抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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安息を

 

「‥‥‥ったくあの優男!人使いが荒いったらないわ!」

 

曙よ。

やっと水母棲姫を片付けて戻ったと思ったらコレ。『申し訳ないんだが、入渠を終えたらで構わないから呉に向かってもらえないか?』って。だから、私達は海上を移動中。半刻もすれば西日本には着けるわ。

 

「まあまあ。提督の意見も尤もじゃない?水母棲姫が出てきたんだし、次に空母水鬼が現れてもおかしくはないし」

 

そうなの。五十鈴さんの言った通り。瑞穂さんの成れの果て、水母棲姫がまた現れたし、やっぱり一度沈めた深海棲艦が甦るのは止められない。いや、可能性の段階だけど、夕立のやり方‥‥‥頭を潰せば止められるかも知れない。だから、水母棲姫の頭は確り吹き飛ばしてきたわ。気持ちのいいものでは無かったけどね。

 

「それはそれとしてなんだけど。曙さぁ、山本提督の事『優男』とか『クソ提督』って呼ぶの止めてくれない?あの人は五十鈴の尊敬する人の子孫なの。五十鈴にとって大切な人なんだから」

 

だからって五十鈴さん。私だって今更呼び方変えられないわよ。ずっとこうやって呼んできたし、それに、その‥‥‥今更『山本提督』なんて‥‥‥はっ、恥ずかしいじゃない。

 

「何よ。向こうも納得してるんだからいいじゃない。それとも何?『十三さん』とでも呼んだらいいの?」

 

「そこまで言ってないわよ。五十鈴の大切な人を馬鹿にするような言い方は止めてって言ってるの!ほんっと、何時になったら止めてくれるのよ!」

 

あーあ。またやっちゃった。五十鈴さんと顔を合わせると何時もこう。優男の事で喧嘩になっちゃうのよね。流石に戦闘中はやらないけど。

 

「二人ともそこまでだ。もうすぐ紀伊大島が見えてくる頃だ。補給も兼ねて一休みするぞ」

 

いま止めてくれたのは長門さんね。そうね、水母棲姫討伐に向かった艦隊でそのまま呉に向かう予定。旗艦の長門さん、私、軽巡洋艦の五十鈴さん、重巡洋艦の摩耶さんと高雄さん、それから復帰したばかりの大鳳さん。水母棲姫には悪いけど、大鳳さんが戦闘のカンを取り戻す為の出撃でもあった。まあ面子を見てもらえれば分かると思うけど、今の私達に負けるような要素は無かったわ。慢心でも何でもなくね。

 

どうして目的地が呉なのかは言うまでも無い。瑞鶴さんが復帰したからね。つまり、瑞鶴さんを狙って空母水鬼がきっと呉に現れるって事。

まあでも、萩風が空母水鬼を墜とした時に頭を潰したかどうか迄は見えなかったから。本当に現れるかは分からない。ならどうして今向かってるのかって言えば、優男と妙さんの『カン』。

現れないその時はその時。呉に向かってる名目だって『演習』って事になってるし。あの生意気な問題児の鈴谷の成長具合も見ておきたいしね。

 

「それと五十鈴。曙は昔からこういう性格だ。素直になれない所があるというのも少しは理解してやれ」

 

あー長門さん、それ私に聞こえてるけどいいの?でもまぁ、長門さんは分かってくれてるみたいだからいいか。五十鈴さんは「でもっ、長門さん!」って納得はしてないみたいだけどね。フフン、そりゃあ私の性格に難はあるかも知れないけどさ、こっちは優男とはもう長い付き合いなのよ。伊達に秘書艦はやってないっての。優男とは大抵の事はお互いに分かってるんだから。

 

「曙もだ。幾ら付き合いが長いとは言え相手は提督、しかも海軍中将だ。私達は艦娘。親しき仲にも礼儀あり、という言葉もあるだろう?最低限立場は弁えろ。嫌っている訳でもなかろう?」

 

ぐっ‥‥‥言うわね長門さん。確かにその通りなんだけど。あっ、五十鈴さんったらここぞとばかりに「そうよ、暴言は止めなさいよ!今時ツンデレなんて流行らないわよ?」だって。イラッ。

 

「べっ、別にツンデレでも何でもないんだから!いいわよ、認めればいいんでしょ!?そうよ!私は山本提督が大好きよ!前からアイツの事愛してるわよ!フンッ、これでいいんでしょ!?」

 

ぎゃーっ!?私の馬鹿馬鹿馬鹿っ!!勢いでなんて事口走ってんのよ!!幾ら売り言葉に買い言葉だからって!これがまだ長門さんや五十鈴さんだからマシだけど、もしもこんなの優男に聞かれたりしたら次からどんな顔して会えばいいっていうのよ!

 

『‥‥‥けぼの?聞こえているか、曙?』

 

うるさいっ!話し掛けるんじゃないわよ!今はそれ処じゃない‥‥‥‥‥‥って、えっ‥‥‥つう‥‥‥し‥‥‥ん?優男‥‥‥から?

 

『聞こえているか?出なかったから長門の方に繋いでもらった。目的地を呉鎮守府から変更する。補給を完了次第、今から伝える海域に至急向かってくれ』

 

えっ?待って、ちょっと待って。長門さんの方で通信繋いだって事?って事は優男、さっきの私の告白‥‥‥聞いてたって事‥‥‥?

 

「‥‥‥優男さぁ、聞いてたの?さっきの」

 

『さっきの?何かあったのか?話が見えてこないが‥‥‥何せたった今繋いだばかりだからな』

 

って事は、私の告白は聞こえなかったんだ。よっ‥‥‥良かったぁ。あんなの知られたら恥ずかしくて生きていけないわ。本当助かった。もぅ、顔処か耳まで熱くなってるじゃないの。

 

『兎に角急いでくれ。沖立少佐からの報告でな、空母水鬼が現れたそうだ。どうやらアチラさんは此方の準備は待ってくれないようだからな』

 

「フッ、フンッ!やってやろうじゃないの!此方の艦隊はヤツにはお誂え向きよ。‥‥‥萩風の仇、取ってやろうじゃない!」

 

そういう事なら急ごうかしらね!ビッグセブンに対空に強い五十鈴さんや摩耶さん、大鳳さんまで居る私達に死角は無いわ!そうと分かれば先ずは補給ね!紀伊大島に急がないと!

 

 

 

けどね。やっぱり世の中都合良くは出来てなかった。私が海上を紀伊大島へと走って離れた後、長門さんと優男はこんな会話をしてた。

 

『長門よ、沖立の事、頼んだ』

 

「‥‥‥それはつまり、『夕立を止めろ』という事か?」

 

『そうだ。沖立は恐らく夕立として抜錨しようとするだろう。どんな事をしてでも止めてくれ』

 

「了解した。このビッグセブン、長門に任せておけ。それはそうと、だ。曙の事はどうするのだ?聞こえていたのだろう?」

 

『彼女が傷付かずに諦められるよう、何とかするさ』

 

「そう都合良く行けばいいのだがな」

 

 

 

‥‥‥はぁ。そうよ、全部丸聞こえだったってわけ。この時に一思いに振ってくれたら良かったのに。そんなだから私に『優男』なんて呼ばれるのよ、このクソ提督っ!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

見えてきた。ヤツの‥‥‥翔鶴姉の艦載機の編隊。第二波って所ね。けど私にだって意地があるんだから。利根さんや鈴谷だって居るんだし、あの程度に押し負ける私じゃない。それに、コッチはあの震電改なんだから。見てなさいよ、翔鶴姉!

 

「さあ、行くわよ!攻撃隊、発艦!」

 

私が射放った矢は水面を滑るように走って、次々戦闘機へと姿を変えて飛んでいく。私が艦載機を飛ばしたのを見て、艦隊のみんなは前方へと走り出す。

頼んだわよ、みんな。今度こそ、翔鶴姉に安息を。

 

スペックでは此方の方が上だけど、やっぱり空母水鬼の艦載機の数は桁が違う。航空戦の第一波は五分、って所か。流石は翔鶴姉ね。

 

此方の艦隊は羽黒の指揮の元、二手に分かれて挟撃。さて、じゃあコッチも行きますか。

私は第三次攻撃隊を放つ為に格納庫の矢に手を右手を掛けた。

 

雷跡が三本、此方に向かってくるのが見えた。敵の駆逐か軽巡洋艦辺りのか。さっさとこれを避けて、次の攻撃隊を‥‥‥。

 

『気を付けて瑞鶴さん!ソナーに反応有りよ!潜水艦も居るわ!』

 

何ですって?潜水艦?チッ、厄介ね‥‥‥けどやられる前で助かったわ。知らせてくれてありがとう、暁。

さて、どう出ようかしら。潜水艦が居るとなると、此方の駆逐艦と利根さんをそっちに行かせなきゃいけないし、場合によっては鈴谷もか。此方の航空戦力を削りに来たわね。流石、私を待ってただけの事はあるのね。

となると今の単縦陣で二手に分かれてるのは危険かしらね。一度陣形を組み直して、利根さんと駆逐隊を潜水艦に、他の主力と私で翔鶴姉を‥‥‥‥‥‥。

 

『聴こえますか?瑞鶴さん』

 

今度は何よ?神通?こんな時に何の用よ?

 

『提督の姿が鎮守府の何処にもありません。万が一の場合、其方で対処をお願いします!』

 

って夕立のヤツ!まさか此処に向かってるっていうの?!全く、どれだけ心配させれば気が済むってのよ!此方は今それ処じゃな‥‥‥っと、あれ?何か鈴谷のヤツ、少し動きが鈍いような‥‥‥って!!あの馬鹿っ!!

 

 

 




対空母水鬼開始。長門率いる横須賀艦隊が合流予定。いやー、テンプレツンデレのボノは実に書きやすい。
山本提督、いつか刺されますよ?


と言ってる間に問題勃発。例によってやっぱりポイポイが暴走。それから、鈴谷に不穏な影が‥‥‥。という訳でまた次回。
作者は海防艦掘りの泥沼に嵌まってしまっているので、次回は少し遅くなる‥‥‥多分。
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