抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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衝動

 

 

別にさ。私が自分一人で考えて此処に来た訳じゃないんだよ。確かに心の奥には夕立と大和さんには謝らなきゃ、って気持ちはある。でも、今はまだ無理かな‥‥‥。

 

瑞鶴よ。

不知火が訪ねて来た後にね、神風が訪ねて来たの。あ、元・神風か。あの子も妹を失って、その妹は駆逐古姫になってて。その討伐には嘗て私も参加した。そんな神風が態々私の所に来た。あの子も大和さんに『復帰して欲しい』ってお願いされたらしいのよ。けど自分の感情を纏められてないみたいでね。何処で聞いたのか、同じ境遇の私の所に相談に来たって訳。

神風はその時の私と違って復帰には前向きで。相談っていうのも『もしも春風が現れたらきっと戦えない。どうしたらいいか?』っていう凄く曖昧なもの。ほら、中枢棲姫が復活したでしょ?だから春風の成れの果て‥‥‥駆逐古姫が現れてもおかしくはない。自分の妹を目の前にして動けなくなったら申し訳ない、でも大和さんやみんなの願いには応えたい、って。

何よそれって感じよね。だって、それ自分で『復帰する』って答え出せてるでしょ。春風が現れた時は現れた時。他のみんなを頼ればいいじゃない。私に相談するような事じゃない。

でもさ、それって私の問題でもあったんだよね。仮に私が瑞鶴として再び海に出たとしてさ、翔鶴姉‥‥‥空母水鬼が現れる可能性もある訳だし。そうなったら私は‥‥‥。

 

‥‥‥で。気付いた?私の答えも実は出てたのよ。そう。神風と同じ。仲間を頼れば良かったのよ。周りに当たり散らして自分一人で落ち込むんじゃなくてさ。自分一人で悩んでないで気心の知れた仲間に助けてもらえば良かったの。不知火みたいにね‥‥‥。まっ、私は翔鶴姉みたいに素直じゃないからね。結局大和さんや夕立にはこうやって反発した態度とっちゃってるけど。

 

私もこのままじゃ嫌だったし。翔鶴姉の事もどこかで踏ん切りをつけないと前に進めないし。何より加賀や翔鶴姉の想いを踏み捻ったままにしたくないし。

やっと決心して、東郷大将に連絡をとって。私の艤装や艦載機なんかは呉に保管してあるままだって聞いて。いざ来てみたらコレだった。提督の夕立は寝てて新人にお世話されてるし、艦隊は大ピンチだし。久しぶりの呉鎮守府に来た感傷に浸ってる隙も無いってどういう事よ、全く。

 

はぁ。夕立は慌てて暁の所に走っていったし、それじゃ私も入渠してきますか。

‥‥‥治るまで長いんだよねぇ、入渠って。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「暁ちゃんは!?」

 

医務室の扉の前。息を切らせて走ってきた私に、今当に部屋の中から出てきたヌイヌイちゃんは静かに答えてくれた。

 

「身体の傷は癒えましたが、意識はまだです」

 

入渠させたから傷は治ってる。脳に損傷がある訳じゃ無いから暫くすれば目を醒ますだろう、って。良かった、安心したわ。

 

「ポイポイ‥‥‥いえ、司令。身体の方は大丈夫ですか?」

 

飲んだのは睡眠薬。別に身体には‥‥‥って、そっか。ヌイヌイちゃんの言ってる意味はそっちじゃないっぽいわね。あれからまだ癒えてない痛む全身の方か。

 

「大丈夫。今は落ち着いてるから」

 

暁ちゃんの様子を見ようと扉を静かに開いて部屋の中へと入った私。扉を閉めようとして

伸ばした右手は、ヌイヌイちゃんに掴まれてそのまま身体を引き寄せられた。急に力を入れて引っ張られたせいで身体が痛む‥‥‥って‥‥‥‥‥‥‥え?

 

「‥‥‥‥‥‥そのように辛そうな表情を。やはりまだ痛むのではありませんか。無理は止めてください。不知火は」

 

そう言って、ヌイヌイちゃんは手を離して走っていっちゃった。恥ずかしそうに頬を紅潮させて視線を合わせずに。

突然で頭が追い付かない。私の右の頬には、ヌイヌイちゃんの温もりと唇が触れて残った湿り気。‥‥‥え?待って、待ってっぽい?もしかしてキスされたっぽい?

 

少しの間硬直して動けなかった私。時間にして多分1~2分。ボーッとヌイヌイちゃんの後ろ姿を眺めてた。やっと我に返って、廊下の反対側に誰も居ないのを確認して、ホッと胸を撫で下ろして。そもそもヌイヌイちゃんが誰かに見られるなんて失敗犯す訳ないっぽいんだけどね。

それで、改めて部屋に入ろうとしてベッドに視線を向けたら暁ちゃんが目を丸くして私を見てたわ。頬を染めて‥‥‥って、あれ?もしかして見られたっぽいのかしら?それじゃヌイヌイちゃんが走って逃げたのって‥‥‥。

 

「あ、暁ちゃん?」

 

「‥‥‥レディは誰にも言ったりしないんだから」

 

あ、やっぱり見られてたのね。暁ちゃんが目を醒ましたのは嬉しいけど、どうしたものかしら。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

やってしまった。やってしまいました。もう後には退けません。‥‥‥‥‥‥どうしましょうか。

ポイポイが悪いのです。無理を押して不知火達を助けて。痛々しい様子を見せていたにも関わらずまた出撃しようとして。心配にならない方がおかしいというものです。

お陰で感情を抑えきれなくなって。クッ、不知火としたことが。まさか不覚にも暁に目撃されてしまう羽目になろうとは。

 

しかしながら、です。思わず逃げてしまったのは失敗でした。なるべく普通にポイポイと顔を合わせる為にはどうすれば良いのでしょうか?何とか取り繕う方法を‥‥‥いえ、前にも感極まってキスした事がありましたね。もういっその事あの時のように誤魔化してしまえば。いえ、しかしポイポイももう大人ですし、流石に気付かないというのは‥‥‥うーん。

 

惚れた方が負けという事は良く聞きますが、真にその通りですね。はぁ。仕方ありません、一先ずこのまま部屋へと戻りますか。べっ、別に問題を後回しにする訳ではありません。少し冷静にならなくてはならないだけ、です。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

そんな風に私やヌイヌイちゃん、暁ちゃんが悩んでいた頃ね。レ級はウラジオストクに現れていたわ。やっぱり狙いは漣ちゃん、雷ちゃん、吹雪ちゃんの三人っぽいわね。今はロシアには日本の艦娘は居ない‥‥‥って、だから安心できるって事でも無いけど。ロシアの艦娘が簡単にやられるとは思わないけど、相手はレ級。轟沈する子が出れば脅威は更に増える訳だし。それにこのままなら次に狙われるのは電ちゃんの居る鎮守府。あそこには比叡さんやゴーヤさんに那珂ちゃん、天津風ちゃんも居るし、何より春雨が居る。

 

助けに行きたいけど、私はもう提督。呉鎮守府の防衛圏から簡単に動く訳には‥‥‥ううん、待って。方法は有るわね。許可されればだけど演習って事にすれば。ほら、鈴谷さんや清霜ちゃんに経験を積ませる、って尤もらしい理由で‥‥‥って駄目ね、東郷大将も山本中将もお見通しでしょうし。それにいざとなれば横須賀から艦隊を派遣すればいいんだし。でも、春雨‥‥‥。

 

先ずは報告書を書かなきゃね。それで心を落ち着けて、それから考えよう。

大和さんの事は何て報告しよう?そうね‥‥‥私の体調が悪くなって、指揮を執る前に倒れて鈴谷さんに看病された、これでいいっぽいわよね。まだ身体が痛むのは事実だし。幾ら大和さんが大将の妻でも、上官に薬を盛ったなんて分かったら厳罰だろうし。それに睡眠薬は私のせいだし。

 

執務室に戻った私の元にかかってきた一本の電話。軍令部から‥‥‥。嫌な予感がするけど、とらない訳にもいかない。深呼吸をして繋いだ先の相手は。

 

『沖立か。話は聞いている』

 

「‥‥‥はい、東郷大将」

 

東郷大将直々。出頭命令ね。私は止められていた出撃の件で。それと、大和さんも。大和さんが薬を盛った件は有耶無耶にしようとしてたのに、大和さん本人が告白してたのを聞かされて。

 

参ったわね。鎮守府を空けるのは不安だけど、大和さんの入渠を待って回復次第東京まで行かないと。私は兎も角、大和さんの厳罰だけは何とか阻止しなきゃ。




事態は少しずつ動きます。ヌイヌイを待つのは果たして期待した関係かそれとも‥‥‥。


一日遅刻しました。
電「燃やして焦がしてゆ~らゆら♪なのです」
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