抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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御召艦

 

「活躍は聞いてるわ」

 

横須賀鎮守府で出迎えてくれたのは、足柄教官だった。このあと仕事があるっぽいけど、今は新たな艦娘が建造された直後で色々と終わるまでは時間があるっぽい。

 

アタシと熊野さんが駆逐棲姫にやられたのは聞いてるみたいで、「大変だったわね。ま、生きてて何よりだわ」って声は掛けてくれた足柄教官。声のトーンが少し低かったような気がしたのは気のせいっぽい?

 

「そうそう、新たに着任する艦娘の事なんだけど、どうせなら二人に会っていく?」

 

会うのは別にいいけど、今のはなんだか意味深な感じのトーンだった。

え?‥‥‥むぅ、失礼しちゃう。アタシだってそのくらいの微妙な感じは分かるっぽい!

 

「貴女達も知ってるんじゃないかしら?二人とも建造時間が四時間って言えばピンと来るわよね?」

 

四時間?足柄教官の言葉、アタシにはヒントにもならない。全然分からないっぽい。でも、榛名さんと霧島さんは『え?』って顔になってる。何か知ってるのかな?

榛名さんと霧島さんが言うには、『建造時間が自分達と同じ』だって。ん?それってもしかして、新たな艦娘って『金剛型が二人』って事っぽい?

 

「まっ、待ってください‥‥‥‥‥‥まさか」って口にした榛名さんの表情が変わった。やっぱり知ってる人?

 

足柄教官に案内されるままに開いた、嘗てアタシ達も使った工廠の扉。開いてみたら‥‥‥ビックリ。中に居たのは、榛名さんや霧島さんと同じ匠意の巫女風の制服の二人。二人とも金剛型。一人は‥‥‥アタシ達もよく知ってる人。髪をドーナツみたいなお団子にして両脇に結わえてある長い茶髪の綺麗な人。アタシ達が護衛した、駐英大使の長女、つまりは榛名さんと霧島さんのお姉さんの、金剛型戦艦一番艦・金剛さん。

 

「Hey、皆サン、久し振りネ!元気にしてマシタカ?」

 

「「御姉様!?」」って声を揃えて驚く榛名さんと霧島さん。やっぱりだった。

金剛さん、相変わらずの片言似非外国人訛りっぽい。あ、「夕立、今馬鹿にシマシタネ?」って、金剛さんの洞察力凄いっぽい。

 

それから、もう人。同じく金剛型。ショートカットの髪で、これまた綺麗な人。って、金剛さんの姉妹ってみんな綺麗。うーん、みんなスタイルもいいし、羨ましいっぽい。

 

「ヒェェ‥‥‥二人とも‥‥‥お姉さまが‥‥‥お姉さまが‥‥‥」

 

あれ?この榛名さんと霧島さんに縋り付いてる二女の人、何処かで会った事あるような‥‥‥何処だっけ?えっと、ううんと‥‥‥。

 

「比叡、またデスカ?大丈夫デース!榛名も霧島も上手くやれてるネ!心配ならnothingネ!」

 

あっ‥‥‥金剛さんの言葉で分かった。金剛型二番艦にして御召艦だった比叡さん。そっか。夢で見た駆逐艦夕立の記憶の比叡さんとソックリ。だからかぁ。あの夢って現実の艦娘の姿とリンクしてるんだ。‥‥‥‥‥‥あれ?って事は‥‥‥駆逐艦春雨ってやっぱり‥‥‥妹‥‥‥?

 

「お久し振りですわね、えっと、比叡さん。熊野、ですわ」って挨拶を交わした熊野さんにも縋り付く比叡さん。え?御召艦‥‥‥だよね?比叡さんってこんな人なの?

 

「熊野さん~、聞いて下さいよぅ、金剛お姉さまが、お姉さまが‥‥‥男の人をぉぉ」

 

涙目で話す比叡さんの姿。えぇ~、何ていうか‥‥‥アタシの中の御召艦・比叡のイメージが絶賛崩壊中っぽい‥‥‥。もっと勇猛果敢で凛凛しい艦だと思ってたっぽい。

 

比叡さんの話によると、金剛さんと比叡さんは例の電ちゃんの鎮守府に着任するっぽいんだけど。金剛さん、さっき会ったその鎮守府の提督さんの山本さん?に一目惚れしてデレデレになってたっぽい。『BURNING LOVE!!』とか言い始めたっぽい。あ、うん。何となく察したっぽい。金剛型姉妹って、変わった人ばっかり‥‥‥。

 

あっ、そうだ。比叡さんに会ったら謝らなきゃ、って思ってたんだった。

 

「あの、比叡さん‥‥‥ごめんなさい。アタシの‥‥‥夕立の力が足りなかったせいで‥‥‥」

 

過去の大戦の話だけど、きっと比叡さんにとっても辛い記憶な筈だし‥‥‥って思ってたんだけど、肝心の比叡さんはキョトンとしてた。「うーん」って唸ったあとに、アタシに微笑んでくれた。

 

「どうして貴女が謝るの?」

 

「‥‥‥へ?」

 

今度はアタシがキョトンとしちゃった。そんな風に言われるなんて思ってなかったし。『確かに軍艦の魂と記憶は受け継いでるけど、それはそれ。人間としての貴女とは関係ない』って。

 

「例え関係あったとしても、駆逐艦夕立の活躍のお陰で比叡は次の日まで生き残れた訳だし‥‥‥まあ、次の日には沈んじゃったけど。だから‥‥‥気にしないでっ」

 

分かった。そうだよね。比叡さんの言う通りっぽい。アタシはアタシ。当時の駆逐艦夕立とは違うんだ。アタシ、みんなの為になれるように頑張るっぽい。

 

「じゃあ。はい、コレあげるから。比叡が気合いッ、入れてッ、焼きましたッ」

 

ニッコリと頬笑む比叡さんがくれたのは、クッキーだった。何処で焼いたっぽい?家から持ってきたのかなぁ?でも折角くれたし、いただきまーす。

アタシがそのクッキーを口に放り込む瞬間、もの凄い焦った表情で突進してくる金剛さんの姿と、「駄目です!」って叫ぶ榛名さんの声が聞こえた。なんだろう?って思った瞬間、アタシの口の中はこの世のものとは思えない味と臭いに侵されて‥‥‥アタシはその場で意識を失った。ヌイヌイちゃんが涙目で「ポイポイ!確りして下さいっ、ポイポイっ!」って叫んでたっぽい。

 

その10分後に目を覚ましたアタシ。比叡さんが「ちょっと失敗だったみたい。ごめんなさい」って謝ってくれた‥‥‥‥‥‥って、ちょっと!?ちょっとの失敗で気を失う程の食べ物って!?比叡さんの作ったものは‥‥‥今度から遠慮するっぽいぃぃ。

 

どうせなら、って、金剛さん達と途中まで一緒に移動。比叡さん、会う艦娘みんなに挨拶の度に改まって敬礼されまくってた。やっぱり『御召艦 比叡』は日本の艦娘にとっては特別な存在っぽい。

それと、これはビックリしたんだけど。横須賀の艦娘、何とみんなアタシの事知ってた。そんな有名になるような事したっけ?うーん‥‥‥え?戦艦棲姫?だって、アレはヌイヌイちゃんを助けようと思ってたから無我夢中だったし、殆んど相討ちだし、って、え?練度半ばの駆逐艦だけで姫級に勝ったのって、初代の漣だけなの?アタシのした事って‥‥‥。

 

「頑張って下サイネ!」って終始笑顔で手を振ってくれてた金剛さん、それとは対照的に天を仰いでた比叡さんと、足柄教官と別れて、アタシ達は執務室へ。艤装?呉から輸送してもらって、コッチで受け取る事になってるっぽい。

 

執務室でヌイヌイちゃんを代表に提督さんと挨拶。大鳳さんにも久し振りに会った。大鳳さんは茶色がかった黒髪のショートボブに、茶色の瞳。えっと、背はアタシ達とおんなじくらいっぽい?駆逐艦みたいで可愛いって言えば何となく通じるっぽい?うーん‥‥‥。

大鳳さん、薄手の上着だけで寒く無いのかなぁ?まあ、いっか。

 

このあとに合同で訓練して、最後に演習。艤装の点検がまだ済んでないとかで、アタシ達は時間をもて余し中っぽい。大和さんと熊野さんは二人で何処かに行っちゃってるし、榛名さんと霧島さんはまた金剛さん達の所へ。うーん、ヌイヌイちゃん、萩風、何して時間潰そっか?

 

*********

 

ハァ‥‥‥足柄だけど。何よ、またアンタなの?私は忙しいって言わなかったかしら?

金剛と比叡のこと?そうね。大本営も扱いには困るみたいね。駐英大使の娘だし、何かと横槍を入れられたくないから横須賀には置きたくないみたい。金剛はあんな性格だしね。けど金剛が山本少佐をねぇ。まあ、仕事に支障が無ければいいんじゃない?

理由はもう1つ。比叡の影響力の高さもあるわね。アンタも見たでしょ?恐らく比叡ならその気になれば数日で全艦娘を結託・統率させる事もできる。それほど御召艦・比叡は艦娘にとって特別なのよ。本人にはそんな自覚無いでしょうけどね。え?比叡は大本営に対するようなそんな行動起こさないだろう、って?違う違う。比叡が、じゃない。大本営は『私達』が比叡を担ぐのを恐れたのよ。私や島風、武蔵が傍に居たらそういう事をするかも知れないでしょ?万が一、に備えてでしょ。‥‥‥‥‥‥チッ。

 

それと、曙に対して、って面も有るでしょうね。性格上金剛は曙に絡むでしょうし、そうやって曙の身動きを取れなくさせるのもあるんでしょ。

 

ほんっと、歳はとるものじゃないわね。邪推ばっかり。‥‥‥は?私の歳?へぇ、良い度胸じゃない。分かった、教えてあげるわ。だから海上まで連れてってあげるわね。大丈夫よ、置き去りにしようなんて少ししか考えてないから。

 

ハイハイ、分かった分かった。仕方無いわね。それじゃ、私は自分の艤装の手入れに行ってくるから。何でって‥‥‥決まってるじゃない。駆逐棲姫『夕立』と一戦交えるのよ?その為の準備よ。あの子は必ず現れる。私、武蔵、島風、川内、熊野、夕立。エサは揃ってるもの。アンタも寝首を掻かれないように気を付けなさい。




ポイポイ、晴れて比叡の艦娘被害者第一号となりました。御愁傷様です。

演習は次回に持ち越しです。

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