抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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呉鎮守府へ

アタシ達は今、海軍属のトラックに揺られて広島県の呉鎮守府に向かってる途中っぽい。鈴谷さんが沈んだ後、熊野さんは数日間元気が無かった。みんなを守る為に、大切な人達を守る為に艦娘になった筈なのに、鈴谷さんの事守れなかった。今のアタシ達が如何に無力でちっぽけなのかがよく分かった。もっともっと強くなって、もう誰も死ななくていいようにアタシは頑張る。

 

熊野さん、今は見た目はいつも通りに振る舞ってる。でも、ふとした瞬間に凄く辛そうな顔をして遠くを眺めてるっぽい。川内さんは「今はそっとしておいてあげなよ」って言ってたけど、本当にそれでいいのかな‥‥‥。

 

落ち込んでると言えば、呉へ出発する前に横須賀の提督さんに初めて会ったっぽい。やっぱり横須賀の提督さんだけの事はあって、とっても忙しいんだって。

それで、その木村提督さん。足柄教官が言うには鈴谷さんの事好きだったっぽい。ケッコンカッコカリする為に頑張って育ててたんだって。鈴谷さんの方は脈無しっぽかったけど。提督さん凄く落ち込んでた。提督として仕事の時に感情を前面に押し出すのはいいのかな?‥‥‥新秘書艦の装甲空母、大鳳さんが溜め息混じりに『鈴谷が居なくなって悲しいのは分かりますが‥‥‥最低限の仕事はして欲しいものです』って言ってた。

そう言えばケッコンは分かるけど『カッコカリ』って何?

 

それから!足柄教官酷いっぽい!「常識人は貴女だけよ。この3バカの事宜しく頼んだわよ?」って両肩に手を置いて熊野さんに言ってた!川内さんと漣ちゃん、アタシが3バカっておかしいっぽい!

 

‥‥‥って考えてたら「着いたよ、夕立」って漣ちゃんに言われて、ハッと我に返った。目の前には大きな門。横須賀の時もそうだったけど、ここ呉も大きい。西日本の防衛の要、呉鎮守府。よーし、此処からアタシの輝かしい艦娘人(?)生が始まるっぽい!

 

「呉鎮守府へようこそ!特型駆逐艦一番艦、吹雪です!皆さん、これから宜しくお願いします!」

 

脇を締めて肘を張らない海軍式敬礼で迎えてくれたのが、吹雪ちゃん。すっごい真面目そうで素直そうな艦娘。吹雪ちゃんとは上手くやって行けそうっぽい。怖い人が出迎えじゃなくって良かった。‥‥‥って、え?『くれ』鎮守府?アタシ、ずっと『ご』鎮守府って思ってた‥‥‥ぐすん。やっぱり3バカで合ってるっぽいぃぃぃ‥‥‥‥。

 

「綾波型9番艦、駆逐艦漣です!宜しくね、吹雪ちゃん」

 

あれ?漣ちゃん、普通に挨拶してる。でも何だか違和感を感じるような‥‥‥。

 

「はいっ!宜しくお願いします、漣ちゃ‥‥‥キャアアアアッ!?」

 

握手をしようとして吹雪ちゃんが漣ちゃんの右掌を掴んだ瞬間、漣ちゃんの右腕がすっぽり抜けて取れた。その腕を掴んだままの吹雪ちゃん、驚いて腰を抜かしてその場に座り込んでる。あ、作り物の偽物腕‥‥‥漣ちゃんがこの前妖精さんと何か相談してたのってコレかぁ。ドッキリ?漣ちゃん、自分の本物の右腕を見せながら「安心してください、付いてますよ?」って言ってる場合じゃないっぽい。吹雪ちゃん先輩なのに‥‥‥。

 

案の定、熊野さんに怒られてる漣ちゃん。でも只では起きない。「熊のん、いいのかなぁ?バラシテモイインデスヨ?熊のん実はボリューム誤魔化すのに胸パッドい」って言ってる途中で真っ赤になった熊野さんに無理矢理口を押さえられて塞がれてる。‥‥‥熊野さん、胸パッド入れてるんだ‥‥‥聞かなかった事にするっぽいぃ。

涙目の吹雪ちゃんに引率されて、アタシ達は呉鎮守府本棟へと案内された。

 

北海道旧本庁舎みたいな、赤いレンガの2階建ての本棟。その門を潜ってみると、中は大正時代のお金持ちの洋風邸宅って感じで、所属の先輩艦娘が何人か忙しなく歩いてた。お仕事中っぽい。

吹雪ちゃんはその中の一人を呼び止めた。ツインテールの弓道着の人。って事は空母?あ、加賀さんとは違う、凄く短いミニスカートタイプの紅い袴。じゃあこの人が加賀さんが言ってた瑞鶴さんっぽい。え?何て言ってたか?えっと‥‥‥『胸部甲板が平らで発着艦しやすい筈のほうの五航戦』。本人の前で言ったら怒られるっぽい‥‥‥。

 

「あ、吹雪ちゃん。お疲れ~」

 

「お疲れ様です、瑞鶴さん!司令官はどちらに?」

 

ほらやっぱり。瑞鶴さんっぽい。良かった、フランクで話しやすそうな人っぽい。

 

「提督なら翔鶴姉と一緒に執務室に居ると思うよ?」

 

答えた後、瑞鶴さんはアタシ達を舐め回すように見てきた。それからニコッて笑って「私は正規空母の瑞鶴だよ。今日から宜しくね、新人さん達」って挨拶して去って行った。うん、ちゃんとアタシ達も各々挨拶は返したんだけど。瑞鶴さん、さっき絶対アタシ達の胸を見てた。きっと同類って思われたっぽい‥‥‥。

 

アタシと漣ちゃん、熊野さんと川内さん、各々顔を見合わせて思わずププッて吹き出した。正規空母なのにちょっと可愛い。何だか仲良くやれそうで良かったっぽい。

 

執務室は階段を上がって二階の一番奥。この鎮守府は内装がやっぱり凄い。舞踏会とか開けそう。シャンデリアとか付いてる。

執務室の立派な扉の前に立って、吹雪ちゃんがコンコンコン、ってノック。中から「吹雪ちゃんですね?開いていますので、どうぞ」って女の人の声が聞こえた。

 

◆◆◆◆◆◆

 

ええっと、まだなのかしら?‥‥‥え?あらやだ‥‥‥コホン。初めまして、翔鶴型一番艦、正規空母の翔鶴と申します。ここ呉鎮守府にて、僭越ながら秘書艦をさせて頂いております。提督‥‥‥ですか?はい、頼りになる御方です。大本営からは『変り者』等と思われているようですけれど、提督としての技量は確かです。でなければ西日本の要、呉の提督を任されたりしません。鎮守府のみんなからも慕われていますし、気遣いも出来る方ですよ?

今は執務中。私も秘書艦としてお側でお仕えしております。そう言えば今日は新人の艦娘が四人着任するんです。ええと、駆逐艦が二人と重巡洋艦、軽巡洋艦が一人ずつ。足柄教官の肝煎りなんだそうです。提督ったら『足柄のヤツが推すんなら間違いは無かろう』ですって。私や瑞鶴の進言は半々くらいしか聞いて頂けないのに、足柄教官の事は信頼されておられるのですね。足柄教官が羨ましいです。提督ったら、人の気も知らないで‥‥‥。

えっ、ええと、話が逸れてしまいました。吹雪ちゃんに迎えに行ってもらっているので、もう少ししたら此処に来ると思うのですけれど。おや?提督が何か呟いているような‥‥‥?

 

「‥‥‥今は熊野と呼ぶべきか。縁とは不思議なものだ」

 

え?提督、それはどういう意味ですか?熊野さん‥‥‥提督と何か特別な関係が?うぅ、気になります‥‥‥。

 

おや、ノックが聞こえましたね。どうやら吹雪ちゃんが戻ったようです。

 

「吹雪ちゃんですね?開いていますので、どうぞ」

 

◆◆◆◆◆◆

 

言われるままに中に入ったアタシ達。声の主はあの人かな?優しそうな瞳、ロングの銀髪に赤いカチューシャ、瑞鶴さんと同じ意匠の道着の、翔鶴さん。この鎮守府の秘書艦さんっぽい。それから、三十前半?くらいの図体の良い男の人。海軍の制服‥‥‥あ、大佐だ。じゃあ、あの人が提督さんっぽい!

 

「ご苦労だったな、吹雪。下がっていいぞ」

 

そう言って提督さんが椅子から立ち上がって此方に来た。吹雪ちゃんは敬礼した後執務室から退散。

 

「楽にしてくれて構わん。まあ、座れ」

 

この提督さん、堅苦しいのはあんまり好きじゃないっぽい。普通は自分が立ってるのに新人に座れなんて言わない。でも上官命令だし、アタシ達は備え付けのソファに座った。

 

「この鎮守府を任されている東郷だ。これから宜しく頼むぞ、新人共」

 

東郷提督、階級は大佐っぽい。うーん、第一印象は悪くないっぽい。ダンディなおじ様、かな?

アタシ達が挨拶をするよりも早く、熊野さんが口を開いた。「‥‥‥東郷大佐?」って。あれ?何だか知り合いっぽい雰囲気。

 

「大佐、その節はお世話になりましたわ。それから、父がとんだ御無礼を‥‥‥」

 

「気にするな熊野。断ったのは此方だしな。それにアンタもあんな事言われて迷惑だったろう?」

 

やっぱり知り合いっぽい。提督さんは普通だけど、熊野さんが少し赤くなってる。それを見て漣ちゃんがニヤニヤしてる。うーん、何があったっぽい?

アタシや漣ちゃんが聞くより早く口を開いたのは、意外にも翔鶴さんだった。「お二人はどんな関係なのですか?」って。あれ?もしかして翔鶴さん、妬いてるっぽい?

 

提督さんによると、提督さんと熊野さんのお父さん(兵器関連の財閥の会長っぽい!)が知り合いで、『うちの娘とお見合いなどどうですか?』って熊野さんのお父さんに言われたっぽい。しかも、熊野さんが隣に居る時に。提督さんは勿論丁寧にお断り。あー、さっきの熊野さん、恥ずかしかったから赤かったっぽい?って、え?熊野さんって超御嬢様っぽい?なのにどうして艦娘に‥‥‥まあ、きっと後で話してくれるよね?

 




夕立、呉鎮へ。艦娘として本格始動。

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