抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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追い掛けた背中

 

 

微かに声が聞こえる。誰かに抱かれてるっぽいわね。

 

「―――!―――」

 

『――――――!』

 

何かを言い合ってるみたいだけど、ぼんやりとしてて聞き取れない。まだ生きてるって事は、支援艦隊が間に合ったっぽい?私のぼやけた視界に映ったものは、金剛型の巫女風の制服の胸の辺り。私は(あ、金剛さんか)って勝手に思い込んで、そのまままた瞳を閉じた。あれだけ感じていた全身の痛み、今は微かにしか感じられない。あぁこれ、何時かの戦艦棲姫の時の様。今度こそ、このまま死ぬのかなって思った時だったわね。その言葉だけは聞こえた。

 

「もう少しだから。頑張りなさいよ、夕立」

 

‥‥‥意識も朦朧としてて。これは死に際の走馬燈か何かなんじゃないか、って思った。だって、聞こえた声は確かに霧島さんのそれだった。霧島さんが此処に居る筈無いから。

 

 

 

そのまま意識を手放した私を抱えて、霧島さんは海上を走りながらレ級を睨む。同時に、さっき目を覚ました鈴谷妖精さんと言い合いの続きを始めたっぽいわ。

 

「スピードが足りない!夕立に載せてる高圧缶とタービン、今すぐ私に載せ換えなさい!」

 

『はぁ!?無茶言わないでよ!今は海上、しかも戦闘中だよ!?無理に決まってんじゃん!!』

 

今の霧島さんは私を抱えての戦闘を余儀無くされてる。既に小破。旋回、前進、どの動作を取っても私を抱えてる分動きは鈍くなる。高速艦のレ級を相手にするには、鈍くなった動きをカバーするだけのスピードが必要。ちょうど私の艤装にタービンと高圧缶を載せたのと同じ理屈ね。

 

でも。理屈は分かるけど、此処は海の上。レ級が相手では時間的余裕なんて無い。鈴谷妖精さんの言い分は尤もね。せめて私の事を諦めてくれれば、霧島さんにだって戦いようもあるんでしょうけど。霧島さんは私の命を捨てるような真似、しないんだろうなぁ。

 

「ったく、初代漣といい、初代吹雪といい、レ級といい‥‥‥『英雄艦』ってのはどいつもコイツも化け物ね‥‥‥無理でもやりなさい!このままじゃジリ貧よ!」

 

『そんな事言ったって‥‥‥‥‥‥あっ』

 

鈴谷妖精さん、何かに気付いたっぽいわ。え?そうね。鈴谷さんの方と同じやり方。私が此処から離れて戦場から退避すれば、霧島さんももっと自由に動けるって事。つまり。

 

『あるよ、方法がもう1つだけ。けど、夕立の身体に更に負担を掛ける事になるけど』

 

「どのみちこのままじゃ殺られるだけよ、他に選択肢が無いならやるしかないわ」

 

今の私、『駆逐艦夕立』は私が意識を失ってるから言うなれば艦長不在の状態。つまり、鈴谷妖精さんが『駆逐艦夕立』の艦長代理になる、って事。一時的にだけど身体を預ける事になるわね。その説明を鈴谷妖精さんに聞かされて、霧島さんも困惑してる。

 

「そんな事出来るの?妖精と人間‥‥‥艦娘じゃ身体の構造が違い過ぎて動く事も儘ならないんじゃないの?」

 

牽制に砲撃を放ち走りながら話す霧島さん。普通に考えたら霧島さんの言う通り。例えるなら、自転車しか運転した事の無い人がいきなり戦闘機に乗せられて『はい操縦して』って言われるようなもの。実際、他の一般的な妖精さん達には艦娘の身体を動かすっていうのは不可能らしいわ。

 

けど鈴谷妖精さんは『大丈夫』って不敵に笑った。

 

『へーきへーき。艦娘の動き方なら分かるよ。だって私‥‥‥元艦娘だからね』

 

「ちょっと、それどういう意味なん‥‥‥っ!?」

 

霧島さんが言い終える前に、鈴谷妖精さんは私の中へ。次の瞬間、私は目を開いた。勿論、私本人の意識は無くて、完全に鈴谷妖精さんのそれだけど。それと同時に、私の身体の傷、大破してる艤装も修繕されていく。鈴谷妖精さんが直接乗り込んだ事で、応急修理女神としての力が働いたっぽいわ。正常にではなくて、中破程度迄の回復に留まったけど。

 

「中破‥‥‥ってトコかな。良かった、最悪の状態は避けられたみたいじゃん。けど、これは」

 

鈴谷妖精さんが感じているのは、全身が痺れるような痛みね。私が無理をしているせいで身体に走る、ボロボロの『駆逐艦夕立の魂』の悲鳴。

 

「嘘でしょ‥‥‥夕立のヤツ、こんなのに耐えながらアレだけの動きをしてたって事?」

 

私の状態に困惑しながら、霧島さんを盾に少しずつ後退していく私の身体。霧島さんは砲弾を対空用の三式弾に切り換えてレ級と向き合った。私の身体が安全な所まで退避する迄、守る事に専念する為。

 

「此方は任せなさい、妖精さんは早く夕立を」

 

「ちょっとキツいけど、何とか逃げ切ってみせるよ」

 

全身の痛みに必死に耐えながら下がっていく鈴谷妖精さん。「ゲホッ、ゲホッ」って咽せて、私の身体はまた血を吐き出した。右掌が真っ赤に染まる。「ヤバい‥‥‥早くしなきゃ」って焦る鈴谷妖精さんと霧島さんに通信が届いたのはそんな時ね。

 

『夕星さん、鈴谷、無事ですか!』

 

声の主は熊野さん。同時に見えてきたのはグラーフさんの艦上爆撃機Ju87C改と、熊野さんの瑞雲。支援艦隊ももう到着するっぽいわ。

 

「熊野‥‥‥鈴谷って?まさかもう一人居るの!?」

 

霧島さんのその返答で、熊野さんは言葉を失った。やっと口にしたのが『嘘‥‥‥ですわよね?』って一言だけ。この時の熊野さん、鈴谷さんが轟沈して霧島さんが来た時は手遅れになってた、って思ったっぽいわ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

‥‥‥う‥‥‥あ‥‥‥私、まだ生きてる?轟沈は免れたみたいだけど、身体が重い。キツいのもらっちゃったからなぁ。けど、咄嗟に飛行甲板は守った。身体さえ動けば、まだ発艦できる筈。

 

あ、不味いわ。右手が動かない。これは折れてるかも。何とかしなきゃ、私が航空戦を支えなきゃ。

 

あれ?飛行甲板が‥‥‥無い?やらかしたみたい。私の弓も、艦載機の入った矢筒も無い。これじゃ右手が無事でも攻撃すら出来ないわ。ハァ。駄目ね、私。『私が沈めてやる』なんてあんな大口叩いておきながらこのザマか。あの妖精の言う通りだった。半端な心境で戦えるほど、翔鶴姉は‥‥‥空母水鬼は甘くはないわよね。せめてみんなの邪魔にならない所まで退避しなきゃ。此処から動か、ないと‥‥‥。

 

「気が付いたようね」

 

私の前方から聞こえた声の方に視線を移した。声の主は、主戦場と私の間に立って弓を構えていた鈴谷。あ、鈴谷の持ってるその弓も甲板も、矢筒も私の艤装‥‥‥って、え?鈴谷が弓?

私の見ている目の前で弓を引く鈴谷。あ、放たれた矢が空を走って、艦上戦闘機へと姿を変えて‥‥‥え?ちょっと、ちょっとストップ!鈴谷が発艦?嘘でしょ?

 

私が気を失う前よりも、戦場は酷い事になってるわね。凄い数の深海棲艦。勿論、此方も僚艦が多数。連合艦隊同士の乱戦になってる。飛龍さんや蒼龍さん、大鳳の姿も見える。戦況を逐一確認しながら通信を飛ばして此方の空母の部隊を指揮してるのが、信じられない事に目の前の鈴谷。

 

痛む上体を起こして、背中を向けてる鈴谷に声を‥‥‥掛けたかったんだけど、今の私には小さな声を絞り出すのがやっと。聞きたい事は沢山あるってのに、この距離じゃ聞こえない。仕方無い、通信でなんとか。

 

「ちょっと鈴谷、どういう訳なの?説明しなさいよ」

 

「今はお喋りしている暇は無いわ。足手纏いになりたくないのなら大人しく其処で休んで居て頂戴」

 

確かに足手纏いだし鈴谷にはキツく当たってたけどさ、何もそんな言い方しなくてもいいじゃない。自業自得とは言え此方は仮にも大破してるんだし少しくらい‥‥‥あれ‥‥‥?

 

弓を射るあの背中、私には見覚えがある。ううん、そんなんじゃない。確信に近いもの。私が必死に追い付こうとして、最後まで追い付けなかった大きな背中。あの弓の構えだって、そう。他でもない私が、アイツの背中を見間違う筈がない。それに、今の鈴谷の喋り方だって。

どういう事かは分からないけど‥‥‥鈴谷に憑依でもしてるっていうの?

 

なんでよ。なんで今更現れるのよ。どうしてそんな私を庇うような真似してるのよ。どうして‥‥‥私のほうじゃなくて鈴谷のほうなのよ。どうせなら、私の身体を使いなさいよ。

 

「‥‥‥‥‥‥加賀ぁ」

 

「はぁ‥‥‥此れだから五航戦は。説明は後にさせてもらえるかしら?今はアレを沈める方が先よ」

 

否定しないって事は‥‥‥認めるのね!この戦闘から生きて帰れたら質問責めにしてやるんだから!

 

溜め息をついて、飛行甲板の付いた左手を少し重そうに持ち上げて再度弓を引く鈴谷。逃げるんじゃないわよ?私の前からまた勝手に居なくなるなんて絶対に許さないんだから‥‥‥‥‥‥加賀!

 

 




ずいずい、遂にツンデレ加賀さんに気付く。
ぽいぽいの容態悪化中。

次回に続きます。



※以下、ネタです※

◆◆神風さんの受難◆◆
ぱーと5

神風「はぁ‥‥‥疲れた」←演習帰り

浜風「おかえりなさい、お疲れ様でした」

神風「本当に大変だったわ。国後が言うこと聞いてくれなくて阿武隈が大変そうだった」

浜風「阿武隈さんが?あぁ、それならいつも通りですね」

神風「そうじゃなくてね、国後ったら私の言うことしか聞いてくれなくて。みんなから妙な目で見られちゃった」

浜風「成る程‥‥‥それはきっと青葉さんの例の鎮守府新聞のせいですね」

神風「あれね!青葉さんには後でキツく言っておかなきゃ!『愛を囁く●風型一番艦!神×国ktkr!』ってどんな見出しなのよ全く!」プンスカ

霞「そうよ!一体どういう事なのよ!」

浜風「霞さん‥‥‥唐突ですね」

霞「いいから聞きなさい!あのクズったら、次の相手の演習艦隊に私一人で相手(用は接待)してやれって言うのよ!」

神風「あ、それよく見かけるわよね。他の提督の経験値と勝率に貢献するってやつよね?」

霞「そうだけど!それはまだいいのよ!艦隊名が『霞ちゃんを讃えよ』ってなんなのよ!?あのクズっ!お前は足柄さんか!?大淀さんか!?」プンスカ

神風「あー‥‥‥」←国後と二人で『キマシタワー?』で接待演習させられた経験有り

浜風「あの‥‥‥司令官はもしかしてロリ●ン、というやつなのでは?ほら、漣さん、曙さん、神風さん、霞さん‥‥‥」

霞「ちょっと!どうして私が入ってるのよ!?」///

神風「そうよ、どうして私まで」///

浜風「それにしては御二人とも満更でもなさそうですが?」

霞「そっ、そんな事ない‥‥‥わよ」///

神風「そっ、そうよ!別に司令官の事なんて何とも」///

<カシャ

霞・神風「「えっ?」」

青葉「青葉、見ちゃいました!御二人の照れた表情‥‥‥良いですね!早速使わせてもらいますね!」

神風「またなの!?オチの使い回し!?」

霞「神風さん、メタい事言わないでよ!それより待ちなさい青葉ぁぁぁあ!!」

浜風「次回に続きます、多分」


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