萩風です。
呉へ異動する数日前の、佐世保鎮守府。私は秘書艦の雲龍さんの部屋を訪ねました。
「夜分遅くに申し訳ありません、萩風です」
秘書艦にして航空母艦の雲龍さん‥‥‥長い銀髪を束ねていて、瞳は金色。羨むようなスタイルの綺麗な方です。着ているのはアジアンテイストの漂う制服‥‥‥制服なんでしょうか?ビキニのような胸部のみの服と、凄く短いプリーツスカート。これ、司令が趣味で着せてるとかじゃないですよね?艤装なんですよね?
「アラ、萩風‥‥‥?どうしたの?」
っと、そんな話ではないんです。私、今月中に呉鎮守府に異動になるんです。普通なら栄転なのかも知れませんが‥‥‥私には理由が全く思いあたりません。
砲撃の命中率はごくごく普通。同室の同型艦、嵐の方が上手いくらい。魚雷に至っては当てるのは苦手です。かと言って凄い戦果を挙げてきた訳でも、優れた作戦を立てられる訳でもない。島風さんのように凄く速く走れる訳でも、今度行く呉の駆逐艦の雪風さんのように敵の砲雷撃に当たらない訳でもない。
駆逐艦の艦娘としての戦力は、自分では並みかどうかも怪しいと思っています。それなのに、西日本防衛の要の呉へ異動ですよ?おかしいと思うのが普通ですよね?
「立ち話も悪いし、中に入ったら?」
部屋へと招き入れてくれた雲龍さん。私はその時、きっと暗い表情だった筈です。雲龍さんは心配そうな顔で私を見ていました。
部屋でお茶を出して貰い、私は座りました。何となく察してくれたようで、雲龍さんは「悩み事?」とあちらから聞いてきました。
「どうして私なんでしょうか?どうせ呉へ行くなら‥‥‥朝潮ちゃんとか、私よりももっと強い駆逐艦の方が‥‥‥」
自分で言いながら悲しくなってきます。確かに朝潮ちゃんはここ佐世保の第一艦隊所属で私とは全然違いますけど‥‥‥‥‥‥あ‥‥‥もしかして‥‥‥もしかして、私が足手纏いだからでしょうか?役立たずだから佐世保鎮守府では要らない、という事なんでしょうか‥‥‥‥‥‥。
「うーん、そうねぇ‥‥‥朝潮ちゃんはウチの第一艦隊だし、提督も出し難いんでしょうけど。でもね、貴女が要らないから、では決してない。それだけは確かね」
私が思っていた事は見抜かれていました。雲龍さんは優しく包み込むように私を抱き締めてくれて、続けました。
「貴女はもう少し自分を信じなさい。萩風はいつも自信無さげで、そのせいで本来持ってる力を発揮出来てないだけだと思うのよ。少なくとも、私にはそう見える」
私の異動を進言したのは雲龍さんでした。呉なら不知火姉さんが居る。だから、少なくとも此処に居るよりはリラックスして出来るんじゃないか、って。
「そう‥‥‥でしょうか?私も、朝潮ちゃんみたいな駆逐艦になれるんでしょうか?」
それでも不安の消えない私。雲龍さんは「大丈夫よ、萩風は才能有るもの」って微笑んでくれました。
それから。呉に着任しての初出撃。同じ艦隊にはあの大和型弩級戦艦の大和さん。緊張しない訳がありませんでした。それに、この艦隊の旗艦は不知火姉さん。やっぱり姉さんは凄い人なんだ‥‥‥。
けど。深海棲艦達との戦闘が始まって、私は呆然としました。勿論大和さんや熊野さんも凄い人。でも、軽巡洋艦の川内さんはもう艦娘って言って良いのか分からないくらい凄い戦い方で。不知火姉さんの艦隊指示も冷静かつ的確。そして何より‥‥‥私と同じ駆逐艦の筈なのに、川内さんと同じくらい圧倒的な強さの夕立さん。あの朝潮ちゃんよりも凄い。この編成でまだ第三艦隊なんて‥‥‥呉鎮守府って凄いです。私、本当に此処に居て良いんでしょうか?
戦艦ル級eliteも呆気なく撃沈。本当に凄い。後で聞いた話ですけど、夕立さんは単艦で姫級を沈めたり、空母と戦艦が率いる20隻くらいの艦隊も一人で壊滅させたりしたそうです。
私も‥‥‥私も、夕立さんのようになれたら。そうしたらもう負い目を感じなくても済む。役立たずなんて言われなくても済む。胸を張っていられる‥‥‥。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「夕立さん、お願いします!私に‥‥‥私に戦い方を教えてください!」
駆逐艦寮のアタシ達の部屋。萩風は漣ちゃんが抜けた代わりにアタシとヌイヌイちゃんと同室になったんだけど‥‥‥これはどういう事っぽい??アタシ、人に教えられるような海戦はしてない‥‥‥よね?何で萩風がアタシに土下座してるっぽい??戦い方を、って‥‥‥。
「ちょっ、ちょっと待って。どうしてアタシっぽい??」
萩風の決意は固かった。強くなりたいから、って。でもそれならもっと‥‥‥第一艦隊の雪風ちゃんとか、吹雪ちゃんとか、ヌイヌイちゃんとか、アタシなんかより余っ程お手本になる人達がいるっぽい。
萩風も、ビデオとか佐世保での演習とかで吹雪ちゃんや雪風ちゃんの事は見てるんだって。けどそれを踏まえても、この前のアタシのが圧倒的だったって。うーん、アタシはまだまだ吹雪ちゃんには勝てないと思うんだけど‥‥‥どうしよう。ヌイヌイちゃんは今居ないし‥‥‥。でも萩風は凄く必死な感じだし‥‥‥。
「駄目‥‥‥なんでしょうか?夕立さんのようになるのは私にはやっぱり無理なんでしょうか?」
ううっ。潤んだ瞳でそんなに切なそうにお願いされたら、『アタシじゃ教えるなんて無理』って言えないっぽい‥‥‥。思わず「わかった」って言っちゃった。
「本当ですか!ありがとうございます!私、頑張りますから!夕立さん、宜しくお願いします!」
途端に笑顔になって、アタシの両手を握る萩風。本当にどうしよう。アタシが人に教えるなんて出来るのかな?そういうのは苦手っぽいぃぃ‥‥‥‥‥‥困った時は熊野さんに相談っぽい!
◆◆◆
「それでまた、わたくしの所に?」
何とも言えない表情の熊野さん。分かってる。『困った時の熊野さん頼み』みたいになってるのは分かってるっぽい。けどアタシ、教えられる程技術がある訳じゃない。
「熊野さんだけが頼りっぽいぃ」
「けれど、夕立さんが頼られている訳ですわよね?それなら夕立さんの出来る範囲でやるしかないのでは?」
ううっ、正論。アタシの教えられる事って言ったら‥‥‥魚雷持って突撃、とかしかないっぽいぃぃ。砲撃は普通だし、遠距離からの魚雷の命中率は相変わらずだし。
「萩風さんには萩風さんなりの悩みがお有りなのでしょう。夕立さんが出来る事でとことん付き合ってあげれば、彼女も納得してくれるのではないでしょうか?」
そう‥‥‥なのかな?それならちょっと頑張ってみるっぽい。あ、川内さんにも手伝ってもらおう。アタシだけじゃヤッパリ心許ないし。ハァ。妹に話せれば、いいプランとか作ってくれそうなんだけどな。アタシ、そういうのって妹に頼りっぱなしだったから。
「熊野さん、ありがとう。頑張ってみるっぽい。熊野さんって、アタシのお姉ちゃんみたいっぽい」
「フフっ。夕立さん、頑張って下さいね」
ニッコリと微笑んだ熊野さんに頭を下げて、アタシは部屋を出た。次は川内さんを探さなきゃ。一緒に戦い方を教えるっぽい。きっと川内さんなら喜んで手伝ってくれる。
あ、そうそう。このあとアタシ達の部屋に帰る途中、ヌイヌイちゃんと鉢合せたんだけど、不満そうに頬が膨れてた。ヌイヌイちゃんが「お姉ちゃん、ですか」って呟いてたのが聞こえたんだけど。熊野さんとの会話聞こえてたのかな?でも何でヌイヌイちゃんが不満そうっぽい?あ、ヌイヌイちゃんも萩風に一緒に教えたいのかな?後で誘ってみよう。
「‥‥‥不知火に落ち度でも?」
「ううん、何でもないっぽい」
◆◆◆
そうして、アタシ達は演習用の艤装で、演習場を借りて訓練し始めた。勿論提督さんの許可ももらってる。後で知ったんだけど、このアタシ達の訓練、提督さんと翔鶴さんはモニターしてたっぽい。
「それじゃ、先ずは砲撃を避ける訓練かなぁ?萩風ちゃん、私と夕立が砲撃するから避けてみて?先ずは夕立が手本を見せるから」
「はい、川内さん‥‥‥‥‥‥え?『避ける』?」
ポカン、と呆けてる萩風を他所に、アタシは距離を取る。川内さんが砲を構えてアタシに向かって砲撃。うん、勿論お手本だから川内さんは動かないで砲撃してる。だから、その砲口が向いてる方角がアタシにも見える。それなら避けられるよね?
ジグザグに走りつつ、川内さんの居場所を目指す。相手が川内さんでも、川内さん自身が動かなければアタシにも当たらないもんね。はい、川内さんにターッチっと。
「こんな感じっぽい!」
あれ?萩風の反応が鈍い。挙げ句「えっと、あの‥‥‥嘘ですよね?」って言ってるんだけど。おっかしいなぁ?そんなに難しかったかなぁ?集中すればみんな出来ると思うんだけど?これが出来ないと近距離で魚雷をぶつけるとか出来ないし‥‥‥。
って感じで、アタシ達の訓練は始まった。モニターしてた提督さんは「仮に萩風がアレをモノに出来たなら、大きな戦力になるな」って言ってたっぽい。今考えるとあの時のアタシと川内さん、かなり無理な事ばっかり教えようとしてたっぽい‥‥‥。反省。
雲龍さんに抱き締められるとは。萩風め、うらやまけしから‥‥‥‥‥‥ゲフンゲフンゲフンッ。ゴホンッ。‥‥‥ええっと、萩風さんのコンプレックスは克服できるのか。今後の彼女にも期待です。
次はバレンタインの話ですかねぇ。