抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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『50ノット』

 

 

4対1。しかもコッチには軽巡も重巡も居るし、相手は駆逐艦。幾ら自立行動タイプの連装砲が武器でもコッチの優位は動かないっぽい!

 

「連装砲ちゃん、頑張ろうね!」

 

あ、そう言って島風ちゃんが連装砲ちゃん?を一体抱えてる。両隣に一体ずつの、計三体。あれ?数の上では同等なのかな?て事は、練度が上の島風ちゃんがやっぱり有利?

 

「島風、連装砲は一体だけでやりなさい」

 

「んー‥‥‥いいよ」

 

足柄教官からあの自立行動型連装砲を一体に制限したっぽい。それだけアタシ達が弱いって事‥‥‥なのかな?舐められてる?意地でも勝ってやるっぽいっ!

でも。アタシは気付かなかったけど熊野さんは気が付いた。横須賀の提督さんにはまだ会った事無いけど、此処までの一週間で足柄教官に会う人会う人、みんな敬語。それって足柄教官が凄く偉いか大ベテランって事。でも島風ちゃんだけは敬語じゃない。つまり、島風ちゃんが足柄教官と‥‥‥同じくらい大ベテランだからかも。ほら、艦娘って見た目じゃ年齢分からないっぽいし。

 

「やっぱり一筋縄ではいきそうに有りませんわね」

 

熊野さんが川内さんに視線を向けてる。その川内さん、ニヤって不敵な笑み。あ、凄く楽しそう。戦闘狂ってやつ。普通なら引いちゃう所だけど、今この瞬間は心強い。

アタシ達、まだ基礎的な訓練しかしてない。砲撃だって出来る事は出来るけど、その精度もまだまだ。大ベテランっぽい島風ちゃんとやり合うには、四人で連携するしかないっぽい!

 

妖精さん達がアタシ達の艤装に乗り込んで準備万端。海上訓練で使ってる正面の海に着水、単横陣で並んだアタシ達四人と、少し離れた向かいの島風ちゃん。

 

『提督の許可は取ってあるわ。島風、自由にやって良いわよ』

 

「りょーかーい!」

 

足柄教官からの無線に答えた島風ちゃんの表情が変わった。見た目は凄く軽装な‥‥‥寒そうな布地の少ない制服にウサミミカチューシャの、小学生くらいっぽい島風ちゃんなんだけど‥‥‥アタシ達を睨む視線に威圧感を感じる。

 

「行くよ、連装砲ちゃん!」

 

足柄教官の合図で演習が開始‥‥‥だったんだけど。今アタシの視界に見えてるのは連装砲ちゃんだけ。あれ?島風ちゃんは何処?消えたっぽい?

 

「散開ッ!」

 

川内さんの声が聞こえて、全速力で慌ててその場から離れる。さっきまでアタシ達が居た場所を、島風ちゃんが放った魚雷(演習弾)が通り過ぎた。えぇぇえ‥‥‥。

 

危なかったって思う暇も無くって、いつの間にか隣に居た島風ちゃんに蹴り飛ばされてアタシは海の上を転がった。その勢いのまま走る島風ちゃん‥‥‥うわっ、何あれ‥‥‥凄く速い!

 

「っ!このっ!!」

 

漣ちゃんが12.7㎝連装砲で砲撃してるけど、ジグザクに走る島風ちゃんには当たらない。舵で急旋回を繰り返してるのにトップスピードのままの島風ちゃん。反則っぽいぃぃ。

 

川内さんと熊野さんが追いかけるけど、追い付けない。二人とも艦の性能としては35ノットくらいは出てる筈。なのに、差がどんどん広がる。島風ちゃんのスピードが異常っぽい。

 

何か忘れてるっぽい。‥‥‥案の定、熊野さんから通信。『夕立さん、後ろですわ!』って、聞こえた瞬間にアタシは爆音と光に包まれちゃった。演習轟沈判定。これ演習弾だよね?凄く痛いんですけど‥‥‥‥‥‥痛いっぽいぃぃい!!

‥‥‥今思えば、この時の島風ちゃんは最高練度の重雷装駆逐艦。勝てる訳無かったっぽい‥‥‥。

 

「夕立っ!」って声をあげた漣ちゃん、一瞬島風ちゃんからアタシの方に視線を外しちゃった。あ、駄目だよ漣ちゃん。それ死亡フラグっぽい。

 

「おっそーい!」

 

島風ちゃんの魚雷が二本、漣ちゃんに直撃。あー、漣ちゃんも轟沈判定貰った。残ったのは川内さんと熊野さん。あ、これもしかして足柄教官に大目玉貰うフラグっぽい。

 

「熊野っ、『撃って』!」

 

川内さん、何を思ったのか魚雷を二本後ろに投げた。熊野さんは分かったみたいで、川内さんに向けて砲撃‥‥‥じゃない、投げた魚雷を砲撃。命中して魚雷が爆発。あ、熊野さん砲撃上手い‥‥‥じゃなくって、同士討ちっぽい!?

‥‥‥でもそうじゃなかった。なんと川内さん、魚雷の爆発力を利用して勢いよく跳んでる。勿論ダメージももらってて中破判定だけど。魚雷にはあんな使い方が有るんだ‥‥‥。え?普通はそんな使い方はしないっぽい?ふぅん‥‥‥。

 

爆発力のお蔭で川内さん、島風ちゃんに追い付いた。着水と同時に島風ちゃんに抱き付いた。凄い、捉えたっぽい!

 

‥‥‥同時に、川内さんの背中で爆発。連装砲ちゃんの連続砲撃。うっわぁ、島風ちゃんに当たるかも知れないあんな至近距離での砲撃‥‥‥島風ちゃん、よっぽど連装砲ちゃんのこと信頼してるんだなぁ。

 

流石の川内さんも手を離してそのまま転がっちゃった。容赦無く魚雷が撃ち込まれて大破判定。熊野さんが残ってるけど、演習は其処で止められちゃった。敗北。あー‥‥‥絶対怒られるっぽい‥‥‥。

 

「これで分かったでしょう?明日から心を入れ換えて訓練に取り組みなさい」

 

あれ?足柄教官、それだけ?何だか拍子抜けっぽい。大目玉よりは良いけど。

その後島風ちゃんに聞いた事だけど。やっぱり本人の身体能力、要は人としての運動能力も重要なんだって。島風ちゃん、早朝と夜に毎日走ってるっぽい。って言っても、島風ちゃんは走るの大好きみたいだから全然苦にはなってないっぽい。足腰が確りしてるから、さっきみたいな急旋回でも軸がブレなかったって。

強くなる為には身体を鍛えないとダメ。それなら頑張って鍛えるっぽい!‥‥‥‥‥‥明日から。

 

そんなアタシ達の事を、少し離れた所から見ていた人が居た。日本が誇る超弩級艦の武蔵さん。アタシ達は気づけなかったけど、足柄さんと島風ちゃんは気付いてた。あ、川内さんも。

 

アタシ達が艦娘の艦舎に戻っていった後、足柄さんは武蔵さんと話をしてたっぽい。勿論、アタシ達の事について。

 

「‥‥‥武蔵、何かしら?」

 

「お前が自ら教えるとは珍しいな」

 

そう。アタシ達はその時はまだ知らなかったっぽい。普通は新人教育は練習巡洋艦の鹿島さんがやるっぽいって。足柄教官は鹿島さんに同行はするけど自ら教えるのなんて滅多にないって。それだけ期待をされてた、って事もあるっぽいけど、理由はもうひとつあった。

 

武蔵さんは足柄教官の持ってる資料を見ながらアタシ達の後ろ姿を見てた。それで「成る程な」って。

武蔵さん数日後に、足柄教官が自ら教えるのが珍しい事と一緒に『成る程』って言った理由も教えてくれた。

 

「26回。嘗て私と足柄、島風がレ級と戦った回数だ。その間、轟沈した僚艦が三人‥‥‥熊野、川内、それと夕立だ」

 

そうだったんだ。10年くらい前。初期の艦娘達と深海棲艦・戦艦レ級との長い戦い。その間足柄教官が失った仲間。それがアタシ達の前の熊野さん、川内さん、夕立。武蔵さんの話だと、足柄さんはアタシ達に同じような事に‥‥‥轟沈するような事態になって欲しくない、だから、嘗ての仲間と同じ艦種のアタシ達には特別な想いがあったっぽい。漣ちゃんは言うまでもない。足柄さん、初代の漣の自殺を止められなかった、って自分の事をずっと責めてるっぽい。‥‥‥え?初代の漣って自殺だったの‥‥‥?

ううん、待って。今10年くらい前って言った?島風ちゃん、その頃から居たの!?あの容姿で成人してるの!?そんな人に勝てる訳ないっぽい!!

 

◆◆◆

 

アタシ達の新人研修は2ヶ月。艦娘は魂が元々の軍艦のノウハウを備えてるから、慣れてくれば自然と艤装が上手く使えるようになるっぽい。だから、このくらいの短期間。その後は各々バラバラに配属されるのが普通なんだけど、今回は四人とも広島県にある呉鎮守府に配属。お別れしなくっていいのは嬉しいっぽい。

 

けど最後の一週間で、軍艦の過去を乗り越える必要があるんだって。日本の艦娘の殆んどは、宿している軍艦の魂は先の大戦で轟沈した艦。だがら、各々の軍艦が轟沈した海域まで行ってそれを克服しなきゃいけないっぽい。それから、配属して直ぐ出撃になっても大丈夫なように、何度か実戦を経験する。深海棲艦と戦ったり、輸送船を護衛したりする。

 

 

 

‥‥‥鈴谷さんは、そのアタシ達の轟沈海域への遠征に同行してくれた。

 




次回は鈴谷さんと熊野さんのお話っぽい!

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