「それでは。開始、ですわ」
場所は鎮守府正面の演習場。熊野さんの合図で前進を開始したアタシとヌイヌイちゃんのペア。対するは金剛型の二人。萩風は立ち会い。提督さんもモニターしてる。
要は、榛名さんと霧島さんの実力を判断する為っぽい。
あ、大和さんは横須賀鎮守府に行ってる。えっと、何だっけ‥‥‥‥‥‥46㎝砲?あれ?三連装砲?うん、まあそんな感じの名前の装備の開発、調整の為っぽい。今迄の一番大きな主砲は試製46㎝連装砲で、武蔵さんの主砲だった。大和さんのは試製41㎝三連装砲だったんだけど。大本営の方針でこれを期に三連装砲の開発に着手するって‥‥‥うん、確かに駆逐棲姫は強敵だし、新たな武器を、っていうのは分からなくはないんだけど‥‥‥そんなに急に開発する必要ってあるのかな?試製46㎝連装砲でも撃沈できなくは無いと思うんだけど。え?アタシにしては考えてる?ヌイヌイちゃんの受け売りっぽい?そっ、そっ、そっ、そんな事無いっぽいぃぃ!?ヌイヌイちゃんじゃなくて提督さんの‥‥‥なっ、何でもないっぽいぃぃ。
あ、そうだ。もう始まってたんだっけ。アタシが後方、ヌイヌイちゃんを先頭にして榛名さん達に向かって走る。
アタシはヌイヌイちゃんの後ろに隠れながら雷撃。ヌイヌイちゃんは牽制の意味も込めて砲撃。勿論、榛名さんと霧島さんは魚雷を避ける。 だって、アタシは元々魚雷を当てるつもりは無いから。ほら、相手は戦艦。こっちは駆逐艦。普通、アタシ達駆逐艦の攻撃で戦艦を沈めるのには苦労する筈でしょ?だから、先頭に居る榛名さんが、魚雷を撃ち切ったアタシじゃなくって先ずはヌイヌイちゃんに照準を合わせてきた。ヌイヌイちゃんさえ墜とせば、後は砲撃しか出来ないアタシだけだから。えへへ、ヌイヌイちゃんの思惑通りっぽい。
「ポイポイッ!」
合図に合わせて、アタシは加速。同時にヌイヌイちゃんは魚雷を二本空中に投げる。アタシは自分の足元目掛けて砲を放って、その勢いを利用して宙に舞う。そのまま空中で魚雷を受け取って、勢いに任せて榛名さん目掛けて突っ込む。うん、それはそうだよね。驚いたを通り越して目が点になって止まってる榛名さん。駄目駄目。戦闘中に隙を見せたら駄目っぽい。アタシは牽制に砲撃を放つ迄もなく、そのまま魚雷二本を榛名さんの両肩に投げつけてぶつけた。あー、本当は頭にぶつけたかったんだけど、演習弾でもスッゴク痛いから止めたっぽい。ほら、榛名さん、両肩を押さえて涙目で屈み込んでる。勿論、轟沈判定。本当に申し訳ないけど、その榛名さんの右腕を足蹴にして体勢を立て直して霧島さんに向き直す。視界の外で榛名さん、バランスを崩して左側に思いっきり倒れ込んだ。‥‥‥ちょっとやり過ぎたかなぁ‥‥‥。
「なっ‥‥‥えっ!?」
霧島さんも驚いてる。こんな無茶する艦娘なんて、アタシ以外では川内さん位だもんね。
本当はこれも、弾幕を張ったり波や海の時化を利用したり、煙に紛れたり死角を突いたりしてもっと相手の気を逸らさないとアタシも危険なんだけど。この時のアタシ、まだまだだったっぽい。
このあとはお察し。ヌイヌイちゃんが隙だらけになった霧島さんにこれでもかって魚雷攻撃で轟沈判定。アタシとヌイヌイちゃん、ハイタッチ。流石に新人さんには負けないっぽい。
「そこまで。勝負ありですわね」
熊野さんの終了の合図。
ガックリと肩を落としてションボリして肩を震わせて泣きそうになってる榛名さんと、その隣で目元をピクピクさせてる霧島さん。あっ、何だろう‥‥‥霧島さんのオーラが凄く怖いっぽい‥‥‥あっ、なんか霧島さんに睨まれたっぽい‥‥‥だっ、だってだって!提督さんが『本気でやれ』って言ったっぽい!!アタシ悪くない!悪くないっぽい!!
◆◆◆◆◆◆
駄目です、もう限界です‥‥‥涙が‥‥‥う゛っ‥‥‥う゛っ‥‥‥グスッ‥‥‥。
先輩とはいえ駆逐艦の子相手に手も足も出ないなんて‥‥‥榛名は‥‥‥榛名はこんなにも無力だったのですね‥‥‥。これでは、榛名の我が儘を聞いてくださった上のお姉様や、無理を言って説得した二番目のお姉様に申し訳がありません。
言い訳はしません。確かに、海上戦でのあんな動きは鹿島先生には教わっていません。けれど、夕立さんのような船らしからぬ戦い方をする深海棲艦だってきっと居る筈です。そんな相手を前にして驚愕して止まっていたのでは、とてもではありませんが日本の皆さんを守るなんて出来ません。今回は演習だから良かったようなもの。もしもこれが本番だったら、榛名の轟沈どころか霧島や僚艦の方まで危険に晒してしまう所。榛名は自分の未熟さが悔しくて、悔しくて‥‥‥。
過去の大戦のような、動けずに空を見上げる事しか出来なかった時は違うのです。今は霧島も居る、仲間の皆様も。なのに、榛名はこんなにも弱くて、愚鈍で。このままでは‥‥‥このままでは。
「不知火達のこの程度の攻撃で涙するとは。高速戦艦も大した事は有りませんね‥‥‥深海棲艦はもっと容赦無く攻撃してくるのですよ?」
隣で慌てふためいている夕立さんを他所に、不知火さんが言った言葉が胸に突き刺さります。霧島、睨んでは駄目です。これもきっと、不知火さんなりの激励なんです。不甲斐ない榛名への、努力して這い上がってこいという。
‥‥‥とは言っても、今の時点での榛名には辛いです。大泣きするのを必死に我慢するのが精一杯です。何とかドックへ戻るまで声をあげるのは抑えましたが、涙が溢れて止まりません。演習用の艤装をおろして、陸に揚がりましたが‥‥‥如何に榛名がぬるま湯の中に居たのか、甘やかされてきたのかを身を持って知りました‥‥‥。
あっ、霧島が不知火さんの方へ‥‥‥ですから霧島、不知火さんに抗議するのは筋違いですって!
‥‥‥あ、夕立さんが近付いて来る‥‥‥。
「榛名さん、ごめんなさい。でも‥‥‥」
夕立さんの言う通りでした。『力無き正義は無力』。漣さんという方の受け売りだそうですけれど。みっともないとは分かっていましたが、夕立さんに縋りつき泣きました。はい。これっきりです。次からは泣いたりしません。榛名もきっと、金剛型戦艦の名に恥じぬ艦娘になってみせます。
‥‥‥榛名は、もう大丈夫です。
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大和です。はい、今は横須賀鎮守府に居ます。46㎝三連装砲という新たな大型の長距離砲の調整だそうです。艤装とのリンク、換装の最中。それが終わったら性能試験だそうです。試製41㎝砲でも充分な威力があった筈なのですけれど‥‥‥何というか、大本営は何かを焦っているようにも思えるのですが。
それはそれとして、なのですが。何でしょうか‥‥‥艦娘『大和』となってからというもの、その‥‥‥食欲が‥‥‥強くなったと言いますか‥‥‥今迄の食事量では全く足りなくなってしまいました。いえ、体型は変わっていません。ですが、艦娘になる前の食事の量だと動き始めて30分と持たないのです。やはり戦艦大和は超弩級艦だからその分食べなくては維持出来ない、という事でしょうか。必要なのは艤装の燃料だけではない、という事ですか。大和もまだ19歳なのでそれは少し複雑‥‥‥いけない、今聞いた歳の事は忘れてください。
と。まあ、そんな訳で食堂に居るのですけれど。伊良湖さんもそうですが、ここの間宮さんの食事も美味しいですね。今はデザートの餡蜜を食べている所です。餡蜜ですか?はい。大盛りです。定番の具材の上に最中とアイスクリームを器に沿って幾つも乗せて、その上に小豆、クリーム。その周りにくし型に切った林檎を刺して並べて、更にその上にバニラのソフトクリーム。更に上にマシュマロです。フフッ。こればかりは大和型に感謝です。こんなに甘いものを食べても太らないのですから。
後ろから肩を叩かれました。まだ換装には時間が掛かる筈ですが‥‥‥?
相手は例の、私の幼馴染みの提督の彼でした。何でも、彼の秘書艦の電ちゃんの仕事の参考になれば、と各鎮守府の秘書艦の資料を貰いに来たとか。恥ずかしい所を見られてしまいましたね。さっき迄の大和はさぞかし間の抜けた顔で食べていたでしょうね。
資料を少し見せてもらったのですけれど、既に轟沈された鈴谷さんや瑞穂さんのものも有りました。『過去の秘書艦の仕事振りも知っておきたい』からだそうで。何でしょう‥‥‥幼馴染みとしてのカン、と言いましょうか‥‥‥何やら彼の笑顔の奥に暗いものを感じるのですが‥‥‥。
おや、どうやら換装作業が終わったようです。幼馴染みの提督との雑談も此処までとして工廠へと向かいましょう。では、大和はこれにて。
6月21日はポイポイの進水日。明日upしても良かったのですがね。
榛名にはまだ夕立との演習は早かったようです。
漣さん曰く『正義無き力は無力ですが、力無き正義もまた無力なのです』