えっ!?勝手に持ち出して大丈夫なの!?」って。時には柔軟()な思考も大事なんだよ。
「良いのよ、緊急事態なんだから。それに何かあっても始末書書くのは夕立でしょ?」
そうそう。瑞鶴の言う通りだよ。ヤバかったら夕立に丸投げしちゃえばいいんだって。今回の場合は特にね。
「あーもー、後で怒られても鈴谷知らないからね!」
「怒られないわよ。鈴谷、アンタそんな事より気合い入れなさい!また来るわよ!」
敵戦闘機の波がまた来る。これで何度目?早いとこボーキサイトと鉄持ってこよっと。そうだ、その前に工廠で他の妖精にも応援頼まないとね。
ん?‥‥‥‥‥‥何だろう。今、何か嫌な感じがした。何かこう、新たな悪意っていうか呪いが生まれたような感じが‥‥‥。
工廠へ急いだ。半壊した、妖精達が修理中の工廠で何人かスカウトして瑞鶴達の所へ向かわせて。電探を持ち出した。
やっぱり。深海棲艦の反応が増えてる。由良以外に深海棲艦が上陸したって事に‥‥‥いや待って、味方の反応が一人分減ってるじゃん!!ヤバいっ、誰かやられたって事!?まだ間に合う、私が助けに行かなきゃ!でも今の私の足じゃ時間が掛かり過ぎるし。いや待って、艦載機で現場まで飛ばしてもらえばすぐじゃん。それならやっぱ一端戻って瑞鶴に頼むか。よしっ、そうと決まったら善は急げだね!
やっと戻って来れたよ。屋根の上に登りなおすってのがネックだったよ、全く。でもこれでコッチも艦載機補充しながら戦えるね、ここからが本番だよ!
「よしっ、ここから巻き返すわよ。出し惜しみは無し!鈴谷、アンタこれ使いなさい」
瑞鶴が、鈴谷にとある艦載機を渡す。「えっ‥‥‥これって、確か」って戸惑ってる妹。気持ちは分かるよ。瑞鶴が取り出したのは零式艦上戦闘機53型岩本隊機。翔鶴さんの形見だからね。
「言ったでしょ、出し惜しみは無し。ここでケチってコレを使わなかったら、翔鶴姉に合わせる顔がないからね」
少し迷って「分かったよ」ってそれを受け取った妹。瑞鶴は「それを使うからには負けるんじゃないわよ?」って発破をかけてる。妹も「分かってるよ」っていつになく真剣な表情だね。
「よし、次はアンタよ」って私に視線を向けた瑞鶴。そこまでは良かったんだけどね‥‥‥。
『ちょっと!確かに早く、とは言ったけどさ、これは想定してないんだけど!?』
何で?なにコレ?何で私、橘花改のコックピットに乗ってるの!?
「早く到着させろって言ったのはソッチでしょ。これで行くのが最速なんだから文句は無し。いいから黙ってなさい。舌噛むわよ?」
そう言いながら瑞鶴は弓を引き絞る。操縦捍を握るパイロット妖精のアンタも、何でそんな良い笑顔してんの!?二人とも何なの!?私を苛めてそんなに楽しいの!?幾ら私でもジェット機とか無理に決まってんじゃん!私は艦載機妖精じゃ無いって知ってるよね!?
「さあ、行くわよ!橘花改、発艦!」
瑞鶴が弓を放った。『ぎゃああああっ』って悲鳴をあげた私を乗せ、噴式戦闘爆撃機・橘花改は勢い良く発艦。二人とも、後で覚えてなよ!!
◆◆◆◆◆◆
さて、っと。それじゃ神通を最初に殺しておこう。意識を失ってるのはちょっとラッキーかな。残った面子の中じゃ一番厄介かも知れないから。
由良よ。
夕立も簡単に潰したし、武蔵も天龍も相手にはならない。神通もこれで終わり。何だか今までが嘘みたいに呆気ないよね。こんな事ならもっと早く深海棲艦になっておけば良かった。
神通の右足に刺さった刀が目についた。このまま力任せに神通を持ち上げたら、刀のせいで右足は太股辺りから裂けるのかな?興味湧いてきたわ。神通の悲鳴あげたり泣き叫んだりって見たこと無いし。もしかしたら神通の無様な姿を初めて見られるチャンスかも知れない。ちょっと楽しくなってきたわ。
神通に近付いて、頭に手を伸ばす。後は掴んで力任せに引っ張れば。
背中側からドゴォン、って音。同時に私の右肩で爆発が起きた。そんな大した事は無いけれど、この身体になって初めて装甲を抜かれて感じる痛み。
私に痛みを感じさせるような奴は、どこの誰?折角の私の楽しみを邪魔するなんて許せない。責任を取らせないと。ねっ。
『痛イジャナイ!私ノ邪魔ヲシタ罰、受ケテモラウカラ!』
振り返ってみて、私は少し驚いた。だって、私を砲撃したのは殺したと思っていた夕立だったんだもの。でも様子が少し違う?夕立の身体はうっすらと赤いオーラに包まれてる。まさかelite?でも夕立の身体は深海棲艦とはまるで違う、艦娘のままの姿。どういう事?
「やっトダメージが通ッタ。こレデやっと挑戦権を得タ、って所カナ?』って夕立は深海棲艦とも艦娘ともとれる、少しくぐもったような声を発してる。
そうか、私と同じなのね。夕立も深海棲艦の力を。私がちゃんと殺し切らなかったせいね。
‥‥‥どうして夕立は艦娘の、人間の身体を維持したまま深海棲艦の力を振るえているの?私は人を捨てないと無理だったのに。‥‥‥気に入らない。気に入らない!!
『気ニ入ラナイ!!主人公デモ気取ッテルツモリ?夕立!貴女ノソノ フザケタ偽善ヲ叩キ潰シテアゲル!』
◆◆◆◆◆◆
参ったわね、全力を込めた目一杯の砲撃だったんだけど。確かに装甲は抜いたしダメージは通ってるみたいだけど、見たところ『カスダメ』って感じ。これまでで最悪の戦力差なのは間違いない。艦艇の力を解放してもこれか。私がやられるか、もしくは私の身体が耐えられずに限界を迎える方が早くなりそうね。どうしたものかな。
沖立です。
思ったより理性は保てるものね。もっと狂気に呑まれるかと思ってたんだけど。見た目は私の身体が赤いオーラに包まれてるだけだけど、纏っている力は禍々しい深海棲艦のそれだもの。
何とかして由良を行動不能にするか海へと追いやるかしないとね。面倒なあの尻尾を潰すのが一番かな。外部からダメージを与えるのは難しいから、やるとすれば内部から。腕の一本くらいの犠牲はやむを得ないかな。ヌイヌイちゃん、泣くんだろうなぁ。
由良に向かって、砲撃しながら走る。当たるけど、やっぱり大したダメージは受けてない様子。まだよ、もう少し。もう少し近付いてからじゃないと。一撃の威力が大きい魚雷を直接叩き込める距離まで近付かなきゃ。向こうも分かってはいる筈だけど。
私は連続で砲撃を放つ。由良には致命傷は与えられないけど、少しくらい怯んでくれる筈。由良の顔面に砲撃を当てて、その視界が遮られた瞬間を狙って一気に距離を詰める。狙いは由良の尾。左手に魚雷を2本持って、その異形の頭の付いた尾の先を狙って‥‥‥。
鋭い何かが腕に噛みついて引っ張る感覚。不味い、って瞬間的に理解する。私の左腕は、由良の尾の異形の頭の鋭い牙に二の腕辺りまで食い千切られた。魚雷は勿論不発。完全に読まれていたみたいね。
『単純ナ攻撃ネ。ホントガッカリ』
困ったわね。これでもまだ実力差があるのか。本当に『同じ土俵に立つ資格を得ただけ』のレベルなのね。どうやって現状を突破したらいい?居るかも分からない神になんて祈らないけど、どうしたらいいの?せめてもう少し強い力があれば‥‥‥。
噴式にて飛ばされる鈴谷妖精さんの回。
それでも埋まらない実力差。夕立に勝機は?
皆様、台風被害にはお気をつけ下さい。
それではまた次回。