抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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コンタクト

 

 

月日が経つのは早い。アタシは今、凄くダウナーっぽい。あれから1ヶ月。アタシの右手には実家から送られてきた中学の卒業証書。あぁ‥‥‥これでアタシも中学卒業したのか‥‥‥うーん、実感がゼロ。ずっと海軍に居たし、短期間に色んな事が有り過ぎたしなぁ。

 

テーブルにグデーっとだらしなく伸びて突っ伏してる最中のアタシ。顎をテーブルに着けた体勢のままサクサクと頬張るクッキーは、実家の妹が送ってくれたもの。うん、この前のバレンタインのお返しっぽい。

同封されてた家族の写真に少し癒された。もう半年以上も会ってないからなぁ。うーん‥‥‥‥‥‥。

 

「ポイポイの御家族、ですか?」

 

ヌイヌイちゃんに声を掛けられた。定例会議から戻ってきたっぽい。あ、今日は早いんだ。

 

「うん、アタシの家族」

 

家族写真は写真立てに入れてアタシのベッドの枕元に置いてある。時々眺めて元気を貰う。家族のみんながまた海に出られるように頑張らなくっちゃ。

 

変わらず伸びてたアタシの背中からヌイヌイちゃんがまた声を掛けた。

 

「妹さんも、ポイポイに似て可愛いですね」

 

「‥‥‥‥‥‥そうでしょ!」

 

エヘヘ、ウチの妹、ヌイヌイちゃんに褒められた。姉馬鹿と言われようが何だろうが、ウチの妹は可愛い!家事も勉強も出来て性格も良くて可愛い!自慢の妹っぽい!

 

あれ‥‥‥写真を見て改めて思ったけど、やっぱりウチの妹って夢で見た駆逐艦春雨と凄く似てる‥‥‥。偶々、だよね?きっと夕立と春雨は同型艦だから、妹のイメージと重なっただけだよね?

 

ちょうど後ろから「ハァ‥‥‥」ってヌイヌイちゃんの溜め息が聞こえた。ん?何でそこで溜め息っぽい?振り返ってみてヌイヌイちゃんと目が合ったら逸らされた。あれ?アタシ今何か変な事したかな?‥‥‥え?さっきのヌイヌイちゃんの言葉の意味?妹が可愛いって話だよね?違うっぽい??

 

あ、そういえば萩風って何処行ったのかな?『ちょっと出掛けてきます』って言ったっきり戻って来てない。

 

 

 

何しに行ったかと言えば‥‥‥実はなんと、みんなでアタシの卒業祝いの準備をしてたっぽい。このあとヌイヌイちゃんと一緒に熊野さんの部屋に遊びに行って初めて知った。うぅ‥‥‥みんなありがとう。スッゴク嬉しかったっぽい!思わず瞳が潤んだっぽい‥‥‥。

 

因みにだけど、ホワイトデーはみんなで一緒にプリンを作った。伊良湖さんが色々材料用意してくれてて、抹茶味とかチョコ味とか色々。こういうのも楽しい。あ、提督さんはみんなに飴をくれた。会議の後に各艦隊の旗艦の子にあげて、旗艦の子が他の子に渡すって感じっぽい。だからアタシ達はヌイヌイちゃん経由で貰った。‥‥‥これで深海棲艦さえ居なければいいのにな。

 

◆◆◆◆◆◆

 

アタシ達がそんな事をしていた頃。横須賀鎮守府は慌ただしくなってたっぽい。沖合いに陽炎さんと哨戒に出てた島風ちゃんが‥‥‥あの駆逐棲姫に遭遇してた。

 

「島風さん、あれ!」

 

「姫級‥‥‥こんな近海に」

 

陽炎さんはまだまだ練度も高くない。島風ちゃんだけなら交戦してもいいけど、陽炎さんが一撃でやられかねない。下手は打てないっぽい。

 

「島風が時間を稼ぐから、陽炎は応援要請を!早くっ!」

 

島風ちゃん、横須賀の第一艦隊到着までは粘るつもりだったっぽい。ここで駆逐棲姫を仕留めておかないと後々厄介になりかねないから。陽炎さんを守るように背にして、連装砲ちゃん達と戦闘体勢に入った島風ちゃん。その表情は少し悲しそう。だって、相手の駆逐棲姫は‥‥‥。

 

けど。思惑通りには行かなかった。何処から現れたのか‥‥‥長い黒髪にお団子が二つ付いた頭で、服が真っ黒で、足が無くて代わりに艤装が付いてて浮いてる軽巡棲鬼も居た。それと軽巡ツ級が二隻、駆逐ハ級が三隻。時間を稼ぐのは危険な状態だったっぽい。

 

「うそっ‥‥‥今迄はここにはイ級かロ級位しか現れなかったのに‥‥‥島風さんっ」

 

横須賀鎮守府の近海。今までは現れても精々駆逐艦くらいだったのが、突然姫級と鬼級。もしかしたら想定外‥‥‥とまでは言えないかも知れないけど、確率としては凄く低い。陽炎さんの脳裏には『深海棲艦の軍勢が鎮守府に攻めてきたのかも知れない』って思いが過った。

 

けど、島風ちゃんの考えは違ってた。

 

「陽炎‥‥‥今すぐ離脱して。島風が時間を稼ぐよ。支援艦隊が来るまで持ち堪えてみせるから」

 

「‥‥‥絶対に沈まないでね、島風さん」

 

陽炎さんは単艦離脱。島風ちゃん、それを守るように単横陣に連装砲ちゃん達を広げて展開。うん。勿論、島風ちゃんは沈む気なんて無いっぽい。

 

『ミツケタ‥‥‥シマカゼ、ミツケタッポイ』

 

駆逐棲姫の容姿から、その正体が島風ちゃんには分かってたっぽい。始めから島風ちゃんの事が狙いで鎮守府近海に現れた駆逐棲姫を、島風ちゃんは鋭い瞳で睨み付けた。

 

「島風は逃げないよ。貴女も直ぐに静かに眠らせてあげるからね‥‥‥『夕立』!」

 

◆◆◆◆◆◆

 

数日後。大本営から全鎮守府に通達があったっぽい。『近海でも警戒を怠るな』って。

 

「‥‥‥つまり、その駆逐棲姫は『艦娘そのもの』を狙っているという事ですか?」

 

熊野さんに「はい」って答えるヌイヌイちゃん。各旗艦に、今朝緊急招集が掛けられた。内容は大本営の通達と、さっき熊野さんが言った事。だから、鎮守府近海の哨戒にも全力であたれ、って事みたい。

 

島風ちゃんだから生還できたっぽい。駆逐棲姫にはまた逃げられた。横須賀の第一艦隊が合流した時、島風ちゃんは既に中破。うん、あれだけの猛攻を受けて中破で済んでたのは流石っぽい。アタシなんて轟沈寸前だったのに。

 

今アタシ達第三艦隊が居るのは演習場。三隻と三隻に分かれてこれから演習。大和さんとアタシ、萩風の組と熊野さん、川内さん、ヌイヌイちゃんの組。

 

因みにだけど。三日前の出撃でアタシと川内さん、旗艦のヌイヌイちゃんは提督さんに大目玉食らったっぽい。理由は、萩風の大破帰投。ええっと‥‥‥ほら、アタシと川内さんが教えてる事を実戦でやってみた萩風が‥‥‥後方で爆破させた魚雷の勢いを上手く利用出来なくて‥‥‥その‥‥‥加速出来ずに爆風に巻き込まれて‥‥‥うぅ‥‥‥。

 

その時に目標だった深海棲艦は撃破したし、六人みんなで帰投は出来たんだけど‥‥‥。

執務室で報告してる時に『自分が上手く出来なくて失敗しただけだから』って萩風が必死に庇ってくれたんだけど。『モノにできてもいない事を実戦でやらせるな』って提督さんに怒られた。ヌイヌイちゃんは旗艦としての監督責任。アタシとヌイヌイちゃんはまたトイレ掃除、川内さんはそれに加えて暫く夜戦禁止令が出されたっぽい。

 

アタシには魚雷の発射訓練が命じられた。ほら、アタシって魚雷って撃つのは苦手だから‥‥‥敵の懐に入ってぶつけるのは得意なんだけどなぁ。

 

そんな訳で、今日の演習のお題目は『普通の艦娘として戦え』。つまりは跳んだり突撃したりじゃなくって、普通に砲雷撃戦をしろ、って事。あーあ、魚雷当てられるかなぁ。

 

「では、これより演習を開始します。各隊、宜しいですね?特に川内さん、ポイポイ」

 

「分かってるっぽいぃぃ‥‥‥ハァ」

 

「うん、大丈夫だよ」って答えた川内さん、今日は何だかずっと上の空って感じ。やっぱり夜戦禁止令が効いてるっぽい?それとも何かあったのかな?少し心配。

っと。今は演習に集中しよう。普通に砲雷撃戦をしてもいける所をみせなくっちゃね。年度が変わったら呉に来るって聞いた高速戦艦の人にも負けられないっぽい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

はーい!どちらさま‥‥‥わわっ、日本人!?ゴッ、ゴホンッ。Hi!how are you?My name is Akatsuki.Welcome to The United Kingdom!

日本人なら日本語でも平気だった?もうずっとコッチにいるからついつい癖で英語で喋っちゃったわ!一人前のレディなら当然よね!

 

貴方とは初めましてよね?暁よ。そう、暁型駆逐艦のネームシップよ。

え?最初が日本語だったって?なっ、ななな何言ってるのよ、聞き間違いじゃないの?だって、コッチじゃいつも英語で話してるんだから!

 

暁は日本の艦娘を代表してこうしてイギリスに居るの。フフン、暁くらいのレディになれば代表なんて当然なんだから!‥‥‥え?泣きながら不知火さんに勉強させられてた癖にって?どうして知って‥‥‥じゃなかった、そ‥‥‥そそそそんな訳ないじゃない!変な事言わないでよね!もうっ。

 

コッチの基地では他の国の艦娘達とも連携して作戦を進めてるの。今はポーラさんと同室なのよ。会話?‥‥‥‥‥‥もっ、勿論英語でに決まってるじゃない。え?ポーラさんはイタリア艦?あっ‥‥‥‥‥‥ほっ、ほら、共通語!英語が共通語なの!だから暁は英語話せるんだってば!本当!本当なんだから!

 

あっ‥‥‥司令官がコッチに来る‥‥‥。

 

「Hey、アカツキ。Japanのトーゴー、カラletterが来テマス」

 

「あ‥‥‥ありがとう」

 

うっ‥‥‥なっ、何よ‥‥‥仕方無いじゃない!英語喋れないんだもん!いいんだもん!世界の海軍では『艦娘は日本の技術だから』って共通語として日本語勉強してるって言うんだもん!みんな日本語で話してくれるんだもん!暁は悪くないんだからぁ!!

 

っと、手紙だったわよね。トーゴーって言ってたけど‥‥‥あっ、やっぱり東郷さんからだ!内容はえっと‥‥‥予定より早く日本に帰れるかも!やったー!東郷さんに会えるー!

‥‥‥‥‥‥‥‥‥いっ、今のは聞かなかった事にして。お願い。じゃあまたね。次会うときは日本の呉鎮守府ね!




ぜかましが先代夕立こと駆逐棲姫と接触。今回は決着着かず。

ポイポイは今回もヌイヌイの真意を汲み取れず。

自称レディの暁が初。榛名と違って次の出番はまだまだ先。

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