抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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奥の手

 

 

『‥‥‥えっ?』

 

気付いた時、私は宙を舞ってた。水切りの投げられた石みたいに海面を2度、3度と跳ねて、4度目で着水。ドポン、って鈍い音と共に頭から海水に突っ込んだ。いやー、妖精の身体って意外と丈夫じゃん‥‥‥って、違う!今はそうじゃないっ!

 

私の身体は、さっき夕立が吐き出した血でベットリと濡れてる。そう、あの状態で夕立は私を血塗れの右手で掴んで放り投げたんだよ。レ級の攻撃に私を巻き込まないように、って。なんって事‥‥‥‥!

 

海中を泳いで体勢を立て直して、海面に頭を出す。辺りをキョロキョロと見回して、夕立の姿を探した。

 

『夕立‥‥‥夕立!』

 

居た!座り込んだ体勢で、項垂れてるみたいに頭を下げて、両手はだらりと下がってて、左足は伸ばして右足は膝を立ててる状態で動いてない。見たところ酷い怪我はしてるみたいだけど、欠損したような箇所はないみたい。私は泳いで、夕立の元へと急いだよ。

 

良かった、脈はあるみたいだし弱々しいけど息もしてるじゃん。意識は完全に無いみたいだし身体の怪我はかなり酷いけど。何とかして夕立を此処から避難させなきゃ。熱くなってたせいで私も気付かなかったけどさ、夕立が戦い始めてから30分以上も経過してる。そりゃ身体にガタが来る筈だよね。ホント、私が止めなきゃいけなかったのに‥‥‥。

今思えば、夕立は態と私に食って掛かるような言い方をしてたんだね。私に時間経過を意識させないために。夕立が後退すれば、レ級は自由に動けるようになる。そうなれば、レ級は此処から一番近い陸を狙うか若しくは空母水鬼の方に行く。どっちに動かれても大惨事だよ。でも、だからって‥‥‥。

 

艤装の損傷も酷いね。今の状態じゃ自走は無理そうだよ。ここは遂に私の出番だね。え?何が出来るのか、って?私が夕立に態々着いてきた理由の一つでもあるんだ。実は私、応急修理女神妖精なんだよ!私なら、轟沈寸前の艦娘でも全快に出来る。怪我と艤装さえ直せれば、今の夕立の身体でもまだ手段はある!勿論、夕立には言ってないよ。もし言ってたら、夕立はきっと私の女神としての力を使ってもっと無理をするに決まってるからね。

 

レ級が私の事に気付く前に回復させないと。よし、集中したいからちょっと静かにしててよ?

 

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥あれっ?えっ?嘘でしょ?修理できない!?

あ、まさか『駆逐艦夕立の魂』の機能不全のせい?ヤバい、ヤバいって!もしこのまま回復出来なくてレ級の攻撃を少しでも食らったら、夕立は‥‥‥。

 

ん?通信?支援艦隊が到着したとか?それならどうにか轟沈だけは免れるよ!来るなら早く、早く!

 

『沖立さん、大丈夫ですか?あと少しで其方に着きます!それまで何とか‥‥‥沖立さん?聞こえてますか?』

 

阿武隈からだ!ちょっと、まだ掛かるの!?お願い、早く来てよ!

 

『阿武隈、早く来て!このままじゃ夕立が‥‥‥』

 

思わず通信に応えちゃって。これが最初のミス。阿武隈ってば『えっ、鈴谷さん?なんで沖立さんの通信に?』って。あ、空母水鬼の方に行ってるあの子と私の事間違えてるみたいだね。自分じゃイマイチ分かんないけどさ、声、鈴谷と似てるみたい。

その阿武隈との通信を聞いてたみたいで、熊野が怒濤のような勢いで通信してきたんだよ。

 

『鈴谷!?貴女どうして其処に居りますの!?空母水鬼はどうしたのですか!』

 

『あっ、いや、えっとさ』って口ごもった私に、熊野は続けた。『鈴谷、まさか貴女も夕星さんの出撃に一枚噛んでおりますの?後でじっくり話を聞かせてもらいますわよ!』って。違う‥‥‥ううん、違わないか。結局夕立の抜錨を止められなかった訳だしね。後でちゃんと全部話すよ。だから熊野、今は。

 

『熊野!!今は私の事はいいから!出来る限り急いで!夕立がヤバいんだよ!艦載機でも偵察機でも何でもいい、レ級の気を一瞬でも引けるものを!』

 

何でもいい。レ級を少しでも足止めできるなら、なんでも。夕立から気を逸らせるものを。

 

『まさか夕星さんが‥‥‥?鈴谷、貴女其処に居るのなら今すぐ夕星さんを連れて離脱しなさい!言い訳は後で聞きますわ!』

 

『無理なんだよ!今の私じゃ‥‥‥出来ないんだよ!』

 

今の私じゃ。悔しいけど、応急修理女神としての力でも夕立を助けてあげられない。

 

『何ですって!まさか貴女も怪我を!?待っていなさい!今すぐ‥‥‥今すぐ助けに行きますわ!貴女も夕星さんも決して、決して死なせませんわ!!』

 

ごめんね、熊野。

せめて沈む前の、艦娘だった頃の私の力が有ったら‥‥‥。

もう隠しても仕方無いよね。そうだよ。私は、今の鈴谷の姉、先代の鈴谷なんだ。どうして妖精になってるのかは全然分かんないけどね。気が付いて目が覚めた時は妖精として呉鎮守府の工廠に居たんだよね。

 

‥‥‥ハッ!?レ級!!あんな近くに‥‥‥ヤバいっ!!このままじゃ‥‥‥。砲撃が来る!!

 

2度、3度、4度、とレ級の砲撃が夕立に直撃してる。けど、夕立は沈まない。そりゃボロボロだけど、そこから更にダメージを受けてる様子も無い。私の応急修理女神としての力が完全に通じてない訳ではなくて、応急修理要員程度の力として夕立を護ってるみたい。けど、このまま続けられたら私の力でも護りきれないよ。

 

駄目だ、私も身体に力が入らなくなってきた。もう何度レ級の砲撃を受けてるかわからないけど、砲撃に耐えられてもあと2、3回が限度。それ以上は無理だよ。

 

何今の!?レ級に砲弾が直撃、爆発してる!誰かが砲撃したの!?そんな、此処からじゃどの鎮守府からも時間が掛かる筈だし、何より横須賀艦隊よりも早く着くなんて有り得ないよ!砲撃の主の姿が少しずつ見えてきた。あれっ?あれって‥‥‥。

 

 

 

 

 

「私の戦友(とも)をこんなにしておいて、只で済むと思っているのかしら?」

 

そう言ってレ級を睨むその艦娘。えっ、金剛型じゃん!?だって、金剛さんは向かってる途中だし、榛名さんは横須賀に待機、比叡は此処から横須賀より遠い鎮守府に‥‥‥って、じゃあ、まさか。あ、通信してる。

 

「マイクチェック、ワン、ツー‥‥‥金剛御姉様、聞こえますか?夕立と合流しました。彼女は辛うじて無事です」

 

『‥‥‥霧島!流石My sister!good timingデース!!』

 

金剛型四番艦、霧島。助かった、これで何とかなるよ。そう思ったら急に身体から力が抜けて。

 

あ、駄目だ、意識が‥‥‥ゴメン、少し眠るよ‥‥‥。

私が力尽きて暫しの眠りに着いた後。乗った私ごと夕立を抱き上げた霧島は、顔立ちの整った彼女とは思えない程の形相でレ級を睨み付けて怒りを露にしてレ級に向かって叫んだんだ。

 

「アメリカからは遠かったんだから。私が来たからには‥‥‥‥‥只で済むと思うなよ、この『ピー(放送禁止用語)』野郎」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「どういう事ですかね、ご主人様?」

 

「まだ分からない」

 

漣回(゜∀゜)キタコレ!!

あー、回を重ねる事苦節81回目、遂に漣の出番が来た訳ですがー‥‥‥えっ?あー、分かってる分かってる。今は其れ処じゃ無ぇ、って事でしょ?

 

ご主人様(山本中将)はさっきからずっと考え込んでましてね。いや、戦況は悪くないよ?空母水鬼の方には漸く要請出してた二航戦の二人が合流できそうだし。

問題はそこじゃねーみたいでしてね。ご主人様が考え込んでるのもそう。空母水鬼の方の情報は呉の神通さんを中継してるんですけどね、その報告に依ると『鈴谷が艦上戦闘機を発艦してる』って。いやいや、これマジですぞ?航空巡洋艦が艦上戦闘機って‥‥‥どうなってやがるんでしょうね?

それだけじゃなくて、鈴谷の様子も変らしいし。ボノたんと長門さんの話だと『まるで加賀さんのよう』なんだって。

 

それだけじゃないのです。夕星の所へ向かってる熊のんから『夕星さんの所に鈴谷も居るようですわ!』って。うーん、鈴谷が二人?ナニコレ?どーなってるんだお?

 

「あ、実は鈴谷は二人居ました!とか?それとも多重影分身、的な?どうですかね、ご主人様?」

 

「いや、漣。流石に鈴谷が二人というのは‥‥‥‥‥‥いや、そうかも知れない」

 

あ、流石のご主人様も遂に思考がショートしたみたい。漣の冗談を真に受けるなんて‥‥‥あ、それは違うの?そうじゃないって事?

 

「すまん漣、少し頼まれてくれるか?」

 

ご主人様の頼みごと?仕方ねー、ここは頼まれてあげましょう。緊急事態だしね。

 

「ほいさっさー!」

 

漣への指令は、妙さん達の所へ向かう事。幾つか聞きたい事があるんだって。よしっ、たまには漣も真面目に、お仕事お仕事っと。

 

‥‥‥え?漣の出番これでもう終わりなの?(´・ω・`)ショボーン

 

 

 

 




遂に妖精さんが告白。リーダー妖精さんは何と先代鈴谷だった!?
‥‥‥え?知ってた?ナンダッテー!?

霧島が緊急帰国。放送禁止用語はご想像にお任せします。

夕立の容態は‥‥‥?


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