抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

29 / 158
決着

 

 

何とか着地‥‥‥じゃなかった、着水。駆逐棲姫は‥‥‥駄目だ、無傷では無いけど健在っぽい。それはそうだよね、アタシがどうにか投げつける事が出来た魚雷はたったの一発。アタシが魚雷をお見舞いするよりも早く、駆逐棲姫がアタシに向けて砲撃してきた。あの一瞬でアタシに気付いて、あんな速い反応速度で反撃してくるなんて完全にアタシの予想外。他の個体なら仕留められた筈なのに。完全にアタシの首を狙って放たれたそれを、どうにか身体を捻って避けようとしたんだけど。空中での急な移動なんて流石に無理っぽい。右手に持ってた一発の魚雷を投げつけて、その反動を利用して上半身を右側に捻った。アタシの首に当たる代わりに、左肩に直撃。そのまま大きく吹き飛ばされてアタシは海面に落ちた。アタシの魚雷は駆逐棲姫の艤装のホバー部分を掠めて爆発したっぽい。

 

「痛っ‥‥‥」

 

アタシの左肩は血塗れでピクリとも動かせない。痛みが電流のように走って脳を刺激する。思わず押さえようと左肩を掴んだんだけど、触れた瞬間から更に激痛。不味い。多分、良くても複雑骨折、もしかしたら粉砕骨折してるっぽい。痛いっ‥‥‥。

 

「夕立、大丈夫?」

 

島風ちゃんが寄ってきて右手を差し出す。アタシはそれを掴んで立ち上がった。まだ終わってないっぽい。あっちだって疲弊はしてる筈‥‥‥って、あれ?駆逐棲姫の表情が‥‥‥。

 

『アタシノ事ハ、助ケテクレナカッタノニ‥‥‥!!』

 

確りと右手を握って立ち上がった直後、駆逐棲姫はそう言ってアタシと島風ちゃんに憎悪の籠った顔を向けてた。どういう‥‥‥意味っぽい‥‥‥?

 

「違うよっ!あれはっ‥‥‥」

 

それに答えるように声を張った島風ちゃんだけど、何故か言葉を途中で飲み込んだ。黙って向き直した島風ちゃんはまた駆逐棲姫に向かっていく。アタシは制服のスカーフを外して包帯代りに左腕に巻いて固定。連装砲を改めて右手に持つ。

 

走る島風ちゃんとは反対方向から、駆逐棲姫に砲撃があった。撃ってるのは武蔵さん。どうやら軽巡棲姫は倒したっぽい。っと、それだけじゃ無いみたい。砲撃する武蔵さんを背に、川内さんが駆逐棲姫に真っ直ぐ突撃してきてる。武蔵さんと駆逐棲姫の射線上を走ってるから、普通ならいつ被弾してもおかしくは無いっぽい。けど、川内さんはそんな事意に介してない‥‥‥ううん、多分だけど、『武蔵さんは絶対に自分には当てない』って信頼してるっぽい。

 

武蔵さんの連続砲撃のお陰で、駆逐棲姫は川内さんには上手く照準を合わせられてない。よしっ、アタシも島風ちゃんと一緒に援護するっぽい!

 

川内さんが間髪入れずに魚雷を次々放つ。駆逐棲姫も避けようとしてるけど‥‥‥あれ?さっき迄よりも動きが鈍い?あっ、もしかして、アタシの魚雷が効いてるっぽい!今がチャンスっぽい!!

 

『みなさんっ!離れてください!』

 

あー、大和さんの通信。どうやらアッチも片付いたっぽい。もー、これからってタイミングで。その直後に爆音と爆発。駆逐棲姫に大和さんの砲撃が直撃。美味しい所は全部大和さんに持って行かれたっぽい。

 

『‥‥‥ユル‥‥‥サナイ‥‥‥ユルサナイッポイ‥‥‥‥』

 

煙が晴れて現れたのは、轟沈寸前の無惨な姿の駆逐棲姫。うん、敵ながら此処まで良く戦ったっぽい。あとは。

 

「これで、パーティは終わりにしましょう?」

 

アタシはゆっくり近付いて、駆逐棲姫の口に砲塔を突き立ててトドメの砲撃。鈍い音を立てて奴は沈んでいく。

 

「これで‥‥‥やっと終わったっぽい」

 

みんなに合流しようとクルリって向きを変えたアタシに、突然島風ちゃんが「夕立っ!!」って叫んだ。その理由が全く分からなくてポカンとしてたアタシの髪の間を、何かがすり抜けて左の頬を一瞬掠めた。アタシの頬には擦り傷っていうか、火傷みたいな痕が微かに出来たっぽい。

驚いて振り返ったアタシが見たのは、最後の力でアタシの頭を吹き飛ばそうと砲を放った駆逐棲姫の残骸。‥‥‥ゾッとした。運が悪かったら、あとほんの少しでも動いていたらアタシも一緒に海の藻屑になる所だったっぽい‥‥‥。

 

思わず「ふぅ‥‥‥」って息を吐いた時だった。アタシは急激な頭痛に襲われてその場にしゃがみ込んだ。何‥‥‥これ‥‥‥痛い‥‥‥頭が‥‥‥。慌ててヌイヌイちゃんが走ってきてアタシを支えてくれた。

 

「大丈夫ですか?ポイポイ‥‥‥大丈夫ですか!?」

 

身体が焼けるように熱くなって。意識が朦朧としてきて。ヌイヌイちゃんの心配そうな顔と声が遠くなって。目の前が真っ暗になって。

 

『撃て』

 

『討て』

 

『潰せ』

 

『墜とせ』

 

『沈めろ』

 

そんな声ばっかり頭の中で響く。やだ‥‥‥黙って‥‥‥それ以上言わないで‥‥‥!

 

アタシは、そのまま倒れて意識を失った。

 

*********

 

勿論、合同訓練と演習は中止。即入渠になったのはアタシと霧島さん。霧島さんは入渠が済み次第、後から呉に向かうっぽい。榛名さんは霧島さんに付き添うって。

で、アタシなんだけど。結局丸一日目を覚まさなかったっぽい。起きた時は呉鎮守府の医務室のベッドの上だった。

 

「あれ‥‥‥?」

 

寝惚けてて状況が全然掴めないっぽい。さっきまで海の上だったような?

 

あー、寝癖付いちゃってる。凄く眠ってた。はぁ。何だか犬の耳みたいに髪が跳ねてるっぽい。早く髪を解かして、顔を洗って‥‥‥うん、喉も凄く乾いたっぽい。何か飲み物も欲しい。

 

ボケーっとした頭のまま、フラフラしながら化粧室を目指すアタシ。

 

鏡を覗き込んだアタシは、ビクッて震えて思わず身構えちゃった。だって、だって、鏡には駆逐棲姫が映ってて、真っ赤な瞳でアタシを見てたっぽい!どうして鎮守府内にっ!?

 

思わず後ろを振り向いてみるけど、誰もいない。また鏡を見てみると赤い瞳に犬耳みたいに跳ねた癖っ毛の駆逐棲姫‥‥‥って、あれっ‥‥‥‥‥‥?

まさか、って思って、鏡を見ながら左右の頬をペタペタと触ってみる。鏡の中の駆逐棲姫もペタペタって頬を触ってる。赤い目をパチパチって瞬きしてみると、鏡の方も瞬き。えっ‥‥‥‥‥‥えっ!?まさか、まさかこれ、アタシ!?

 

「ぽいぃぃぃぃい!?」

 

思わず変な声あげちゃった!何これ!?少し大人っぽくなってる!?アタシ、成長してる!?瞳が赤くなってる!?おっぱい凄くおっきくなってる!?通りで胸が重いと思ったっぽい!?えぇぇえ!?

 

‥‥‥‥‥‥騒動を聞き付けて、みんなが集まってきて。提督さんにも呼ばれて。妖精さんの話だと『改二になりかけ』の状態っぽい。提督さんが直ぐに改造の許可を出してくれてアタシは改二になった。

妖精さんによると、アタシの中の『軍艦夕立の魂』の力が急に大きくなってる、っていうのが原因っぽい。うーん、そんなの思い当たるような事‥‥‥って、やっぱり駆逐棲姫、っぽい?姿も似てたし‥‥‥。

 

実は熊野さんもあの戦闘の後、頭痛と微熱を患ってたっぽい。それで、熊野さんの軍艦の力も強くなってるって。うーん‥‥‥。あ、川内さんもそうだったっぽいけど、川内さんは夜戦がしたい一心で体調不良を黙ってたんだって。

 

それは、それとして。急に大人っぽくなったアタシ。何て言うか、心がまだ付いていかない。それから頬を引き攣らせた熊野さんに胸を見られながら「有り得ませんわっ!」って言われて。そのあとそれぞれ自分達の胸を両手で押さえてる瑞鶴さんと熊野さんに「「裏切り者っ!!!」」って涙目で言われた。えっと、えっと、アタシだって好きで大きくなった訳じゃ無いっぽい。まあ、二人はその‥‥‥うん、女の人の価値は大きさでは決まらないっぽい。

 

あ、ヌイヌイちゃんは凄く(夕立にしか分からない)喜んでくれたっぽい。

 

 

 




夕立が遂に改二に到達。対深海棲艦戦が一層捗ります。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。