抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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茫然自失

 

「はぁ~、待機かぁ‥‥‥長門さんや金剛さん達と出撃したかったなぁ」

 

艦舎の窓から海を眺めてます。溜め息しか出ません。清霜もしれーかんを助けに行きたかったのになぁ。

 

「仕方無いわよぉ。今の私達じゃ足手纏いになっちゃうもの」

 

今は同室で一緒にいる、荒潮ちゃんの言うことも分かってるの。でもね、居ても立ってもいられないっていうか。しれーかんは一人でレ級と戦ってるんでしょ?前よりは強くなれた筈だし、きっと清霜だって少しくらいはしれーかんのお役に立てるもん。誰かがやられるのを傍観してるだけなんてもう嫌なのに‥‥‥。

 

あ。朝潮型四番艦、荒潮ちゃんは長い茶色い髪に、大きな瞳の綺麗な子だよ。榛名さんが『おませさん』って言ってた。それって清霜より大人って事よね?今は荒潮ちゃんには敵わないかも知れないけど、清霜はへーきです。だって、戦艦になれば大和姉様や長門さん達みたいに大人な女性になれるもん!足柄さんに貰ったこの『武蔵さんの菊花紋章』に見合う艦娘になってみせます!

 

「ねえ、荒潮ちゃん。コッソリ出撃しちゃおうよ」

 

「駄目よぉ。見付かったら後で川内教官にタップリ扱かれちゃうわよぉ?」

 

うっ‥‥‥川内教官、言葉は優しいんだけどね。教導は凄く厳しいです。だから川内教官のお仕置きはちょっと怖いですけど、清霜は負けないよ!でも、どうしてもって時は長門さんに言えばきっと助けてくれる。長門さん、いつも清霜達に優しくしてくれるもん。‥‥‥え?長門さんにあんまり近付くと危険?どうしてそんな事言うの?長門さん、すっごく優しいよ?お菓子くれたり、ヌイグルミくれたり、間宮のアイス奢ってくれたりするもん!

 

「あら?何だか港の方が騒がしいみたいよぉ?」

 

荒潮ちゃんに言われて、清霜も窓の外を見てみたよ。あ、数人が港に向かってるのが見える。あれって‥‥‥確か軍医の人達よね?何でだろう?

 

「あれって熊野さんじゃないかしらぁ?」

 

荒潮ちゃんの指差した方向の海の上に、熊野さんの姿が見えてきたよ。あれ?でも何で熊野さんだけ?艦隊の他のみんなは?あ、熊野さん、誰かを抱えて‥‥‥‥‥‥しれーかん!?

 

「清霜ちゃん!」って呼んで清霜を止めようとした荒潮ちゃんの手をすり抜けて、急いで港へ走ったの。だって、熊野さんの腕の中のしれーかん、グッタリしたままピクリとも動いてなかったし、此処からでも分かるくらい血だらけだったし。

 

「嘘よ‥‥‥しれーかん‥‥‥しれーかん‥‥‥」

 

しれーかんはね、深海棲艦になんか絶対負けたりしないんだよ。だって、しれーかんはあの『化け物駆逐艦・夕立』なんだよ?絶対やられたり、しないんだから‥‥‥。

 

海から揚がってきた、肩に見かけない妖精さんを乗せた熊野さんに抱えられて、しれーかんは軍医さん達に担架に乗せられて。

 

「清霜さん、待機命令が出ている筈でしょう。部屋にお戻りなさい」

 

いつもは優しい笑顔で話してくれる熊野さん、今迄見たことないくらい厳しい表情してる。「でもっ」て答えた清霜に、更に厳しい口調で「いいから、お戻りなさい」って。

 

熊野さんの手を振りほどいて、担架に乗せられたしれーかんに駆け寄ったの。軍医さん達が運んでるスピードに合わせて清霜も担架に付いていきながら「しれーかん!しれーかん!」って必死に声をかけたんだよ。

 

‥‥‥そしたらね、しれーかんの左目が微かに開いたの。良かった、気が付いたんだって思って、しれーかんの左手を両手で握りながら「しれーかんっ」って泣きそうになった時だった。

しれーかんは清霜に何か言いたげに口を開いたんだけど。ゲホッ、ゲホッ、ってそのまま噎せて‥‥‥何かが清霜の顔から胸の辺りにかかったんだよ。直ぐには何が起きたか分からなくって。「夕星さんっ!?夕星さんっ!!」って熊野さんの悲痛な声が清霜の後ろから聞こえてね。しれーかんの口元には、何か赤い液体が付いててね。ハッとして清霜の顔に付いた液体を触ってみたの。そしたらね、両手いっぱいに赤い何かの液体が付いて。ゆっくり視線を下げてみたらね、清霜の胸の辺りにも赤い液体がいっぱい付いてて。それがしれーかんの吐いた血だって気がついて‥‥‥。

「血圧低下、心音微弱!」「輸血用意急げ!」「心室細動です」とか、軍医さん達が良く分からない言葉を叫んでてね、しれーかんの胸に何かの機械を当てて。バシュン、って大きな音と一緒に、担架の上のしれーかんの身体が跳ねて。それから直ぐに酸素マスクっていうの?あんなのを付けられて、そのまま病棟に運ばれてったの。清霜は血がベットリ付いた両手をボンヤリ眺めたまま、暫くその場で立ち尽くしてたんだよ。

 

気が付いた時にはね、清霜はお風呂に居て、荒潮ちゃんが身体を洗ってくれてたの。

 

「‥‥‥しれーかん、死んだりしないよね?」

 

「大丈夫。あの人は清霜ちゃんを残して死んだりしないわよぉ」

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「‥‥‥そろそろかしら」

 

えっ、妖精さん?ナニナニ?何がそろそろなの?もしかしてもうすぐ空母水鬼を撃沈出来るって事?

 

「いいえ。此れ以上は戦えない、という事よ」

 

‥‥‥は?ナニソレ、戦えないってどういう事?だってさ、矢筒の中に矢は未だ残ってるし、身体だってあれからダメージ貰ってないじゃん?それにさ、妖精さんが抜けたら空母の指揮はどうすんの?

 

「指揮は二航戦に任せます。私の声で話すと混乱させてしまうでしょうから」

 

妖精さんの声で話すと問題が有るって事?良く分かんないんだけど。瑞鶴さんも鈴谷の事『カガ』って呼んでくるしさぁ。ねぇ、妖精さんの名前って『カガ』なの?

 

「時機に分かります」って答えてさ、妖精さんは飛龍さんや蒼龍さん、大鳳さん達空母組に通信してる。

 

「聞こえますか。鈴谷です。此れ以上の支援は無理よ。後の指揮は飛龍に任せます。此方は五航戦を連れて後退するわ」

 

『お疲れ。鈴谷、アンタやれば出来るじゃない!見直したわよ!今回のMVPは間違いなく鈴谷ね』

 

答えた飛龍さん、そんな褒められてもなぁ。やったのは鈴谷じゃなくて妖精さんだし‥‥‥ん?待って。もしかしてコレって鈴谷の手柄になるって事?それじゃあさ、もしかして山本提督も『良くやったな、鈴谷。君のお蔭だ』なんて褒めてくれるかな?『今回の立役者の君にお礼がしたい。このあと二人っきりで食事にでも行かないか?』なんて誘われたりして!それで、それで、その後山本提督と一緒に‥‥‥にっひひひっ。

 

「はぁ‥‥‥何度同じ事を言わせるつもりかしら。此処は戦場よ?」

 

‥‥‥あ、妖精さんにも鈴谷の心の声聞こえてるの忘れてた。うっわぁ‥‥‥恥ずかしいんですけどぉ。

 

「今から貴女に身体を返します。精々無理はしない事ね」

 

呆れながら言われた後。妖精さんは鈴谷の身体からポンッ、て出てきて、自由に動かせるようになったんだけどさ。

 

「ちょっと!?妖精さん、何コレっ!?腕上がんないんですけど!?身体も痛いし!」

 

返された瞬間、鈴谷の両腕が鉛みたいに重くて動かせない。特に、飛行甲板を持ってた左手。それからさ、身体を少し動かす度に全身に電流が走ったみたいに痛みが広がるんだけど!?

 

『問題無いわ。入渠すれば回復します』

 

左肩に座った妖精さん、そんなドヤ顔で言われてもっ!?問題しか無いし!この身体でこのあとどうやって戦えっていうのさ!

 

『だから言った筈よ。後退する、と』

 

このっ!人の身体だと思って簡単に言ってくれちゃってさぁ!

 

「無理に決まってんじゃん!?誰かに曳航してもらわなきゃ動けないって!」

 

そんな鈴谷達の会話を後ろで聞いてた、座り込んでる瑞鶴さんが突然笑いだしてさぁ。辛うじて首を後ろに向けて見てみたらさ、瑞鶴さん、攻撃を受けた時に頭でも打ったのかと思うくらい笑い転げてたよ。

 

「プッククククッ、アッハハハっ。ンフフフっ、ちょっとやめてよね、お腹痛いっアハハハハッ」

 

あまりにも笑い転げてたからさ、心配になって「大丈夫?」って声掛けてみたんだけど。なんか変なツボに填まったみたいでさ。あ、でも、瑞鶴さんが笑う所って初めて見たかも知れない。

 

「これがっ、プククっ、これが笑わずに居られるかっての!プッハハハッ、何よ加賀、そんな可愛らしくなっちゃって‥‥‥ブハハハッ、威厳も何も無いっつーの!」

 

うわぁ。瑞鶴さん、幾らなんでも笑い過ぎ。ほら、何か妖精さんが不機嫌な表情になっちゃってるじゃん。『‥‥‥頭にきました』って言って鈴谷の肩から瑞鶴さんの方に飛び移って‥‥‥あ、右腕の上で思いっきり跳ねてるよ。

 

「アハハハハッ‥‥‥って痛いじゃないっ!此方は怪我人だっての!」

 

『黙りなさい五航戦。元はと言えば貴女の不注意が原因では無かったかしら?』

 

あれ?この二人、なーんか喧嘩始めたんだけど。おーい、今は戦闘中ですよー?出来れば鈴谷の事曳航してって欲しいんですけどー。

 

あ、駄目だ聞いてないや。仕方無い、曙ちゃん達に頼むとしますか。曙ちゃんに通信繋いでっと。

 

「あっ。曙ちゃん?悪いんだけどさ、鈴谷の事曳航してくれない?自分じゃ動くの辛くってさぁ」

 

『‥‥‥鈴谷?今度は鈴谷なのよね?アンタ大丈夫なの?』

 

って具合にね。合流してくれた曙ちゃん達が、鈴谷と瑞鶴さんを本陣後方へ引っ張っていってくれたんだ。その間曙ちゃんはずっと、その『カガ』って呼ばれた妖精さんと話しててね。うん、泣きながら。瑞鶴さんはと言えば、その様子を満足そうに眺めてて。少なくとも鈴谷にはさ、瑞鶴さん、とても嬉しそうに見えたよ。

 

さー、大和さん、長門さん。鈴谷達の分まで頼んだよ!

 




タイトルは清霜の事でした。ポイポイの容態はまた次回に。


加賀さんの正体を知った瑞鶴さん。まあ、そうなるな。


まあ、そうなるなで思い出したのですが‥‥‥瑞雲祭りの賑わいがヤバい事になっているみたいですね。(私以外の)提督の皆さんは随分とアクティブなようです。まあでも1分の1スケール瑞雲は一度見てみたいですね。
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