抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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確信

は~。妖精の身体だと執務室って遠いよねえ~。これ戦闘機に乗ってけばあっという間だろうけどさぁ、勝手に飛ばしたら怒られそうじゃん?あーもー、歩くしかないのかぁ。汗のせいでヌメヌメするぅ。

 

ちーっす。

え?私?私はただの妖精だよ?ほら、あの子‥‥‥鈴谷の改二改造チームのリーダー、主任を務めた只の妖精。

 

空母水鬼が現れたじゃん?だから大和さん、暁、瑞鶴、それと鈴谷は出撃準備中。か‥‥‥じゃなくてサブリーダー、副主任の妖精は鈴谷に付いてる。だから私が沖立提督に報告しに行く訳。

何の報告か?うーん、これ言って大丈夫かな‥‥‥えっとさ、提督の『駆逐艦夕立の艤装』のメンテナンスが終わったから何時でも出撃可能、って報告なんだよね。

あー、うん。分かってる、分かってるって。絶対出撃させたりしないから。ちゃんと提督の事は止めるって。出撃したりしたら、今度こそ提督の身体は動かなくなっちゃうかも知れないしさ。まぁ、本当は私が言えるような立場じゃないんだけどね‥‥‥‥‥‥って、何でもないから!ホラ、アレだよ!沖立提督は司令官だし、私達妖精から見ても上官だから意見できるような立場じゃ無いって意味だよ!別に他意なんて有るわけないし!

 

あー、やっと執務室着いたよ。工廠から遠かったぁ。私達妖精だけで工廠から出て遠出するときは何時もは専用の乗り物に乗ったりしてるんだけどさぁ。特二式内火挺を改造した、装甲と装備削って軽くしたヤツ。アレ乗ると目立つからさぁ、今回はパスしなきゃいけなくて。沖立提督に『目立たないように執務室に来て』って言われててね。全く一苦労だよ。

さてさて、入る前にちょっと休憩しよっと。

 

ん?執務室の中から不知火の声が聴こえる。

 

「お願いします!不知火を‥‥‥不知火も出撃させてください!」

 

まぁ、そうだよね。空母水鬼は不知火から見れば、大切な実妹を殺した憎むべき相手だもんね。不知火の気持ちは凄く分かる。けどさ、今回は出撃させないのが正解だよね。そもそも支援要請されてないし。不知火の長所って冷静に状況を分析して最適な判断を下す事だからね。今の不知火にそれが出来るとは思えないしね。「許可できないわ」って夕立が言ってるのが聴こえる。うん、司令官の判断としてはそれで合ってるよ。冷静な判断が出来ない以上、不知火に危険が及ぶかも知れないもんね。

 

ただ、さ。その提督自身が出撃しようとしてるのはダメだよね。ホント、提督には困ったものだよ。提督は司令官らしく、司令室でどっしり構えてればいいんだよ。

 

何とか頑張って出撃の許可を貰おうとしてた不知火だけど、やっと諦めたみたいだね。「分かりました」って声が聞こえた。

 

「ですが。貴女もです。ポイポイ、絶対に‥‥‥絶対に行かないと此処で誓ってください。でなければ、不知火は命令を無視してでも出撃します」

 

「‥‥‥うん。ごめんね、ヌイヌイちゃん」

 

おっ、話が纏まったみたいだね。不知火に見つからないようにちょっとあの辺に隠れてよっと。

「失礼しました」って執務室から出てきた不知火、私には気付かなかったみたいだね。さてさて、それじゃ執務室の中へっと。

 

『はぁ~い、提督ぅ』

 

「態々来てくれてありがとう。私の艤装、準備出来てる?」

 

だからぁ、出撃はダメだってば。気持ちは分かるよ?でも、それとこれとは別だから。

 

『幾ら萩風の仇でもさぁ、提督は出ちゃ駄目だって。自分の身体がどういう状態か分かってる?』

 

「ええ、分かってる」なんて言ってるし。提督、ホントに分かってんの?次は死んじゃうかも知れないんだよ?それに、もしも提督が、夕立が沈んだらとんでもない深海棲艦に‥‥‥って、そうか。『夕立の魂』はもうボロボロの状態だから、提督が沈んでも深海棲艦は生まれないかも知れないのか。もし生まれても大した事無いヤツにしかならないからか。

 

『けどね、提督。提督が戻らなかったら悲しむ人がいるんだよ?不知火や春雨を泣かせる気?』

 

家族や大切に想ってくれてる人、それから仲間達を泣かせていい道理なんて無い。例えそれで空母水鬼を潰せても、仲間を守れたとしても、大切な人を守れたとしてもね。アハハ‥‥‥こんな事言う資格、私には本当に無いのに‥‥‥。

 

「それも、分かってる。大丈夫。私は必ずまた此処に戻ってくるから。ヌイヌイちゃんを泣かせたりしない」

 

そうは言っても、さぁ。相手はあの空母水鬼な訳だしさぁ。昔の呉みたいに艦娘が揃ってる訳じゃないんだし‥‥‥。

 

「‥‥‥それに。妖精さんには私の事を言う資格はないんじゃない?」

 

ギクッ。

‥‥‥ハッ!?いやいやいや、確かに無いけど、無いけどさぁ。そんなハッキリ言っちゃう?幾ら上官だからってさ、もうちょっと言い方ってヤツが‥‥‥。

 

「ねえ、妖精さん。私が貴女に『お久しぶりっぽい!』って言ったら、どうする?」

 

ギクギクッ。ちょっ、夕立のヤツいきなり何言い出してんの?ええっと、いや、まあ、何ていうか、ねぇ?

 

『いやいやいや、そんな訳無いじゃん。私、呉以外で夕だ‥‥‥じゃなくて提督と会った事ないし。それに私、妖精としても最近初めて此処呉に来たばっかりだし、夕立として提督が此処に居た時にも会った事なんて無いじゃん!?』

 

ヤバッ。私これ完全に焦っちゃってるよ。提督も私の様子で確信持っちゃったみたいで、表情が真剣なものに変わった。

 

「私もだけれど‥‥‥当時熊野さんや妹さん、曙ちゃんがどれだけ悲しんだか、辛い思いをしたか分かる?勿論、あの時の貴女のお陰で今の私が居るのは間違いないけど。そんな貴女に、今の私の行動を止める資格があるかしら?ねえ、妖精さん‥‥‥ううん、●●さん?」

 

 

 

あー、やっぱりこれ以上隠すのは無理か。それにしても何で分かったんだろ。自分でも今の私の状態は説明つかないってのに。

 

夕立‥‥‥沖立提督の話だとさ。提督は過去、夕立だった時に一人だけ、轟沈した筈の艦娘の魂を宿した妖精に会った事あるんだって。アチャー、前例が居たのか。そりゃあこんな信じらんない状況もあっさり理解しちゃう訳だよ。もしかして私が呼ばれたのって、これが本命の話?

 

『あー、えっと‥‥‥まぁ、うん』

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

やれやれね。本当はもう少しコレの具合を試してから使いたかったんだけどね。うん、艦上戦闘機、零式63型。まさか空母水鬼相手に使う事になるとはね。ま、仕方無いか。震電改の数にも限りはあるし、敵の戦闘機をドッグファイトで墜とさなきゃいけないし。空母水鬼が馬鹿みたいな数の艦載機持ってるってのは過去の戦いで分かってるし。爆撃能力も欲しいしね。利根さんや鈴谷の瑞雲ではハッキリ言っちゃうと力不足だし。

 

瑞鶴よ。

今は例の海域に向かってる最中の海の上。舞鎮の利根さん、羽黒と一緒の艦隊なんて何時振りかな。吹雪は出てないのか。元気にしてるんならいいんだけどね。

 

不安は有るわよ?翔鶴姉を見て動揺しちゃわないかとか、大和さんと暁は兎も角、鈴谷は戦力になるのかとか。

妖精さんにはああ言って啖呵きったけど、空母水鬼を沈めるのは大和さんに任せた方がいいわね。私のやる事は、みんなを爆撃に曝させない事。比叡さんじゃないけど気合、入れなきゃね。

 

さてと。そろそろ行くわよ?

飛行甲板も問題無し。心を落ち着けて。弓矢を構える。

 

「艦首風上、彩雲発艦!」

 

私の放った矢は勢いよく海面を走る。艦上偵察機彩雲へと姿を変えて水平線の先へ。

 

『腕は落ちておらぬようじゃな』

 

利根さん、今のを見てたみたいね。けど残念、全盛期の私の弓の腕にはまだまだ及ばない。加賀がもしこの場に居たら『引退している間、弓には触れていなかったようね。そんな腕前では話になりません。此れだから五航戦は』なんて小言言われそう。

 

‥‥‥居たわ。距離は凡そ2000海里って所かな。まだ向こうの艦隊が動く様子は無いみたい。まるで私達を待ってるみたいね。良いわ、やってやろうじゃない。『空母翔鶴の魂』を持った深海棲艦‥‥‥翔鶴姉のその身体、返してもらうわよ!

 

「羽黒、聴こえる?瑞鶴よ。前方に敵艦隊を発見、会敵まで凡そ2000。相手はまだ動いてない。先手を取るわよ!」

 

『はっ、はい、瑞鶴さんっ!』って応えた羽黒はそのあと直ぐに此方の艦隊に通信。

 

『此方旗艦羽黒です!敵艦隊発見。全員第二戦速に移行、戦闘態勢に入ってください!先手を取ります!』

 

さぁ、始めるわ。本当にアウトレンジしてあげるんだから!頼んだわよ、攻撃隊のみんな。

‥‥‥全機発艦!

 

 

 




んん~?妖精さん、何谷さんなんでしょうかね?全然分かんないなぁ(棒)

次回、双方の連合艦隊が激突。ポイポイにも不穏な動きが‥‥‥。



※注※以下ネタです
◆◆神風さんの受難◆◆
パート2

本編とは別の世界線のショートランド泊地、入渠ドック。

カッポーン

鈴谷「いやー、やっぱ戦闘の後はお風呂だよねぇ」

熊野「そうですわね。今回も疲れましたわ」

鈴谷「熊野、連合艦隊旗艦で大活躍だったもんねぇ。護衛棲姫も無事倒せたし♪」

熊野「そういう鈴谷こそ、ですわよ?お陰で春日丸さんも助けられましたし」

鈴谷「金剛さんも連合艦隊で出撃したし、機嫌治ったみたいで良かったよ。此れで鹿島も少し控えてくれたらいいんだけどねぇ」

熊野「またその話ですの?そもそも鹿島さんがそんな事する筈がないではありませんか」

鈴谷「いやいやいや、あれはマジなんだって!何回も言ってるじゃん!」

熊野「はいはい、そうですわね」

鈴谷「熊野信じてないっ!?鹿島はホントに恐いんだって!」





浜風「アチラで鈴谷さん達が騒いでいるようですね」イイユデスネ

神風「本当ね。嗚呼、鹿島さんか。嫌な事思いだしちゃった。それはそうとさ、浜風も出撃させてもらったんでしょ?良いなぁ」イイユネ

浜風「いえ、そんな大それた事はしていませんよ?私は潜水棲姫討伐に向かう那珂さんの随伴艦を務めただけですから。肝心の戦闘は那珂さんの独壇場でしたし、私はイベントを経験させてもらっただけという感じです」

神風「それでもよ。私なんか『まだ練度低いから』って待機組だし。あーあ、司令官、早く私もイベント抜錨させてくれないかなぁ?」

浜風「そう言えばなんですけど、廊下で川内さんがドンヨリとしたオーラを発して落ち込んでたみたいなんですが、何かあったのでしょうか?」

神風「あー、あの夜戦バカね。単冠湾で重巡棲姫をゲージ破壊手前まで追い込んだんだけど、そのあと10連続撃沈失敗の大破止まりでね。無表情の司令官に北上さんと交代させられたの」

浜風「そうだったんですか」

神風「それで、北上さんに代わった1回目で夜戦で北上さんの雷撃一発でゲージ破壊成功って訳ね」

浜風「成る程、すっかり自信を無くしてしまった訳ですか。と言いますか、そんなに早く北上さんを投入して大丈夫なんでしょうか?」

神風「北上さんも『えっ?アタシ出番なの!?もう!?』ってビックリしてたわ」

浜風「そうでしょうね。北上さんは提督の懐刀の一人ですし‥‥‥おや?なんだか全てその場で見たような言い方ですね?」

神風「‥‥‥‥‥‥ねぇ、浜風。私もう駄目かも知れない」

浜風「はい?」

神風「秘書艦に抜擢されたの。ほら、イベント中はみんな忙しいし、司令官の虎の子の漣もずっと出てるし」

浜風「もしや鹿島さんに見つかったのですか?」

神風「そうなの‥‥‥鹿島さん、司令官のお側で働く私を見て『うふふっ』って笑った後、私の耳元で『此処にもいましたね、泥棒猫が』って!どっ、どどどうしよう!?」

浜風「あー‥‥‥せめて同期の友人として骨は拾ってあげますので」

神風「嫌ぁ!見捨てないでぇ!」


つづく?
◆◆
‥‥‥概ね実話ですね。
いやー、あれは無いわ。三水戦旗艦、仕事しろ。お陰で勢いで北上を投入したじゃねーか!
という訳で、ちょっとE-4行ってきます。






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