はぁー、訓練つっかれたぁ‥‥‥ん?あれ?もう始まってるの?喋って平気?
ゴホンッ、清霜です!
さっき訓練終わったばっかりなの。川内教官も榛名さんも訓練中は厳しいけど普段は優しいんだよ。あ、でも一番優しいのはやっぱり大和姉さまかな、えへへ。
訓練は大変だけど、どうにか付いていけるようにはなったよ。でも、まだまだみんなの足を引っ張ってます。清霜が一番練度が低いから‥‥‥うぅ、早く大和姉さまみたいな戦艦になれるように頑張らなきゃ。
「清霜」
あっ、朝潮型の10番艦、霞ちゃんだ。霞ちゃん、清霜が訓練終えたあとに何時も声かけてくれるの。「ほら、水分補給しなきゃ駄目よ」ってまたタオルとスポーツドリンクをくれた。清霜の事気にかけてくれてるみたい。
「ありがとう、霞ちゃん!」
「気にしなくていいから。こんなの本当はあのクズ司令官が気を配らなきゃいけない事だし」
駄目だよ、霞ちゃん。山本司令官の事クズなんて言っちゃ。「いいのよ、あんなロリコンの事なんて。いっつも曙ばっかり贔屓しちゃってさ。私だって‥‥‥」
なんだか不満そう。『いっつも』の後はよく聞こえなかったけど、山本司令官とケンカしちゃったなら仲直りした方がいいよ。清霜は沖立しれーかんと仲良しだし。
横須賀に来て、しれーかんが駆逐艦夕立として現役だった頃の映像も沢山観たよ。やっぱりしれーかんは凄いよね。駆逐艦なのにあんなに強くて。清霜もおんなじ戦い方を学んでるところだけど、しれーかんみたいに上手くはいきません。まだまだ訓練しなきゃね。
「霞ちゃんも司令官と仲良くしなきゃ駄目だよ?」
「わっ‥‥‥私はいいわよ!」
なんだか焦ってる霞ちゃん。そんな話をしながら、もらったタオルで汗を拭いて、スポーツドリンクを飲みながら、霞ちゃんと並んで横須賀鎮守府の入渠ドックへ‥‥‥向かってる途中。
「おっ、居た居た。清霜ちゃん、今夜時間ある?」
話し掛けてきたのは漣ちゃん。何だかよく分からないけど、何処かに連れてってくれるみたい。外出許可も取っておいてくれるって。
入渠して、夜になって。漣ちゃんに付いていった先は‥‥‥あれ?ここって居酒屋?えっと‥‥‥。
「まあまあ。入れば分かるから」
取りあえず入ってみよっと。こんばんわー。
「‥‥‥漣ちゃん、いらっしゃい!」って迎えてくれた店員のお姉さん、何だか漣ちゃんに似てる?まいっか。けど清霜は未成年だからお酒は飲めないんだけどなぁ‥‥‥あれ?漣ちゃん、何で店員のお姉さんに敬礼してるの?
あっ、奥から女の人がこっちに来るよ?女将さんかな?
あれっ、なんだろう、あの女将さん‥‥‥清霜は、あの人と会ったことあるような気がする‥‥‥。
「へぇ‥‥‥この子が清霜ねぇ。女将の妙よ。宜しくね」
「あ、えっと、女将さん、こんばんわ」
漣ちゃんが連れて来てくれた理由が、この女将さん。大淀さんや霞ちゃんと同じ、清霜達『礼号組』の一人、足柄さんなんだって。えっ?知ってたの?ズルーい!
「霞とは会った?」
「うん!霞ちゃんも大淀さんも、清霜に優しくしてくれるよ!」
初めて会った筈なんだけど、なんだろう。凄く嬉しい、凄く楽しいよ。きっと、礼号組のみんなで集まったらもっと楽しいんだろうなぁ!「あのカタブツメガネが優しい‥‥‥だと‥‥‥!?そんなバカな‥‥‥」って漣ちゃん、そんな言い方したら大淀さんに失礼だよ!大淀さんだって優しいし面白いでしょ?‥‥‥え?普段は違うの?おっかしいなぁ。清霜達と居る時は堅そうな感じは無いのに。
「そう、良かったわね。川内の教導はどう?付いていけてる?」
「うん、足柄さん。清霜はへーきだよ!早く強くなって戦艦になりたいから!」
みんなでカウンターに移動して、いろんなお話をしました。ちゃんと注文もしたよ。清霜はカツカレー。漣ちゃんはお酒とおつまみ沢山。
それから注文が沢山入って、足柄さんの忙しさが落ち着いた暫く後になった頃かな。「そうそう」って足柄さんが小さい箱を清霜に渡してくれたの。
「これ、清霜に渡しておくわ。きっと私が持ってるよりアイツも喜ぶと思うのよね」
箱の中にあったのは、掌に収まるくらいの大きさの菊花紋章。うーん、この大きさ、清霜どこかで見たような‥‥‥。
「それはね、武蔵の艤装に付いてたものよ。アイツの形見。ほら、大和の首元にも付いてるでしょ?」
あっ、そっか。大和姉さまの首元の艤装に付いてる菊花紋章と同じなんだ。武蔵さん‥‥‥の形見かぁ、そっか。
「足柄さん、ありがとう。大事にするね!」
武蔵さんの菊花紋章。持ってるだけで強くなった気がするよ!よーし、清霜は明日からも頑張ります!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
おや?執務室から出て来るのは大淀さんですか。呉に何か用でもあったのでしょうか?
不知火の方を向いて、目が合いましたね。会釈くらいはしておかなくては。
何故でしょうか。今大淀さんに微笑まれたのですが。不知火に何か落ち度でもあったのでしょうか?身嗜みは、はい、何処も問題はありませんし、髪はきちんとセットされている筈ですし。他に何か‥‥‥?
気になってなりませんね。不知火の居ない処で陰口などという事は無いでしょう。ポイポイに限ってそのような事はしない筈ですし。ですが‥‥‥。怖い気持ちはありますが気になって仕方ありません。此処は執務室に乗り込むしかありませんね。
「失礼します、司令」
ノックをして執務室の中へ。
おや?ポイポイ、今何かを引き出しに慌てて隠しましたね?何を隠し‥‥‥‥‥‥ハッ!?
「ヌイヌイちゃん?何か報告?」
むぅ。実に白々しいですね。ですが隠したモノが何かは分かりました。大淀さんの先程の様子からして、恐らくはこの不知火に渡す為の指輪、ですね?
期待は‥‥‥していないと言えば嘘になります。しかしながら、不知火の想い描くそれは可能性としては低い事も承知しています。今のままならば、ポイポイはケッコンカッコカリの指輪は事務的に、あくまでも艦娘の装備品として渡すのでしょうね。
それでも、不知火は満足ですよ。ポイポイに送られたプレゼントに変わりは無いわけですし、それが左手薬指に嵌める指輪な訳ですからね。
「いえ。大淀さんの姿が見えたので何か緊急の案件でもあったのかと思いまして」
まあ、最大練度まではもう少しありますし、ゆっくり待つ事にします。焦った処で事態は変わりませんし。
「そういう訳ではないのだけれど。そうね‥‥‥ヌイヌイちゃんには隠しても仕方ないっぽいわね」
隠し通したりはしないのですか。少し残念です。隠さない、という事はやはり事務的に渡すという事でしょう。はぁ。不知火の想いなど、やはり叶えられぬものなのですよね‥‥‥。
おや?これは、何?瞳の奥が熱くなって、何かが溢れて、頬を伝って。泣いている‥‥‥?
「ヌイヌイちゃん?」
反射的にポイポイから顔を逸らせて。不知火はその場から逃げ出しました。勢いよく扉を開いて振り向かずに走って。
ポイポイが何かを言っていた気がしましたが、不知火には届きません。執務室から走って逃げて、自室の前まで来て。けれど、部屋には暁が居ます。不知火の落ち度ですね。泣き顔を見られたくはありませんし、何処か別の場所へ‥‥‥。
「あの、不知火さん。さっきはごめん。鈴谷が言い過ぎたよ。萩風の事とか全然知らなくて」
何というタイミングですか。思わず鈴谷さんの方に振り向いてしまったではありませんか。「あれっ?不知火さん、泣いてる?」という鈴谷さんの言葉からして、完全に泣き顔を見られましたね。今日は落ち度ばかりの日ですね。
‥‥‥心配そうな表情の鈴谷さんに掴まれた右手を振り解き、またしても不知火は逃げ出しました。
清霜さんとヌイヌイの想い。この前の大淀さんの回はこの為のフラグです。
ケッコンカッコカリの指輪がポイポイの手元に来ました。ヌイヌイにはここからが正念場なんですがね。
ではまた次回に。