抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

35 / 158
ドロップ

アタシと萩風は、今は呉鎮守府の正門前で待機中。ほら、暁ちゃんが来る日っぽい。ヌイヌイちゃんに話では聞いてるし、悪い感じの子ではないっぽいんだけど。

あ、アタシ達の時みたいなおっきい車っぽい。後ろには大きなコンテナ。きっとあれに艤装が入ってるっぽい。

 

降りてきたのは‥‥‥あ‥‥‥やっぱり軍艦の夢で見たのと同じ姿。紺色のロングストレートの髪。響ちゃんみたいな前鍔のついた戦闘帽。白と紺色の暁型のセーラー服に黒ニーソ。うーん、見た目は小学生‥‥‥背伸びしても中学生‥‥‥。あ、コッチに気付いたっぽい。近付いてきた。

 

「貴女達も艦娘よね!暁型駆逐艦の一番艦、暁よ!一人前のレディとして扱ってよね!」

 

えっと‥‥‥どう見ても子供っぽい‥‥‥実年齢もアタシや萩風の下っぽいし‥‥‥一人前のレディ、かぁ。うーん‥‥‥。

 

「貴女、アイドルとかやってないわよね?」

 

暁ちゃん、ちょっと何言ってるかわからないっぽい。萩風に変な事言ってる。海軍にいるのにアイドルなんて出来る訳無いっぽい。

 

「アッ、アイドルですか!?私がっ!?」

 

ほらぁ。萩風も突然過ぎて困ってる。暁ちゃんって電波さんなのかなぁ?

後で聞いた話だと、イギリス時代の暁ちゃんの提督さんが日本のゲームにハマってて、その中のアイドルゲームに出てくるキャラクターに萩風が似てたって。えぇぇ‥‥‥‥‥って、それキャラクター知ってるって事は暁ちゃんも一緒になってやってたって事っぽいぃぃぃ。やっぱりお子様‥‥‥。

 

「あっ!今、暁のこと子供って思ってたわね!」

 

あっれぇ?なんで分かったっぽい??え?萩風、何?顔に出てた‥‥‥?そっかぁ。だから昔も足柄教官に考えてる事バレたのかぁ。

 

「暁と演習で勝負よ!一人前のレディだってところを見せてやるんだからぁ!」

 

何だか変な流れになってるっぽい。まっ、いいけど。それじゃあ暁ちゃん、正々堂々勝負っぽい。

 

「分かったっぽい。アタシは白露型駆逐艦四番艦、夕立っぽい!」

 

少し勝ち気な笑顔で右手を出したアタシ。対する暁ちゃんは‥‥‥あれ?少し表情が引き攣ってる?暁ちゃん、手が震えてるっぽい?

 

「まっ、まっ、負けないもん!姫級に一人で勝てる駆逐艦が相手でも負けないんだからぁ!」

 

‥‥‥あれっ?アタシの事知ってるの?って、アタシもしかして何だか有名人になってるっぽい!?

ちょっと驚いた。何とアタシ、海外では島風ちゃんや足柄教官達と同じくらい有名っぽい。やっぱり駆逐艦単艦で戦艦棲姫を墜としたのはインパクトあったっぽい。そういえばあれ、艦娘になってまだ半年経って無かったし。今考えてみると確かに凄い事したような‥‥‥。

 

 

それで‥‥‥なんと演習の許可、提督さんから下りちゃった。『夕立も暁も、学んできた事が実になっているか見てみたい』からだって。よーし、提督さんが言うなら全力で当たるっぽい!

 

艤装を身に付けて、演習用の海へ。対面したアタシと暁ちゃん。審判は贔屓‥‥‥?の無いようヌイヌイちゃんと萩風は外されて吹雪ちゃん。って、萩風もヌイヌイちゃんも贔屓なんてしたりしないっぽいよ?え?ヌイヌイちゃんは絶対しそう?うーん、そうかなぁ?

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

連装砲の具合を確かめてるアタシ。対する暁ちゃん、何かブツブツ呟いてる。なんだろう?と思って耳を澄ましてみると「‥‥‥が‥‥‥だから‥‥‥して‥‥‥の時は‥‥‥だから」って。多分、どんなケースでどう動くかとか、どう来たらどう対処するべきか、とか。そんな感じっぽい。見た目に反してヌイヌイちゃんみたいに理論で攻めるタイプなのかな?へぇ‥‥‥‥‥‥愉しくなりそう。

 

「それじゃあ二人とも、演習開始だよ!」って吹雪ちゃんの声と共に、アタシ達は走り出した。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

大変です!大変なんです!偶々千葉県に用があった帰りなのですけれど、お爺さんが『息子の仇を取りに行く』って言って船に乗って海に出ていっちゃったんです!お爺さんは知っている方ではないのですけれど、何とか止めないと‥‥‥。嗚呼、お爺さんが海の怪物に見つかりでもしたら‥‥‥。いえ、止めようとしたんです!ですけど、その、わたしの言い方が弱かったみたいで‥‥‥はい、申し訳ありません。

 

こういう時は一体どうしたら‥‥‥海軍に連絡、でしょうか?けれど海軍の事はそんなに詳しくは知りませんし。こんな事なら艦娘になった姉さんに軍の連絡先を聞いておくべきでした。ええと、一先ず警察でしょうか?

 

よりにもよって此処は九十九里。東京湾側なら直ぐに艦娘が出られるのでしょうけれど。姉さんも横須賀に居るらしいですし。

 

あの‥‥‥沖に鯨のような影が見えるのですが。まさか、あれが海の怪物‥‥‥?早く何とかしなくては。

あっ、あんな所にボートが‥‥‥。持ち主の方、ごめんなさい。あのお爺さんを連れ戻す為なんです。今だけ、少しの間だけお借りします!

ボート内に何か武器になるようなものは‥‥‥銛、くらいでしょうか?使った事はありませんが、薙刀と刀の心得はありますし何とか牽制くらいには使えると思います。

 

私が艦娘だったらあの怪物を排除する事も出来るのでしょうけれど。どうにかお爺さんを連れて逃げないと。

 

 

 

 

‥‥‥何とか間に合った!お爺さんは既に気絶してしまっていますけれど、見た所命に別状は無さそうです。後は此処から逃げ切れるかどうか。1‥‥‥2‥‥‥鯨のような黒い怪物が5体‥‥‥。囲まれましたね。一体を何とか怯ませてその隙に其処から脱出するしかありません。銛が一本‥‥‥これはちょっと早計だったかも知れません。幾ら時間が無かったとはいえ、此れだけで国連軍ですら歯が立たない怪物と戦おうなんて。

足が震えている。怖くないなんて言いません。ですけれど、助けられる命があるのに何もしないよりはマシです。この銛一本でどうやってこの状況を打開しましょうか‥‥‥。

 

!!

後ろから砲撃音!それと風を切る音!嘘‥‥‥こんな‥‥‥こんな形でなんて‥‥‥。

 

わたしの後ろから放たれた砲撃。それはブレる事無くボートへと一直線に飛んできました。ですけれど、それはわたしには当たらなかった。射線に割って入った人影があったんです。ショートの髪に、左目には眼帯。頭には機械的な角のような物が二対。背中に所謂『艤装』を背負い、その左手には‥‥‥刀、ですか?

 

「おい、大丈夫か!?」

 

わたしに声をかけてくれた黒い制服を着たその女性‥‥‥ああ、これが艦娘ですか。本当に海に浮いているのですね。けれど、助かりました。

 

「オレの名は天龍。この天龍様が来たからにはもう大丈夫だ」

 

天龍?さんですか。随分と変わった名前‥‥‥あ、コードネームですか。姉さんも確かそんなような事を言っていましたね。

天龍さんはもう一人の艦娘さんと哨戒任務の途中だったそうです。鎮守府に誰かが通報してくれたみたいで、直ぐにわたしのボートを発見できたとか。

 

「後はオレに任せな」

 

天龍さんは颯爽と海上を走り、鯨のような黒い怪物‥‥‥駆逐イ級を相手にしています。あっ、一体が天龍さんの砲撃で爆発、轟沈していきます。凄い、これが艦娘‥‥‥。

 

けれど、別の方向から、明らかにイ級とは違う怪物が現れました。真っ白な肌の、セーラー服の上だけを着ていてマントを羽織っている人型の怪物。後で聞いた話に依ると戦艦タ級、だったそうです。

そのタ級の砲撃が天龍さんに直撃。後方へと飛ばされてしまいました。天龍さんの手から離れた刀はこのボートの甲板に落ちてきました。天龍さんはなんとか無事なようですけれど‥‥‥タ級の視線はわたしに‥‥‥。

 

ゾクリ、と背筋が凍りました。何故かは分かりませんが、タ級はわたしに憎悪の籠った視線を送ってきます。今度こそ、駄目かも知れません。タ級の砲が、わたしに向いて‥‥‥。

 

一度ある事は二度、といいます。今度も砲撃はわたしには当たらなかった。タ級を横から砲撃したのは、全体的な色は同じでもデザインは天龍さんとは違った意匠の制服。その手に持っているのは薙刀、でしょうか?背中に艤装を背負っていて、肩の辺りで揃えられた髪、頭には天使のようなリング。天龍さんの同型艦、龍田さんでした。

 

「大丈夫?」

 

優しそうな表情で微笑んでくださった龍田さん。天龍さんとはまた違う感じの綺麗な方。『艦娘になれば永遠の美を得られる』なんて話を聞きますけれど、こういう綺麗な方がいらっしゃるからなのでしょうね。

 

「ごめんなさいね。天龍ちゃん、あんなで‥‥‥」

 

あ、いえ。こちらこそです。無茶をしてしまった揚げ句、二度も命の危機を助けて頂いていますし。

 

「ところで‥‥‥その刀、天龍ちゃんのよね?」

 

先程落ちてきた刀。確かに天龍さんの物です。わたしは恐る恐るその刀を拾い、間違いの無いように慎重に龍田さんへ差し出しました。ですが、そんなわたしを見て、龍田さんの表情が一変したんです。

チラリ、と視線を背中の方に向けた龍田さん。その艤装から何かが現れました。一匹‥‥‥いえ、一人の小人さん?

 

「その刀はね、普通の人間じゃ持ち上げる事すら出来ないのよ。貴女、この妖精さんが見えるでしょう?」

 

つまり。わたしは嘗ての大戦で活躍した軍艦の魂を持つ艦娘候補、らしいです。「任せて。私と天龍ちゃんで貴女達の事は守るから」と言って龍田さんは再び海上へ。体勢を建て直して一人奮戦していた天龍さんと合流しています。

 

「おい、オレの刀は!?」

 

「あら~、あの子に貸してあげちゃったわぁ~」

 

そんな会話を交わしながらも怪物達と交戦する二人。わたしは妖精さん?一人と天龍さんの刀と共にボートに残されました。

 

『川内から話は聞いていますよ』と。確かにその妖精さんはわたしに話しかけてきました。川内‥‥‥何処かで聞いたと思ったら、姉さんのコードネーム。

海面は走れませんが、この刀があれば何とか流弾くらいは凌ぐ事ができると思います。いざ動くとなると前髪が邪魔ですね。ハンカチくらいしかありませんが、これを鉢巻き代わりに巻いて‥‥‥これで何とか。

 

 

 

川内型軽巡洋艦二番艦、神通。嘗ての大戦での第二水雷戦隊旗艦、『太平洋戦争中、最も激しく戦った日本軍艦である』と評されたそれこそが、艦娘としてのわたし。

 




前回、今回と二幕へのフラグです。神通、鈴谷の妹の出番はずっと先です。

次回は夕立vs.暁、後編。

*萩風が似てる件‥‥‥某シンデレラなアレの島むr‥‥‥おっと、誰か来たようだ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。