「久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです、提督」
最後に山本中将とお会いしたのは何時だったでしょうね。それにしても、幼馴染み相手に『お会いした』なんて妙な感覚ではあります。
東郷‥‥‥いえ、大和です。今は横須賀鎮守府の執務室。提督に着任の挨拶をしていた所です。はい、正式に艦娘として復帰することになりました。
えっ?あの‥‥‥私、まだ20代なのですけれど。
深海棲艦が復活して、日本を始めとする各国は現状苦戦を強いられています。そんな中、超弩級艦の私がのうのうと一般人として生活している訳にも行きません。東郷大将の妻としても、戦艦大和としても人類の為に戦うのは当然。復帰が難しい元艦娘の方達の所に直談判に行っていたのですから尚更です。
まだ口外出来ない事なのですが、中枢棲姫だけでなく足柄さん達が倒した筈の戦艦レ級も活動を再開したらしいです。はい?そうですか、御存知でしたか。
正直、前回の対深海棲艦戦争の時よりも厳しいのが現実。あの時は戦力が揃っていましたし。
少しずつではありますが戦力は戻りつつあります。この間も時雨さんが復帰してくださいました。ですので、余計に大和が復帰しない訳にはいきません。沖立提督‥‥‥駆逐艦夕立が復帰できるのなら大きな戦力になるのですけれど。現状の彼女では非常に厳しい。彼女が艦娘として戦場に出る事は文字通り命を削るのと同じ事ですし‥‥‥‥‥‥えっ?夕立として出撃したのですか!?どうして止めなかったのですか!!彼女の身体は‥‥‥!
取り乱してしまい失礼しました。ですが、沖立提督の身体は今ではもう艦娘としての活動に耐えられない筈なんです。
「それで、だ、大和。君には来月から呉に行ってもらいたい」
「分かりました」
呉鎮守府ですか。懐かしいですね。暁ちゃんや不知火さん達は元気にしているでしょうか?
私がすべき事は何となく分かります。呉の中心戦力として一層の深海棲艦の撃滅に努める事と、沖立提督に無理をさせない事。
「沖立の事、くれぐれも頼んだ」
「はい。この大和、確かに承りました」
その時です。扉をノックする音。それから、懐かしい声が聞こえてきました。
「Hey、テートクゥ!入っても良いデスカ?」
金剛‥‥‥さん?確か彼女はイギリスの大使館に居た筈では?まさか‥‥‥。もうっ、あの人ったら何も教えてくれないんですから。
「入ってくれ」という山本提督の声で勢いよく開かれた扉。そこに居たのはやはり金剛さん。勿論、艦娘金剛として。
「大和、久しぶりネ!」
「はい、お久しぶりです、金剛さん。それから、グラーフさんも」
金剛さんの隣にはグラーフさんの姿。彼女も暫くはここ横須賀に艦娘として着任。また力になってくれるそうです。
「ああ。ヤマトか。久しいな」
笑顔を見せてくれたグラーフさんと握手を交わし、三人並び提督に海軍式敬礼。私達は暫し日本の艦娘の現状を説明されていたのですが‥‥‥金剛さんは変わっていなかったようです。
「テートクゥ!今夜飲みに行きマショウ!美鈴には黙ってマスカラ!」
座って説明している山本提督の左腕に屈んで抱き着いて猫なで声で話す金剛さん。あの、流石にそれは善くないかと思うのですけれど。
「止めないか、コンゴウ」とグラーフさんが止めてはくれましたが、金剛さんの事は少し不安です。山本提督は浮気はしないとは思うのですが‥‥‥。
「曙と鈴谷は良くてワタシだけNOなんて不公平デース!」
待ってください金剛さん。それは一体どういう意味でしょうか?まさか十三さん、貴方‥‥‥。
そう思いつつ山本提督に視線を向けた時でした。扉が再度勢いよく開かれ、鬼の形相の曙ちゃんが入ってきました。
「金剛さんってば何言ってるのよ!私がこんな優男好きな訳無いでしょ!!」
怒鳴り金剛さんを睨む曙ちゃん。おや?金剛さんは『好き』とかそういった言葉は発していなかった筈ですが?成る程。山本提督はおモテになるのですね。ですがこれは、元駆逐艦電‥‥‥美鈴さんの友人として止めなくてはなりませんね。幸い私達の正式な着任は明日からです。金剛さん、曙ちゃん、今夜にでも少しお付き合い願いますよ?
執務室を出た私達。曙ちゃんの外出許可を取っておかなくては。そうですね、場所は妙さんのお店でいいですね。
『はい、酒処 妙でございます』
「東郷ですけれど、予約をお願いします」
金剛さんとグラーフさんを連れていくのを伝えると電話の向こうで妙さんのトーンが少し上がったのが分かりました。妙さんもレンちゃんもお二人に会うのは久しぶりでしょうし。
『そういう事なら楽しみに待ってるわ。レンも喜ぶだろうし』
「はい。時間には間違いなく伺いますので」
さて。それでは今夜はじっくりと話す事にします。金剛さんと曙ちゃんには悪いですけれど、納得するまで許しませんからね?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私は、思い出していた。嘗ての‥‥‥駆逐棲姫との戦いの最中に見た記憶の欠片。駆逐棲姫がまだ先代の夕立だった時の、轟沈の記憶を。あの記憶で相手だった深海棲艦こそ、多分レ級。
「提督、大丈夫ですか?やはりお体の具合が優れませんか?」
確かに瞳は閉じていたけれど。どうやら神通さんに心配をかけてしまったみたいね。大丈夫。決して良くはなっていないけれど、悪化している訳じゃないわ。
「大丈夫よ。ごめんなさい、神通さんに心配かけちゃったみたいね。ちょっと悩みが増えちゃって」
沖立です。
神通さんにも大本営から送られてきた資料を見せたわ。大和さんの呉への着任、それから新たな脅威である戦艦レ級の資料。嘗て足柄さん達が戦った時のデータなんかが載ってる物ね。
「戦艦レ級、ですか?」
「そう。レ級。やっぱり駄目ね、空母が居ないと相手にも出来ないわね」
レ級は文字通り化け物。装甲の固さもさることながら、その火力も他の深海棲艦とは比較にならない。魚雷も当然撃ってくるし、先代の夕立がやられた艦爆まである。一騎当千ってレ級の為にあるような言葉ね。多分今の戦力じゃ近付く事も出来ない。制空権を握られて終わり。鈴谷さんが航空巡洋艦になってもその差は歴然ね。大和さんの着任はありがたい事だけれど、やっぱり瑞鶴さんにもなんとか復帰してもらわないと。
‥‥‥最悪の場合は、私が盾になってでも‥‥‥。
「やはり空母は厳しいのですか」
「ええ。グラーフさんも容易には動かせないみたいでね。何せドイツからの要望で、横須賀(山本提督の元)から動かすなって話みたいだし」
現状、横須賀から赤城さんと葛城さんも動けない。関東以北の攻防が激しくてね。金剛さんの復帰が無かったら大和さんの呉への着任も通らなかったでしょうね。
こうして提督になったっていうのに。何て言うか、歯痒いわね。戦闘は現役の艦娘のみんなに頼るしかないし、私の立てた作戦で全てカバー出来る訳でもない。自分の力の無さを思い知らされるわ。私があの時解体さえされなかったら‥‥‥。
ごめんね、ヌイヌイちゃん。また貴女にばかり苦労を掛けちゃう。きっと、いつかきっと貴女が心から笑える日を迎えさせてみせるから。だからお願い、絶対に沈まないで。
‥‥‥深夜。執務が終わった私は何時ものように、っと。これはみんなには内緒かな。みんなが寝静まった後に密かに入渠してる。気休め程度の回復かも知れないけど、自然治癒に任せてたら治らないもの。勿論、密かにしてるのはみんなに余計な気遣いをさせない為。
けどね、今日はタイミングが悪かったわね。浴槽に浸かって伸びをしてる所に鈴谷さんが入って来ちゃって。
「あれっ?提督じゃん。提督も今入渠?」
鈴谷さん、お姉さんに似て身体の成長も良いみたい。別に熊野さんがどうとかいう訳じゃないけどね。
「ええ。執務も終わったし。入渠した方が疲れが取れるのも早いからね」
「だよね!神通さんの訓練で鈴谷もヘトヘトでさぁ、時間外も訓練漬けだから正規の時間だけじゃ足りなくって。もー汗で身体中ヌメヌメだよ」
あちこち傷だらけの鈴谷さん。そっか。神通さんの訓練なら納得だわ。昔私達が足柄教官から受けた訓練やってるみたいだしね。入渠ならその傷もすぐ治るでしょうし。此処は基本的に24時間入れるようになってるからね。
鈴谷さん、怪我の無い艦娘は入渠出来ないって事気付いてないみたいね。そのまま気付かないでいてくれると助かるわ。
「にしてもさぁ、提督があの夕立だったって知った時はビックリしたよ。鈴谷はまだまだ弱いからさ、これからも助けてくれると助かるんだよね」
「分かった。その時は助けてあげるわ」
‥‥‥あとどれくらい艦娘として出撃できるかは分からないし身体がどのくらい耐えられるかは分からないけど。鈴谷さん、貴女達を守るくらいは何とかしてみせるわ。
「あざーっす、やっぱ提督やっさしー!熊野も曙ちゃんも厳しかったからさぁ!」
きっと戦いはこれからもっと厳しくなる。鈴谷さん、貴女には期待してる。勿論、貴女の事だって沈ませないわ。
艦娘と言えば入渠です。はい、鈴谷は残念ながらポイポイの身体には気付かず。
曙ちゃんと金剛さん、大和さんに朝まで付き合わされましたとさ。
グラーフさん巻き添え。