抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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急襲

 

「連装砲ちゃんも何かあったら知らせてね」

 

並走しながら連装砲ちゃん達に指示を出してる島風ちゃん。深海棲艦を見付けたら知らせろって事かと思ってたんだけど‥‥‥島風ちゃんの言ってる『何か』は駆逐棲姫の事。勿論、他のみんなはそんな事気付きもしない。

この時、既に密かに足柄教官が零式水上偵察機を飛ばしてて、駆逐棲姫を探してたっぽい。流石に加賀さんは零式が飛んでるのには気付いてたみたいだけど、それが駆逐棲姫を探してるとは思わなかったっぽい。一見ただの周辺警戒の為に見えるもんね。

 

東京湾沖。訓練‥‥‥にしては少し遠出し過ぎっぽい。それはみんなが感じてた事。まるで‥‥‥‥‥‥。

 

「今日の海域は、大本営が指定したそうです」

 

アタシの隣のヌイヌイちゃんがアタシにだけ聞こえるようにボソッ、とそう呟いた。周りには聞こえてない。

 

「大鳳さんが首を傾げていました。大本営は、たまに意図の分からない指示を出してくる事があるそうです。曙の異動の件も。‥‥‥今回の事も別に意図があるかと。ポイポイ、気を付けてください」

 

曙ちゃんかあ。曙ちゃんは電ちゃんの鎮守府に異動したんだっけ。水族館‥‥‥いいなぁ‥‥‥‥‥‥ハッ!?‥‥‥そっ、そんな事ちょっとしか思ってないっぽいぽい!

 

大和さんが言ってた通り、たぶん駆逐棲姫なんだろうけど。確かに注意は怠れないけどアタシなら平気。前回駆逐棲姫と遭遇した時は満身創痍だったけど、今回は万全。しかもみんなだって居る。負けるわけ無いっぽい!

 

そんな時だった。訓練開始直前に、足柄教官からアタシ達全員に通信があった。

 

『敵艦見ゆ。総数12。駆逐6、巡洋艦4、戦艦2、旗艦は‥‥‥軽巡棲姫。各自戦闘態勢に入りなさい』

 

軽巡棲姫。黒い袖無しセーラー服を着てて、顔には鼻の上辺りまでのマスクを被ってる。左手には巨大な怪物の頭が歯を剥き出しにしたような、魚雷発射管らしきものが付いている艤装。右腕には、幾つも並んだ単装砲。ただ、過去に現れた軽巡棲姫と決定的に違う事が1つ。他の個体と違って左腕の艤装に付いている探照灯が無い。あれって何だか‥‥‥まるで川内さんみたい‥‥‥。隣には重巡ネ級eliteも居る。

そのネ級eliteの瞳は、真っ直ぐ此方を睨んでいて‥‥‥アタシ達は分からなかったけど、熊野さんに向いていたっぽい。

 

「そう来た、か」って、足柄教官が吐き捨てるように呟いた。同時に武蔵さんと島風ちゃの眼光が一層鋭くなった。

 

『ネ級eliteと他5隻は呉艦隊で。軽巡棲姫他5隻は横須賀艦隊で撃退しなさい』

 

足柄教官の指示にアタシ達が従う迄もなく、ネ級eliteはアタシ達の方へ、軽巡棲姫の方は武蔵さん達へ。あれ‥‥‥?なんだろう。凄く嫌な予感‥‥‥。

 

「熊野さんっ、避けて!」

 

直後、ヌイヌイちゃんが怒号をあげた。驚いて振り向いたアタシの瞳に映ったのは、死角から現れたあの駆逐棲姫が瑞雲発艦直前の熊野さんに砲を放つ姿。瞬間、爆音がして周りの空気が震える。爆発の中心に熊野さんが居た筈‥‥‥熊野さんっ!!

 

『わたくしなら、大丈夫です』

 

通信が聞こえて来た。熊野さんはどうやら無事。良かった。ホッと一息。あれ?じゃあ今の爆発って?

煙が晴れてくる。無傷の熊野さんと共に見えたのは、艤装がボロボロになった霧島さんの姿。咄嗟に庇ってくれたっぽい。

 

その霧島さん、一息ついてたアタシ達に「何してるのっ!反攻しなさいっ!!」って叫ぶ。そうだった。今は交戦中だった。よしっ、今度はアタシ達の番っぽい!

 

『行くよ、夕立っ!』

 

今度聞こえてきたのは島風ちゃんの声。足柄さんは横須賀第一艦隊に加わって軽巡棲姫達と交戦。アタシ以外の呉第三艦隊はヌイヌイちゃんの指揮で重巡ネ級elite達と交戦。アタシと島風ちゃんは駆逐棲姫と向かい合う。

 

「島風には誰も追い付けないよ!!」

 

流石のスピードの島風ちゃん。連装砲ちゃん達を引き連れて、あっという間に駆逐棲姫を囲んで旋回しながら砲撃を開始。アタシも負けてられない。夕立、突撃するっぽい!

 

島風ちゃん達の砲撃の相手をする羽目になってる駆逐棲姫の砲は、アタシの方へは殆んど飛んでこない。よーし、これなら行けるっぽい。魚雷装填‥‥‥。

 

っと、駆逐棲姫が連装砲ちゃんの一体に狙いを定めて強行突破。魚雷にやられて動けなくなった連装砲ちゃんを押し退けて、真っ直ぐアタシに向かってくる。島風ちゃんがその後を追い掛けてくる。

装填された魚雷を放つけど、今のアタシの腕じゃ当たらなかった。畳み掛けるように駆逐棲姫は魚雷を次々とアタシに向かって放ってくる。うわっ、ヤバい。魚雷は横に一列に走って来てて避ける隙間が無いっぽい。何とかあれを止めなきゃ。魚雷?ううん、砲撃して爆発させればどうにか‥‥‥。

 

 

 

 

『助けてっ‥‥‥』

 

 

 

‥‥‥あれ?何だろう、今の声。通信ではないしスッゴク不安定で空耳と勘違いするくらいの声だったけど、確かに聞こえた。

 

駆逐棲姫の放った高速深海魚雷の一発に命中させて、どうにか回避路を作ったアタシ。その僅かに出来た隙間を縫って反攻に出たアタシの耳に、また誰かの声が聞こえて来た。

 

 

 

『沈んじゃうっ‥‥‥助けてっ!!』

 

 

 

ほんの一瞬。駆逐棲姫が迫ってくる間のほんの一瞬だったんだけど、ある光景がまるで走馬燈のようにアタシの瞼の奥に広がって見えた。

 

*********

 

あれ?何これ?白黒の映像っぽい?何の映像?

アレは‥‥‥何?フードを被った少女。真っ白な肌で、真っ白な髪に、赤く光る瞳。太くて長い真っ白な尻尾。あ、深海棲艦っぽい。初めて見る個体。

ソイツが、アタシに砲を向けた。その直後、上空から降り注ぐ爆弾。ソイツの放った艦爆の攻撃。うわっ、あんなに小さいのに艦載機まであるの?って、痛い痛い痛いっ!

完全に艦爆に気をとられちゃった。気付いた時にはもう遅かった。足元で轟音、衝撃。立ってられなくなって、前のめりに海面に倒れた。

 

何が起こったのか分からなくって。取りあえず体勢を立て直さなきゃ、と思って立ち上がろうとしたんだけど。あれ?立てない?何で‥‥‥って思って、頭から血の気が引くのが分かった。

 

『嫌‥‥‥嫌ぁぁぁあああっ!!』

 

アタシの口から出た悲鳴。それで言葉で言い表せないくらいの激痛が走り始めた。アタシの両足は、その深海棲艦の魚雷と砲撃で吹き飛ばされて無くなっていた。血が止めどなく溢れてきて、止まらない。

 

『今助けるよっ!』

 

聞こえた声のほうに目を向けると、島風ちゃんが全速力で此方に向かってきてる。助かる‥‥‥のかな?って思ったのも束の間。その深海棲艦がニタァ、って笑ったのが見えて。アタシの頭上から幾つもの爆弾が降って来た。ソイツの艦爆。あ、これ駄目っぽい。

 

『助けて‥‥‥沈んじゃう‥‥‥助けて、島風っ!』

 

よくよく聞いてると、この身体の人、アタシの声とは少し違う。何処かで聞いた声。‥‥‥えっと、駆逐棲姫によく似た声っぽい。

 

間に合わなくて、深海へとゆっくり沈んでいく。島風ちゃんの伸ばした手は届かなくって。微かにだけど『レ級ゥゥッ!!』って怒り狂う足柄教官の声が聞こえて。走馬燈はそこで途切れた。

 

*********

 

「夕立っ!!」

 

島風ちゃんの声で我に返ったアタシ。飛んできた砲を首を傾けてギリギリ避けた。危なかった。危うく当たる所だったっぽい。

さっきの映像?は気になるけど、今は戦闘中。もう一発高速深海魚雷に砲撃を浴びせて、その爆風を利用して駆逐棲姫との距離を取る。

 

体勢を立て直したアタシ。大きく旋回しながら駆逐棲姫を牽制に砲撃しつつ、隙を伺う。島風ちゃんとアイコンタクトをとって、ある方向に走り出した。

 

アタシと入れ替りで、残りの連装砲ちゃん2体と一緒に駆逐棲姫を砲撃する島風ちゃん。駆逐棲姫も応戦するけど、島風ちゃんには当たってない。島風ちゃんの砲も何発かは当たるけど、駆逐艦とは思えない装甲の駆逐棲姫には大して効いてる様子は無い。

 

アタシが向かったのは、一番近くに居た武蔵さんの所。「武蔵さんっ!」って叫んだアタシの意図を理解してくれて、大きな艤装をアタシの方に向けてくれたっぽい。流石武蔵さん。伊達に川内さんと一緒の艦隊に居る訳じゃ無いっぽい。本当に申し訳ないけど、走る勢いそのままにアタシは武蔵さんの艤装を駆け上がってハイジャンプ。距離は足りる。だって、武蔵さんがやられて動けなくなってる連装砲ちゃんを投げてくれたから。その連装砲ちゃんを空中の足場にして蹴って、進行方向とは逆に砲を放って更に勢いを付けたアタシ。狙うのはたったの一点。島風ちゃんが砲雷撃でアタシから意識を逸らしてくれている駆逐棲姫の頭。

 

今度こそ。大丈夫。爆発に巻き込まれても島風ちゃんがいる。きっと轟沈は免れる筈。駆逐棲姫との争いもこれで終わりにするっぽい。ありったけの魚雷、食らうっぽい!!

 

 




誰かの記憶を垣間見たポイポイの回でした。

次回はvs.夕立棲姫後編です。

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