抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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目的

 

 

「トドメですわ!とぉぉぉ↑おうッ↓」

 

わたくしの砲撃が見事ヒット。最後の一隻のヲ級が炎上しながら沈んでいきます。わたくしも少しは鈴谷に近付けたでしょうか?

 

「状況終了‥‥‥ですわね」

 

空母ヲ級を旗艦とした敵艦隊。油断出来ない事には違いありませんが、苦戦する程ではありませんでしたわね。

熊野ですわ。深海棲艦は姫級や鬼級だけではありません。わたくし達艦娘とは違って、普通の人達からすれば例え駆逐イ級でも大きな脅威。命令とあれば勿論出撃します。

 

今回は夕立さんは鎮守府で待機。提督の思惑は分かります。榛名さんと霧島さんに早く実戦に馴れてもらう為ですわね。何と言いますか‥‥‥夕立さんが居るとどうしても頼ってしまう部分があります。事実、最近は夕立さんと萩風さんが先行して突撃、それだけで敵に大きな損害を与える事も屡屡でしたし。金剛型のお二人にはもっと活躍出来るよう、夕立さんが居なくとも滞りなく作戦遂行できるように、と提督もお考えなのでしょうね。

 

なんですの?砲撃時の叫び声ですか?‥‥‥失礼ですわね、そんなに変わっていました?‥‥‥えっ?本当にそんな感じなのですか?大袈裟ではなく?‥‥‥次からは叫びませんわ。いいえ、怒ってはいなくてよ?‥‥‥‥‥もうっ。

 

『熊野さん、お見事です。此方に損害もありませんし、帰投しましょう』

 

不知火さんからですわね。では、わたくし達は帰るとします。全く、もうすっかり夜ですわ。今日は満月ですのね。瑞雲、夜偵お願いしますわね?

 

‥‥‥大和さんが先頭。わたくしが最後尾での帰投。走り始めて暫く‥‥‥そうですわね、1時間程経った頃でしたわ。

 

「敵影‥‥‥ですわね」

 

二時方向に敵影。単艦‥‥‥でしょうか?此方を睨むように見つめる影。普通ならば、金剛型や大和型の居る此方の艦隊に挑むなど無謀以外の何者でもありません。ですが、相手はそうは思っていなかったようで。

 

放っておく訳にもいきませんし、不知火さんに早く無線で報告を‥‥‥。

ですが。事態はわたくしが行動するよりも早く動きました。足元で強烈な衝撃、轟音。脚から脳へと電流のように駆け抜ける痛み。魚雷‥‥‥!抜かりましたわ。推進機関は‥‥‥駄目です、反応しません。一撃で大破なんて‥‥‥身体が重い‥‥‥。

 

『熊野さんっ!?状況報告を!』

 

不知火さんから通信。早く事態を知らせ‥‥‥‥‥‥。

 

「‥‥‥あ」

 

間の抜けた声が思わず洩れました。太股の先が無い人型の深海棲艦。聞いていた駆逐棲姫でした。わたくしがその姿に気付いたときはもう目の前。しかも、わたくしの頭の上。その姿はまるで‥‥‥まるで夕立さんのよう‥‥‥。

 

『ミツケタ‥‥‥『クマノサン』、ミツケタ』

 

その言葉と同時。赤く光る瞳に狂喜を孕んだ駆逐棲姫が向けてきたのは主砲。そこでわたくしの意識は途切れました。

 

*********

 

「暇っ!暇っ!暇っぽい!提督さん、遊んで~!」

 

アタシだけお留守番っぽい!やる事なくて暇っ!

 

「‥‥‥うるさいぞ、夕立。手伝わないなら部屋に戻れ」

 

提督さんに怒られちゃったっぽい。はぁ。スッゴク気は進まないけど、翔鶴さんのお手伝いしよっと。

アタシが今居るのは執務室。誰も居なくてつまらないから提督さんに遊んでもらおうと思ったのに『暇なら翔鶴の仕事を手伝え』って言われちゃった。苦笑いしながら丁寧に教えてくれる翔鶴さん。‥‥‥あれ?翔鶴さん、左手の薬指に指輪してる。今気付いたっぽい。翔鶴さんって結婚してたのかな?

 

「気付いたのかしら?フフッ。提督に貰ったのよ?」

 

翔鶴さんが言うには『ケッコンカッコカリ』の指輪っぽい。それで始めてその指輪の意味を教えてもらった。つまりは、更に強くなる為の艦娘専用の装備品っぽい。他にも燃費がよくなったりするっぽい。へぇ。そんな物があるんだ?

 

「香取に教わった筈だろうが?」

 

うわっ、提督さんに聞かれてた。そうだっけ?エヘヘヘ、香取先生の授業内容、半分位しか覚えて無いっぽい‥‥‥。後で内容復習しなきゃ。うん、『後で』。

 

『此方第三艦隊旗艦、不知火です』

 

(アタシにとって)不穏な空気が流れ始めた執務室内に、無線が響いた。ヌイヌイちゃんから。あ、じゃあもうすぐ帰投するっぽい?わーい!退屈から脱出できる!

 

『あと半刻程で帰投できます。受け入れの準備をお願いします。六人とも損傷無しで‥‥‥』

 

ヌイヌイちゃんの言葉を遮るように、無線越しに轟音が響いた。「何があった!不知火、応答しろ!」って、提督さんの表情が一瞬で険しくなる。『熊野さんっ!?状況報告を!熊野さんっ!』て捲し立ててるヌイヌイちゃんの声‥‥‥嫌な予感が‥‥‥。

 

『熊野さんが何者かの奇襲を受けたようです!損害不め‥‥‥‥‥‥っ!!』

 

ヌイヌイちゃんの言葉の後、もう一度轟音。それで、ガガガッ、でノイズが流れてくるだけになっちゃった。

 

「不知火!どうした、不知火!」

 

こんな提督さん初めて見た。表情に焦りと心配が見える。提督さん、やっぱりアタシ達の事‥‥‥。

 

沈黙を破ったのは大和さんからの無線だった。内容は‥‥‥熊野さんが大破で意識不明の重体、ヌイヌイちゃんも大破。ヌイヌイちゃん、咄嗟に駆逐棲姫と熊野さんの間に割って入ったって。もしさっきの一瞬でヌイヌイちゃんが動いてなかったら、熊野さんが轟沈してたかも、って‥‥‥‥‥‥足が、震える。口の中が乾く。そんな‥‥‥。

 

『旗艦含め二隻大破‥‥‥急ぎ撤退します。出来れば支援をお願いします』

 

大和さんの通信を聞いて飛び出そうしたアタシの腕を、翔鶴さんが掴む。その表情は険しくて、さっきまでの優しいお姉さんじゃない。

 

帰投したばっかりの第二艦隊がそのまま出撃。アタシは、みんなの無事を祈る事しかできなくて‥‥‥。

 

 

 

 

一時間後。第二艦隊と戻ったヌイヌイちゃん達。榛名さんと霧島さんも中破になってた。大和さんも大破。大和さん、ずっと熊野さんとヌイヌイちゃんを庇い続けてたっぽい。

 

「ヌイヌイちゃん!!」

 

萩風に身体を支えられて、何とか歩いてくるヌイヌイちゃん。「申し訳‥‥‥ありません」って血だらけで苦しそうにしてる。話さなくていいから!早く入渠してきて!

 

熊野さんは真っ直ぐ入渠ドックへ。まだ意識は戻らないけど、命に別状はないし脳への影響も無いだろう、って。‥‥‥少しホッとしたっぽい。

 

やっぱり駆逐棲姫の狙いは艦娘なんだ。アタシの仲間を狙うなんて‥‥‥もう、もう許せない。次こそ‥‥‥次に会った時こそ、駆逐棲姫を撃沈してやるっぽい!!アタシの手で、必ず‥‥‥!

 

*********

 

熊野さんもすっかり元気になって、三日後。ちょうど5月の連休の頃。アタシ達第三艦隊は突然提督さんに呼び出されたっぽい。要件は『演習』だって。凄く急でみんなビックリ。だって、普通なら演習のスケジュール予定はもっと早く出てる。遅くても一ヶ月前、とか。しかも、相手は横須賀第一艦隊だって。横須賀は態々アタシ達をご指名っぽい。こんな時に横須賀に行くなんて‥‥‥何かあるのかな?

 

「驚きましたね‥‥‥まさか川内さんが第一艦隊に入っているとは」

 

そうそう、ヌイヌイちゃんのいう通り。川内さん、本当に第一艦隊に上がってた。やっぱり川内さんは凄いっぽい。アタシも負けてられないっぽい!

 

‥‥‥この時、アタシ達は気が付かなかった。アタシ達は‥‥‥うん、アタシ達は、駆逐棲姫を呼び寄せる『エサ』だった。アタシ、熊野さん、横須賀の川内さん、武蔵さんに島風ちゃん。立会人が足柄さん‥‥‥‥‥‥そう、嘗て戦艦レ級と戦った時の艦種のみんな。大本営は、その為に態々アタシ達を呼び寄せたんだ、って。『必ず駆逐棲姫『夕立』が現れる』と確信して。




熊のん危機一髪の回でした。

次回、横須賀第一と夕立達が激突。

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