抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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始動。

 

「おっ、提督じゃん。ちーっす」

 

ああ、鈴谷さんね。今訓練あがりっぽいわね。

 

「お疲れ様。鈴谷さん、訓練のほうはどう?」

 

「神通さんも綾波さんも厳しいけどさ、やっと少し慣れてきたかなぁ。身体も前よりは軽くなってきてるしね。あっ、隣失礼しまーす」

 

初日から比べたら少しは良くなってきたっぽいわね。本当は鈴谷さんの事はもっとゆっくり育ててあげたいんだけど、現状ではそうはいかない。出来る限り早く、ここ呉の中心戦力になってもらわないと。

 

沖立です。今の時間はフタヒトマルマル。鈴谷さんは今日の訓練を終えて入渠する所。勿論私も入渠中。以前に比べたら身体の傷や痛みもマシになってきてる。これなら一戦くらいなら耐えられそう。え?私と鈴谷さんの入浴シーン?残念でした。映像は無いわ。私は兎も角、鈴谷さんは前回も触れたように透き通るような肌に抜群のプロポーション。まあ、訓練の後だから傷だらけだけど。このくらいで我慢しておいてね?

 

「チャプン、っと」

 

私の隣に右足から入って浴槽に浸かる鈴谷さん。ジーっと私の方を見てる。あぁ、左腕の怪我?かなり良くなって来たとは思うけど。こうして少しずつでも回復してる。まだ『夕立の魂』が失われていないのは助かるわね。

 

「‥‥‥ごめんね、提督。鈴谷ってば、何にも知らなかったからさ」

 

私を頼ってくれた事?それなら知らなかったのだし仕方無いし、何より出撃したのは私の意志。別に鈴谷さんが謝る事では無いわね。

 

「ううん、気にしないで」

 

「やっぱ提督ってやっさしーよね!熊野なんか前にさぁ‥‥‥」

 

それから少しの間、鈴谷さんと他愛もない話をした。私が艦娘を引退して鎮守府から離れている間、熊野さんや漣ちゃん、川内さんがどうしていたのかを聞ける良い機会になったわ。

 

「熊野も曙ちゃんも絶対見返してやるんだかんね!二人の事くらいすぐに追い抜いてやるって!」

 

そうね、鈴谷さん。その気概は買うわ。けど、曙ちゃんも熊野さんもまだまだ遠い存在だからね。そう言えば曙ちゃん、金剛さんと同じでそろそろ最高練度に達するっぽいわよね、指輪貰う‥‥‥あ、山本中将大丈夫かしらね?

 

「あとアイツも!五航戦!ぜーったいアイツより上になってやるし!鈴谷にも提督にも冷たいカンジだしさ、みんなとも距離置いてるカンジだし。なーんか気に入らないよね」

 

鈴谷さん、先輩に『アイツ』呼ばわりは駄目。瑞鶴さんにも色々辛い事があって。それなのにまた私達の力になってくれているのだもの。

 

「まっ、鈴谷にお任せだよ!絶対日本一の重巡になってやるから‥‥‥‥‥‥お姉ちゃんみたいに、さ」

 

何て言うか。鈴谷さんを見てると嘗ての私を見てるみたいな気がしてくる。ちょっと危なっかしくて、けど気持ちは人一倍強くて。あとはサボり癖が完治してくれたら言うことは無いんだけどね。

 

「日本一の重巡になれば、山本提督も振り向いて‥‥‥あ、今度横須賀に行ったら山本提督のお風呂に突撃しちゃお。にっひひひっ♪」

 

「え?鈴谷さん、何か言った?」

 

良く聞き取れなかったわ。何だか山本提督って聞こえた気がしたけど。「なっ、何でもないし!」って顔を真っ赤にしながら大袈裟に両掌を振って否定してる鈴谷さん。うーん、ま、いいわよね。

 

そう言えばその山本中将‥‥‥横須賀では今頃清霜ちゃん達が川内さんに扱かれてる頃よね。言うまでもないけど、川内さんが教えてるのは私や川内さんの戦法そのもの。相手の懐に飛び込んで至近距離から直接急所に魚雷をぶつける戦法。心配は心配だけど、これもこの先の未来の為。だけど‥‥‥ううん、だから‥‥‥あの子達の事、見守っててね‥‥‥萩風。

 

さてと。私はそろそろ出ようかな。鈴谷さん、ゆっくり身体を休めていってね。

 

「あれ?提督、もう出ちゃうの?」

 

「ええ。充分入ってたし。それに、瑞鶴さんとも少し話しておかないとね」

 

「えー?あんなヤツ放っておけば良いって。鈴谷ともう少し話してればいいじゃん」って鈴谷さんはいうけど、そういう訳にもいかない。これでも一応提督な訳だしね。

過去にあった事は消えないし、決して忘れる事は出来ないし、水に流してとも言わない。けれど、それを乗り越えてまた手を取り合えたら、きっと。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

コンコン、ってノック?ハァ、こんな時間に誰よ?夜くらい静かに休ませて欲しいんだけど。夜くらい‥‥‥か。昔なら川内あたりが『夜戦!夜戦!や・せ・ん・の時間だよ!』なんて騒いだりして、利根さんとか翔鶴姉あたりが黙らせに行って‥‥‥懐かしいなぁ。あの頃は今の私の姿なんて想像もつかなかった。‥‥‥どうしてこうなっちゃったんだろう。

 

「はいはい、今開けるから」

 

気は進まないけど、私は自分の部屋の扉を開けた。廊下に立ってたのは、提督‥‥‥夕立だった。

 

「瑞鶴さん、少しでいいんです。お話できませんか?」

 

「別に今話すような事は無いでしょ。私、もう寝る所だから」

 

夕立‥‥‥沖立夕星。彼女が、あの夕立。ほんと。人間って変わるものよね。数年前までは常識も礼儀も知らないような奴だったのに。今じゃ私達艦娘を統べる側か。

 

「本当に少しでいいんです。時間は取らせませんから」

 

「別の機会にしてもらえる?今は話したくないから」

 

心の中で溜め息をつく。本当は、そんな事が言いたい訳じゃない。夕立とだって、ちゃんと話をしなきゃって思ってはいる。けど、待って。もう少しだけ待ってよ。まだ自分の事が整理出来ないの。ここに戻って来たのだって、やっとの思いだったんだから。

 

「聞いたわよ?清霜にアンタと同じ戦い方を教えてるって。戦力アップだなんてのは分かるけど。でもアンタさあ、萩風の事忘れた訳じゃないんでしょ?清霜まで同じ目に遭わせようってつもりなの?」

 

「‥‥‥忘れるなんて出来ない。けれど、瑞鶴さん‥‥‥」

 

‥‥‥またよ。こんな事が言いたいんじゃないのに。ほんっと、損な性格。私ってどうして反発しか出来ないのかな?もしも私がこんな反発なんてしなかったりしたら、加賀にだって違った未来があったのかも知れないのに。運命が巡り巡って、加賀が沈むような事態にならなかったかも知れないのに。そうしたら、翔鶴姉も、萩風だって沈まなかったかも知れない。そうだよ、みんなが沈んだのは、もしかしたら私が元凶かも知れないのに。

 

「‥‥‥心配しなくても命令や作戦にはちゃんと従ってあげるから。私じゃなくて不知火の所にでも行ってやりなよ、あの子喜ぶんじゃないの?それじゃ。おやすみ、『提督さん』」

 

パタン、ってできるだけ静かに扉を閉めたわ。はぁ‥‥‥逃げてるだけだよね、こんなの。さっきの私の声、震えてなかったわよね?駄目だ、涙出てきた。泣き声聞かれないように毛布被っておこう‥‥‥。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「少し無理があるのではなくって?」

 

「いえ。川内さんと榛名の事を相手にできるくらいでないと。それに、演習とは言え榛名は夕立さんに勝てた事はありませんし」

 

お久しぶりですね、榛名です。はい、お姉様や妹も元気にしています。籍は横須賀へと移りましたが、榛名は変わらず大丈夫です。それに今は金剛お姉様も一緒の艦隊ですから。

 

今は川内さんと一緒に駆逐艦の選抜メンバーを鍛えている最中です。初霜さん、皐月さん、荒潮さん、清霜ちゃん、それに島風さんの5人。え?はい、そうです。島風さんは二代目の子です。初代の島風さんは‥‥‥亡くなられていますので。

 

熊野さんに話していた通り、五人の目標は榛名と川内さんと互角に戦えるようになる事。川内さんに言わせれば『私達に勝つ事』だそうです。はい。2対5とは言えまだ練度の低い駆逐艦5人対軽巡、戦艦。どれほど大変かは承知しています。ですが、彼女達ならきっと、きっと出来ると榛名は信じています。川内さんもそう思っているからこそ、5人を集めたのだと思います。そう、嘗ての夕立さんや島風さんのようになれると思っているからこそ。

 

「それはそうかも知れませんが、幾らなんでも」

 

 

「いえ、熊野さん。夕立さんだって艦娘になって間もない頃に戦艦棲姫を撃破しているのですし、レ‥‥‥嘗て初代の漣さんや初代雷さん達だって駆逐艦だけであの南方棲戦姫を破っているんです。不可能という訳ではありません。川内さんや夕立さんの戦法をとるというのなら尚の事」

 

一歩間違えれば轟沈しかねない危険な戦法だということは承知しています。萩風さんの最期の事だって。ですが、今のレ級や中枢棲姫達と榛名達艦娘とは力の差があるのも事実。その差を埋める為には艦娘の数、一人一人の力、作戦、どれも疎かには出来ません。川内さん一人の力にも限界はあります。ですから、此処に来た5人の駆逐艦の子達の力は必要なんです。

 

「彼女は‥‥‥夕星さんは別格ですわ。わたくしはイマイチ賛成はしかねますわよ?」

 

榛名だって分かってはいます。ですから、なるべくそんな戦法を取らずに済むよう前線で奮闘するのが榛名達の役目。彼女達の突撃は最後の一手、トドメの一撃だけで済むように。榛名は‥‥‥榛名も、今以上に精進致します。

榛名は大丈夫です。

 

 

 

 




サービスシーン?とズイの心境、それと久々の榛名でした。はい、榛名は大丈夫です。

ぜかましと清霜以外は改二がある娘ですね、え?荒潮?アイリスさん提督は今慌てて育成中()です。

レ‥‥‥ですか?レ‥‥‥級に決まってるじゃあないですか、イヤですねぇ

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