抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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なっ‥‥‥何故なのですか、どうして不知火だけ此処に残して行くのですか!?

吹雪に『暁ちゃんが待ちきれなくて一人で先に行っちゃって心配だから、私と雪風ちゃんは追い掛けて行ったって言えばいいから!』と言われて一人待たされる事10分程。入渠を終えたポイポイが此方に向かって来るのが見えます。手を振ってくれている‥‥‥フフッ‥‥‥っではなくて!吹雪の云わんとする事は分かります。分かりますが‥‥‥今の不知火にはとても無理です。どうしてと言われても、水族館を二人きりで見て回るなど‥‥‥どのように考えてもデッ、デッ、デートではありませんか!

そうこうしているうちにポイポイが‥‥‥。

 

「あれっ?ヌイヌイちゃん、他のみんなは?」

 

ウムムッ、仕方ありません。ここは吹雪に言われた通りに答える他はありませんね。暁には申し訳ないですが他の考えも浮かびませんし。

不知火が答えるとポイポイは思いの外納得してくれました。まあ、暁がウズウズしていたのは事実ですし。不知火に落ち度は無い筈です。

 

「じゃあヌイヌイちゃん、アタシ達も早く行くっぽい!」

 

ポイポイはそう言って、楽しそうに不知火の右手を引いて走り出しました。これは‥‥‥予想外でした。手を繋いで‥‥‥フフッ。吹雪には感謝しなくてはなりませんね、口には絶対に出しませんけれど。

やはり、今はこれでいいのです。ポイポイを悩ませたりしたくはありません。それにポイポイに告白してもしも断られたら、今の関係も終わってしまうかと思うと‥‥‥。ですから、いいのです。

 

「水槽の魚は逃げたりしませんよ。不知火達もゆっくり回りましょう」

 

できるなら、この瞬間は終わって欲しくはない。しかしながら時間は有限。それなら、出来る限り長く浸っていたいものです。

 

大きな水槽を眺めながら‥‥‥っと、赤城さんが虎視眈々と狙っている鰯の大群もいましたね。暗い水槽に幻想的に光る海月、何故かレ級を思い出してしまうリュウグウノツカイを横切り、鮫やエイの泳ぐ水槽群を抜け‥‥‥。不知火達が戦っている戦場の下の海の中にはこのような穏やかな光景が広がっているのかと思うと‥‥‥とても不思議な気分です。もしも戦争を無事に終えられたらダイビングの資格を取ってもいいかも知れませんね。潜水艦の艦娘達はいつもこんな光景を見ているのでしょうか。少し羨ましい。まあ、オリョクルは勘弁ですがね。

 

見て回っている間、ポイポイとは手を繋いだまま。何ですか?決して不知火が繋いでいたかったからでは有りませんよ?ポイポイが離さなかったからです。無理矢理振り解いたりしたら失礼ではありませんか。もう一度言いますが、決して不知火が手を繋ぎたかったのでは有りませんよ?

 

‥‥‥正直、今日世界が終わってしまうのでは、と錯覚するほどの一時でした。ポイポイに聞こえているのではと思う程に鼓動は高鳴っていましたし。

分かってはいますが、勿論ポイポイは不知火をそのようには見ていない。一通り見終えた後に「楽しかったね、ヌイヌイちゃん」と満面の笑みを向けてくれたポイポイの表情は、やはり親友に向ける類いのそれでした。

 

ヘタレ、と言われようが意気地無しと言われようが、今はポイポイに打ち明ける気はありません。今は‥‥‥水槽をバックに撮ってもらったこのポイポイとのツーショットで我慢します。偶然通り掛かって不知火達を撮って頂いた赤城さん、先程の暴言をお許しください。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ヌイヌイちゃんと熊野さんが山本提督さんに丁寧に挨拶をして、山本提督さんはアタシ達に御礼を言ってくれて、曙ちゃんは「また来なさいよ、今度こそ返り討ちにしてやるんだから」って楽しそうに言ってくれた。きっと、きっとまた来るっぽい。今度来る時は榛名さんや霧島さんも一緒に連れてくるんだ。それで、お互い全力で演習やろうね?

 

それで、今はもう執務室を出て帰ろう、って所なんだけど。あれ?あっちでヌイヌイちゃんと吹雪ちゃんが何か話してるっぽい。何だろう?

 

「夕‥‥‥ちゃんと‥‥‥ス‥‥‥した?」

 

んー、所々聞こえなくて吹雪ちゃんが何言ってるのか分からない。けどヌイヌイちゃんの言葉は大きな声出したっぽいから聞こえた。

 

「しっ‥‥‥した訳ないではありませんかっ!」

 

んー?何かしなきゃいけない事でもあったっぽい?吹雪ちゃんは「えー?」って残念そうにしてる。

 

うーん、吹雪ちゃんとヌイヌイちゃんの間の事っぽい?あっ、演習で新しい戦法を試そうと思ってたけど出来なかったとか?それなら仕方無いっぽい。慣れてない事は実戦では上手くいかないし。

‥‥‥なーに?アタシ今ヘンな事言ったっぽい??

 

それにしても、水族館付きの鎮守府かぁ。いつでもお魚さん達が見れるんだよね。いいなぁ。アタシ、テンション上がりっぱなしでずっとヌイヌイちゃんと手を繋いでた。ヌイヌイちゃん、迷惑じゃなかったかなぁ?

‥‥‥呉鎮守府にも水族館作ってくれないかなぁ。あ、それか曙ちゃんみたいに少しの期間出張させてもらうとか?うん、後で提督さんに聞いてみよーっと。

 

あっ、そうそう。『ドラまんぼう』なんだけど、どら焼きだった。後で呉のみんなで美味しく食べたっぽい!

 

それで。帰りも陸路だったんだけど。その車の中でアタシ達宛に通信が入った。勿論東郷提督さんからだったんだけど、タウイタウイ泊地の艦娘が哨戒中に新たな深海棲艦‥‥‥防空棲姫?を見つけたって通信。パラオ泊地やブルネイ泊地、リンガ泊地の艦娘達が共同作戦で討伐に向かったらしいっぽい。トラック泊地やブイン基地なんかのみんなは待機、だって。そうだよね、まだ討伐作戦に参加するほどは復旧してないっぽいもんね。

防空棲姫かぁ。名前だけしか分からないけど、アタシが上空から攻めようとしても撃ち落とされちゃう、とかなのかな?防空ってついてるくらいだし。深海棲艦にも防空駆逐艦って居るんだなぁ、アタシも気を付けなくっちゃ‥‥‥そういえば、トラック泊地の攻防で轟沈した子に防空駆逐艦が居たよね?秋月さん。‥‥‥あれっ?偶然‥‥‥だなぁ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

はぁ‥‥‥やれやれ、またアンタか。私の所に来てもなーんにも楽しい事なんて無いわよ?今私がやってる事は‥‥‥。

 

「足柄さんっ、答えてっ!!」

 

あー神風、そんな大声出さないで。ちゃんと聞こえてるわよ。どうしても答えて欲しいんなら答えるのも吝かではないけど。

 

「神風‥‥‥後悔するわよ?それでもいいのかしら?」

 

全く‥‥‥神風に感付かれたわ。駆逐古姫が神風の妹の春風だ、って。だから画像は洩らすなってあれ程言っておいたのに。ん?神風?目の前に見えてるでしょ?紅色のロングの髪で後頭部に大きな黄色のリボン、大正時代の女学生のような緋色の振袖に桜色の袴の可憐な少女。神風型駆逐艦ネームシップよ。何よ?はいはい、どーせ私はもういい歳ですよ。

 

「後悔してるから!スッゴク後悔してるから!私があの子に『一緒に艦娘になろう』なんて言ったから‥‥‥!」

 

これは駄目ね。感情的になり過ぎてる。説得は厳しそうね。気付いたって大本営にバレたら神風は『処分』されるってのに‥‥‥もうっ!ちょっと目が合っただけの曙の時みたいに『良く似た別人』なんて言い訳聞いてもくれないだろうし。参ったわねぇ。只でさえ秋月の件で頭痛いってのに。

 

「今は抑えなさい‥‥‥‥‥‥あと5年‥‥‥いや、3年待って。きっと貴女の無念を‥‥‥」

 

「そうやって!足柄さんはみんなを騙してきたんでしょう!許さない‥‥‥許さないから!」

 

‥‥‥はぁ。アンタ、今日は帰ってくれないかしらね?見て分かるでしょ?説得するには骨が折れそうよ。私だって、私だって大本営には‥‥‥っと、何でもないわ。だから今日の事は記憶から消去しなさい。私じゃなくて神風の為に、ね。

 

 




愛情と友情の交錯した水族館の回でした。ヌイヌイが思いを打ち明けるのは何時になるのやら。

神風(初登場)にバレました。神風の処遇は次回以降‥‥‥書かれるのかな?

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