抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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重なる像

 

不味いわ。鈴谷さんとネ級の距離が近過ぎる。あれじゃ砲撃したら鈴谷さんにも当たっちゃうわ!鈴谷さんはボーッとしてて動く様子もないし通信にも応えないし、ネ級が動く前に何とかしなくちゃ!

 

綾波さんと不知火さんは‥‥‥もう少し掛かりそうだし、神通さんと阿賀野さんからじゃ遠くて間に合いそうもない。やっぱり暁が何とかしないと。どうにかして鈴谷さんとネ級を引き離さなきゃ。ええっと、ええっと‥‥‥そうだ、よしっ。

妖精さん、用意急いでっ!

 

見てなさいよ、ネ級。よし、今よ!照明弾、撃って!

見事に上空へ射ち上がったわ。少し、ほんの少しでいいんだから。ネ級、反応してよ‥‥‥。

 

仕方無い、もうこの際贅沢は言ってられないわ。鈴谷さんがやられちゃったら元も子もないもん。巻添えもらったら痛いかも知れないけど我慢してよね。

 

そうよ、ネ級。暁の方へちょっと視線を向けるだけでいいんだから。さあ、最大戦速で行くわよ!

距離を離せるならやむを得ないわ。大丈夫、今の鈴谷さんなら暁の砲撃が少し当たったくらいでは沈まない筈。

砲を構えた暁に、当然だけどネ級が撃ってきたわ。けどまだその場から動こうとはしてない。もうっ、すんなり動いてくれたら言うこと無かったのに。ごめんなさい鈴谷さん、砲撃開始!

 

そうよ、砲撃してる暁にだけ集中しなさいよね。鈴谷さんの方に気を向かせたりしないんだから。もうすぐ、もうすぐなんだから。

 

「鈴谷さん!鈴谷さん!鈴谷さんってば!」

 

もうっ、お願いだから応えてよ!なんで通信返してくれないのよ。鈴谷さんに一体何があったっていうのよ!

‥‥‥あっ、ヤバいっ!

 

 

 

ドゴォンッ!

 

 

 

いったーい‥‥‥妖精さん、損害は‥‥‥?

中破か。何とか持ちこたえたわ。危なかった。

 

『暁、被害状況は!?』

 

「中破よ。まだいけるわ」

 

不知火さんからか。どうやら粗方片付け終わったみたいね。これでどうにかなるかしら。綾波さんも居るしネ級くらいなら。

 

あれっ?あのネ級の顔、鈴谷さんと似てる?ううん、そっくり。どういう事?まって‥‥‥そっか。そういう事か。だからアイツ鈴谷さんにだけ固執してるんだ。それなら。

 

一度探照灯は消してっと。一旦後退して。

帽子は脱いで、髪を右側で纏めてサイドテールにして、っと。制服の色は似てるから大丈夫よね。よしっ。探照灯全開。暁の顔が見難いくらいに照らして。

 

せーの。

 

「ったく、だらしないったら無いわ!クソ提督に心配かけてるんじゃないわよ。潜水艦なんかにやられるなんて情けないわね、このクソ秘書艦っ!」

 

今のどうかしら。ちょっとは曙に似てたかな?‥‥‥反応が変わった。ネ級がコッチに向かってゆっくり動き出した。やった、掛かったわね!ネ級‥‥‥先代の鈴谷さんを最後に見送った曙をチラつかせた甲斐があったわ。

さあ、来なさい!暁が一人前のレディのなんたるかを教えてあげるわ!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

やれやれです。鈴谷さんにはヒヤヒヤさせられましたが何とか間に合ってよかった。中破ですが暁も今回は無事ですし、ポイポイに前回よりはマシな報告ができますね。

 

不知火です。

今漸くネ級を沈めた所です。流石に苦労しました。あの後神通さんと阿賀野さんも合流、動こうとしない鈴谷さんを除いた五人でネ級を相手にした訳ですが、向こうの方が何倍も上手でした。まるで此方の砲雷撃の軌道を始めから知っているかのように当たらない。そう、その姿はまるで踊っているかのように軽快でした。暁の話ではあのネ級こそ鈴谷さんの姉らしいですし、それも納得でしたが。先代の鈴谷と言えば、今の海軍大臣が横須賀の提督だった頃の秘書艦。不知火も話では聞いています。実力で言えば当時の重巡内でも一、二を争う程だったと。『あの事件』さえ無ければ、今頃は熊野さんと共に双璧を成す存在だった事でしょうね。

 

「鈴谷さん、立てますか?」

 

「‥‥‥‥‥‥えっ?あ、うん」

 

肝心の鈴谷さんは心此処に在らず、と言った所ですね。反応が極めて鈍い。まあ、無理もありません。今の鈴谷さんは例えるなら、辛うじて塞がっていた古傷を無理矢理拡げられたような心境でしょうからね。そう、嘗てポイポイが萩風の成れの果て‥‥‥駆逐水鬼と対峙した時のような。

 

「自走できますね、鈴谷さん?」

 

「あ、うん‥‥‥」

 

いけませんね、これは相当堪えているようです。鈴谷さん自身で納得できる答えを導き出せればよいのですが。

明らかに沈んでいる鈴谷さんの表情。やはり誰かにケアしてもらった方が良さそうです。萩風を失った時の不知火はポイポイに支えてもらいましたし。

 

今回は神通さんの提案で、ネ級の頭を潰したのも堪えたのでしょうか。過去にポイポイが上半身ごと頭を潰した深海棲艦は『今の所は』蘇ってはいないようですし、念の為にですが。敵とは言え実の姉だったモノの頭を吹き飛ばす様を目撃した訳ですからね。不知火達でもあれは気持ちの良いものではありませんから。

 

『みんなお疲れ様。暁ちゃんはそのまま入渠して。報告は神通さんと不知火さんがお願い』

 

ポイポイから通信ですね。さて、鈴谷さんの事はどうしたものか。勿論報告はしておきますが、あまりポイポイを悩ませるような事はしたくはないのですが。

 

‥‥‥悩ませるような事、ですか。これは不知火の落ち度ですね。この不知火自身がポイポイを悩ませているというのに。やはり‥‥‥やはり、この想いは胸の奥底に仕舞っておくべきなのでしょうか?ですが、不知火は‥‥‥不知火は。それでも尚、貴女の事が。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

大和さんが居ないとは言えネ級相手に苦戦ねぇ。先が思いやられるわ。今の呉艦隊を翔鶴姉が見たらなんて思うんだろ。

いや、確かに元・先代鈴谷が相手なら苦戦するのかも知れないけどさ。暁ちゃんと不知火、神通さんが居てあれじゃあね。私が夕立の立場なら頭痛がしそう。

 

瑞鶴よ。

鈴谷が執務室に向かうのが見えてさ、ちょっと、ちょーっとだけ気になって後をつけてみたのよ。普段は私に対して威勢のいい鈴谷のヤツが酷く落ち込んでるみたいだったからね。

 

っと。執務室の方から何か聞こえる。鈴谷の怒鳴り声?

 

「不知火さんには鈴谷の気持ちなんて分かんないんだよ!提督にも!!もういいっ!!」

 

あ、扉を勢いよく開けて鈴谷が走って出てったみたい。今、アイツ泣いてた?ハァ。これだから新人は。世話が妬けるわね。翔鶴姉ならきっと追い掛けるんだろうし、今は代わりに私が行ってやるか。アイツが向かったのって多分自分の部屋よね?

 

今思うとさ、新人だった頃の私が壁にぶつかった時とか、話し掛けてくれたのはいつも加賀だったっけ。そりゃあ言い方は酷かったけどさ。加賀って口下手だったし、アイツなりに私の事心配してくれてたんだよね。当時は絶対分かりっこなかったけどね。

だから、って訳でもないけど。何ていうかさ、放っておけないでしょ?鈴谷は私と同じで姉を失ってるわけだし。

 

さて、着いたっと。案の定泣き声聞こえるわ。仕方無いわね。

 

「居るんでしょ?開けるからね?」

 

鈴谷のヤツ「開けんな!」って叫んできた。泣いてるせいで声が震えてるみたい。まあでも開けるけど。

 

「なに泣いてんのよ?泣いたらアンタのお姉さんが生き返るの?」

 

「‥‥‥!!うるさいっ!黙って!五航戦に何が分かるの!」

 

‥‥‥分かるよ。凄くよく分かる。今のアンタ、まんま私だもん。私と同じ気持ちだからね。

 

「分かりたくもないわよ。アンタさあ、自分が悲劇のヒロインにでもなったつもり?アンタより辛い思い抱えて戦ってる子なんて大勢居るんだからね?」

 

ほんっと自分が嫌になる。全部私にも当てはまるってのに。私なんかよりさ、陽炎や実の妹を失ってる不知火とか、目に掛けてた後輩、愛弟子の成れの果てを自分の手で殺さなきゃいけなかった夕立の方がよっぽど辛いってのに。私には、本当ならこんな事言う資格ないんだよね。悲劇のヒロイン気取りなのは、私。

 

「うるさいっ!帰れ!」

 

全く。仕方無いわね。「ちょっと来なさい」って泣いてる鈴谷を無理矢理引っ張り起こして。私はある場所へと連れ出した。呉鎮守府内にある、資料室。その膨大な資料や報告書類の中から目的のものを見つけて、鈴谷に投げつけた。

 

「‥‥‥これ、何?」

 

「いいから。アンタはそれ黙って読んで」

 

私が渡したのは、夕立が駆逐水鬼を撃沈した時の報告書。東郷大将がまだここ呉の提督で、山本中将があの元水族館の鎮守府の提督だった頃の。夕立達が元水族館の鎮守府に演習に行った時の、萩風の成れの果てとの交戦の記録。

 

 

 




暁、奮闘。ネ級elite撃沈。同時に鈴谷に精神的ダメージです。



え?伊13?誰ですかその子は新しい潜水艦ですか?あ、そうか!次回のイベントの報酬艦ですね?駄目ですよネタバレさせちゃ。いやー、図鑑にいないから誰かと思いましたよ。‥‥‥‥‥‥ちくせう、不幸だ。ハァ‥‥‥空はあんなに青いのに‥‥‥

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