抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

19 / 158
チョコレートと冬の空

 

バレンタイン‥‥‥まさか日本の海を守る海軍でチョコレートを交換し合う事になるなんて思いませんでした。皆さん手作りのようですし。少しばかり料理の心得があって助かりました。

御無沙汰しております、大和です。はい、まだ自分の事を『大和』と呼ぶのは慣れません。本名は伏せなくてはならないと言うのももどかしいものですね。

 

夕立さんにはクッキーを頂きました。形が一つ一つ微妙に違う、少しばかり歪なもの。ですが気持ちは伝わってきます。きっと悪戦苦闘しながら作ったのでしょうね。有り難く食させていただきます。熊野さんのものはムースでした。これも手作り。あのムースの容器は一体何処で調達してきたのでしょうか?この呉鎮守府全員分だそうですので、相当な数だった筈です。

萩風さんと不知火さんはトリュフでした。どうやら不知火さんが熊野さんに教わり、萩風さんは不知火さんに教わって作ったようです。

不知火さんが夕立さんに渡したものだけラッピングが特別に見えたのですが、見間違いでは無さそうです。淡い恋心、ですね。

川内さんのもの、ですか?先程食堂で頂きました。食後に頼んでもいない筈のチョコレートケーキが出されまして、『川内より』とお子様ランチに付いているような旗が刺さっていました。あれだけ豪快な戦いをするのに、実は繊細な方なのかも知れません。

 

私の作ったもの‥‥‥ですか?そんな、皆さんのような凝った物ではありませんよ。チョコブラウニーです。切り分けて皆さんに配れますし。私よりも翔鶴さんの方が何倍も凝っていましたよ?フフッ。提督にお渡しするんだそうです。

翔鶴さんと言えば‥‥‥瑞鶴さんですね。瑞鶴さんは提督には煎餅をあげるんだそうです。『みんなチョコで甘いのばっかりだから』だそうで。これはこれで提督の事を考えての事なんですね。そう言えば瑞鶴さん、翔鶴さんと提督用に、と塗るタイプのチョコを買うそうです。ええ、唇に塗るタイプのもの。それを大量に。翔鶴さんが顔を真っ赤にして受け取りを許否していましたね。唇に塗るって事は‥‥‥翔鶴さん、提督にキ、キ、キスするとか‥‥‥ううん、けれど大量にですし、他に使い道が‥‥‥塗るタイプの使い道‥‥‥‥‥‥ハッ!?なっ、何でもありません!この話は忘れて下さい!あっ、あっ、赤くなったりしてませんから!

 

 

 

 

今日は私はオフです。たまには読書でもして過ごそうかと思っています‥‥‥‥‥‥はい?提督になった幼馴染みの彼氏にはチョコはあげないのか、ですか‥‥‥?違いますよ?あの人は彼氏ではありません。ええっと‥‥‥友人です。気になる異性として見た事は有りません。彼も新しく立ち上げたばかりの鎮守府で忙しいでしょうし、あまり邪魔立てするのも良くはありません。『赤城の食費が‥‥‥』と頭を抱えていたようですし。フフッ。彼の秘書艦の電ちゃんともいつかお話してみたいですね。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

アタシとヌイヌイちゃん、萩風、それと吹雪ちゃんと雪風ちゃん。さっきまでみんなでチョコレートの交換会兼試食会をしてたっぽい。お陰で口の中が凄く甘い。伊良湖さんにお茶を用意して貰ってて良かった。え?カロリー?‥‥‥‥‥‥だっ、大丈夫!毎日動いてるから大丈夫っぽい‥‥‥グスン。

 

そう言えば、ヌイヌイちゃんがくれたトリュフって、なんだかアタシのだけ特別っぽい?みんなのは一種類だけなんだど、アタシのはホワイトチョコとかココアとか何種類か味がある。うーん‥‥‥やっぱり持つべきものは親友っぽい。ヌイヌイちゃんありがとう!

 

そうそう、それで今は解散して、アタシは堤防沿いを歩いてる途中。ヌイヌイちゃんは萩風と一緒に何処かにお出掛け。ヌイヌイちゃん、少しだけションボリしてた。え?アタシのせいなの?理由はよく分かんないけどアタシのせいで‥‥‥ヌイヌイちゃん、ごめんなさい。

 

あ、やっぱり居た。熊野さんは休みの日とか時々一人で堤防に座って水平線を見て黄昏てる。きっと‥‥‥鈴谷さんの事考えてるっぽい。もしもの話をしても仕方無いけど、あの時のアタシ達がせめて今くらいの練度があったら、結果はきっと違ってた。だから余計に辛いんだよね。

あ、気付かれちゃった。邪魔する気は無かったんだけど。

 

「ごめんなさい、お邪魔しちゃったみたい」

 

「別に気にしていませんわよ?」

 

スカートをパッ、パッって払って立ち上がった熊野さん。さっきまでの憂いのある表情から、何時もの笑顔に戻った。

 

「‥‥‥鈴谷に誓いました。わたくしはあの子の分まで生きる。あの子の分まで戦って、苦しんで‥‥‥最後には笑えるように」

 

鈴谷さんの形見のヘアピンを触りながら海を見つめてた熊野さん。うん、アタシも頑張る。今まで亡くなった人達の分まで戦って戦って、きっと海に平和を取り戻してみせる。そうしたら、きっと‥‥‥。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

某県某所の自宅での事です。

 

「だからっ!ハルナには無理だって言ってるの!!相手は海の怪物なんだよ?か・い・ぶ・つ!!」

 

「そうですよ!姉様の言う通りよ!ハルナみたいなお淑やかな人が怪物と戦うなんて無謀もいいところだわ!どうしても行くって言うのなら‥‥‥私も付いていきます!」

 

えっと‥‥‥お姉様方の言っている事は尤もなのかも知れませんが‥‥‥というか、最初の発言は二番目のお姉様ですが、二番目の発言は私の妹なのですけれど。

ええっと、艦娘になったらプライバシーは守らなくてはならないんですよね。では私の事はハルナ、で統一致しましょう。はい、ハルナは大丈夫です。

 

「ちょっと!?何言っちゃってるの!?‥‥‥ハルナってば、聞いてる!?怪物なんだよ?バ・ケ・モ・ノ、オーケー?」

 

二番目のお姉様‥‥‥それは何度もお聴きしました。ですが、ハルナの決意は変わりません。私に宿っているであろう、金剛型戦艦三番艦・榛名の力。きっとこれは天命なのです。お姉様方や妹と違って何の取り柄も持たないようなハルナへの。ハルナはきっと、怪物から日本の皆さんをお守りする為に生まれて来たに違いありません。力を持ちながら見過ごせる程、今の世界を取り巻く環境は甘くは無い事くらい知っています。

 

「ハルナってば!」

 

「ハルナの決意は変わりません!」

 

っと、いけない。ついつい大声を出してしまいました。二番目のお姉様が一番上のお姉様の方へとヨロヨロと近づいていきます。卑怯です!上のお姉様を頼る気ですか!

 

「ヒェェ~。おねえさま、ハルナに何とか言ってやって下さいよぅ」

 

「‥‥‥仕方無いネ~」

 

座って紅茶を飲んでいた上のお姉様が立ち上りました。いっ、いくらお姉様でも、ハルナの意志は揺らぎません!

 

「ハルナ、艦娘は危険デス。ワタシも何度かguardされましたガ‥‥‥命を張って目の前で死に掛けた子も居ましタ。貴女にそのreadinessが有るんデスネ?」

 

「勿論、有ります!ハルナは‥‥‥ハルナは、艦娘になって皆さんのお役にたってみせます!」

 

負けません。幾ら相手がお姉様でも、ここは譲れません!

 

上のお姉様はフゥ、と息を吐いて、ハルナの頭を撫でてくれました。「分かったヨ」とニッコリと微笑んでくれたあと、お姉様は妹の所へ。

 

「ハルナを頼んだヨ」

 

「はっ、はい、御姉様!」

 

どうやら妹は本当に付いてくる気のようです。二番目のお姉様は「おねえさま!?ヒェェ~‥‥‥」と叫んで座り込んでしまいましたが。

 

「話は纏りましたネ!バレンタインにcakeを焼いたデース!みんなで食べまショウ!tea timeは大事ネー!」

 

‥‥‥お姉様は少し強引でしたが、こうしてハルナは艦娘となる事を許されました。次の日曜日にでも横須賀へと参ります。はい!ハル‥‥‥榛名は大丈夫です!




夕立ェ‥‥‥
ラノベのテンプレ、鈍感系。頑張れヌイヌイ。

榛名さん初登場です。え?姉妹喧嘩が何処かで見た光景?気のせいです。気・の・せ・い・で・す。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。