抜錨するっぽい!   作:アイリスさん

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足木よ。

何?ウチの店に用でもあった?ん?誰か来たわね。扉が開いたわ。

 

「ごめんなさい、まだ準備中で‥‥‥って、漣?何かあった?」

 

漣の奴、こんな時間に珍しいわね。また何か動きがあったのかしらね?え?あぁ、空母水鬼とレ級が現れて交戦中なんでしょ?知ってるわよ?だって、ほら。

 

「妙さん、御主人様から連絡受けてないですかね?ちょっと聞きたい事が‥‥‥ってオイ御召艦!何で居やがる?」

 

「ひぇぇ!?漣さん、これも任務なんですって!」

 

入ってくるなり漣はカウンターに座ってる比叡を見付けてコレ。まあ普通はそう思うわよね、今はこんな事態だし。まあ比叡の言う通りこれも任務なのよね。比叡は最悪の場合を想定した護衛。レ級が此処まで来た場合に備えた、ね。だから艤装も店の裏に有るわよ?つまり、レ級と空母水鬼の件は比叡と美鈴に聞いたのよ。『ココがレ級に狙われる可能性も有るから』ってね。漣の様子だと山本提督からは比叡の件を聞いてないみたいねぇ。

 

「本当ですかね?まっ、後で御主人様に聞けば分かるからいいや」

 

漣は聞きたい事が有るみたいね。今仕込みが忙しいから出来れば後にして欲しいんだけど‥‥‥まあ、緊急なんでしょうね。仕方無いか。

 

「レンー?」

 

妖精さんならレンと一緒にウラで御田作ってるのよね。任せられるようになるまで結構掛かったけど、あの子の腕もだいぶ上達してきた。何時かこの店を譲る時の為に、レンに教えられる事は全て教えておかないとね。

どうでもいいけど、お客さん達に『御田はレンが作ってる』って言ったら出数が激増したんだけど、どういう事かしらねぇ?男って奴は全く。

 

「はーい」

 

右肩に妖精さんを乗せたレンが戻ってきたわ。それで、漣は聞きたい事が有ったのよね?

 

「そうそう。御主人様が聞きたい事って言うのはですね?『轟沈した艦娘が妖精になって蘇る条件』なんですよね」

 

漣の話だと、加賀、それと先代の鈴谷が妖精としてまた生を受けてるみたいなのよね。それも、艦娘の時の記憶そのままに。何よ?知ってるの?ハァ~、それなら先に言いなさいよね、ったく。それで、もし条件とかが有るのなら知りたい、って事らしいわ。たまたま、でしょ?そんなのに条件が有るんなら私だって知りたいわよ。また会いたい娘も何人もいるってのに。それで、謝りたい。『艦娘として国の為、ひいては世界の為に戦え』なんて言って申し訳なかったってね。

 

「妖精さん、条件なんてあるの?」ってレンは妖精さんを覗き込むように聞いてて、肩の妖精さんも『うーん‥‥‥条件ですか』って悩んでる。そりゃそうよね。

 

「あー、やっぱり偶然、ですかねぇ。御主人様に何て報告しようかなぁ」

 

『すいません、漣。私にも原因はちょっと』

 

妖精さんも困っちゃってるわね。まぁ‥‥‥アレじゃないの?例えば『残してきた人が心配過ぎてオチオチ死んでいられない』とか。加賀とか先代鈴谷とかなんて当にそうじゃない?ほら、艦娘なんて存在自体が奇跡みたいなものだしね。私ももう大抵の事には驚かないわよ?

 

え?何よ?は?何でレンに妖精さんが見えるのかって‥‥‥?いい?それは今此処で忘れなさい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

軽い浮遊感。何ていうか、液体に浮いている感覚。それと、口の辺りに違和感。口元に右手を伸ばして、邪魔な何かを払い除けたわ。

瞳を開いて、まだ霞む視界で周りを見回す。此処は何処っぽい?確か‥‥‥うん?何してたっけ?

 

漸く焦点が合ってきたっぽいわ。あれ?どうして裸‥‥‥うん?何これ、お風呂‥‥‥にしては変な設備ね。入渠ドックにしては小型過ぎるし。それに身体中に付けられてるこの電極パッドみたいな物は何?

払い除けた何かにふと目を向けてみると、それは人工呼吸器。少しずつだけど思い出してきた。そうだ、レ級と交戦してて、血を吐いて。そのあとの記憶は曖昧。誰かに助けられたような気もするし、誰かがずっと呼び掛けてくれてた気もする。

 

どのくらい眠っていたかしら?電極パッドを外して、そのお風呂みたいなカプセル型の装置から出た。あれ?此処‥‥‥横須賀の工廠?

 

 

 

「沖立さん!?」

 

一時的に何処かに出掛けていたらしい明石さんに見つかったみたい。「まだ駄目です!」って慌てて走って近付いてきた明石さんに捕まって、クルリと回れ右。カプセル型の入渠装置に戻された。

 

「まだ回復してないんですから。もう少し大人しくしていて下さいよ」

 

そういえば身体が軽い。ずっと消えなかった身体中の痛みも、殆んど消えてるわ。レ級との戦闘で負った傷も、かなり消えてる。どういう事?私の『駆逐艦夕立の魂』はボロボロだった筈じゃ?それともこの装置が新型で、私みたいな艦娘の身体すらも直せる程って事?

 

「明石さん、この装置は?」

 

明石さんの言葉は、ちょっと信じられないものだった。だって、「只の入渠装置」だって言うのだから。

 

「原因は解りません。けれど、沖立さんの『駆逐艦夕立の魂』の力がかなり回復しているみたいです」

 

どうして?特別変わったような事は無かったと思うんだけど。其れ処か、限界以上に無理をして。完全に壊れてもおかしく無かった筈なのに。でも、それなら‥‥‥。

 

「あ、沖立さん。言っておきますけど、これで『何度出撃しても大丈夫』とか思わないで下さいね?あくまでも『かなり回復してる』ってだけですから。それでも全快には程遠いんですからね?」

 

分かりやすく顔に出てたっぽいわね。ちょっと反省。そうね。今度はもっと『上手く』やらなきゃね。

明石さんの説明に依ると、この装置は私を収容する為に急遽用意した個人用の入渠装置みたい。明石さんの艦艇修理施設では私の身体は直せないみたいだし。私がそこに入ってから40時間くらい経ってるっぽいわ。高速修復材を使ってもコレだから、やっぱり完全には程遠いみたいね。けど、修復材を使って二日くらいで直るなら、今迄よりも動き易くはなるかしら。

 

「高速修復材有りでも『大和さんが大破した場合』よりも時間が掛かるんですから。くれぐれも無理はしないでください。今後また身体が悪化する可能性の方が高いんですからね?沖立さん、分かりますよね?」

 

明石さん、それでも私は‥‥‥。って考えてた時ね。扉が開いて、清霜ちゃんが入ってきた。清霜ちゃん、起きた私を見て瞳を涙で濡らして抱き着いてきたわ。

 

「しれーかん!良かった、しれーかん‥‥‥」

 

‥‥‥清霜ちゃんにも心配かけちゃったみたいね。涙で顔がグショグショになってるわ。ありがとう。でも、ごめんね。

 

あ、それから。私は一週間の謹慎処分と、10パーセントの減給3ヶ月。うーん、やっぱり今後は上手くやらないといけないかな。まあ、私が出撃するような事態にならないのが一番なんでしょうけど。

 

空母水鬼の討伐には成功したらしいわ。トドメを刺したのは曙ちゃん。討伐の目処が立った時点で、主力の半分がレ級と交戦中の金剛さん達の支援へ向かって、それに伴ってレ級が撤退。今回の事態はどうにか収束したっぽいわ。私がレ級を足留めした甲斐はあったかな。死ぬのも覚悟してたけど、幸運にもこうして生きてるし。

 

‥‥‥え?ヌイヌイちゃん?あー、うん。そうね。どうやって言い訳しようかなぁ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「そうですか。仕方ありませんわよね」

 

『まあまあ、そんな顔しないでよ。今度はまた何時でも会えるんだしさ』

 

そうは言っても。わたくしは横須賀。貴女は呉ではありませんか。折角再会出来たというのに、また直ぐに離れるというのは淋しいものですわね。

 

熊野です。

夕星さんが目を覚ましたようです。やっとホッと一息ですわね。阿武隈さん達もどうにか無事に帰還できましたし、今回ばかりは胸を撫で下ろしました。

 

それにしても、まさか鈴谷のお姉さんだったとは。運命とは不思議なものですわね。こうして二人でいると心の奥が温かくなるのを実感できますわ。

 

『それにしてもさ。熊野も、漣も。夕立も川内も。立派になったよね』

 

感慨深そうですわね。命まで張って助けてくれたのですもの。その助けた相手がこうして中心を担っているのを目の当たりにすれば、そう思うのも分かります。

 

『そういえばさ、木村提督は?今は何してるの?』

 

「アラ?御存知ありませんでしたか?あの方でしたら、今は海軍大臣でしてよ?」

 

わたくしの答えに『マジ?うっわぁ、ちょっと勿体無かったかなぁ』と。全く、この子ときたら‥‥‥。

 

『 まっ、冗談だよ、冗談。ところで熊野はさ、山本提督とは何処まで行ってるの?随分と仲良さそうじゃん?』

 

‥‥‥何を言っているのですか?わたくしは山本提督とは何もありませんし特別な感情も有りませんわ。だいいち、山本提督は既婚者ですわよ?それを伝えたところ『そうなの?』と。わたくしを何だと思っているのですか?わたくしは、わたくしは‥‥‥いえ、何でもありませんわ。

 

『ふーん、そっか。でもさ、山本提督もなかなかイイ男だよね?』

 

全く、呆れてモノが言えませんわね。仮にも今は妖精の貴女が、人間の山本提督と関係が持てる訳が無いではありませんか。

‥‥‥いえ、妖精だから何でも有り、という可能性も‥‥‥例えば、お風呂に突撃したりとか。やはり姉妹で同じ鈴谷。血は争えないといった所でしょうか?

 

『冗談だって!もー、そんなに膨れなくたってイイじゃん?山本提督に特別な感情なんて無いって!熊野ってば分かりやすいなぁ』

 

もうっ、そんなではありませんわ。わたくしはただ‥‥‥貴女が心配なだけですわ。全く、人の気も知らないで。

 

『あ、そうそう。その山本提督から伝言だよ?『熊野は来月から呉鎮守府に異動』だってさ』

 

‥‥‥はいっ!?お待ちなさい、そんな重要な事を『ついで』みたいな感覚で伝えないでくださいな。わたくしも呉ですか?はぁ、ちょっと執務室に行く用が出来ましたわね。鈴谷、一緒に行きますわよ?

 




ポイポイが起きました。前回の話の記憶は無い様子。

‥‥‥おや?熊のんの様子が?

ヌイヌイの様子を含め、次回に続く。

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