抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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連鎖

 

 

一日目。

 

‥‥‥?

‥‥‥!!

 

目を覚ます。

瞳に映るものは辺り一面の闇。怪我が酷いようで、ここから動けそうもない。記憶が混濁していて、自分が何者なのか、何があったのかを思い出せない。

 

 

二日目。

 

特に変化は無い。怪我の具合は変わらず。このまま此処から動かなければ朽ち果ててしまうのは明白。誰かが見つけてくれる事を祈る。

‥‥‥祈る?祈るって、何でしたっけ?

 

 

三日目。

 

闇の向こうから、微かに誰かの声が聞こえる。どうも私を探しているらしい。此方から助けを呼ぼうにも、声が出せない。

この暗闇にも関わらず、向こうの誰かは私の居場所が見えたらしい。光が無い為、相手の姿はよく分からない。

 

「やっと見つけた。随分と派手にやられてるわね」

 

そう口にした相手にはやはり私の姿が見えているらしい。どうやら助かったようだ。運が良い。

 

‥‥‥‥‥‥?今の違和感は、何でしょう?

 

 

四日目。

 

この辺りは余り恵まれた場所ではないらしい。助けてくれた彼女が言うには『此処に治療施設なんか無いわ。まぁ、私が何とかしてあげる』だそうだ。明るい所に移動して、改めて自分の怪我の程度を知った。これは酷い。生きているのが不思議なくらいだ。よくも今日まで死ななかったものだ。神経が麻痺してしまっているのだろう。そうでなければ今の姿で殆んど痛みを感じていない事の説明が出来ない。

そんな状態で、よく四日も生きて‥‥‥いや、意識を失っていた期間を考えればそれ以上か。何にせよ、私は普通ではないのだろう。

 

「回復したら貴女にやってもらいたい事があるのよ。言っておくけど、他に選択肢なんて無いから」

 

何と言うか、彼女の言葉には重みがまるで無い。それに終始上から目線で私を嘲るような口調だ。気に入らない事は気に入らないが、彼女は私の命の恩人。1つくらい用事を聞いてもいいか。

それにしても‥‥‥下半身と右腕を失い、片目しか見えていない私に出来る事など有るのだろうか?

 

私の左手薬指に、飾り気の無い指輪を見付けた。ケッコンでもしていたのか。まあ、記憶が無いので実感は無い。

 

‥‥‥ケッコン、ですか?とても重要な何かだった気がします。

 

 

五日目。

 

まだ記憶は戻らず。しかし、俄には信じ固い事が起きた。身体の傷の回復速度が早すぎる。というかおかしい。腰から抉れて吹き飛んでいた筈の下半身が、今はお尻の辺りまで有る。どんな治療をしたら欠損した部位が回復するのか。あの彼女、どうやら只者ではないらしい。

私の周りには、人間の女性の屍体が何人分か転がっている。

まさかとは思うが‥‥‥。

 

「違うわ。そんなゴミの屍体なんて使ってない。使ったのは、『それ』よ」

 

何時の間にか彼女が居た。その彼女が指したのは、鉄の塊‥‥‥何かの機械の残骸。いや、私はこれらを見た事がある‥‥‥?

 

「参ったわ。貴女、記憶はまだ戻らないの?」

 

彼女は困ったように溜め息をついた。彼女に依ると、私の周りに散らばった女性の屍体達よりも、私は余程価値があるのだそうだ。だから今は治療も手伝う、と。

 

 

六日目。

 

原理は全くもって不明だが、あれだけの怪我がまるで何事も無かったかのように全快していた。同時に、心の中から沸き上がってくるのもがある。その感情は‥‥‥。

 

「良い表情になったわね。やる事は?思い出した?」

 

‥‥‥思い出した。そうだっタ。マダ為し遂げテイない事があッタ。ニヤリ、ト笑ミを見セタ私を見て、彼女も被っテイたフードを外シ、長ク真っ白な尾ヲ振り満足シタ表情ヲ見セル。

 

『ダカラ、言ッタデショウ?貴女ニ選択肢ナンテ無イ、ッテ』

 

 

 

 

『ソウネ。私ノヤル事ハ1ツダケ』

 

今、迎エニ行クワ‥‥‥‥‥‥待ッテテ。ネェ、『瑞鶴』?

 

―――――

 

―――

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「提督~!」

 

泣きそうな、情けない声で私を呼ぶ鈴谷さん。私に言われてもね。私は駆逐艦だし、瑞鶴さんは空母だし、他のみんなも。航空巡洋艦の経験がある子は今の呉には居ないし。

 

「だからってさぁ~、鈴谷この妖精さんとはヤダよ~。妖精さん厳し過ぎだって!熊野の所にでも何でも師事しに行くからさぁ~!」

 

うーん、泣き言まで言ってる。あれだけ鈴谷さん自身で『厳しいんだよ!』って言ってた熊野さんの名前を出すくらいだから、妖精さんの鍛え方は相当堪えてるっぽいわね。けど、ごめんね、鈴谷さん。現状、熊野さんも利根さんも忙しくて呉鎮守府まで出張する余裕は無いのよ。かといって、鈴谷さんを今他に出せるほど呉に余裕も無い。

 

「ごめんなさい、鈴谷さん。ほら、これも鈴谷さんの為だから」

 

「だってさぁ!」って反論しようとした鈴谷さん、頭の上に乗ってる妖精さんにペシン、と叩かれてるわ。

 

『だって、ではありません。何を呑気な事を言っているのかしら?こうしている間にも敵は力を蓄えているのだし』

 

そう言いながら鈴谷さんに付きっきりでレクチャーしてるのは、鈴谷さんの改二改造チームのサブリーダーの妖精さん。あの子、呉の妖精さんの中でも特に厳しいからね。あの妖精さんなら改造した手前、鈴谷さんの艤装の事は知り尽くしてるから。アドバイザーとしては適任だと思ったんだけど。まぁ、あの妖精さん自身が立候補してくれたんだけどね。

 

「ちょっと!?暴力奮うとかおかしいじゃん!」

 

『黙りなさい。艤装の性能頼りで貴女自身に進歩が見えないからです。それに、熊野では駄目です。あの子は貴女には甘い所が有るわ』

 

ア、アハハハ。流石はサブリーダーの妖精さんね。熊野さんに『甘い』なんて言うのはあの子だけでしょうね。

 

「はぁ!?『熊野が甘い』とかおかしいんじゃないの!?妖精さんの癖に熊野の事全部分かったような口聞いてさぁ!」

 

『怒っているような暇が有るのならそのぶん一層精進なさい。‥‥‥ハァ』

 

‥‥‥あれ?何だか雲行きが怪しくなってきたっぽいわね。鈴谷さんと妖精さんの言い争いが激しくなってきたような?

 

「ムッカー!!溜め息なんかついちゃってさぁ!鈴谷は艦娘、貴女は妖精!本来なら貴女が艦娘の鈴谷の指示を聞かなきゃいけないんじゃないの!?」

 

『‥‥‥なら、その妖精の指示無しで動けるようになりなさい。全く、此れだから最近の新人の子は。世話が焼けます』

 

‥‥‥ええっと、そろそろ止めた方がいいっぽいわよね?このままじゃ先に進まないし、何より此処は訓練場の海の上。演習用とはいえ弾薬も燃料も消費してるし。

 

『無駄口を叩いていないで手を動かしたらどうなのかしら?それ、お姉さんの瑞雲でしょう?』

 

鈴谷さん、何か言い掛けたけど大人しくなったみたい。今は瑞雲へ的確な指示が出せるよう、臨機応変に動かせるよう訓練をしている最中なんだけど、やっぱり最初は難しいみたいね。瑞雲を初めて使うのもあるのだろうけど、多分身体の感覚が改二のスペックに付いていっていないのね。こればかりは慣れかな。

 

「妖精さん。じゃあさ、今の鈴谷ってどれくらいの強さなの?熊野より上?それともモガミン(モチロン最上さんの事)くらい?」

 

『馬鹿は休み休み言いなさい。今の貴女では練度1の軽空母にも勝てないでしょうね』

 

相変わらず。あの妖精さんは辛辣ね。けど実力を客観的(?)に指摘される事も必要だからね。言い方はかなりキツいっぽいけど。

 

「ちょっ!?馬鹿は余計でしょ!」って興奮してる鈴谷さん。これは先が思いやられるわね。二人の掛け合いも観ていたい気がしない事もないけれど。早く先に進んでもらわないとね。

 

「もーっ!こんなんじゃ実戦なんて何時出られるか分かんないじゃん!鈴谷ホントに強くなってるのかな‥‥‥?」

 

少しだけ落ち込んでる鈴谷さんの頭の上。サブリーダー妖精さんは『能力が上がっているのは間違いありません。後は貴女が使いこなせるかどうか。その為に私が居るのだし』って。うーん、暫くは鈴谷さんと妖精さん、一緒に出撃かな?

 

「じゃあさ、じゃあさ、妖精さん。上手く動けるようになったら鈴谷でも大活躍出来るって事?」

 

『そうね。そうなれば問題有りません。がいし‥‥‥‥‥‥いえ、とは言え貴女の心懸け次第です、精進する事ね。それなりに期待はしているわ』

 

やっぱり鈴谷さんが上手く動けるようになるまではあの妖精さんにサポートしてもらうべきよね、うん。「よーし、そういう事なら鈴谷、やっちゃうよ!」って鈴谷さんもやっとやる気になったみたいだし。宜しくね、サブリーダーの妖精さん。

 

っと、そろそろ大和さんが来る頃ね。それじゃ、私はそろそろ執務に戻ろうかな。此処まで乗ってきたボートくらいなら私だって操縦出来るから。

 

「それじゃ二人とも、頑張ってね」

 

『そう‥‥‥では司令官、後程』「じゃあ後でね、提督!」って二人は挨拶して見送ってくれた。

 

◆◆◆

 

「大変ご迷惑をお掛けしました」

 

執務室で深々と頭を下げる大和さん。ええっと、そういうのは望んでないんだけど。そうじゃなくって。

 

「大和さん、他に言う事があるわよね?」

 

私の言葉にキョトン、として顔をあげた大和さんはチラリ、と私の隣に立つ神通さんに視線を向ける。神通さんは三人分の珈琲の乗ったトレンチを持ったままで、ニコリと微笑む。あ、神通さんも分かってくれてるっぽいわね。

 

「‥‥‥‥‥‥大和、無事帰還致しました」

 

その報告と同時に、大和さんは改めて海軍式敬礼。そうね。その言葉が欲しかったの。レ級、それから初代吹雪の成れの果てと相対した大和さんが無事戻って来てくれた。今はそれで充分。

あれ?言ってなかった?川内さん達が電ちゃんの鎮守府で戦った相手はレ級と初代の吹雪の成れの果て。初代吹雪の撃沈には成功したのよね。本当に誰も沈まなくて良かった。

 

私が微笑むのと同時に表情を崩して笑みを見せる大和さん。この後に訪れる事態‥‥‥空母水鬼の事なんてこの時は気付いてもいなかった。そう考えると、足柄教官はやっぱり頭の回る人なんだなぁ。

 

 




レ級さん、暫く見ないと思ったら空母水鬼さんとお戯れでした。因みに、
ゴミの屍体→レ級が沈めた艦娘
機械の残骸→その艦娘の艤装
です。


何やら特徴的な話し方のサブリーダー妖精さんが意味深に登場。いやあ、何航戦のあの人とそっくりですね、偶然だなぁ(すっとぼけ)
これで役者は揃いました。後はVS空母水鬼こと翔鶴さん。瑞鶴の出番ですね。

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