抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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護衛任務

 

足柄教官とは別の意味で緊張した。横須賀の提督さんの時はこう、威圧感?が少な目だったっぽい。だってほら、鈴谷さんが轟沈した直後だったから木村提督さんはシュン、てなってたし。けど東郷大佐は威圧感あった。うん、流石は呉鎮守府の提督さんっぽい。

 

それで、無事に挨拶を終えて退出しようとしたアタシ達。でも提督さんは熊野さんだけを呼び止めた。

 

「熊野、お前は少し残れ。他の者は下がっていいぞ。そうだな‥‥‥翔鶴、寮に案内してやれ」

 

ええっと、提督さん、やっぱり熊野さんと何かあるっぽい?翔鶴さんまで部屋から追い出すなんて。熊野さんが美人だからやっぱり気があるっぽい?あー、ほら。翔鶴さん、「はい、提督」って答えてはいるけど不満そうな顔してる。提督さんは鈍感さんっぽい。

 

そうしてアタシ達は追い出されて、執務室には東郷提督と熊野さんだけが残った。でも、アタシや漣ちゃん、翔鶴さんが想像してたような事は全く無かったっぽい。全員部屋から離れたのを見計らって、東郷提督が口を開いた。

 

「艦娘になった事、後悔してるか?」

 

「どういう意味ですか?」

 

直ぐには理解出来なかった熊野さん。提督さんの「鈴谷の事だ」って言葉で分かったみたい。少し沈黙した後「いいえ」って答えた。

 

「辛くない、と言えば嘘になります。ですけれど、わたくしはあの時誓いました。鈴谷の死は決して無駄にはしない。彼女の分まで、わたくしは戦います」

 

強い決意の篭った瞳の熊野さん。提督さんは「そうか、わかった」って言って、熊野さんにも退出を促した。提督さん、熊野さんの精神状態を心配してたっぽい。艦娘になって直ぐにあんな事があって、精神的に滅入っていないかって。翔鶴さんまで執務室から追い出したのは、もし熊野さんが辛く思ってた時に他の人の前では泣き難いだろうからだったっぽい。でも、熊野さんはちゃんと前を向いてたから安心したみたい。へぇ‥‥‥偉い人でもちゃんとアタシ達の事考えてくれてる人って居るんだ‥‥‥。

 

まあ、この時の執務室の中での話は後で熊野さんから聞いた話だから、もしかしたら此処では言えないような事をしてたって可能性も‥‥‥あ、熊野さんが今、凄い笑顔で殺気をアタシに向けてるからこの話は終わりっぽい‥‥‥。

 

部屋から出た熊野さん、直ぐにアタシ達と合流。漣ちゃんも止せば良いのに「ねえねえ熊のん、東郷大佐との仲は進展した?ねえねえ、東郷大佐との仲は進展した?」ってニヤニヤしながら聞いてる。

川内さんは全く興味ない感じだけど、翔鶴さんが聞き耳立ててる。バレバレっぽい。漣ちゃんも分かっててやってるみたい。後でお仕置きされてもアタシは知らないっぽい。

 

「はぁ‥‥‥漣さん、わたくしと提督は別に何も有りませんわ。それから、無闇な詮索は関心しませんわよ?」

 

漣ちゃん、「へぇ~。良かったですねぇ、翔鶴秘書艦?」ってド直球過ぎる振り方してる。あー、ほら、翔鶴さんが「わっ、私は別にそんな‥‥‥」って言いながら真っ赤になっちゃったっぽい。髪が銀色だから余計に頬の紅が映える。

 

多分、漣ちゃんのアレは足柄教官に絞られてた反動。翔鶴さん、もっと反抗しないと漣ちゃんがつけ上がるっぽい。

 

そんな感じで寮までどうにか案内されたアタシ達。駆逐艦寮と軽、重巡洋艦の寮は別々っぽい。アタシと漣ちゃんが同室。熊野さんと川内さんが同室。わーい、新人だけならいっぱい羽伸ばせるっぽい!!お菓子!お菓子食べ放題っぽい!

先に軽、重巡洋艦寮の川内さんと熊野さんの部屋に行って、その後アタシと漣ちゃんの部屋。あ、数ヶ月後になる事なんだけど、川内さんと熊野さんは部屋別々になるんだ。理由は‥‥‥川内さんが不治の病に掛かるから。病名は『夜戦大好き病』。「夜っ戦♪夜っ戦♪」って騒いで熊野さんの安眠を阻害するだけの病気っぽい‥‥‥。

 

で、翔鶴さんに案内された駆逐艦寮の部屋。三人部屋だった。しかも既に一人入ってるっぽい。出迎えしてくれた吹雪ちゃんかな、って思ってたんだけど。

翔鶴さんが扉をノック。「新人の二人を連れて来たわよ」って言葉に、中の艦娘さんは「開いています」って答えた。何だか口調が冷たいっぽい?

 

「今日から同室になる漣だよ!宜し‥‥‥」

 

吹雪ちゃんの時と同じドッキリを仕掛けようとしてた漣ちゃんが固まった。中に居たのは短めのピンクの髪を後ろでポニーテールに纏めてる、青みがかった瞳の子。歳はきっとアタシ達と同じくらい。アレ?でも何ていうか、鋭い目で見られてるんだけど‥‥‥アタシ達、何か悪い事しちゃったっぽい?

 

「それじゃあ三人とも仲良くね?」と言って手を振りながら去って行った翔鶴さん。えっと、まだ睨まれたままっぽい?

 

「‥‥‥不知火に何か落ち度でも?」

 

あ、不知火さんって言うんだ、真面目で固そう‥‥‥。

それで、この陽炎型二番艦の不知火さん、提督さんが差し向けたアタシ達の教育係だった。足柄教官から解放されたと思ってたんだけど、やっぱり羽を伸ばしてフリーダムに、なんてそうそう上手くはいかない。

後でこの時の話をしたら、熊野さんは「それはそうですわ。此処は海軍、ですのよ?」って。あっ‥‥‥忘れてたっぽい。

それで、ヌイヌイちゃん‥‥‥っと、『ヌイヌイ』っていうのは漣ちゃんが付けた不知火さんのあだ名。不知火っていう名前で呼ぶのが何だか堅苦しいからだって。ヌイヌイちゃんも最初こそ「‥‥‥ハァ!?」って顰めっ面で睨んでたけど、少し経ったら慣れちゃったっぽい。ううん、アタシがそう思うだけかも知れないけど、少しだけ嬉しそうに見える。他の人には分からない程度の差だと思うけど。

あ、アタシも危うく『ポイポイ』ってあだ名にされる所だった。そんなに『ぽい』って言ってるのかなぁ?

 

絶対足柄教官経由だと思うけど、アタシと漣ちゃん、中学の勉強内容復習させられる羽目になった。基本的に出撃や哨戒なんかの任務と訓練以外の時間はフリーっぽい。鎮守府の外へのお出掛けも届ければ大丈夫。‥‥‥中には外出許可も緩い鎮守府もあるっぽい。電ちゃんが初期艦として配属された鎮守府とか。あーあ、電ちゃん、アタシと代わってくれないかなぁ‥‥‥。

で。そのフリーの時間を使って、アタシと漣ちゃんは部屋に拘束されてお勉強。先生はヌイヌイちゃん。教科書とかは去年まで教えてた駆逐艦の子のが有るからって。その駆逐艦の子、今はなんとイギリスに居る。暁型のネームシップの子。『レディを名乗るならこのくらい出来て当然ですよ?ホラホラ、泣いてる暇が有ったら英単語の一つでも覚えて下さい』ってヌイヌイちゃんに搾られて泣きながら勉強してたっぽい‥‥‥ヌイヌイちゃんも怖いっぽいぃぃぃ。

案の定、ヌイヌイちゃんには「聞いていたより酷いですね、こんな学力でよく海軍に入ろうなんて思いましたね?」って呆れた視線で見下された。アタシ、妹に甘やかされながら勉強してたからなぁ。

 

後で平八さ‥‥‥じゃなかった、提督さんに聞いた話だけど。ヌイヌイちゃん、あんまりみんなに溶け込めてなかったっぽい。だから、きっとアタシ達なら溶け込めるようにしてくれるだろう、って。提督さん、見る目あるっぽい!

 

◆◆◆

 

初出撃はアタシ達が呉鎮に配属されて一ヶ月経った頃。季節はもうすっかり冬。出撃っていっても護衛任務。深海棲艦が現れれば勿論交戦したりもするけど、基本は護衛だから、イ級とかなら兎も角倒すよりも輸送船を守って逃げ切る方が優先。

今回の任務は、イギリスからの客船の護衛。ユーロの艦娘達が護衛してきた台湾で停泊中の船を、無事に本土まで送り届けるっぽい。あ、暁型のネームシップの子は乗ってないよ。その代わり、駐英大使の娘さんが乗ってるんだって。ヒェェ、責任重大っぽいぃ。

 

メンバーはアタシ、漣ちゃん、ヌイヌイちゃん、川内さんに熊野さん。旗艦は妙高型四番艦、重巡洋艦の羽黒ちゃん。肩くらい迄の黒髪にカタパルトモチーフの髪飾りの可愛い系の子。もしも、『守ってあげたい艦娘ランキング』があったら上位に食い込んでくるに違いないっぽい子。普段は気弱で優しいんだけど‥‥‥戦闘になると凄い。流石は足柄教官の姪っ子。重巡洋艦随一の武勲艦だっただけの事はある。全艦娘の中で唯一、足柄教官の事を『おばさん』って呼んでも怒られない子。うん、姪っ子だから当たり前なんだろうけど。もしもアタシや漣ちゃんが足柄教官の事『おばさん』なんて呼んだら‥‥‥こっ、殺されるっぽいぃぃ。

しかもこの羽黒ちゃん、川内さんと熊野さんのお世話係。うん、おかしいっぽい。アタシと漣ちゃんはヌイヌイちゃんに扱かれながら生活してるのに‥‥‥!

 

台湾に着くまでは何事も無く。旗艦の羽黒ちゃんが客船と平行、それをアタシ達がぐるりと囲む輪形陣での護衛。沖縄まで行けば安心。比較的安全な海域だけど、用心は怠れないっぽい。

一人が客船の甲板で待機、時間で交代しながらの航行。今はアタシが待機中‥‥‥なんだけど。この駐英大使の娘さん、緊張感の欠片も無いっぽい。待機中だって言ったのに船室まで連れてかれて、スコーンと紅茶を振る舞われてるっぽいぃ。さっきまで待機してた熊野さんとは知り合いで、凄く話し込んでたんだって。

 

「Hey、夕立サン、blizzardは元気にしてるデスか?」

 

「え?えっと、吹雪ちゃんの事っぽい?元気にしてるっぽい」

 

この人、本当に日本人?イントネーションが外人っぽくなってる。

 

「それはgoodデース!blizzardにも久々に会いたいネ!」

 

ほら。絶対おかしい。もしかして日本人のフリをしてるのかも?「夕立の話し方はuniqueデース!」なんて言ってるけど、貴女の方がよっぽどユニークっぽい。

 

 

 

そんな、アタシが呆れ顔をしてた時だった。旗艦の羽黒ちゃんから通信。『深海棲艦です!』って。

 




新たに登場したヌイヌイと羽黒ちゃん、夕立達の教育担当。あー苦労しそうです。主に羽黒ちゃんが。

駐英大使の娘ですか?え?金剛?なに言ってるのか分かりません。


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