はぁ‥‥‥参ったわね。まさかヌイヌイちゃんに泣かれるとは思わなかった。私の話は全然聞いてくれないし、執務室から走って出ていっちゃうし。
これじゃ迂闊に指輪は渡せない。時間をかけて説得するしかないっぽいわね。
沖立です。
昔なら兎も角、今なら幾ら鈍感な私でも分かる。ヌイヌイちゃんはきっと、私にケッコンカッコカリの指輪を『事務的』に、『装備品』として渡されるのが辛かったのよね。仮にも『ケッコン』なんて名を冠してるものだもの、意識しないほうが無理。私にloveの意味での好意を向けているのなら尚更。もうっ、どうして練度限界を引き上げる装備品を指輪の形にしたのかしらね。確かに私も夕立として現役だった頃は貰って凄く嬉しかったけど‥‥‥。
ヌイヌイちゃんが1番喜んでくれる形で渡すのは無理だし。私だってヌイヌイちゃんの事は大好きだけど、それはあくまでも親友としてだしね。かといって騙すような事はしたくはないし‥‥‥ハァ‥‥‥他の提督はこういうケースはどうしてるのかしらね。
執務用の自分の椅子に背中から凭れかかって天を仰ぐ。勿論、そんなに簡単に答えは見付けられないけど。そうして悩み始めた時にタイミング悪くノック音。私は上体を戻して視線を扉へ。「どうぞ」って応えた後に躊躇しながら入って来たのは、鈴谷さんだった。
「あの‥‥‥提督、ごめんなさい」
鈴谷さんが突然謝ってきて、ちょっとビックリした。理由は勿論、萩風の事。
「今更言い訳にしかならないけどさ。提督と萩風の事、聞いた」
「‥‥‥そっか」
ヌイヌイちゃんと私、萩風の事は瑞鶴さんに聞いたみたい。駆逐水鬼との事も。命の重さは比較なんて出来ないけど、私と鈴谷さんでは立場が全然違うとは思う。私の場合は目にかけてた後輩。鈴谷さんの場合はたった一人の肉親。それも鈴谷さんが大好きだったお姉さんだもの。駆逐水鬼を沈めた時は身を引き裂かれるような思いだったのは確かだけど。
「五航せ‥‥‥瑞鶴さんの言う通りだよね。みんな辛い思い抱えて戦ってるんだよね。鈴谷だけ辛いんだ、って勝手に決めつけてたよ」
視線は合わせず斜め下を向いたまま話す鈴谷さん。その表情は憂いに満ちていて。
「よく考えてみたらさ、本当は提督や熊野のほうが辛いんだ、って。だからさ、鈴谷はこれから頑張るよ。お姉ちゃんの分も、さ」
よかった、鈴谷さん立ち直れたっぽいわね。瑞鶴さんが力を貸してくれてたとは思わなかったけど。もしかしたら瑞鶴さん‥‥‥鈴谷さんと自分を重ねて見てるのかも知れない。同情なのか、ううん、それとも‥‥‥。
「ええ。宜しくね、鈴谷さん」
ごめんね、鈴谷さん。あの時お姉さんの力になれなくて。お姉さんを一人犠牲にしちゃって。本当に、ごめんね。
鈴谷さんが落ち着いたのを確認して、私は指令を伝えたわ。『航空巡洋艦への改造』。これで鈴谷さんにも瑞雲が使える。瑞鶴さんも居るし、作戦の幅が広がる。
「あ、そうだ提督。不知火さんが泣きながら走ってったんだけどさ、あれってやっぱり鈴谷のせいかな?」
思い出したように口にした鈴谷さん。自分のせいかと思って申し訳なさそうな、不安そうな表情ね。鈴谷さんのせいじゃないんだけどね。けど許可もなくヌイヌイちゃんの想いを話す訳にもいかないし。
本っ当に司令官っていうのはもどかしいわね。出来るなら今すぐにでもヌイヌイちゃんを追いかけて出ていきたい所なのに。私情より執務を優先しなきゃいけない。当然と言えば当然なのでしょうけれど‥‥‥。大淀さんも来てるし最低限デイリー任務くらいは終わらせておかないと。神通さんもそろそろ戻ってくる頃だしね。
‥‥‥ヌイヌイちゃん、大丈夫かな‥‥‥?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『私も残るわ!』
‥‥‥あれっ?なんだろコレ?夢?えっと、曙ちゃんが真剣な表情で鈴谷に話してるんだけど?
『駄目だよ。曙はみんなと戻って』
鈴谷の口から発せられたのは、そんな否定の言葉。尚も曙ちゃんは食い下がる‥‥‥って、なんで私『曙』って呼び捨てしてるの?
『何言ってるのよ!鈴谷さん、もうボロボロじゃない!』
視界から見える範囲だけどさ、確かに鈴谷はボロボロ。明らかに大破してるよね、これ。このまま一人で残ったら間違いなく轟沈なのに。鈴谷ってば何言って‥‥‥。
『それでもだよ。冷静になりなよ。島風もあの状態だよ?今のメンバーでまともに対潜攻撃が出来るのは曙だけ。そんな曙が艦隊から離れたらどうなるか、わかるでしょ?』
見える限りだけど、戦艦、重巡、曙ちゃん、それとボロボロの島風ちゃん‥‥‥?あれ?でも鈴谷の知ってる島風ちゃんと雰囲気が違う?うーん、確かに鈴谷の口にしてる事は尤もだけどさ。このメンバーじゃ潜水艦とまともにやり合えるのは曙ちゃんだけなんだけど、すごい違和感‥‥‥‥。
『でもっ!』
涙を必死に堪えてる様子の曙ちゃん。曙ちゃんが掴んでた手を振り解いて、鈴谷はまだ動く右手で曙ちゃんの頭を撫でて。
『曙はさ、みんなをアイツ等から守って。曙にしか出来ない事だから』
堪えてた涙腺が決壊して、遂にポロポロと泣き出した曙ちゃん。曙ちゃんのこんな表情、初めて見たよ。凄く悔しそうな、辛そうな表情。
『鈴谷は出来る限り時間を稼ぐから。その間に必ず逃げ切って。万が一の時は‥‥‥頼んだよ、曙?』
あっ‥‥‥これ、もしかして。
そう言って鈴谷は背中を向けて。啜り泣く曙ちゃんの声が遠くなっていく。やがて波音よりも小さくなって。
『ごめんね、弱いお姉ちゃんで。最後まで一緒に居てあげられなくて、ごめんね』
鈴谷は海面を走る。ボロボロの甲板からなんとか瑞雲を発艦しながら。
『ごめんね、熊野。折角逢えたのにさ。また先に行っちゃって。貴女は‥‥‥生きて。今度こそ』
やっぱり。お姉ちゃんだ。お姉ちゃんの最後の記憶だ‥‥‥。
『さーて、鈴谷が相手だよ!此処からは‥‥‥一歩も通さないよ!』
やっぱり凄いよ、お姉ちゃんは。こんな大破状態なのに潜水艦から放たれる魚雷をスイスイ避けてさ。随伴の水上艦を滑るような動きで撃沈して。瑞雲を巧みに操って敵の潜水艦にダメージを与えていってる。これなら何とかなるかも‥‥‥‥‥‥って、増援!?ヤバいって!あっ、増援の軽巡ホ級の高射砲が、お姉ちゃんの瑞雲を次々墜としてく。お姉ちゃん‥‥‥。
『もう、いいから。妖精さん達、みんな脱出して。此処までだよ』
最後の一機になった瑞雲に、艤装を駆ってる妖精さん達を押し込めて離脱させて‥‥‥やだよ、お姉ちゃん、やめてよ!お姉ちゃんも逃げてよ!
『来なよ、後は鈴谷だけだよ。もう抵抗する力も残ってな‥‥‥っ!!』
勝利を確信したのか、潜ってた深海棲艦が浮上。その潜水棲姫の顔を見て、お姉ちゃんは明らかに驚いてる。潜水棲姫、元はお姉ちゃんの知ってる艦娘だった‥‥‥みたい。
『なんって事‥‥‥こんな事って‥‥‥』
『サ ア、イ ッ シ ョ ニ ク ル ノ ネ』
馬鹿みたいな数の魚雷が潜水棲姫から発射されて‥‥‥目の前が真っ黒になった。
◆◆◆
「‥‥‥あ」
やっぱり夢だったのか。そうだよね。航空巡洋艦への改造中だったもんね。あんなリアルな夢、あるんだなぁ。参ったなぁ、涙止まらないよ。
「鈴谷さん?」
泣いてる鈴谷を心配そうに見てる神通さん。あ、へーきへーき。ちょっと感傷的になっただけだからさ。へーき‥‥‥だから。
「何でもないから。それより航空巡洋艦になったんだよ!これからは鈴谷にお任せっ!」
泣いてるのを誤魔化すように笑顔を向けてっと。
任せて、お姉ちゃん。鈴谷は‥‥‥鈴谷も、お姉ちゃんの分まで戦うよ。提督や熊野達と一緒に、ね。
鈴谷さん、航空巡洋艦への改造完了の回。今回のエンディングテーマがあるのなら銃爽、でしょうかね。
艦これの鈴谷さんの改二まであと少しですね。爆戦の零式63型が積めるっぽいですけど、さてさてどうなる事やら。私の所の鈴谷さんですか?レベル76あれば改二に足りるでしょう(慢心)
そう言えば‥‥‥あのホワイトデーのクッキーの仕様はどうにかならんものですかね?使用した瞬間資材とかどうなの()