‥‥‥‥‥‥うん?あ、ごめんごめん。ボーッとしてた。ちょっと思う事があってさ。ほら、高速戦艦の子が着任するのが決まったでしょ?だからこの私、川内は横須賀に転任になるってわけ。昨日の演習があのメンバーでやれる最後だったんだなぁって思ったらちょっと、ね。まあでも、一度は夕立とは手合わせしたいって思ってたからね。転任前に出来てよかったかな。
夕立はこの半年間、特にここ数ヵ月で凄く強くなったよ。ビックリだよね。このペースでいけば遠くない将来、島風ちゃんを追い抜けるんじゃないかな?火力とか私なんかより有っちゃうし。全く‥‥‥ますます燃えてくるよね。横須賀には足柄教官や先輩の軽巡洋艦も居るし、私ももっと強くなってみせるよ。
そうそう、そう言えばさ、このあいだ下の妹が‥‥‥って、あれ?私、妹が二人居るって話はしたよね?うん。私の地元に新たに鎮守府ができたでしょ?そうそう、電ちゃんとか赤城さんが居る鎮守府。でさ、下の妹が偶々魚市場で赤城さんと会ったらしいんだ。あれ?何で赤城さんがそこに居たのかとか聞かないの?え?何となく想像できるから?あ、そう‥‥‥。でさ、赤城さん、その時妖精さんを一人連れてたらしくて。うん、そうそう、よく分かったね、赤城さんの事監視するために付いて来てた妖精さん。その妖精さんがさ、下の妹に艦娘の才能がある事に気付いちゃってね。『川内型軽巡洋艦三番艦・那珂』だって。やっぱり姉妹なんだね。那珂って言ったら、嘗ての大戦での第四水雷戦隊の旗艦、第二水雷戦隊旗艦の経験もある艦だし。
けどさ、あの子に艦娘が務まるのかな?小さい頃から『アイドルになる!』って歌とダンスばっかりだった子なんだよ?‥‥‥真ん中の妹ならまだわかるけど。
下の妹、『艦隊のアイドルになる!』って言い出したらしくてね。あの子は流石にまだ幼いし、もう少し待てとは言ったんだけどね。私がずっと守ってあげられるんならいいけどさ、そうもいかないし。
だからさ、『那珂』を守れるようになる為にも私はもっともっと強くなるよ。まあ見てて。どんな深海棲艦にも負けない艦娘になってみせるから。ん?『夜戦スレイヤー』?それいいね!その二つ名、使わせてもらうね。
そろそろ行かなきゃ。提督から呼ばれてるんだ。そう、正式な辞令を受けに行くの。来月付で正式に横須賀鎮守府所属になるから。それじゃあね。
‥‥‥えっ?二年後の4月?それがどうかしたの?あ、うん。連合艦隊での出撃の時は気を付ければいいのね?
え?たとえ相手の深海棲艦が『一隻だけ』だったとしても時には撤退するのも勇気?‥‥‥うーん、イマイチ合点がいかないんだけど。まあ、心配してくれてるのは分かるよ、ありがとうね。
それじゃ、元気でね。
◆◆◆◆◆◆
「せ゛ん゛だい゛さ゛ぁ゛ん゛~」
‥‥‥この時は感極まっちゃって。『アタシの前からまた居なくなっちゃう』って思ったら涙が止まらなくなっちゃったっぽい。隠す事もしないで顔を涙でグチャグチャにして泣いちゃってた。うーん、川内さん、ごめんなさい。
「あー‥‥‥ほら、別に今生の別れって訳じゃないからさ。ね、夕立?」
ポンポン、って肩を叩いてくれた川内さん。分かってる、そんなの分かってるっぽい。でも、でも‥‥‥ウェエエン。
「また会いに戻ってくるからさ。次は横須賀の第一艦隊として。だから夕立も頑張って。夕立なら必ず日本一の駆逐艦になれるから」
「う゛ん゛、エグッ、う゛ん゛、グスッ、せ゛ん゛だい゛さ゛ん゛」
あー、駄目だ。涙止まらない。けど、ちゃんと答えられた。川内さんと約束した。次に会う時はお互い第一艦隊として。うん、アタシ、これからはもっと頑張るっぽい。
そんなアタシの隣で川内さんに「一層のご活躍をお祈りしていますわ」って笑顔を向ける熊野さん、それから、萩風も「頑張ってください!」ってエールを送ってる。
「うん、ありがとう。全世界に轟くくらいの活躍をしてみせるから」
ニカって笑う川内さん。泣き止まないアタシの頭をワシワシと撫でてくれる‥‥‥って、髪が乱れるっぽいけど、この時は気にしてる余裕なんて無かった。
「大和さん、不知火。みんなの事宜しくね」
大和さんとヌイヌイちゃんが各々「はい」「お任せください」って応えたのに満足して、川内さんは背中を向けて歩きだした。
アタシ、きっと世界一の駆逐艦になってみせるっぽい。それで、また演習したり共闘したりしようね、川内さん。
振り返らないでアタシ達に背中を向けたままで右手を振る川内さん。微かに肩が震えてるように見えるのは気のせい、っぽい?
「ヌ゛イ゛ヌ゛イ゛ち゛ゃ゛あ゛ん゛~」
アタシはそのままヌイヌイちゃんの胸に顔を埋めて泣いた。うぅ、別れはいつになっても慣れない。漣ちゃんの時もこうだったからなぁ。深海棲艦を相手にするのとは全然違う‥‥‥。
「ええ、不知火はずっと一緒です。居なくなったりしませんから」
その時のヌイヌイちゃんの表情までは見てる余裕なんてなかった。後で萩風が「菩薩のような穏やかな表情でした」ってコッソリ教えてくれたっぽい。ん?そう言えば何でコッソリだったっぽい?ヌイヌイちゃんが恥ずかしいから?うーん。
そんな、川内さんの転属から数日後。早朝ランニングを終えたばっかりのジャージ姿のアタシは、体を落ち着ける為に鎮守府の庭を少し歩いてた。そうしたら、鎮守府の門の中側に真っ黒で大きな車が止まってるのが見えて。後で熊野さんに特徴を何となく伝えて聞いてみたら『ロールスロイスですわね』って言ってた。鎮守府内では見たこと無いなぁ、って思ってたら、その近くを散策してるっぽい女の人が居て。鎮守府内は一般人は立ち入り禁止だし、勝手に見て回ったら駄目っぽいから注意しようと思ってアタシは近付いた。
「一般の人が勝手に見たら駄目っぽ‥‥‥い‥‥‥あれ?」
その女の人‥‥‥何だか会った事あるような‥‥‥記憶の何処かに引っ掛かってるっぽい。ボブカットの黒髪の美人さん。フレームが緑色の楕円型の眼鏡をしてる。歳は多分熊野さんと同じか少し上くらい?スラッとした高めの身長に、その‥‥‥大きい。何が、とは言わないっぽい。うぅ‥‥‥また負けた‥‥‥。
「アラ?貴女は‥‥‥」
その女の人、何だかアタシの事知ってるっぽい。一般人が艦娘個人の事知ってるなんて殆んど無いから、もしかしたらこの女の人も艦娘?あ、もしかしてこの人が新しく着任するっていう戦艦の人?
「‥‥‥夕立、ね?初めまして、でいいのかしら?」
うっわ、当てられたっぽい。やっぱり新任の艦娘っぽい!わわっ、挨拶しなきゃ!
「白露型駆逐艦、四番艦の夕立っぽい!宜しくお願いします」
‥‥‥あれ?そう言えば『初めましてでいいのかしら』って?やっぱり何処かで会ったっぽい?アタシ達が横須賀で研修してた時かなぁ?
そのお姉さん、クスッ、って笑って自己紹介してくれた。
「金剛型戦艦四番艦、霧島よ。改めて宜しくね」
‥‥‥あっ、思い出した。駆逐艦夕立の最後の記憶、ソロモン海海戦で見た金剛型戦艦霧島。そっか、記憶の中だけど会った事あったんだ。
この人が‥‥‥アタシ達の新しい仲間‥‥‥御召艦もやったことある艦だし、うん、きっと頼りになるっぽい。
‥‥‥って思ってたんだけど。話はそこでは終わらなかった。霧島さん、予定より早く着いちゃったみたいで、勝手にお邪魔するのも悪いからって時間を潰そうと思ってたっぽい。そしたらアタシが居たから、本棟まで一緒に行って欲しいみたい。
それで、なんだけど。案内しようとしたアタシを「ちょっと待っててくれるかしら」ってその場に立たせたまま、霧島さんは車の後部座席へ。荷物取りに行くのかな、って思ってたんだけど、霧島さんがコンコンってスモークガラスを叩いた。そしたら、後部座席の扉が開いて、中からはまた別の女の人が出てきた。
瞳は橙色。ロングの黒髪、右で七三分けされた前髪の左側に金の髪止め。大和さんが美人系の大和撫子ならその人は可愛い系の大和撫子。美人さんだけど。因みにこの人も大きい。アタシに対する当て付けっぽいぃぃ‥‥‥あれ?何だろう、この人誰かに似てるような気がするっぽい‥‥‥。
「貴女が案内してくださるのですね、良かった」
「あ、えっと‥‥‥白露型駆逐艦の夕立っぽい!」
アタシの後に自己紹介してくれたその人、『金剛型戦艦三番艦、榛名』さんだった。つまりその‥‥‥高速戦艦が一気に二人も着任するっぽい。
指令部本棟内まで進んだアタシ達。丁度朝で執務室に紅茶を運ぼうとしてる熊野さんと会った。提督さんと翔鶴さん、熊野さんが淹れる紅茶がお気に入りっぽい。勿論、強制じゃなくって熊野さんが自主的にやってる事。
会うなり熊野さん、「まぁ、矢張り貴女方でしたのね」って。ん?どういう意味っぽい??
「今のわたくしの名は最上型重巡洋艦四番艦、熊野ですわ。改めて宜しくお願いします」
榛名さんと霧島さんも「改めて宜しくお願いします」って。やっぱり会った事あるみたい。それからアタシも含めて四人で執務室へ。後で聞いた話だと、榛名さんと霧島さん、アタシ達の護衛任務で日本に帰国したあの駐英大使の娘の妹さん、だって。ヒェェ、またまた凄い人だったっぽいぃぃ!
霧島、榛名が合流。遂に呉にも高速戦艦が着任。
え?川内さんへの意味深な忠告?んー、何言ってるか分からないです。