やることも特に思いつかなかったアタシとヌイヌイちゃん、それと萩風。3人で向かったのは食堂。勿論、間宮さん謹製のスイーツを食べに行く為っぽい。だって、だって!大和さんに聞いた餡蜜、すっごく食べたかったっぽい!
席に着いたアタシ達。テーブルの向かいにヌイヌイちゃん、その隣に萩風で、ヌイヌイちゃんと正面にアタシ。ワクワクしながら待ってた。アタシが1つ。ヌイヌイちゃんと萩風が二人で普通サイズ1つを注文。って、二人で1つでいいの?足りるのかなぁ?
あれ?ヌイヌイちゃんも萩風もクスクス笑ってる‥‥‥何で?
原因は簡単だった。アタシが頼んだ餡蜜、まるっきり大和さんが食べたのと同じもの。つまり、大盛。えっと、弩級艦サイズ。目の前に運ばれてきてやっとそれに気が付いたっぽい。ヌイヌイちゃんも萩風も知ってて止めてくれなかった。アタシの前にそびえ立つ巨大餡蜜。あぅ‥‥‥こんな大きいのお腹に入らないっぽい‥‥‥。
「二人とも知ってたっぽい!?酷いっ!?」
ヌイヌイちゃん、「何時もヤキモキさせられている仕返しです」って言ってた。アタシ、最近は上手く戦えてると思うんだけど?それともヌイヌイちゃんに何か悪い事してたっぽい?‥‥‥え?鈍感?何で?
「うぅ~」って唸りながらアタシがスプーンを持った時だった。アタシの視界に、ちょうど萩風とヌイヌイちゃんの背中の方から近付いてくる人が見えた。あ、ヌイヌイちゃん達と同じ制服‥‥‥。狐色のセミロングの髪を黄色のリボンでツインテールにしてて、ワンレングスの前髪。あ、前髪の分け目辺りから髪の毛が一房飛び出してる。えっと何だっけ、あ、そうそう、アホ毛っていうやつ。目尻の少し上がったキリッとした狐色の瞳。あれ?どこかで見たような‥‥‥うーん。
その人はそーっとヌイヌイちゃん達に近付いて、今まさにヌイヌイちゃん達がスプーンを持ったタイミングで後ろから二人に抱き着いた。
「二人ともっ」
驚いてその人の声に振り向いた二人。ヌイヌイちゃんの表情が固まった。あ、やっぱり知ってる人なんだ?
「かげ‥‥‥ろ‥‥‥う‥‥‥?」
やっと絞り出したヌイヌイちゃんの言葉。そう、その人は陽炎さん。ヌイヌイちゃん達陽炎型のネームシップだった。
暫く停止してたヌイヌイちゃんの表情は、ゆっくりと崩れていく。瞳から涙が流れて頬を伝い、その泣顔を隠そうともしない。
「うん、不知火。萩風も。二人とも直ぐに分かったわ。久し振り、って言ったらいいのかしら?人としては初対面の筈なんだけどね?」
クスッて笑った陽炎さん。ヌイヌイちゃんは耐えられなくて陽炎さんの胸に顔を埋めて泣きはじめちゃった。あんなヌイヌイちゃん、滅多に見られない。萩風も嬉しそうにしてる。
「不知火、大丈夫よ。今度は一人残していったりしない。約束するから」
あー、そっか。大戦の記憶っぽい。駆逐艦陽炎は先の大戦で駆逐艦不知火を残して先に沈んじゃったんだっけ。ネームシップを失った陽炎型は、それ以降『不知火型』って呼ばれて‥‥‥きっとその頃の切なさとか辛さとかがヌイヌイちゃんに一挙に押し寄せたっぽい。ヌイヌイちゃんが人目を憚らずに泣く程の辛さが‥‥‥。
「ほら、萩風もおいで。ねっ?」
ヌイヌイちゃんの頭を撫でてた左手を拡げて、今度は萩風の事を呼ぶ陽炎さん。少しだけ戸惑った萩風も、陽炎さんに抱き着いた。あー、いいなぁ。アタシのお姉ちゃんに当たるのって白露型だと白露さん?アタシ人間的には長女だからなぁ。確かに妹に甘えてる部分はあるけどああいう感じとは違うし。ああいう風に甘えみたいっぽい。
そんなアタシの様子に「ん?」って気が付いた陽炎さん。アタシにも微笑んでくれた。あれ?これ、もしかしてアタシも抱き着いていい流れっぽい?そうと決まれば、善は急げ。陽炎さんに向かってダイブっぽい!
それから。ヌイヌイちゃんが落ち着くのを待って。陽炎さんも交えてアタシ達四人は色んな話をした。呉や横須賀の世間話とか、陽炎さんが今は龍田さんや阿武隈さんに鍛えられてる事とか。それからアタシの話も。これは主に萩風とヌイヌイちゃんが話してた。自分の話ってちょっと恥ずかしいっぽい。
あ、勿論巨大餡蜜が食べ切れないからアタシの分はみんなで分けた。‥‥‥この時は気にもしてなかったけど、結果的にはこの餡蜜がアタシ達の運命を決める事になったんだけど。
***
「夕立ぃ!!だーれが一分前行動だなんて教えたかしらぁ?」
勿論アタシ以外は全員揃って整列してる、合同訓練一分前の海岸。今来たばっかりで息を切らすアタシに向かって声を張り上げる足柄教官。ヒィィ!?間に合ってる!一分前だけど開始時間には間に合ってるっぽい!遅刻はしてないっぽいぃぃいぃ!?
「10分前には集合しろ、って言ったわよねぇ?説明まで終えて1300丁度に開始できるように、って。これはつまり遅刻、よねぇ?」
アタシは顔面蒼白。ヤバいヤバいヤバいヤバいっぽい!こっ、殺されるっ!
「そう思うっぽい、のですがっぽい‥‥‥」
あー、もう自分でも何言ってるのかよくわからない。ごめんねヌイヌイちゃん、アタシ、どうやら此処までっぽいぃ。
「なぁんだ、分かってるんじゃない」
笑顔の奥に漆黒の闇が見える足柄教官。教官の両手がアタシの頬に触れた次の瞬間、グキャ、って音と共にアタシの意識は途切れた。一瞬の出来事だったっぽい。
そのあと少ししてから目を覚ましたアタシ、大和さんに抱えられて海上に居た。大和さんの話だと、アタシの首は一瞬だけど曲がったらいけない方向に曲がってたらしいっぽい。ガクガク。足柄教官怖い、怖いっぽいぃぃ。
「概要は私が説明しますから」
大和さんに移動がてらに訓練の説明をしてもらう。今アタシ達の艤装に積んであるのは、演習弾じゃなくって実弾っぽい。実践を想定しての訓練をするみたい。やっぱり駆逐棲姫の件があるから、近くの海でも警戒しての事なんだって。
「そういえば‥‥‥夕立さんに熊野さん、それと島風ちゃん‥‥‥偶然、でしょうか?」
大和さんが言うには、今回の演習には駆逐棲姫に襲われた艦が揃ってるって。横須賀の第一艦隊が態々アタシ達第三艦隊と実弾訓練をする動機もよく分からないって。
「うーん、それってもしかしてまた駆逐棲姫が来るって事っぽい?」
その時は何となくな発言だった。でも大和さんの表情はハッとしたものに変わって。「それなら辻褄が合います」って。駆逐棲姫を呼び込む為の罠なら、繋がるって。でも‥‥‥。
「でも、また来るって保証は無いですし‥‥‥それに、足柄教官が同行する理由が不明ですよね‥‥‥」
あー、大和さん、また考え込んじゃった。でもアタシには何かが引っ掛かる。少なくとも、駆逐棲姫はアタシと熊野さんの事は探してるのは間違いない。『ヤットミツケタ』って言われたし、熊野さんに至っては『クマノサン』って名前まで呼ばれたって言ってたし。アタシと熊野さん、島風ちゃん、それから足柄さんの共通点ってなんだろう?
‥‥‥って考えてたら、目的の海域に到着。ま、いっか。今度は横須賀第一艦隊も一緒だし、駆逐棲姫が現れても返り討ちっぽい!
*********
とある鎮守府の執務室の扉の前。優男に報告を持っていくあたし。
「曙よ。入るわね」
中には優男(やさおとこ)‥‥‥今のあたしのクソ提督一人。秘書艦の電は今日は休養日。今日はあたしが秘書艦代理。
「例の高速戦艦の二人、ココに着任なんでしょ?」
「ああ」って素っ気ない返事の優男。コイツ本当に頼りになるのかしらね?話によると金剛型の一番艦がコイツにデレッデレらしいけど。あたしには色恋なんかに現を抜かしてる暇なんて無いんだけど。この女っ誑しがっ。これだから男ってヤツは‥‥‥!
あたしが持ってきた物は、デイリー任務の書類の山‥‥‥と、それに紛れ込ませたある報告書。それをこの優男に手渡す。
「それ、アンタはどう思う?」
内容は横須賀鎮守府第一艦隊と呉鎮守府第三艦隊の合同演習とそのメンバー。まっ、あたし達が見れば大本営の思惑は透けて見える。演習のメンバーは餌‥‥‥クソっ、あたし達は所詮は大本営の駒って事ね。せめて不知火達の奮闘を祈るしかないわね。
形を変えたネームシップとの『再会』でした。陽炎さん、これから横須賀で頭角を現して‥‥‥。
え?ボノボノですか?七駆好きですけど何か?