抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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消えない想い

沖立です。

鈴谷さんが泣きながら執務室を出ていったわ。気持ちは分からなくはないけど、こればっかりはね。自分でなんとか気持ちを整理して乗り越えてもらうしかない。最悪の場合、鈴谷さんは艦娘を辞めるかも知れないけれど。でも、きっと立ち直ってくれる筈。瑞鶴さんのように。何時かの私やヌイヌイちゃんの時のように。

私の、時か。萩風の成れの果てと対峙した時。そう言えばアレが、嘗ての大本営を倒すクーデターの切っ掛けだったわね。

そう、あの時‥‥‥‥‥‥。

―――――――

―――――

―――

 

 

 

演習に来ていたアタシ達、呉の艦隊。アタシはこの時既に第一艦隊所属、平八さんの秘書艦だった。アタシ以外のメンバーは第三艦隊のみんな。空母の葛城さん、榛名さんと霧島さん、神通さん。この時はこの五人だけっぽい。相手は旗艦の赤城さんを筆頭に青葉さん、那珂ちゃん、比叡さん、それから、向こうの秘書艦の電ちゃん。

 

演習を始めて少し経った頃だった。電ちゃんと一対一で対峙してたアタシの耳に、鳴り響く警報が聞こえてきた。同時に、平八さんからの通信。『演習は中止だ、全員戻れ』って。みんなの兵装は当然演習用だったから、実践用に乗せ替えなきゃ深海棲艦とは戦えないっぽい。

 

現れた深海棲艦は空母6、軽巡6、駆逐11。旗艦を含めると24隻の連合艦隊。普通なら流石に負けないっぽい‥‥‥んだけど。アタシの視線はその相手旗艦に釘付けになってた。

 

駆逐水鬼。その背中から生えているような大きな腕のような物が砲を構えてて、白い肌に白いセミロングの髪。胸元辺りに歯の付いた黒のノースリーブを着てて、スカートは穿いてない。腰にはベルト、太股にはホルスター。頭にイ級の顔のようなヘルメット。でも‥‥‥その顔には見覚えがあったっぽい。ううん、そんな曖昧な感じじゃなくって。その少し前に沈んだ筈の萩風とそっくりだったんだ。

 

どうして?なんで萩風が深海棲艦に?って思考と、そんな筈無い、似てるだけだって思考がアタシの頭の中をグルグル回る。でも、幾ら打ち消そうとしても萩風が頭から抜けてくれない。だって、アタシが萩風を誰かと見間違うなんて有り得ないっぽい。

 

『‥‥‥‥‥‥萩風』

 

そう口にしたアタシの身体は震えてて。自分でも気付かないくらい両手の拳を強く握り締めてて、掌から血が滲んでた。ずっと頭の中で燻ってた違和感が、線になって繋がって一つになっていってる。深海棲艦は‥‥‥元は艦娘‥‥‥?だから、沈んだ筈の萩風が‥‥‥?

 

ふと気付いて周りを見てみる。榛名さんや霧島さん、葛城さんは駆逐水鬼の顔をハッキリ視認してないみたいで、動揺は見えない。深海棲艦を相手にする時の真剣な表情をしてる。神通さんはそもそも萩風に会った事無いし。ただ、平八さんは気付いたっぽい。警戒の中にも驚いたような表情が見てとれた。

 

山本十三提督は、驚いた様子はなくて。どっちかっていうと『やっぱりか』って表情してたっぽい。電ちゃんは少し悲しそうな表情で。それから、比叡さんは心此処に在らずって様子だったかな。

 

妖精さん達と連携して手早く換装。アタシ達は敵と向かいあった。ケッコン艦でもあってこの時のメンバーで最高練度だったアタシと、もうすぐケッコン間近の練度だった電ちゃんが駆逐水鬼を、他のメンバーが残りを相手にしたっぽい。

 

アタシと電ちゃんが向かう迄もなく、駆逐水鬼は一直線にアタシ達の所へ向かってきた。アタシが敵右舷側、電ちゃんは左舷側に回って挟撃の体勢をとったっぽい。

 

同時に砲撃した筈だったんだけど、駆逐水鬼には当たらない。ううん、当たらなかったんじゃなくて、避けられた。『さけた』じゃなくて『よけた』。そう、駆逐水鬼は砲撃直前のアタシと電ちゃんの砲口の向きと角度から着弾点を判断、アタシや川内さんが萩風に教えたとおりに避けてた。

 

暫くはお互い水面を走りながら砲撃。アタシは反対側を走る電ちゃんをカバーしながら応戦してて。砲を交える度、戦闘が進む度に『あの深海棲艦は萩風じゃない』って思いたいアタシの中の可能性がどんどん減っていって。

それから。電ちゃんが雷撃。駆逐水鬼はそれを見て一度立ち止まって、ヘルメットを脱いだ。現れたその髪は、いつも萩風がお気に入りだった左サイドアップ。それと、特徴的なアホ毛も。駄目だ、これ以上は否定出来ないっぽい。もう間違いない、あれは‥‥‥萩風だ。

 

萩風は、手に取ったヘルメットを電ちゃんが放った魚雷に向かって投げつけた。同時に、ニヤリって笑って加速しながら魚雷に砲撃、命中して爆発。電ちゃんはその行動の意味を理解してなくて呆気に取られちゃってて。アタシはハッと我に返って、駆逐水鬼‥‥‥萩風の行動の意味を理解して、焦って電ちゃんに通信を入れる。急がないとヤバいっぽい。

 

『電ちゃん、避けてっ!!』

 

けど、間に合わなかった。呆然としてた電ちゃんが顔をあげたその視線の上。魚雷の爆発を推進力に変えた駆逐水鬼は、両手に深海魚雷を四本抱えて、電ちゃんの真上から降ってくる最中だったっぽい。

 

『う‥‥‥‥‥‥え‥‥‥‥‥‥?』って力なく電ちゃんが呟いた直後。轟音と爆発。あのタイミングじゃ避けられない、直撃‥‥‥電ちゃん!!

 

アタシは走った。煙がやっと晴れてきたけど、視界に映った電ちゃんは水面に倒れてピクリとも動かない。それ処か、浮力を失ってゆっくりと沈み始めた‥‥‥急がなきゃヤバいっぽい!!電ちゃんが死んじゃう!!

 

『いなずまぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!』って思わず叫ぶ。このままじゃ電ちゃんが沈むのに間に合わない。アタシは最大戦速で走りながら、艤装に魚雷をぶつけて爆破。その爆風を推進力にするのも慣れたもので、急加速しながら真っ直ぐ電ちゃんの元へ。

 

不味い、不味い不味い不味い。電ちゃんの海面から見える部分がどんどん減っていってる。このスピードでも間に合うか分からないっぽい。お願い、間に合って‥‥‥間に合え!

 

アタシが到着した時には電ちゃんの身体は完全に水の中へ。慌てて海の中へと伸ばしたアタシの右手は、どうにか電ちゃんの左手の甲を掴んだ。やった!どうにか間に合ったっぽい!

 

勢いよく水中から引き上げた電ちゃん、辛うじて息はあるけどやっぱりピクリとも動かない。電ちゃんの艤装は完全に破壊されて喪失してて。抱き上げた電ちゃんの背中に回してたアタシの両手に、ベットリと嫌な感触。恐る恐る見たアタシの掌には、鮮血。

 

瞬間、アタシの中の何かがキレたっぽい。沸き上がる感情は、怒り。電ちゃんを守れない自分への。結果的に萩風を死に追いやってしまった自分への。萩風にまた死を迎えさせなきゃいけない自分への。それから‥‥‥電ちゃんをこんな目に遭わせた駆逐水鬼への。

許さないから。幾ら萩風の成れの果てだったとしても、電ちゃんをこんなにした奴は、絶対に。

アタシは、電ちゃんを抱いたまま、頬に涙が伝ったまま、渦巻く怒りに任せ吼えた。

‥‥‥ごめんね、電ちゃん。ごめんね、萩風。

 

『絶対許さないっぽい‥‥‥許さない‥‥‥萩風ぇぇぇッ!!!』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「提督」

 

「‥‥‥はい?」

 

何やら考え事していたようですね。提督は先程からボーッとしていて焦点が合っていませんでした。タイミングから考えて、鈴谷さんの事か、それとも萩風さんの事を考えていたのか。

 

「不知火さんもそうですが、どうして鈴谷さんに言わなかったのですか?提督も不知火さんも‥‥‥」

 

神通です。

提督は執務用のデスクに座ったまま。書類を広げているものの、手につけた様子はありませんね。

わたしの質問に「そうね」と前置きして提督は答えて下さいました。

 

「鈴谷さんが自分で乗り越えないと。起きた事実はどうであれ、受け止め方は人それぞれだから」

 

確かに。提督の言うとおりではあります。不知火さんのように提督を支えにして気持ちを整理できた子もいれば、熊野さんや提督自身のようにそれを原動力に変えた子もいる。勿論、神風さんのように現段階でも悩みながら戦っている子もいます。ですが、鈴谷さんが果たして自力で戻ってこれるかどうか。彼女の目の前でネ級の頭を潰したのは早計だったかも知れません。それが原因で鈴谷さんにトラウマを植え付けてしまったのだとしたら、わたしは‥‥‥。

 

「大丈夫。鈴谷さんならきっと。それに、彼女には多分」

 

提督が言うには、先の戦闘で鈴谷さんに先代の‥‥‥彼女のお姉さんが持っていた『重巡洋艦鈴谷』の魂が受け継がれた筈、だそうです。わたしにはイマイチ分かりかねますが、嘗ての提督や熊野さん、川内姉さんがそうだった、と。

 

「だから、彼女のお姉さんの意志もきっと鈴谷さんに伝わってる」

 

提督はそう言って憂いを帯び微かに笑みを見せました。それから「鈴谷さんが戻ったら航空巡洋艦への改造を承認します」と。航空巡洋艦への改造は史上最速、熊野さんや先代の鈴谷さんよりも遥かに早い。

 

「畏まりました、提督。鈴谷さんが落ち着き次第、改造に取り掛かります。工廠に手配しておきます」

 




え?何処かで見た気がする?き、ききき気のせいです。はい、気のせい。それでももし何処かで見たという貴方には『ありがとうございます』と言っておきます。


遂に鈴熊に改二が来ますね。と言っても、熊野は兎も角私の鎮守府の鈴谷さんは全然育ってませんがね‥‥‥。
熊野さんの能力予想としては、

・月並みに火力向上
又は
・史実を反映して耐久性向上
又は
・史実を反映して修理時間短縮か自己修理機能()
はたまた
・応急修理女神を持ってくるだけ()
あたりですかねぇ。

にしても、運営はどうして私が育ててない娘ばかり改二を持ってくるのやら。このパターンだと次ぎはナントカ露型のイッチバーン艦かナニロウ型のやっと会えた艦辺りですかねぇ、どっちも育ってないし‥‥‥はっ!?まさかあのキョヌー怪獣アタゴンか!いやいや、主力戦艦クラスでしたっけ?なら全く育ってないナガモンさんか……

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