「ヨッシャああっ!!英雄キタコレ!!」
あ、今叫んだのは漣ちゃん‥‥‥うん、『駆逐艦』漣ちゃん。合格通知に『事前の自己紹会は一切禁止』って書いてあったからどうしてかな、って思ってたら、つまりはそういう事っぽい。軍規で『艦娘は自身の詳細なプライバシー情報の公開を禁止する』ってあるっぽい。理由は家族を誘拐されたりしたら困るとか、技術のテロリストへの流出阻止とか、そんな感じ。折角同期のみんなと仲良くなれそうなのに、名前も教えちゃ駄目って厳しい。
それで漣ちゃんが喜んでる理由はホラ、あの飾ってある写真。漣ちゃん、初代の駆逐艦漣に憧れて艦娘になったっぽい。覚醒してみたら同じ軍艦だったんだもん、嬉しいよね。
アタシ?アタシに宿ってた魂は白露型駆逐艦の夕立。駆逐艦とか戦艦とか、少しは勉強したけど詳しくは知らない。でも何でだろう?夕立の事に関しては何となく分かるっぽい。今は妖精さん達が急ピッチでアタシ達の艤装を建造してる所で、その艤装をつければ自分の艦の記憶もハッキリ思い出せるようになるっぽい。不思議。
あ‥‥‥不思議って言ったら、妖精さん!受験会場でアタシがずっと人形だと思ってたのは、実は妖精さんだった。さっき聞いたんだけど、あの試験自体がダミーみたいな物なんだって。筆記の結果なんて全く見てなくて、要は『妖精さんが見えて話が聞けるか』が合否の基準だったっぽい。あー、だから筆記ボロボロだったのに受かったのかぁ‥‥‥。
栗色のポニーテールの御嬢様っぽい綺麗な人が熊野さん。あ、重巡洋艦の熊野さん。重巡洋艦は偵察機?も飛ばせるらしくて、よく分からないけど凄く強くなれるっぽい。
最後の一人は、軽巡洋艦の川内さん。ショートヘアーで何だかクノイチっぽい。あとで分かるんだけど、川内さんは身体能力が元々高い人っぽい。所謂運動神経いい人。重巡とか戦艦には及ばないけど、その分自分自身のフットワークとか身のこなしとかでカバーできちゃう人。軽巡でも偵察機飛ばせるらしいっぽい。‥‥‥あれ?駆逐艦ってもしかして強くなれないの?
えっと、工廠?で暫く四人座って待機してた。ここ、凄い。広い。見たことない機械とか、大型の機械とか沢山。横須賀鎮守府って東京を守る要の基地らしくて、施設もそうだけど凄く広い。‥‥‥そのくらい予習しとけって?酷いっぽいぃぃ‥‥‥。
アタシ達みたいに、採用試験して艦娘になった人達は『建造』艦って呼ばれてるっぽい。それに対して妖精さん達や他の艦娘が見つけたりする艦娘候補生が『ドロップ』艦って呼ばれてる。初代の漣とか、この前ココに着任したっていう陽炎?さんとかがそれっぽい。‥‥‥何だか人間扱いされてないみたいでヤダ‥‥‥。
「改めて宜しくお願いしますわ」
あ、熊野さんが握手を求めてきた。ニッコリ笑ってる。やっぱり良いとこ育ちなんだろうなぁ。
「こちらこそっぽい!」
あ、やっちゃった。熊野さん笑顔は笑顔だけど、首を少しだけ傾げてる。きっと(『っぽい』って変わった語尾ですわね)とか思ってるんだろうなぁ。
漣ちゃんは川内さんと話してる。川内さん、何と初代の駆逐艦漣に会った事あるっぽい!凄く幼い頃に会ったらしくて、それが川内さんが艦娘目指すきっかけだったんだって。
みんなで少しお話してたら、資料を持った足柄教官が迎えに来た。勿論、その資料は艦娘としてのアタシ達の資料。
「へぇ、思ってたより悪く無いわね‥‥‥」
うわぁ‥‥‥足柄教官の声聞こえてるっぽいぃ。でも悪く無いって事は、四人とも平均以上の艦娘って事なのかな?
‥‥‥あれ?足柄教官の後ろに女の子が居る。アタシや漣ちゃんより歳下?うわっ、あんな子まで海軍なんだ‥‥‥ん?でも足柄教官の娘さんって可能性もあるっぽい‥‥‥。
「痛っ!?」
思わず声出しちゃった。おでこ痛い。ボールペンが飛んできた。投げたのは勿論足柄教官。考えてた事がバレてた?え?足柄教官って人の心読めるの?艦娘ってそんな事も出来るっぽい??
「‥‥‥夕立、いい度胸ね。この子が私の娘とか考えてたでしょ?そんなに老けて見えるのかしらぁ?」
ヒィィィ!?恐い、足柄教官恐いっぽいぃぃ!額に青筋立ててるっぽい!
「みなさん、自己紹介が遅れたのです。私は電。来月から一週間、皆さんのお世話をするのです」
あ、一緒に居た子、電ちゃんだって。へぇ、アタシより小さな子でも艦娘なんだぁ‥‥‥ってその時は思った。でも、後でアタシと同い年って聞いてビックリした。艦娘って覚醒した時の容姿で固定されるっぽい。『永遠の美』って噂じゃなくて本当だったんだ‥‥‥。
「初期艦研修、ですか?」
「はい、熊野さん。初期艦研修なのです」
電ちゃん、これから出来る新しい鎮守府に初期艦兼秘書艦として着任するっぽい。それで、今はその為の研修中なんだって。
「あ、もしかしてそれって水族館?」
一緒に話を聞いてた川内さんの一言。川内さんの地元の水族館が閉館、そこに鎮守府を建てたっぽい。それで、水族館の施設は残ってて、所属艦娘の慰安の役割も兼ねるテストケースの鎮守府なんだって。いいなぁ。アタシもそこに所属したいっぽい!
「なのです。電の役割は重大なのです!」
「そっか。私の地元のみんなの事‥‥‥宜しくね、電」
川内さんのその鎮守府が出来る地元に妹二人が居るんだって。「任せてください」って微笑んでる電ちゃん、頬が少し紅い。何だか別の理由もあるっぽいけど、聞くのは野暮なんだろうなぁ。
それから。みんなの艤装の建造が終わって。一度解散になった。‥‥‥聞き流しちゃったんだけど、電ちゃんが『来月から』って言ってたよね。帰りに渡された資料を読んでみたら‥‥‥え?学校は今月末で辞めて海軍属になるの?うぅ‥‥‥そんなの初めて知ったっぽい‥‥‥。学校は一応卒業扱いになるっぽいけど、友達と過ごせるのもあと少ししかないのは寂しいな。
他には艦娘の詳細は他言無用、故意に流出させた場合は軍法会議にかけられるって‥‥‥うわっ、気を付けないと喋っちゃいそう。
「姉さん、ご飯ですよ」
部屋で横になって資料を見てたら、妹が顔だけを扉から見せて呼んでる。あ、もう18時っぽい。晩御飯。家のご飯、あと何回食べられるのかなぁ。
「今行くっぽい」
私が守ろうと思った大切な妹。この時はまさか妹にも艦娘『駆逐艦春雨』の素質があるなんて思わなくて‥‥‥。
◆◆◆
翌月から横須賀鎮守府で、午前は香取先生による軍規の勉強、午後からは足柄教官による軍事訓練。電ちゃんはその両方でサポートをしていたっぽい。
香取先生は優しいからいいんだけど‥‥‥足柄教官は酷いっぽい。鬼、悪魔。兎に角地獄の訓練。軍艦として艤装を着けて海上を走るのは分かるけど、陸上で走り込みとか匍匐前進とか、筋トレとか意味不明っぽいぃ‥‥‥。教官曰く『艦娘と言えども基礎体力が無いと話にならない。深海棲艦との戦闘が数時間に及ぶ事もよく有る』って。訓練が終わる夕方には川内さんでさえヘトヘトになってて地面に座り込んでるくらい。アタシや漣ちゃん、熊野さんでさえも髪が土まみれになるのもお構い無しに地べたに寝転んで動けなくなってる。それも毎日。辛い‥‥‥辛いっぽいぃぃぃ。
同じメニューをこなしてる筈の足柄教官はケロッとしてて、電ちゃんはそこ迄ではないけどちゃんと立ってて肩で息をしてるくらいで済んでる。二人とも化け物‥‥‥。
それで。一週間が経って、電ちゃんが移動した後。熊野さんと川内さんは止めてくれたんだけど、それを振り切って漣ちゃんとアタシは訴えた。『陸上訓練なんてやる意味有るのか』って。そうしたら足柄教官、少し悩んだ後にアタシ達を海岸へ連れてった。
「島風、ちょっといいかしら?」
「おおうっ?」
そこに居たのは、当時日本最高の駆逐艦だった島風ちゃん。でもアタシ達はそんな事しらなくって‥‥‥。
「この半人前共と演習してやってくれないかしら?」
島風ちゃんは「うん、いーよ!」って快諾。此方は艦娘成り立てって言っても四人。島風ちゃんは一人。流石に負けない!って思ってた。
「‥‥‥『新人』なんかに負けないもん!速き事島風の如し、だよ!」
頭に血が上ってた漣ちゃんは「キーッ」って島風ちゃんのこと睨んでたし、アタシもそうだった。川内さんと熊野さんはまだ冷静だった、かなぁ。あの時のアタシ、考えも未熟だったっぽい。
「幾ら相手がベテランとは言え‥‥‥4対1で大丈夫なのですか?」っていう熊野さんにも「大丈夫よ、島風は日本を代表する駆逐艦だから」って自信有げな足柄教官。川内さんはその言葉でやる気を出したみたいで「それなら胸を借りるつもりで全力で当たらせてもらうね」って。
艤装を用意してもらってビックリ。島風ちゃんの装備の連装砲、自立行動してる。かっ、可愛いっぽい。
「漣、夕立、分かってるわね?言うだけのモノを見せてみなさいよ?」
「足柄教官、言われなくても見せてみせるっぽい!!」
VS.島風。無論現状では打倒は無理です。