抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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とある夏の日

トラック泊地から戻った後の少しの間は何故か凄くおとなしかったヌイヌイちゃんの事は一先ず置いておいて‥‥‥って、だから何でみんな溜め息つくっぽい!?ぶー。‥‥‥っと、そうそう。今は呉鎮守府での日常に戻った。アタシ達がトラック泊地に居る間に七夕は終わっちゃってて‥‥‥七夕を楽しむ迄の余裕は無かったんだ。代わりに亡くなった艦娘達に黙祷はしたけど。

襲撃の件が無ければ短冊にお願い事書いたり出来たのになぁ。轟沈しちゃった子達だってきっと楽しみにしてたと思うのに‥‥‥。

 

アタシ、夏は好き。確かに陸は暑いけど、海上を走るのは快適っぽい。秋津洲さんも『夏の哨戒は気持ちいいかも!』って言ってた通り、何て言うか‥‥‥『気分が高揚します』って感じっぽい?

あ、別に鎮守府内が嫌って訳じゃないよ。冷房効いてて過ごしやすいし。陸上での訓練の時は暑くて辛いっぽいけど。

あー、今日みたいな暑い日はアイスが食べたいっぽい‥‥‥あっ、後で伊良湖さんの所に食べに行こっと。

 

あ、そうそう。アタシの事についてなんだけど。改二になってから、深海棲艦との戦闘時にハイになる事が多くなった。練度が上がれば上がる程。ハイになってる間は感じる痛みに鈍感になったり、思考力が冴えたり、周りが良く見えるようになったり。

攻撃面に着目してみれば良いことばっかり。でも、痛みに鈍感になってる、っていうのは危ない事っぽい。艦娘だって人間だから、神経や筋肉が切れたりしないように脳が無意識にセーフティをかけてる。アタシは戦闘時にごく自然にそのセーフティを解いちゃうっぽい。だから、暴れまわって戦闘が終わってみたら大破だった、とか、この前みたいに筋肉の筋が何本も切れちゃってたり、腕が一本吹っ飛んで無くなってた、とか。そんな危ない事もしちゃってるようになった。

でも、でも、言い訳になっちゃうけど、魚雷数本を直接叩き付けた方がより確実に敵を落とせるし。相手の側まで接近するにはそれなりの被弾もしちゃう。距離があれば避けらるけど、コッチだって零距離で撃たれたら避けられない。だから、艤装と片腕を盾にして突っ込んだり‥‥‥‥‥‥って、あ、それでこの前ヌイヌイちゃんに泣かれたんだった。

 

だから、今はその為の訓練に明け暮れてるっぽい。艦隊のみんなと連携して相手の裏をかいたり、隙ついたり。勿論、アタシが自分でその状況を作り出したり。なるべくアタシの被弾無しに、相手に最大の被害を与える訓練。全く気付かれる事無く接近出来れば、零距離までいかなくてもちょっと離れた位置から魚雷を投げて当てられたりするから。‥‥‥え?アタシの雷撃の命中精度?聞こえない~、聞こえないっぽい~。

 

ハイになってる状態に任せて突っ込んじゃう癖のある、装甲の薄い白露型のアタシの為の訓練っぽい。‥‥‥理想は、この前の駆逐棲姫みたいな動きなんだ。駆逐棲姫みたいに何時の間にか接近されてて、あっという間に重い一撃をもらってて。そんな感じっぽい。

 

提督さんも『期待している』って言ってくれてる。えへへ、頑張らないとね。アタシには正統派な島風ちゃんや綾波ちゃんみたいな砲雷撃の狙撃の技術が足りないから、別の得意な所を伸ばすっぽい。あ、そう言えばその時に提督さんの隣に居た翔鶴さんが複雑そうな表情してたけど、あれって何だったっぽい?

‥‥‥え?ケッコンカッコカリ?アタシが?へへーん、そんな事あるわけないっぽい!提督さんと翔鶴さんはお似合いだと思うし、アタシなんて二人から見たらまだまだお子様だし。あ、でも情熱的に告白されたらちょっと考えちゃうかも。なーんて。

 

それからそれから。暁型の子が来月に呉に戻ってくるっぽい。うん、暁型駆逐艦一番艦の暁ちゃん。どんな子なんだろう。仲良くなれたらいいなぁ。

って、あれ?ヌイヌイちゃん何してるんだろう?探し物っぽい?

 

「ありました」

 

ヌイヌイちゃんが見せてくれたもの。えっと‥‥‥ナニコレ?船の形をした容れ物?‥‥‥‥‥‥あっ、これお皿だ!お子様ランチ用のプレートっぽい!‥‥‥って、え?

 

ヌイヌイちゃん、「これは暁が以前使っていた物ですよ」って。

おっ、おおうっ?お子様ランチ食べてたって事っぽい?暁ちゃんって、もしかして実年齢幼いっぽい??なのにイギリスに行ってるなんて‥‥‥実は凄いっぽい?

 

「暁は歳は確か中学生くらいだった筈ですよ」

 

あー、暁ちゃんって多分、容姿に精神年齢が引っ張られてるパターンっぽい。身体が若いから精神年齢もそのまま‥‥‥ほら、足柄教官みたいに。あっ、今の話は足柄教官には内緒っぽい。アタシだってまだ死にたくないっぽい‥‥‥。

 

「うーん、でも流石に今はお子様ランチは食べないと思うっぽいけど‥‥‥」

 

アタシのそんな言葉にも、ヌイヌイちゃんは「大丈夫です。ナンダカンダ言いながら嬉しそうに食べる筈ですから」って。 そう言えばヌイヌイちゃんはずっと暁ちゃんの教育係だったんだっけ。ヌイヌイちゃんが言うならそうなのかなぁ?

 

後での話になるけど、暁ちゃんが戻ってきた時、暁ちゃんは『もう子供じゃないんだからね!』って言いながらも『でも折角用意してくれたし、一人前のレディとしては食べてあげるのが当然よね!』って凄く嬉しそうに食べてたっぽい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

うーん、林間学校ですか‥‥‥確かにそういう事も大切でしょうけれど、子供達だけで大丈夫なのでしょうか‥‥‥。やはりココはわたくしが見つからないように見守って‥‥‥ですがそうなるとわたくしの外泊届けが必要に‥‥‥。

ハッ!?何時の間にいらしたのです?言ってくだされば良かったですのに。

 

熊野です。はい?林間学校ですの?まさか。行くのはわたくしではありませんわ。‥‥‥‥‥‥あの、わたくし年齢的にはまだ高校生ですのよ?娘なんて居ませんわ。ええと、行くのは鈴谷の妹さんです。はい。鈴谷のご両親は既に他界されていますので。今までは鈴谷が妹さんの保護者でしたのですが、あんな事になってしまって。ですから今はわたくしが陰ながら援助させて頂いております。はい?いえいえ、小学生に一人暮らしさせるような事は流石に出来ませんわ。ですから妹さんがお世話になっている施設に援助しております。ひと月たったの1000万円ですので足りているか不安ではありますけれど、施設の方が『それ以上は申し訳なくて受け取れない』というので。

わたくしの名前は伏せてもらっています。変に負い目のようなものを感じて欲しくはありませんし、鈴谷の妹さんに何かしてあげたいというのは熊野としては当然の事ですので。

 

写真も何枚か頂いております。妹さん、まだ幼いですがその容姿は鈴谷ソックリ。成長してあの時の鈴谷と同じ位の歳の頃にはさぞかし綺麗になるかと。ええ。分かっておりますわ。妹さんがその位の歳になる頃迄には、きっと海の平穏を取り戻してみせます。

 

はい?平穏を取り戻した後、ですか?そうですわね‥‥‥わたくしは、艦娘として海軍に残ろうと思います。深海棲艦が消えたら‥‥‥その時はわたくし達艦娘は各国の戦争の兵器。今でこそ世界は一丸になっていますけれど、恐らく深海棲艦という共通の敵がいなくなれば再び各国は啀み合う。そして、艤装を備えれば通常兵器の一切が効かないわたくし達は切札となる。そうなれば、今度は今まで協力しあっていた他の国の艦娘と戦争をする事になる。夕立さんや萩風さん、吹雪さん達はそんな事想像もしていないようですが、それが現実です。それなら。人殺しの道具となるのなら。他の方のぶんもわたくしが背負います。艦娘になる時に覚悟はしておりますわ。ええ、平気です。鈴谷の妹さんにはそんな思いはさせたくありませんし。勿論、夕立さん達にも。

 

‥‥‥先程の話は今は忘れてください。当面は中枢棲姫達を如何にして止めるかです。わたくし達も毎日努力はしておりますが、果たして何処まで戦えるか。

 

さて、わたくしはそろそろ。もう時間ですので。はい。これから訓練です。今日は夕立さんと萩風さんの為のメニューですわ。

外は暑いですけれど。‥‥‥え?水着でやればいい、ですか?御冗談を。幾ら海の上だからと言っても砲雷撃戦をするのに水着なんて‥‥‥はいっ!?夕立さんも榛名さんも水着を着て艤装を装備していた、ですか!?大和さんまでですか!?

はぁ。日焼けはお肌の大敵ですのに。有り得ませんわ。

‥‥‥待ってください。何だかわたくしに対する悪意のような、当て付けのようなものを感じるのですが。‥‥‥あの、視線をわたくしの胸に向けないでくださいませんか?

 

はぁ‥‥‥では、ごきげんよう。


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