「失礼致します」
コンコンコン、ってノックをしたヌイヌイちゃんの後について、アタシは執務室に入った。提督さんが座ってて、隣には秘書艦の翔鶴さんが立ってる。他の人はもう揃ってて、熊野さんが大和さんと凄く眠そうな川内さんに紅茶を渡してる所だったっぽい。
「揃ったな?一先ず座れ」
提督さんに促されて、アタシとヌイヌイちゃんもソファに座った。此れからアタシ達にお話があるっぽい。
「このメンバーでチームを組んでもらう」
つまりはそういう事。ヌイヌイちゃん、アタシ、川内さん、熊野さん、大和さん。アタシ達は第3艦隊扱いっぽい。旗艦はヌイヌイちゃん‥‥‥あれ?このメンバーだったら大和さんでもおかしくないような?あ、別にヌイヌイちゃんの実力が無い訳じゃないよ。旗艦が駆逐艦って珍しいって思ったからっぽい。
「あの、どうして不知火が旗艦に?」
ほら、ヌイヌイちゃんも大和さんを見ながらそう言ってる。けど、提督さんにも考えはあるっぽい。ちゃんと理由は話してくれた。
「このメンバーだとお前のキャリアが最も長い。潜り抜けた死線の数も違う。それと、戦場でも冷静に判断が下せる。適任だろう?」
大和さんは超弩級艦だけどまだまだ経験不足。熊野さんは情に流される所があるから、だって。‥‥‥アタシと川内さんの事は「ここには考えるより先に動く無鉄砲な馬鹿が二人も居るからな」だって‥‥‥。川内さんは「ん?誰それ?」って惚けてた。むぅ、難しく考えるのは得意じゃ無いけど、言い方が酷いっぽい‥‥‥。
「艦娘は通常、六人で艦隊を組むと聞きましたが?」
むくれてたアタシを他所に、質問したのは大和さん。確かにここには五人しかいない。その言葉を待っていたみたいに、コンコンコン、ってノックの音がした。
「時間ちょうどだな。入れ」っていう提督さんの言葉で、新たに執務室に一人入ってきた。ヌイヌイちゃんと同じ陽炎型の制服に朱色のリボン。パープルの長い髪の左側頭部の一部分を房に束ねてる。あれ?何だかヌイヌイちゃんと顔が似てるような‥‥‥?
「本日付で佐世保鎮守府より異動、着任となりました、陽炎型十七番艦、萩風です。宜しくお願い致します」
海軍式の敬礼で挨拶してくれた萩風。そっか。ヌイヌイちゃんと同型艦なんだ。‥‥‥ん?もしかしてアタシ達の艦隊の六人目って‥‥‥。
「不知火姉さん、久し振り!」
「ええ、萩風。久し振りね」
萩風もヌイヌイちゃんも笑顔で再会を喜んでる‥‥‥って、いつも敬語のヌイヌイちゃんが普通に喋るのって何だか新鮮に感じるっぽい。けど、何だか少し壁を感じるっぽい‥‥‥。
「姉さん、何だか雰囲気変わった?」
あ、やっぱり萩風もヌイヌイちゃんの変化に気付いたみたい。アタシ達も思ってたんだけど、ヌイヌイちゃんは初めて会った時よりもずっと表情が豊かになった。うん、よく笑うようになったっぽい。え?アタシの?別にアタシだけのせいじゃないと思うけど‥‥‥?
二人が話し込む前に、提督さんが話を再開。
この六人での艦隊になるっぽい。今後は護衛や輸送だけじゃなくって、本格的に深海棲艦の討伐にも参加していくっぽい。
「‥‥‥話は以上だ。それと熊野、この艦隊はお前の航空巡洋艦としての運用が前提だ。練度の一層の向上に努めろ」
熊野さんが「畏まりましたわ、提督」って答えて、アタシ達はその場は解散。そのまま熊野さんの部屋に移動してささやかな歓迎会をした。‥‥‥って、あれ?そういえば熊野さんの部屋、色々と準備がしてあったけど‥‥‥もしかして熊野さんだけ萩風の話知ってたっぽい?
◆◆◆
‥‥‥で。アタシ達の艦隊としての初任務は、戦艦ル級eliteの艦隊の討伐だった。沖縄本島を南下、目撃情報のあった海域を進んでるんだけど‥‥‥ヌイヌイちゃんが『羅針盤妖精さん』と言い合いっこしてる。
「またですか!?あっちは先程進んで来た方角ではないですか!不知火達を馬鹿にしているのですか!?」
『そんな事言われても、羅針盤がそっちを指して止まったんです!』
って感じで。
アタシ、羅針盤が回る所って今回初めて見たんだけど。羅針盤ってそもそも回すものだったっけ?あれ?アタシの知ってる羅針盤と違うっぽい?
回す事で目的地に着けるらしいっぽいんだけど、どうみても羅針盤妖精さんが遊びでクルクル回してるようにしか見えないっぽい‥‥‥。
言われた通りの方角に進んだアタシ達を待っていたのは、イ級の群れ。前方を飛んでる熊野さんの偵察機が見つけたっぽい。
「敵艦見ゆ、ですわ。数は12。全て駆逐イ級のようです」
その熊野さんの報告を受けて睨むようにジーっと見るヌイヌイちゃんと、目を逸らして口笛を吹いてる羅針盤妖精さん。アハ、ハハ‥‥‥とっ、兎に角戦闘は避けられないっぽい。
「おっ先ぃ!」
戦闘だって分かって、川内さんが飛び出して行った。あー、先走っちゃった。川内さん待って、アタシも行くっぽい~!
アタシと川内さん、並んで走る。最も近い位置に居たイ級に同時に砲撃、爆発。それで周りのイ級達は一斉にアタシ達に視線を向けた。
アタシと川内さんはそのまま爆発して覆ってる煙の中に突入。「なーんだ、夕立も同じこと考えてるんだ?」っていう川内さんに合わせるようにアタシもイ級の残骸をジャンプ台代わりに飛び上がった。
アタシは右に、川内さんは左に。各々飛んでる最中に真下にいたイ級に砲撃、撃沈。着地点に居たイ級に接触の直前に魚雷を投げつけて撃沈。あれ?アタシと川内さん、まるっきり同じこと考えてたっぽい。でもこれで、イ級は残り7。
ジグザグに海上を走って、近くに居たイ級に狙いを定めるアタシ。うん、イ級さん、口開けて狙うのはいいけど砲撃の砲口が丸わかりっぽい。それじゃ隙だらけっぽい?
イ級が砲撃する瞬間、アタシは走り出す。海を駆け上がってソイツの上に乗って、真上から数発。降りたあとそのまま力任せに蹴りつけて、その爆発の勢いでもう一隻まで一気に最大船速。アタシの動きに付いてこれなかったイ級にそのまま魚雷を投げつけて撃沈。
その間に川内さんが残りを片付けてた。
アタシと川内さん、合流してハイタッチ。
アタシが撃沈したのは五隻。あーあ、MVPは川内さんにとられちゃった。
そういえば萩風がアタシ達の事を呆然として見てたっけ。
そうして何度も方角を変えながら海上を進んだアタシ達。結局ル級の所に辿り着く迄に深海棲艦に三回も遭遇した。全部イ級とかロ級の群れだったし、アタシと川内さんだけで全滅させたっぽい!エッヘン!
あ、そうそう。アタシ、あの駆逐棲姫の時の戦闘の後からなんだけど、身体が自然と動けるようになった。みんな驚いてた。「まるで別人のようですね」ってヌイヌイちゃんが褒めてくれた。えへへ。あの時以来、次にどう動いたら良いのか自然と分かるようになったっぽい。「へぇ‥‥‥」って川内さんも関心してくれた。あ、川内さん、だからって「今度一緒に夜戦しようね!」って言うのはちょっと止めて欲しいっていうか。夜はなるべく寝たいっぽいぃぃ。
アタシと川内さんを呆れながら見てた熊野さんには「艦娘とは別の何かの戦闘を見ているようですわね」って言われた。大和さんも苦笑いしてたっぽい。確かに、アタシも川内さんも飛んだり跳ねたりしてたかも。
「アタシと川内さん、ベストコンビっぽい?」
‥‥‥あれ?ヌイヌイちゃん、何で拗ねてるっぽい?アタシ、機嫌損ねるような事言ったっけ?
◆◆◆
戦艦ル級elite。黒の長い髪に青白い肌に、青く光る瞳。灰色の袖無し和服の上に、黒のノースリーブ。黒の長いパンツをはいてて、両腕に砲の並んだ大きな盾みたいな艤装を付けてて、全身が仄かに赤く揺らめいてる。
連れていたのはイ級が三体繋がったような姿の軽巡ト級一隻、駆逐ロ級と駆逐ハ級が二隻ずつ。
ヌイヌイちゃんの指示通りに、横に並んでたあっちの艦隊の真横に回り込んだ単横陣のアタシ達。丁字有利を取ったっぽい。
「砲雷撃戦、用意‥‥‥‥‥‥撃て!」
ヌイヌイちゃんの指示と同時に、アタシ達は魚雷発射。同時に大和さんが砲撃。魚雷と砲は向こうの艦隊を挟撃するように走る。この時は別に何とも思わなかったけど‥‥‥今現在、つまりこの二年ちょっと先のアタシ達が見たら明らかにオーバーキルっぽい。今のアタシ達なら多分これだけでも勝てる。
当然あっちも魚雷を放ってきた。けど、回避行動をとったのは四人だけ。アタシと川内さんはそのまま突撃。戦艦ル級に向かって二人で左右から砲撃。アタシはそのままル級の前に回り込んで砲撃を続けてる。川内さんは一端離れたふりをしつつ、後ろに回り込んで急加速。ありったけの魚雷をル級の真後ろから叩きつけた。
戦闘は一瞬だったっぽい。MVPは勿論川内さんだった。大和さんも熊野さんも驚いてた。ヌイヌイちゃんはアタシの所に寄ってきて微笑んでくれて。
それから、萩風は‥‥‥‥‥‥。
◆◆◆◆◆◆
「翔鶴よ‥‥‥夕立はいつ改になった?改造を指示した覚えはないが?」
その頃の呉鎮守府。そう。この時アタシは既に改だった。でも提督さんの言う通り、改造はしてない。アタシ自身もいつなったのかはハッキリとは分からない。でも、きっとあの時。19隻の艦隊を相手にした時に違いないっぽい。
「それは‥‥‥私達にも良くは分かりません。ですけど」
翔鶴さんにも理由は分からないけど、アタシと同じ事考えてたっぽい。
「まあ、それは一先ず置いておく。どのみち萩風には良い刺激になるだろうからな」
提督さんが萩風をアタシ達の艦隊に入れた理由。それは、萩風が伸び悩んでいたから。無謀って言えなくもないけどアタシの大胆さや思い切りの良さ、それからヌイヌイちゃんの冷静な判断。萩風には対照的なアタシとヌイヌイちゃんの駆逐艦二人から何かを掴んで欲しかったからっぽい。
萩風が合流。メインメンバーはこれで後は暁、榛名を残すのみ。
二年ちょっと先の呉の第一艦隊ですか?翔鶴‥‥‥?はて?