抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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改二

 

「えっ‥‥‥えっ?」と夕立ちゃん本人が一番驚いていますね。そういう私こと翔鶴も正直驚きを隠せません。

速力こそ34ノットと変わりませんが、他の彼女の各記録は大幅に上がっています。これが‥‥‥夕立ちゃんの真の力、という事でしょうか。唯一の欠点は白露型故の装甲の薄さですけど、それを補って余りある火力と戦闘のセンス。もう駆逐艦とは言えないかも知れません。

 

妖精さんの説明に依れば、今の夕立ちゃんの軍艦の魂の力は他の一般的な艦娘の倍以上。横須賀に行く前よりも明らかに大きくなっているそうです。

全員に言える事なのですけれど、私達艦娘は嘗ての大戦で活躍した軍艦の魂を宿しています。その強さには個人差がありますけど。それから、深海棲艦達も軍艦の魂を宿しているそうです。人間に宿ったモノが私達。そうでないものが深海棲艦、という事なのでしょう。原理は分かりませんが、恐らくは私達の力が深海棲艦と近いものだから攻撃が通じるのだと思います。ですけれど、私達と深海棲艦との力の大きさには決定的な差が有ります。足柄教官達に依ると、明らかに深海棲艦の方が魂の力が強いのだそうです。

夕立ちゃんに話を戻します。今の夕立ちゃんの魂の力は‥‥‥私達よりも深海棲艦側の大きさに近いそうです。だから、規格外の力が出せるのだろう、と。

 

横須賀で有った出来事と言えば駆逐棲姫との一戦。そこで夕立ちゃんに一体何があったのでしょうか?

 

「翔鶴さん、アタシ‥‥‥凄いっ!」

 

手を叩いて喜んでいる夕立ちゃん。彼女の目標は『誰も死なせない事』ですものね。強くなれるのならそれに越した事は無いのでしょう。けれど‥‥‥。

 

私達艦娘は、解体という形で引退して普通の人間に戻った後でも、妖精さん達がキチンと手続きを踏めばまた艦娘として復帰できるのだそうです。そんな艦娘はまだ居ませんけど。ですが、今の夕立ちゃんはそれが難しいのだとか。妖精さんに依れば、夕立ちゃんは軍艦の魂の力が強すぎる為に、一度解体してしまったら下手をしたら軍艦の魂が壊れてしまうかも知れないのだとか。夕立ちゃん本人の身体にも影響があるかも知れない、と。

まあ、夕立ちゃんは深海棲艦との戦争を終わらせる迄は引退しないでしょうし、今のところは大丈夫でしょう。

 

「ええ。駆逐艦としては驚異的な数値です。提督に報告しておきます」

 

データ取りは此処までですね。熊野さん達も順調に強くなっていますし、これは私達第一艦隊としてもウカウカしていられませんね。夕立ちゃん達に負けないように精進しなくては。ケッコン艦ですし私も‥‥‥あれ?夕立ちゃんがケッコンカッコカリすれば更に強くなれるのですよね‥‥‥まさか、提督‥‥‥夕立ちゃんとも‥‥‥?これは、確かめなくては!

 

「夕立ちゃん、私ちょっと用事を思い出したので先に戻りますね」

 

「はい、翔鶴さん!アタシはもう少し動いてから戻るっぽい!」

 

自分の性能を確かめるように水面を走る夕立ちゃん。それを横目に見ながら私は執務室へと戻ります。重婚‥‥‥うぅ、幾ら戦略の為とは言っても‥‥‥あんまり考えたくはありません‥‥‥。我が儘なのかも知れませんが、提督には私を見て欲しい‥‥‥‥‥‥。

 

っと。執務室の前まで来ました。落ち着いて、私。深呼吸をして。大丈夫。提督はきっと私を見捨てたりしない。大丈夫‥‥‥。

 

「提督、失礼します。翔鶴です」

 

「翔鶴か、丁度いい。入れ」

 

中に入ると、提督は書類を1枚持っていました。「今度ウチに配属だそうだ。お前と瑞鶴で面倒をみてやれ」ですって。書類によると、空母‥‥‥‥‥‥!

 

「葛城、ですか」

 

「そうだ。お前達姉妹とは縁のある艦だろう?」

 

提督の言う通り。雲龍型三番艦、正規空母葛城。先の大戦での後輩です。今の私達を見たらどう思うでしょうね。特に、瑞鶴。

 

‥‥‥じゃなくって!夕立ちゃんの事を聞かないと!

 

「分かりました、提督。私と瑞鶴で鍛えます。それと、夕立ちゃんの事なんですけれど‥‥‥強力な戦力になりますし、やはり夕立ちゃんと‥‥‥その‥‥‥ケッコンカッコカリをするのですか?」

 

聞きました。聞いてしまいました。さあ、どうなさるおつもりですか、提督!

 

「‥‥‥そうか。それもそうだな。ケッコンカッコカリなら夕立も大幅に強くなれるしな。うむ。考えておく」

 

えっ‥‥‥これは‥‥‥まさか‥‥‥私、やってしまったのでは‥‥‥‥‥‥墓穴を掘りました‥‥‥。

 

*********

 

あっ‥‥‥えっと、萩風です。今は不知火姉さん、夕立さんと三人で部屋で寛いでいる最中なのですが、凄く居づらいです‥‥‥。

 

「ヌイヌイちゃん、えっと、ちょっと恥ずかしいっぽい‥‥‥」

 

「‥‥‥えっ!?あっ‥‥‥すっ、すみません。ポイポイは随分と大人っぽくなったと思いまして」

 

ほら。不知火姉さん、夕立さんをずっと見つめてさっきまで惚けていたんです。あれだけ見られていれば流石に夕立さんでも顔を紅くしています。というか‥‥‥あんな目で見られてるのに姉さんの気持ちに気が付かないなんて、夕立さんは鈍感過ぎます。

 

「でしょ?エヘヘ、大人っぽくなったっぽい!」

 

いやいやいや、夕立さん、そこは胸を張る所ではなくって、姉さんの気持ちに‥‥‥いえ、確かに胸は大きくなりましたけど。

 

「それにしても、ポイポイの今の姿はあの駆逐棲姫と似ていますね」

 

‥‥‥これは、不知火姉さんの言う通りです。今の夕立さんは犬耳みたいに跳ねた癖っ毛、赤い瞳。白露型の制服とあの駆逐棲姫とよく似ています。駆逐棲姫は夕立さんを狙っていたみたいですし、やはり何か関連が有るのでしょうか?

 

「うーん、確かに似てるっぽい。でも、強くなれるなら」

 

夕立さんには決意が見てとれます。夕立さんなら、きっとこの戦争を終わらせる事も出来るに違いありません。萩風は、少しでもその役にたてるようにもっと精進します。

 

「ポイポイ、もし、もしですよ?この戦争を終わらせる事が出来たら‥‥‥」って不知火姉さん!?それは幾ら何でも脈絡が無さすぎよ!ついさっきの話と離れ過ぎ!

 

「‥‥‥終わらせる事が出来ても、一緒に居られますよね?」

 

そこでヘタれるのね、姉さん。まあ、分かっていました。姉さんもまだそこまでの決心は出来ないみたいです。ほら、夕立さんは夕立さんで「勿論!一緒っぽい!」って。進展はまだまだしないみたいです。みんなヤキモキしているんですけどね。萩風は、陰ながら応援しています。

 

*********

 

ん?どちら様ですか?駄目ですよ、勝手に私の工廠に入っちゃ。私ですか?工作艦・明石ですよ。え?淫乱ピンク?‥‥‥って、失礼ですね!確かに髪はピンク色ですけど、淫乱じゃありません!‥‥‥ミニスカート?いえ、これは行灯袴です。私が自分で詰めたんです。え?腰が露出してるだろうって?‥‥‥って、セクハラですよ!

 

まだ居たんですか?これ以上付きまとうんなら攻撃しちゃいますよ?‥‥‥そっ、そんな事ありません!工作艦だって艦娘なんです!多少は‥‥‥ほんのちょっとは‥‥‥戦力に‥‥‥うぅ、もういいです‥‥‥。

 

私は忙しいんです。あ、貴方、島風ちゃんを見かけませんでしたか?提督から島風ちゃんのタービン周りの改良を頼まれてるんです。島風ちゃん、あれより更に強くなるつもりなんですよ。貴方も少しは島風ちゃんを見習って‥‥‥って、あ、足柄さんと武蔵さん。二人なら島風ちゃんの居場所知ってるかも。聞いてみましょう‥‥‥。

 

 

 

 

「漣‥‥‥辛かったのだろうな」

 

っと。咄嗟に隠れちゃいました。それにしても武蔵さんの今の言葉、少し気になりますね。ロシアに居る漣さんに何かあったんでしょうか?

 

「そうね。騙されていたのも同じだもの」

 

ん?足柄さんの言葉通りだと、漣さんは誰かに騙されたって事?うーん、誤魔化されてロシアに連れていかれたって事でしょうかね?何だか真剣に話してるみたいですし、邪魔したら悪いですよね。此処は見なかった事にして、島風ちゃんを探しましょうか。勿論、貴方も手伝ってくれるんですよね?

 

 

 




流石は翔鶴さん。運の低さは伊達ではありません。

淫乱ピ‥‥‥じゃなかった、明石さんが初出演。

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