抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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思惑

 

 

「お帰りなさい」って萩風の言葉に、アタシとヌイヌイちゃんは「ただいま」って答えた。お土産買おうと思ってたんだけど、山本提督さんはお菓子いっぱいくれた。いい人っぽい。 だから食べ物は沢山あるから、萩風にはイルカのヌイグルミ。ペンギンのような何かじゃないからセーフっぽい。ペンギンも可愛かったんだけどなぁ‥‥‥そういえばどうして開発失敗するとペンギンみたいな謎生物ができるのかな?

 

「姉さん、どうだった?」

 

屈託の無い笑顔でヌイヌイちゃんと話してる萩風。って、ヌイヌイちゃんは「別に‥‥‥どうもしません」って顔を背けちゃった。あれっ?演習は勝利だったとか言わないっぽい?

 

「ヌイヌイちゃん、どうかしたっぽい?」

 

アタシが話しかけてもヌイヌイちゃんはソッポ向いたまま。何かあったのかなぁ?「何でもありません。何か落ち度でも?」って答えてはくれたけど、ヌイヌイちゃんは変わらずソッポ向いてる。耳が少し赤いけど。うーん、ちょっと疲れてて熱っぽいのかな?それなら早く寝て休んだ方がいいっぽい。

 

アタシは気付かれないようにそーっと近づいて、ヌイヌイちゃんをお姫様抱っこ。「ひゃう!?」って声をあげたヌイヌイちゃんがちょっと可愛かった。そのままヌイヌイちゃんのベッドへ一直線。

 

「疲れてるなら休んだ方がいいっぽい!ほら、ヌイヌイちゃん」

 

急だったからビックリしちゃったみたい。ヌイヌイちゃんの表情が固まってる。あっ、ヌイヌイちゃんが寝返りうってアタシに背中向けちゃった。うぅ‥‥‥やっぱり嫌だったのかなぁ?驚かせちゃってごめんね、ヌイヌイちゃん。あっ、さっきよりも耳が赤くなってる。ヌイヌイちゃんは何時も朝から夜遅く迄頑張ってるのは本当なんだし、やっぱりたまにはゆっくり眠った方が良いっぽい。

 

「たまにはゆっくりしてね、ヌイヌイちゃん」

 

アタシはそのまま部屋の外へ。提督さんに呼ばれてるんだ。アタシに用事って何かあるのかな?

 

寄り道しないで真っ直ぐに執務室へ。あっ、そうだ!この廊下に大きな水槽置いてもらおう!それで、熱帯魚とか飼うっぽい!うん、これから提督さんにお願いしよっと。

 

執務室に入ってみたら、提督さんと翔鶴さん、それに大和さんが待ってた。重苦しい雰囲気ではないんだけど、何だかすごーく嫌な予感がするっぽい‥‥‥。

 

「夕立、現時刻を以てお前に秘書艦代理を命ずる。翔鶴と大和に仕事を教われ」

 

‥‥‥えぇぇ。面倒っぽいぃぃ。どうしてアタシなんかが秘書艦代理なんて?翔鶴さんと瑞鶴さん、大和さんの三人も居たら予備なんて要らない筈だよね??アタシの自由時間が減っちゃうっぽい!

アタシが抗議する隙も無く、提督さんは「それから」って続ける。まだ何かあるの?もうアタシは絶賛ダウナーっぽい。

 

「明日付でお前と大和は第一艦隊に入れ」

 

‥‥‥ん?第一艦隊?大和さんは兎も角アタシまで?えっと、光栄‥‥‥なんだけど、なんだけど‥‥‥‥そっか。ヌイヌイちゃんと萩風とは別になっちゃうのかぁ。ちょっと寂しいかなぁ。同じ鎮守府だけど遂に熊野さんとも別艦隊かぁ。

 

それだけならまだ良かったんだけど。アタシ、部屋移動だって。雪風ちゃんと吹雪ちゃんと同部屋。アタシの代わりに暁ちゃんがヌイヌイちゃん達と同部屋だって。同じ艦隊内の連携の為、っていうのと、ヌイヌイちゃんももう孤立したりする心配も無いっていうのが理由。今更だけど此処は海軍なんだ、って再認識した。アタシ、熊野さんやヌイヌイちゃんとはずっと一緒にやれると思ってたから‥‥‥。

 

「不知火ちゃんには私から伝えておきます」って少し複雑そうな表情の翔鶴さんに椅子に座らされたアタシ。脱走できないように後ろに大和さんに立たれた。あっ‥‥‥もしかして今から秘書艦の仕事覚えるの?待って、待ってっぽい!アタシまだ帰ってきたばっかりで疲れてるっぽい!今からやっても頭に入らないっぽい!アタシもう馬鹿でもいいからやりたくないっぽい!

 

「無理!アタシには無理っぽいぃい!!」

 

喚いてみるけど、駄目だった。「さあ、観念してくださいね、夕立さん」って満面の笑みの大和さんの事が今は凄く恐ろしく思えるっぽい。

‥‥‥ずっと後になってからだけど、この時に執務や秘書艦業務を教わっておいて本当に良かった、って思う。秘書艦としてこの時に提督さん達と仕事ができたからこそ、後のアタシがあるんだ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「そう‥‥‥ですか」

 

司令からの通達を翔鶴秘書艦から聞いた不知火には、そう答えるのが精一杯でした。ポイポイが第一艦隊に異動する事に異存は有りません。ポイポイの実力ならば当然です。中枢棲姫の影響なのでしょうが、近年稀にみる頻度で姫級の深海棲艦が現れている現在、今や駆逐艦の中でも指折りの実力を持つポイポイの力は絶対に必要不可欠です。第一艦隊となれば最前線の凶悪な深海棲艦達を相手にする訳ですからね。

 

時間は減ってしまうかも知れませんが、萩風の指導は引き続きやってくれるでしょうし。

ですが。部屋まで移動する必要は‥‥‥同じ部屋だからこそ自然にポイポイと話せるというのに。別の部屋になってしまったら、不知火には‥‥‥不知火は、ポイポイにどのように話し掛ければ良いというのですか。

 

「‥‥‥はぁ」

 

思わず溜め息も洩れるというもの。ポイポイが遠い存在になっていくような気がしてなりません。不知火は‥‥‥不知火は‥‥‥。

 

「姉さん?」

 

心配そうに覗き込んでくる萩風。迂闊でした、どうやら顔に出てしまっていたようです。

 

「何でもないわ、大丈夫よ」

 

強がってはみるものの、心は重い。不知火はこれでもこの鎮守府、司令の下に長く居ます。司令の考えは何となく分かる。司令は将来的にポイポイとケッコンカッコカリをするのでしよう。勿論、現秘書艦代理にしている大和さんとも。それが邪な理由でなく、純粋にポイポイの力を引き上げる為だという事も。ですが、仮にも『ケッコン』と冠するものです。もしも結ばれてしまったら、不知火には永遠に手が届かなくなってしまいそうで‥‥‥。

 

「姉さん‥‥‥言葉にしなきゃ、伝わらない。夕立さんに言うなら、今しかないわ」

 

‥‥‥全く萩風は。真顔で何を言うのかと思えば。そんな事分かっていますとも。ですが‥‥‥言える訳が無いではありませんか。もし不知火がそんな事を言って、ポイポイが動揺して戦闘に響いたらどうするのですか。

良いんです。不知火は‥‥‥ポイポイが無事にこの戦争を生き抜いてさえくれれば。

 

「‥‥‥姉さんの意気地無し」

 

何と言われても構いません。不知火は、ポイポイの邪魔になりたくないのです。笑顔で居てくれたらそれでいい。今まで通り。

 

「それは兎も角、第三艦隊の戦力低下は免れないわ。萩風、明日から特訓よ?」

 

さて。切り換えも大切です。ポイポイと大和さんが抜けるとなれば、戦力低下は必至です。暁が何処まで出来るようになるのか、萩風を何処まで伸ばせるか。霧島さんと榛名さんとの連携も、熊野さんと共にもっと精度を上げていかなくてはなりませんね。『夕立が抜けてから第三艦隊はイマイチ』などど言われぬようにしなくては。

 

何でしょう?不知火に落ち度でも?涙ですか?この不知火が泣いていると言いたいのですか?そんな訳‥‥‥無いではありませんか‥‥‥。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

それから。アタシは少しずつ業務を覚えていった。その間にも第一艦隊で出撃があったり、中枢棲姫の刺客と思しき深海棲艦の艦隊と激突したりして‥‥‥少しずつだけど、アタシは更に強くなっていったっぽい。

大和さんもアタシと競うように強くなって。あははは‥‥‥大和さんは流石は日本が誇る超弩級艦っぽい。

 

えっと、防空棲姫が轟沈してからどのくらい経ったかなぁ?今はもう2月。もうちょっと過ぎたらアタシも17歳かぁ。時間が経つのって早いっぽい。そう言えばもうすぐバレンタインだ。エヘヘッ、今年は頑張って平八さ‥‥‥提督さんに作るんだ!あのね、アタシもうすぐ練度MAXになるっぽい。それでそれで、提督さんに言われたんだ。『お前(の力)が必要だ。夕立(の力)が欲しい。俺とケッコン(カッコカリ)して欲しい』って。アタシ、初めて告白?されたんだ。えへへ、てっ、照れるっぽいぃぃ。だから、提督さんの期待に応えられるように頑張るっぽい。勿論艦娘としても世界一を目指すけど、女性としても頑張らないと。川内さんや熊野さんみたいにもっと女子力を付けるっぽい。

 

‥‥‥ん?どうしたの?何かあったっぽい?え、ヌイヌイちゃん?ヌイヌイちゃんは大切な親友だよ?えっ?何でそんな顔してるの??




ポイポイは東郷の言葉をそう解釈してしまいました。

ヌイヌイの運命や如何に。次回はバレンタイン再び。


ロー●ンの艦これグッズ、順調に品切出てた中で、棚にギッシリ並んだ二列の勝つカレーパン。誰か足柄さんの為に買ってあげて(←自分も買ってない)

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