ええ、足柄だけど何かしら？私は今忙しいの。見れば分かるでしょ？ついこの間『足柄より島風の語りの方がいい』とか思ってやがったのは何処の誰だったかしらね？どうせ今回も私が目当てじゃないんでしょ？分かってるわよ、川内の事でしょ？
え、違う？どうして榛名と霧島の教導を私じゃなくて鹿島がやったのかって？
何も違わないわよ。川内ほどの才能を持った軽巡はそうは現れない。ホラ、『10年に一度の逸材』ってよく言うじゃない。だから、私と島風が毎日みっちりと鍛えてるの。それこそ『夜戦』のヤの字も言えないくらいボロボロになるまでね。あの川内が疲れ切って夜は消灯時間に眠ってる、って言ったら理解してもらえるかしらね。
川内には少なくともあと1ヶ月のうちにココ横須賀の第一艦隊で活躍できるレベルまで上がってもらうわ。いつアイオワの亡霊が攻め込んでくるか分からないのよ？それでも遅いくらいだわ。
アイオワの‥‥‥っと、この呼名はもう止めた方がいいわね。あの深海棲艦は狡猾ね。姫級が何隻か動き出してるのもきっとそのせい。各姫級を旗艦に据えて大艦隊を率いて来るつもりね。恐らくは、奴らの第一目標はココ。何故って？ココが艦娘の総本山だからに決まってるじゃない。私も居るし、ね。だから、奴らが攻めてくる前に戦力を揃えないと。川内にはその時の主力を担って貰う。幸い、長門型戦艦二番艦の陸奥も着任できた。そっちは武蔵と長門で鍛えてる。名目上は超弩級艦の為の特別訓練だけど、実質は対アイオワに備える為の訓練。勿論、ココの木村提督は真実を知らない。長門も。
本当は大和と、それと夕立もココに呼んで鍛えたいくらいなんだけどね。尤もな口実が無いわ。横須賀所属ならまだしもあの二人は呉所属だし。無理に此方に呼ぼうものなら、東郷大佐は必ず理由を勘繰ってくる。川内をコッチに異動させた時だってかなり無理のある理由だったでしょ？もう同じような手は使えないわ。まあ、幸い夕立はここ数ヵ月で劇的に伸びているみたいだし、何とかはなるかも知れないわ。
何？そうね、榛名と霧島に才能が無い訳ではないわ。けどね、あの二人はあくまでも『高速戦艦としての枠内』の実力かしら。優先順位の問題よ。川内なら来るべき決戦の切り札になりうる。勿論、夕立と大和もね。
‥‥‥っと、お喋りは此処までよ。全く、昼ご飯の時間があと10分しかないじゃない。まだ目の前のカツカレー２口しか食べてないのに。これで午後の川内の訓練に間に合わなかったらアンタの事恨むからね？
それじゃ、とっとと何処かに行きなさいよ。分かってると思うけど、今の話は誰にも言うんじゃないわよ？
◆◆◆◆◆◆
「旗艦‥‥‥ですか？あの駆逐艦の子が？」
呉鎮守府の執務室内。そう口にした霧島さんがヌイヌイちゃんに視線を向けてる。スッゴク怖いんだけど‥‥‥って、ヌイヌイちゃんも鋭い視線のまま霧島さんを睨み返して「何か？」って‥‥‥ヌイヌイちゃんも少し怖いっぽいぃぃいぃ。
榛名さんと霧島さん、アタシ達第三艦隊に配属っぽい。それで、ほら、今の第三艦隊ってメンバーがヌイヌイちゃん、アタシ、萩風、熊野さん、大和さんでしょ？だから、霧島さんは旗艦は大和さんなんだろうなって思ってたっぽい。それが現実は駆逐艦の、しかも昨日の演習で遺恨のあるヌイヌイちゃんで。うん、ちょっとご機嫌ナナメ。榛名さんはヌイヌイちゃんと霧島さんを交互に見てアタフタ、ハラハラしてるみたいなんだけど。
アタシの中の御嬢様のイメージが音を立てて崩れてる最中っぽい。何て言うか、御嬢様って熊野さんみたいな人ばっかりじゃないんだね。榛名さんは兎も角、霧島さんは武闘派っぽい。こう、何て言うか、任侠映画に出てきそうな感じ‥‥‥同じ姉妹の筈のいつかの護衛任務の駐英大使の長女の人とは似ても似つかない。長女さんは優雅でマイペースだったよね。あ、話し方は変だったけど。
スッゴク気不味い感じの執務室の空気を破ったのは、やっぱり提督さんの一言。「そうだ。不知火と夕立の実力は昨日の通りだ。問題あるまい？‥‥‥本日を以て榛名、霧島両名を第三艦隊所属とする」って霧島さんとヌイヌイちゃんを睨みながら話してた。７人が状況や作戦によって入れ替わるっぽい。って、あれ‥‥‥？今日の提督さん、少し怖いっぽい。ヌイヌイちゃんと霧島さんの雰囲気が悪いからかな？
丁度霧島さんが何かを訴えようとした直前。『失礼致します』って声と共に扉が開いた。入って来たのは大和さんと熊野さん。大和さんは横須賀から戻ってきた所で、熊野さんは大和さんを迎えに行ってた。良かった、これで少しは雰囲気も和らぐっぽい。
「何かあったのですか？何だか空気が張り詰めているような‥‥‥？」
あっ、流石は大和さん。直ぐに気付いたっぽい。熊野さんも「そういえば‥‥‥何となく」って言いながら見渡してる。後で訳を話してフォローしてもらわなきゃ。
大和さんと熊野さんはそのまま執務室に残って、アタシ達四人は解散。霧島さんとヌイヌイちゃんは各々直ぐに自分達の部屋に戻っちゃった。榛名さんが「申し訳ありません。霧島には後で話して聞かせますから」って本当に申し訳無さそうに頭を下げてた。別に榛名さんは悪く無いっぽい。それに、確かに霧島さんの態度も良くないと思うけど、ヌイヌイちゃんだって売り言葉に買い言葉だったもんね。お互いに戦艦と駆逐艦とか、先輩と後輩とかのプライドとかもあるんだろうけど、ギスギスしちゃうのは良くないっぽい。
よーし、いつかアタシが呉のエースになって、みんなが仲良く笑顔で出来るように頑張るっぽい！それで、お話でどうしても解決出来ない時は、漣ちゃんが言ってた何処かの魔法少女みたいに『少し、頭冷やそうか』って実力行使っぽい！
っと。そうだった。熊野さんが残ったのは、航空巡洋艦への改造の説明の為。この頃には熊野さんの練度も『改』のレベルに達してたからっぽい。これで熊野さんが水上爆撃機『瑞雲』が使えるようになって、執れる作戦の幅が拡がる。まあ、熊野さんはこれからが大変なんだけど‥‥‥利根さんが講師になって航空巡洋艦の運用のイロハを徹底的に叩き込まれるっぽい。熊野さん、暫くは休みの日以外は凄く疲れた表情してたっけ。でもそんな日々が有ったから今がある。アタシも、このあとの日々は訓練漬けになる。演習や実戦の度に強くなってるのが実感できてた期間。
急にそんな日々に変わった理由が、この時の大和さんの報告だった。凄く後で‥‥‥うーんと、アタシが秘書艦を任せられるくらいになった時に聞いたんだけど、この時の大和さんの報告は『川内さんを集中的に鍛えてる』とか『横須賀に動きがある』とか。確か『大本営が焦ってるような節がある』とかだったかなぁ。それから『足柄教官の動きが早すぎる』とか。足柄教官、対深海棲艦の事になると時々分かってたみたいに行動が早い時があったっぽい。で、今回もそう。どうやって予測してるのかは分からないけど、深海棲艦に良くない大きな動きがあるらしいのを掴んでたっぽい。大和さん、新しい装備の事だけじゃなくって横須賀の動きを観察してこい、って言われてたっぽい。そっか、考えてみたら提督さんもこの頃から大本営に不信感は有ったんだ‥‥‥。
凄く今更だけど、提督になれるのって一握りの人だけなんだって。妖精さんが見えて艦娘の練度が把握出来る人。アタシ達の火力とか馬力とか速力とかは計測して数値化してるんだけど、練度だけは何となくしか分からない。それを、提督さんはRPGみたいに把握出来るっぽい‥‥‥全然分からないけど。
それと、提督さんの場合は軍艦の魂じゃなくって、日本がまだ帝国って言われてた頃の海軍の血統の人が適格者っぽい。ほら、だから呉の提督さんは『東郷 平八』、横須賀の提督さんは『木村 昌』、大和さんの幼馴染みの提督さんは『山本 十三』。誰が誰の血統かは軍マニアの人ならピンと来るっぽい？
まあ、そんな事があって。アタシ達は週に一度、金曜に第三艦隊としての総合演習、他の曜日は駆逐艦なら駆逐艦、戦艦なら戦艦での訓練。それで、金曜の夜にカレー食べて、ヌイヌイちゃん議長の会議。これの繰り返し。あ、そう言えば横須賀ではカツカレーしか食べたこと無かったっぽい。ううん、そうじゃなくて、カレーは横須賀ではカツカレーしかメニューに無かった。何でだろう？
最初の艦隊演習とか、会議ではヌイヌイちゃんと霧島さんがよくぶつかってたなぁ。理論も見解も全然違ってて、しかも二人とも引かないし折れないし。あの頃は大変だったっぽい。アタシでも自然と遠い目になるっぽい‥‥‥。
そんな日々を送ってて。萩風も、アタシの戦法を少しずつ身体で覚えていってて。みんなが少しずつ強くなっていってる日々。まあ、アタシは相変わらずっぽい、っていうかっぽい‥‥‥。
「あ、あはははは‥‥‥」
苦笑いしてみるけど、苦手なものは苦手。魚雷って本当に遠距離から当たるものなの！？アタシ、目標に全然当てられないっぽいぃぃ。「だっ、大丈夫ですよ夕立さん！雷撃が上手くなくても夕立さんは凄いんですから！」って弟子の筈の萩風にも慰められるレベルっぽいぃぃ。
「‥‥‥ポイポイ、暫くは雷撃訓練オンリーです」
ヒェェ！？目がっ！ヌイヌイちゃんの目が怖いっぽいぃ！？何時もなら絶対しないような目で睨まれてるっぽい！？
何処かの魔法少女：言わずと知れたwhite devil、砲撃魔王のあの人の事。
やっと熊のんが航空巡洋艦に。これで戦闘が幾分楽になります。