抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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今出来る事を

 

「提督」

 

執務室。山本提督は腕を組んで窓の外を向いてわたくしに背を向け黙ったままです。考え込んでいるのか応えては頂けません。

全く‥‥‥レ級が現れたのはどうしてよりにもよって呉なのですか。ここ横須賀ならば戦いようもあったと言うのに。大和さんや暁さん達だけでは制空権を握られて身動きも出来ないかも知れません。

 

熊野ですわ。

先程大和さんから連絡がありました。『呉鎮守府正面海域にて戦艦レ級を発見。これから交戦します』と。それと『上官である沖立提督に睡眠薬を盛りました。生きて戻れたらどんな罰でも甘んじて受け入れる所存です』と。どんな理由があっても言い訳でしかない、と考えたのでしょうか?大和さんは何故睡眠薬を飲ませたのかは語らなかった。ですが、十中八九は夕星さんの出撃を止める為でしょう。夕星さんの身体を考えての事。わたくしも同じ立場なら大和さんと同じ事をしていたでしょうね。

 

「熊野」

 

「はい、提督」

 

山本提督は背中を向けたままです。スーッ、とゆっくり息を吸い込み、フーッとそれを吐いて。提督は続けましたわ。

 

「僕の判断ミスだ。やはり葛城を呉に行かせるべきだった」

 

「そんな事は‥‥‥ありませんわ」

 

今思えばレ級は呉を最初に狙うと決めていたのかも知れませんわね。だから、中枢棲姫率いる深海棲艦達に関東以北を中心に戦わせて、わたくし達艦娘の主力を横須賀から西に向かわせないようにした。わたくし達はまんまと陽動に引っ掛かっていた、という訳ですわね。

それでも。勝てる可能性はゼロという訳ではありません。大和さん、神通さん、暁さん、それに不知火さん。彼女達の実力はわたくしが誰よりも知っています。簡単にやられるような方々ではありませんわ。

 

「利根と千歳の二人が間に合ってくれれば何とか、な。それまで踏ん張ってくれる事を祈るしかない」

 

提督の言葉通りです。航空巡洋艦の利根さんと、水上機母艦の千歳さん。呉の近隣の鎮守府にいるお二人が間に合ってくれる事を祈ります。

 

それにしても。夕星さんも夕星さんです。あれだけ出撃は止められていたというのに。一度ならず二度までも夕立として出ようなんて。お気持ちは分からなくもありませんが‥‥‥皆さんをもう少し信頼してあげるべきかと。今回や前回は少し特殊なケースなのかも知れませんが、そう何度も夕星さん自らが出てしまっては他の方の為にはなりませんし。特に清霜さんや鈴谷のようなこれからの艦娘にとっては余計にですわ。山本提督の御先祖様も嘗て『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず』と仰っています。夕星さんももう少し皆さんと良く話して、対深海棲艦との戦闘は任せるべきです。その上で本当に、本当に他に手が無ければ出る、位に留めておかなくては。今度夕星さんに会ったらお説教ですわね。

 

 

 

わたくしは‥‥‥皆さんの無事を祈っております。

 

そうそう。漣さんは暫く輸送任務から外されるそうです。輸送の為には装備を幾つか諦めなくてはなりませんから。そんな万全でない状態でレ級に狙われでもしたら‥‥‥。そう思えば仕方ありませんわ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

鈴谷だよ。

その『戦艦レ級』ってさ、この前の駆逐古姫よりヤバい深海棲艦なんでしょ?鈴谷が足手纏いだから待機っていうのは分かるよ?けどさ、提督を出撃させないで無理矢理眠らせるってどうなの?提督スッゴい強いんだからさ、また出撃してもらった方が確実じゃん?

 

まっ、大和さんに頼まれたから提督の様子は見てるけどさ。医務室は執務室からは遠いし、寝かせるのソファでも良かったよね?

 

にしても、提督は眠ったままでいいのかな?確かに戦場は正面海域だけど。指揮とかさ。

 

見れば見るほどキレイだよね、提督って。ホントに何で海軍に入ったんだろ。鈴谷が沖立提督だったら芸能人とかになってるよ、多分。

寝顔は何て言うか‥‥‥少し苦しそうかな。やっぱ薬で無理矢理眠らされてるから?あ、海軍の制服のままだから苦しいのか。上くらい脱がせて楽にしてあげないと。多分ブラも寝る用じゃないだろうし、外しちゃおっと。

 

あれ?提督の左腕‥‥‥怪我してる?何時の間に‥‥‥ん?そういえば駆逐古姫とやり合った時にも左腕に怪我してたような?いやいやいや、まっさかね。だって、提督って鈴谷と一緒に何回も入渠してるじゃん。提督は駆逐艦だし、そんな傷直ぐに治って‥‥‥あれ‥‥‥怪我してなきゃ入渠って出来ないんだよね?じゃあ提督ってずっと怪我してたって事?何で?

 

あ、ノック音だ。誰だろ?‥‥‥って、見たことない女の人だ!まさか一般人?な訳無いか。あ、コッチに来る。

 

「提督さん‥‥‥って何、寝てるの?」

 

うわっ、鈴谷睨まれたんですけど。やっぱ初めて会う人だよ。歳は多分鈴谷とおんなじくらい?緑がかったロングの黒髪の子。新人の艦娘かな?

 

「ハァ‥‥‥警報発令されてんでしょ?そんな時に司令官様は呑気に寝てるって‥‥‥最っ低。そこのアンタ」

 

うわっ。何この新人、カンジワルっ!鈴谷の方が先輩なのに『アンタ』呼ばわりは無いじゃん!

 

「提督は大和さんに睡眠薬で眠らされてるの!いきなり失礼じゃん!」

 

よーし、こうなったら鈴谷が上下関係をミッチリ教えてやるし!鈴谷と歳も背も変わんないクセにさ!あ、胸は鈴谷の勝ちだね、にっひひっ。

 

「大和さん‥‥‥?あの人復帰したんだ‥‥‥。で?その大和さんは何処よ?秘書艦の神通は?不知火は?」

 

ん?新人の割にみんなの名前は知ってるんだ?なのに鈴谷はアンタ呼ばわり?ムッカー!アッタマ来た!

 

「みんな出撃してんの!ヤバい深海棲艦と戦ってるの!だから新人さんはお呼びじゃないんだって!」

 

みんなが戻ってきたらまた来なさいっつーの。来客用の部屋で大人しく待ってなさい、新人さん。

 

「ヤバい深海棲艦?主力が出なきゃいけない程の?じゃあなんでアンタは待機してんのよ?」

 

「だから!アンタじゃなくて鈴谷だって!鈴谷は『提督をよろしく』って頼まれてんの!」

 

この新人、見た感じ軽巡か重巡ってトコだよね。全く、先輩に対する言葉使いがなってないじゃん!ここは鈴谷がきちっと教えて‥‥‥って、腕掴まれた!?ちょっ、暴力反対!

 

「駆逐艦が出撃してるのに、『重巡洋艦鈴谷』のアンタが待機してていい訳無いでしょ。ほら、行くよ?」

 

ちょーっ!?鈴谷の事知ってんじゃん!!なのにアンタ呼ばわりって!?ムッカー!!

‥‥‥じゃない!行く!?行くって出撃!?

 

「鈴谷は待機って言われてんの!それに鈴谷は‥‥‥まだ練度‥‥‥低いし‥‥‥」

 

あ、だめだ。この新人、人の話聞いてないや。無理矢理引っ張られて‥‥‥向かってるのって工廠じゃん‥‥‥ヤバいって。大和さん達があんな険しい表情するような相手、鈴谷が勝てる訳無いじゃん。絶対轟沈しちゃうって。

 

「そんな顔しない。アンタの事くらいちゃんと守ってやるわよ」

 

あ、やっぱ顔に出てたか。それにしても『守ってやる』なんて、もしかしてこの人戦艦とか?いやいやいや、だって戦艦って言ったら大和さんとか榛名さんとか比叡さんとか‥‥‥胸部装甲が、ねぇ?

 

そんな感じで工廠に着いちゃったよ。あーあ、提督置いて来ちゃったけど大丈夫かな?

ん?この新人、何で呉の工廠の場所知ってんの?

あ、妖精さん達、ちーっす。

 

 

 

『お久しぶりです。貴女の艤装なら準備できてます』

 

 

 

ん?妖精さん、この新人の艤装もうあるの?そっか。ならこの新人に任せて鈴谷は執務室に‥‥‥って、痛い痛い痛いって!そんな強く右腕握んないでって!

 

「往生際が悪いわよ?ほら、アンタも準備しなって」

 

「だから!アンタじゃなくて鈴谷!鈴谷の方が先輩なんだから‥‥‥て?」

 

あれっ?この新人の艤装、紅い袴の道着に弓?飛行甲板‥‥‥って、まさか空母!?あ、この艦上戦闘機、プロペラが後ろに付いてる。へー、変わった機体じゃん。

 

『整備もバッチリです。何時でもいけます』って妖精さんに「妖精さん達、さーんきゅっ」って答えて髪をツインテールに結い始めたその新人。あれ‥‥‥何か鈴谷あの人見たことあるような気がしてきた。

 

仕方無い。鈴谷も覚悟を決めますか。艤装を装備して‥‥‥ううっ、ユーウツだよ。

空母のその人はもう準備を終えてて「見てて、二人とも」って何か呟いてた。

 

「抜錨するわ!鈴谷、私の後に続いて」

 

あー、勝手に抜錨とか後で絶対怒られるって。鈴谷は言い訳考えとこーっと。




助っ人ですね、いやー、何処の何空母だろうなー(すっとぼけ)

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