抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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再始動

 

「そうですか‥‥‥申し訳ありません。鈴谷の独断のせいで夕星(せきほ)さんに無理をさせてしまいましたわね」

 

『いえ、それは構いません。みんな生きて戻れただけで充分ですので。それより熊野さん、申請の件どうなってますか?』

 

沖立提督の申請はまだ微妙ですわね。金剛さんが艦娘に復帰なさったので、少しですが戦艦なら他に回す余裕がありますが。

 

熊野です。お久し振りですわね。元夕立、沖立提督の申請は知っての通り。呉への戦艦及び空母の配備です。戦艦はまだしも、空母となると難しい。二航戦のお二人はアジアから動かせませんし、現在ここ横須賀にいらっしゃる赤城さんと葛城さんも異動は難しい。深海棲艦相手に劣勢に立たされているユーロから、ドイツに滞在していた雲龍さんを艦娘として復帰しアチラで配備させて欲しいと要望がありまして。

となると、呉へ空母を配備となると‥‥‥新たな空母の艦娘を見付けてくるか、瑞鶴さんに復帰していただくか。ですが、瑞鶴さんは東郷大将の奥様や沖立提督の説得にも応じなかったと聞いています。

 

ですから、鈴谷には早く一人前になって欲しい所ですわね。わたくしと同じ航空巡洋艦になれば、あとは不知火さんや暁さんが上手く力を引き出してくれます。

目の届かない所に鈴谷を出すのは少し不安でしたけれど、神通さんが居ればきっと今までのように訓練をサボったり鎮守府を抜け出したり、という事も無くなると思いますし。

 

「金剛さんが復帰なさるそうですし、戦艦は近々配備できると思います。ですが、空母となると‥‥‥」

 

『そうですか‥‥‥』

 

夕星さんも少々落胆してるようです。それはそう、ですわよね。今後もいつ駆逐古姫のような事態が起きるか分かりませんし。夕星さんだってあの身体では何度も出撃できませんもの。本当はもう、一度たりとも艦娘として出撃はして欲しくは無いのですけれど。これ以上の無理は夕星さんの命に関わりますし。

 

電話をちょうど終えた時ですわね。漣さんが執務室に。新人の方達の教導の進捗状況の報告ですわね。

 

「あれ?熊のん、ボノボノは?」

 

「曙さんなら提督と出掛けていますわよ?もうじき帰ってくるとは思いますが」

 

はい、山本提督と曙さんは上に呼ばれたらしく出掛けています。ですので、今はわたくしが横須賀の留守を預かっております。

 

「所でさ、さっきの電話の相手って?‥‥‥ハッ!?、さては熊のんの彼氏ですな?」

 

「はぁ‥‥‥そんな人ではありませんわ。呉の沖立提督‥‥‥元夕立さんですわよ」

 

全く。わたくしにそんな方が居る訳が無いではありませんか‥‥‥‥‥‥いえ、大丈夫です。ちょっと今の自分の発言に落ち込んでいるだけですので。この歳で男性とのお付き合いが一度も無い‥‥‥というのはどうなのでしょうか。とは言え、知り合いの方と言ったら山本提督か東郷大将。嗚呼、何だか頭が痛くなってきました。

 

「そっか、夕立か。ヌイヌイもこれでやっと苦労が報われたかな」

 

「それは‥‥‥これからの不知火さん次第では?」

 

さて。夕星さんと不知火さんの仲はこれからどうなる事やら。ここ横須賀から見守らせていただきます。不知火さんはこの5年間、ずっと待っていたのですものね。願わくは不知火さんの想いが通じますように。

 

おや、漣さん、どうかしまして?

どうやら提督と曙さんが戻って来たようです。窓から二人が歩いてくるのが見えますわ。山本提督が前、その少し後ろに曙さん。

心なしか、何時もより曙さんの表情が穏やかに見えます。あ、いけませんわ、漣さん。「ほほぅ、これはこれはボノボノ‥‥‥ニヤリ」ではありませんわよ、全く。冷やかすのは善くありません。まぁ‥‥‥だからといって不倫をしたいというのは看過できませんし、後で曙さんを問い詰める必要が有りますわね。

 

提督はそのまま工廠へ。明石さんと長門さんと何やら相談があるそうです。曙さんは真っ直ぐ執務室へと戻ってきて‥‥‥漣さんに捕まりましたわ。

 

「ボノボノも隅に置けませんなぁ。ご主人様と二人っきりでデートとは」

 

「ハッ‥‥‥ハァ!?なに言ってんのよアンタはっ!そんな訳ないじゃない!呼び出し!デートじゃなくて只の東郷大将からの呼び出しだから!あんな優男(やさおとこ)の事なんて何とも思ってないんだから!」

 

駄目ですわね曙さん。漣さんにデートと言われて顔が真っ赤。これはクロ、ですわね。それに、そんな言い方をしたら漣さんの思うつぼですわ。

 

「ツンデレ!ボノたんのツンデレキタコレ!」

 

「違うわよっ、このクソ漣!」

 

曙さんの気持ちは兎も角。実際に東郷大将から呼び出しが有ったのは事実です。内容は、金剛さんの復帰。それと、その護衛で日本に来日してそのまま滞在するグラーフさん。ユーロはグラーフさんの穴埋めの意味でも雲龍さんの配属を要請している訳ですわね。それから、他にも。提督が工廠に向かった理由でもあります、超弩級戦艦の艤装の復活。ええ、そうです。日本が誇る大和型一番艦、戦艦大和の艦娘復帰、ですわよ。

 

「まあまあ、お二人とも。外出届を出しておきますから、夜は妙さんのお店にでも飲みに行きませんこと?」

 

仕方ありませんわね。今は助け舟を出しておきますわ。尤もらしい言い訳を考えておく時間を差し上げますわよ、曙さん。

 

「おっ!イイねェイイねェ最ッ高ォだねェ!さっすが熊のん!」

 

漣さん、漣さんが居た時の嘗てのウラジオストクの提督の喋り方が移っていますわよ?曙さんも「アンタの顔見てるより妙さんやレンの顔見てた方が落ち着くわ」ではありませんわ。全く、お二人とも本当は信頼しあっているのは知っておりますのに。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

駄目、モウダメ。鈴谷もう動けない。呉に異動したからやっと川内教官の鬼特訓から解放されたと思ったのにさぁ、神通さんの訓練の方が地獄っておかしくない!?しかもさ、息は確かに切らしててスッゴい辛そうだけど阿賀野さんも清霜ちゃんもなんで立ってられるの!?鈴谷なんて起き上がれなくて髪とか土まみれになっちゃってるのに!服も下着も汗で肌に貼り付いて気持ち悪いし、あーもーサイアク!

 

してもさぁ、こんなに厳しくしなくっても良くない?いざ出撃って時に動けなかったら駄目だし。それにさ、ちょっとヤバくなっても提督が助けてくれるって!ほら、この前の出撃で鈴谷も初めて知ったんだけどさ、提督って艦娘で名前を知らない者は居ないあの『化け物駆逐艦・夕立』なんでしょ?

艦娘になって初めて夕立の話を熊野から聞いた時には鈴谷も最初は『幾らなんでも駆逐艦がそんな強い訳ない』って半信半疑だったんだけどさ、実際見て分かったよ。提督、スッゴい強いじゃん。本当に姫級簡単に沈めちゃうし。提督が居れば鈴谷がこんなに急に頑張る必要とか‥‥‥‥‥‥ん?何?

 

「鈴谷さん、後で話があります」

 

ゲッ、神通さんから呼び出し‥‥‥やだなぁ、後で鈴谷だけ特訓とかだったらどうしよう。あーあ、これなら横須賀に居た時の方がマシだよ。山本提督にも会えないしさ。ハァ~~~。

 

で。聞かないで逃げるのも怖いからさ、仕方無く部屋に戻ったんだよね。あ、ほら、鈴谷達の部屋は熊野や榛名さんが昔居た部屋なんだけど。んでさ、鈴谷は椅子に座って、神通さんは窓の外を眺めて。

 

「今私が行っている訓練は、足柄教官が昔行っていたものです」

 

‥‥‥うわ、あれ妙さんがやってたのか。そりゃ妙さんも鬼とか悪魔とか言われるよ。

 

「勿論、貴女のお姉さん‥‥‥先代の鈴谷も受けたものです。あれだけの事を毎日していても、沈む時は沈む。けれど、こうとも言えます。あの訓練にも付いていけないようなら、更に呆気なく沈む。私は、貴女に死んで欲しくないんです」

 

『死ぬ』なんて久し振りに言われたかな。『沈む』とか『轟沈』とかはよく聞いてたけど。なんかさ、ちゃんと人間として見てくれてる、って感じだね。その気持ちは嬉しいけど、鈴谷はお姉ちゃんみたいになれるのかな?曙ちゃんが何時も言ってた。『アンタのお姉さんは凄い艦娘だったのに』ってさ。

 

「ですから、今後は気を引き締めて取り組んで下さい。慣れてきたら、次の段階へ進みますので」

 

ん?‥‥‥ちょっとストップ。次の段階?何それ、もっとキツい事やるって事?

 

「神通さん、次の段階って?」

 

「個人指導です。綾波さんに話を通してありますので。大丈夫ですよ、姉さん‥‥‥川内教官が横須賀第一艦隊に上がる為に足柄教官から受けた特訓ですから」

 

ちょっ、ちょっ!?おかしくない!?えっ?綾波さん、ってもしかして綾波型1番艦のあの『鬼神』綾波!?って、川内教官が受けた地獄の特訓!?鈴谷が受けるの?無理だって!!鈴谷にできる訳ないじゃん!

 

ニコッ、て笑ってる神通さんが余計に怖いんですけど!?

 

 




ゴーヤ「大和さんが遂に復帰で、鈴谷が地獄の特訓決定でち。あとは瑞鶴さんの復帰待ちでち。
ところで、今日はゴーヤの進水日でち!提督のみんなはゴーヤを敬って休ませて‥‥‥‥
って離して!行きたくないっ!オリョクルなんて行きたくないでち!!編成入れないで!
嫌だー!今日はオリョクル嫌でちー!!」


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