抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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陽動

「ちょっと!どういう事よ!」

 

なんでよ、おかしいじゃない!何であれだけの戦力がいながらそんな事態になってんのよ!?大和さんや利根さん達だっているのに!暁はなにやってんのよ!?

 

『ごめんなさい、これ以上は支えきれませんっ、曙ちゃん、急いでくださ‥‥‥っ!!また増援っ!?一旦切ります!』

 

「ちょっと、羽黒さん!?羽黒さんってば!」

 

曙よ。悪いけど今は後にしてくれる?

 

また増援って‥‥‥嘘でしょ?羽黒さん達で支えきれない数の敵って。

早く行かなきゃ。近隣の鎮守府にも応援要請を出して、コッチも連合艦隊で挑まないと。

 

あれっ?えっ?なんか、前にもこんな事‥‥‥あっ。

 

迂闊だった。あの時と、同じ。前回空母水鬼率いる大艦隊とやりあったあの時と。また、誰かを犠牲にしなきゃいけないの?

駄目よ。そんな事あってたまるか。誰かの命と引き換えで手にする勝利なんて、もういらない。また散りゆく誰かの後ろ姿を見送るなんて、絶対に。

‥‥‥‥‥‥あっ。

そっか。私のせいかも知れないんだ。鈴谷さんも、萩風も、加賀さんも。壊滅した嘗ての横須賀第一艦隊と第三艦隊も、全部。全部私がその背中を見送ったんだっけ。そうだ。私が‥‥‥きっと、私は死神なんだ。仲間を死に追いやる元凶なんだ。それなら、今度は私が犠牲になればいいんだ。私が居なくなれば、きっとみんな死なずに済むんだ。なーんだ、簡単な事じゃないの。私が空母水鬼に突撃すればいいんだ。あの時の萩風みたいに。

 

それなら尚更急がなきゃ。他の誰かがやられる前に。全部私が決着をつけてやる。首を洗って待ってなさいよ、クソ深海棲艦ども。空母水鬼。

 

「聞こえてんのか?おいっ、曙!」

 

「聞こえてるわよ。摩耶さん、大丈夫だから怒鳴らないでよ」

 

心配して覗き込むように私を見て話しかけてくれた摩耶さん。へーきへーき。今迄に無く落ち着いてるわよ。ふーん、成る程ね。あの時の鈴谷さんや萩風も、きっとこんな心境だったのね。

 

「急ぐわよ。深海棲艦共にこれ以上好き勝手にさせない。私が‥‥‥何とかしてやるから!」

 

 

 

 

‥‥‥海上を走ること数刻後。戦場が見えてきた。やっぱり支援艦隊で最初に到着したのは私達みたいね。みんな何とか無事みたい。戦場、聞いてた海域よりもだいぶ東に移動してるわね。きっと暁の仕業ね。私達支援艦隊が合流する時間を少しでも短縮する為に自分達が少しずつ移動しながら戦ってたのね。

それにしても敵もかなりの数になってるわ。よしっ。

 

っと。私の目の前の海面上を右手側から左手側の敵艦隊の方へと走る矢。それが次々と艦載機、零式63型に変わって飛んでいく。瑞鶴さんか。‥‥‥え?おかしいわよ、そんなの。だって、今さっき此処に着く直前の羽黒さんからの報告で瑞鶴さんが大破したから早く来て、って言ってたのに。幾ら装甲空母だって、大破しちゃったら発艦なんてとても出来ない筈じゃ?

 

『曙‥‥‥やっと来たのね。大鳳も早くして頂戴。一人ではこの航空戦を支えきれません』

 

鈴谷からの通信ね。そりゃあ瑞雲だけじゃ敵の艦載機を掃討なんてとても出来ないでしょうね。

 

「分かってるわよ!今行くから待ってなさ‥‥‥」

 

ん?待って。何かさ、今の色々おかしくない?それってつまりさ、現状の航空戦は鈴谷が担当してるって事でしょ?航空巡洋艦って艦上戦闘機発艦出来ないじゃないの。じゃあさっき飛んでいった63型は何なの?それに、確かに声は鈴谷だったけどさ、何か喋り方変じゃなかった?

 

「鈴谷‥‥‥?瑞鶴さんは大破なのよね?アンタ瑞雲の運用は大丈夫なの?航空巡洋艦になったばっかりなんでしょ?」

 

『‥‥‥‥‥‥鎧袖一触よ。心配いらないわ』

 

鈴谷‥‥‥なのよね?まさか‥‥‥いやいや、そんなわけ‥‥‥。

 

慌てて矢の飛んできた方角へ向かった私と大鳳さんの視界に映ったのは、海面で気を失って倒れてる瑞鶴さん、それから瑞鶴さんを護るようにその前に立って‥‥‥弓を構えて艦載機を次々放つ鈴谷の姿。はっ!?なによコレ!?一体どうなってるのよ?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

曙ちゃん達が鈴谷さん達に合流した時から遡ること数刻。私、沖立は工廠へと向かっていたわ。この時はまだ敵の増援が現れる前だったし、『入渠してくるわね』って伝えれば神通さんも私が執務室を離れる事を快諾してくれたしね。

 

『あーもー、どうなっても知らないからね?』

 

不安そうな妖精さんに「大丈夫。貴女の責任にしたりしないから。いざとなったら『司令官に無理矢理協力させられた』って言ってくれればいい」って言っておいた。まあ、事実だしね。

 

『はぁ。全く困った提督だよ。でさ、提督の艤装なんだけど。精一杯抵抗はしてみたよ』

 

改造チームのリーダー妖精さん‥‥‥って言うのも長くて言い難いわね。もうこの際『鈴谷妖精』でいいっぽいわよね。鈴谷妖精さんの説明だと、私の艤装を少しいじってくれたっぽいわ。装備を増設、改良型艦本式タービンと新型高温高圧缶を載せてくれた。代わりに、武器は連装砲と魚雷だけ。スピードを上げて回避率を上昇させようって訳ね。

 

『言っておくけど、コレでも気休め程度だからね?今の提督の身体で大破級のダメージ貰ったら致命傷なんだから』

 

「ありがとう。充分よ。要は食らわなければいいんでしょ?」

 

敵の攻撃を避けるか、若しくは先に潰すかすればいい。あとはその都度対処するしかないし。

 

「それじゃ、私はちょっと工作に行ってくるから。小型挺用意しておいてもらえる?」

 

『あーもー。はいはい』

 

適当な返事をしつつも動き始めた鈴谷妖精さんを横目に、私は入渠ドックへ。ほら、入渠してる筈なのに脱いだ服すら無かったら変でしょ?だから、脱衣場で私の制服やら下着やらは脱いで入渠ドックの中へ。浴室内で艦娘の白露型の制服に着替えて、私が鼻唄を口ずさんでる音声データを再生しっぱなしにして。窓から外へ。

 

外で待っててくれた鈴谷妖精さん、『今更だけどさ、本当に行くの?』って聞いてきた。勿論行く。ごめんね、ヌイヌイちゃん。もし無事に戻ってこれたらちゃんと謝るから。

 

 

 

小型挺で海上を走り始めて。鈴谷妖精さんは違和感に気が付いたっぽいわ。うん、私が向かってる方角がおかしい事に。

 

『提督?向かうなら西じゃん?なんか東に向かってない?』

 

「ええ。東に向かってる。それで合ってる」

 

そう。私の目的は空母水鬼じゃない。だって‥‥‥これって陽動だと思わない?空母水鬼とその艦隊が現れれば瑞鶴さん、上手くいけば赤城さんや大鳳さんが動く。敵の艦隊の数や質によっては大和さん達みたいな今の日本の主力も。そうなれば、本土の防衛が疎かにならない?

 

『レーダーに感有りだよ!って提督、まさかとは思うけど』

 

鈴谷妖精さんも気付いたっぽいわ。そうね、私が盾になってでも此処で止めないといけない相手。念の為に応援要請は出しておこう。私がやられた時の為に。横須賀に繋ぐのは少し気が重いけれどね。一度深呼吸をして‥‥‥スーッ、はぁー。

 

「ええと、呉の沖立です」

 

『夕星さん!?今何処にいらっしゃるのですか!貴女が居なくなって呉は大騒ぎになっておりますわよ!?今提督に代わりますわ!』

 

出たのは熊野さんか。心配かけちゃったみたい。

あーあ、また山本中将や東郷大将に怒られるのね。それだけが心労なのよね。

 

『山本だ。沖立、今すぐに現在地を知らせろ』

 

「ええ。その為に連絡を取りました。それと、支援艦隊をお願いします。出来る限り強力な艦隊で」

 

空母水鬼討伐からみんなが戻るまで持ちこたえられる艦隊じゃないと。だから、態々横須賀に繋いだ。今から会敵するのは、それだけの相手だから。

 

「どんな罰でも甘んじて受け入れます。ですから、今回だけ」

 

山本中将も、今の状態では受け入れるしかないでしょうね。もう事態は動き出してる。空母水鬼の方は嘗てのように深海棲艦の大艦隊になってるみたいだし、近隣の鎮守府は殆んど主力が出払ってる。だから、私に任せてもらうしかない筈。

 

『‥‥‥分かった。だがこれだけは言わせてくれ。沖立‥‥‥死ぬなよ?』

 

「善処します」

 

通信を切って、デッキにあがる。鈴谷妖精さんが準備してくれた私の艤装を身に付けて。海面に静かに着水。鈴谷妖精さんも一緒に来てくれるみたい。『最悪の場合、私が無理矢理にでも止めるからね?』って。うん、大丈夫。最悪の場合、貴女だけでも逃がすから。貴女は死んじゃ駄目。折角戻って来れたんだもの、熊野さんや鈴谷さん、曙ちゃんに会ってあげて。

 

海面をそのまま真っ直ぐに走る。久しぶりの感覚。やっぱり海を走るのは良いわね。頬を撫でる風が気持ちいい。

 

「見えてきた。居たわね」

 

向こうは少し驚いてるみたい。まあそうよね、まさか此処で私が現れるとは思って無かったでしょうし。

 

 

 

 

『ヘエ。思ワヌ大物ガ掛カッタワネ』

 

「悪いけど、貴女の思い通りにはいかないから」

 

長く太く、白い尾。真っ黒なフードから覗く、赤く怪しく光る瞳‥‥‥戦艦レ級。あれだけの数の敵艦隊を陽動程度にしか考えていないなんて。

 

『マア、イイワ。手間ガ省ケタワネ。大人シク此処デ沈ミナサイ、夕立!』

 

不気味にニタァ、と笑ったレ級に、私も不敵な笑みを返す。紅く輝く瞳でレ級を睨み付けながら、左手の魚雷を握り締めた。

 

「そう簡単にはいかないっぽい。『雷ちゃん』、貴女こそ此処で沈めてあげる!さあ‥‥‥」

 

 

 

最  高  に  素  敵  な  パ  ー  テ  ィ  し  ま  し  ょ  う  ?

 

 




空母水鬼の方は嘗てのように大艦隊へと。鈴谷に何があったのかは、次回‥‥‥って言っても想像はついてるかとは思いますが。

一方で大将戦開始。活動限界のあるポイポイvs.『元雷』レ級。


※以下ネタです※
(祝)作者の国後ドロップ記念
◆◆神風さんの受難◆◆
パート3

(省略)ショートランド泊地、鎮守府内の廊下。

神風「うーん」テクテク

浜風「どうしました?」テクテク

神風「えっとさ、北上さん達が『掘り』から戻ってきたわよね?」

浜風「ええ。北上さんは『うへぇ、疲れたぁ~。もう暫く出撃はいいや』って言ってましたね。E-2を相当周回したみたいです」

神風「そうそう。霧島さんも『流石に疲れたわね』って。でさ‥‥‥」

国後「‥‥‥」ギューッ

神風「さっきからずっと国後が私の手を握ったまま離してくれないんだけど」

浜風「そうですね‥‥‥」チラッ

国後「‥‥‥何?浜風さん」ギロッ

神風(国後が浜風の事睨んでる‥‥‥)

浜風(そうですね、どうやら私はお邪魔なようです)

神風(!?浜風、私の脳内に直接‥‥‥!)

国後「ねぇ、神風さん。他の神風型の皆さんは?」

神風「あ‥‥‥朝風と春風、松風は居るけど他の姉妹はまだ‥‥‥」

国後「あ、そうなんだ‥‥‥」

神風「それからね、朝風達は別の鎮守府に出向中で、此処には今は私だけなの。だから占守と択捉が来るまで、国後は私と同室なの」

国後「‥‥‥へぇ、そうなんですか」ニヤリ

神風(えっ?)ゾクリ

浜風(あっ‥‥‥)察し

国後「それなら、暫くはあたしと神風さん二人っきりですね」ハイライトオフ

神風(国後の目が怖いんですけど)

国後「神風さんと二人っきり、神風さんと二人っきり‥‥‥」ジュルリ

神風「浜風、あの」

浜風「あ、そうでした。私は磯風に料理を教える約束をしていたのを忘れていました。それでは神風さん、また後程」ニゲルガカチデス

神風「え?!ちょっと待って!私、貞操の危機を感じるんだけど!?」

浜風「大丈夫です、例え国後さんとどんな関係になったとしても、神風さんは神風さんですから。それにホラ、あれも」

神風「ちょっと!?私襲われる前提!?待って、ホント待って‥‥‥って、いつの間にか艦隊名が!?」


  ───────────────────┐
│1艦隊名 国後×神風キマシタワー?  │
│ ───────   ──────── │
││神風 lv40 │ │国後 lv1  ││
││★★★★★ │ │★    ││
│└────────┘ └───────┘│
│               │      
│               │      
│               │      


神風「ちょっと!司令官!?どういう事なの!説明してちょうだい!司令官!!」

国後「どうしたんですか?早く部屋に案内してよ。二人っきりになろう?ねっ?神風さん?」ハイライトオフ

神風(姉妹のみんな‥‥‥私、今度こそ本当に駄目かも知れない‥‥‥早く帰ってきて)ガクブル


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