「大和さん、数値は?」
最高速から徐々にスピードを落としながら一度停止し、海上をゆっくりと此方へと向かってくる夕星さん。
「‥‥‥30ノット。やはり素の速度も落ちていますね」
大和です。
やはり、ですね。夕星さんの装甲と速度が最盛期と比べて落ちていますね。火力の数値にも若干ですが低下が見られます。もしかすると測れない他の値も落ちている可能性がありますね。夕星さんの『駆逐艦夕立の魂』の力を、駆逐艦夕立としての練度と引き換えに取り戻したという事なのでしょうか?
「予想通りね。やっぱり力が落ちてるっぽいわね」
夕星さん自身も力の低下は感じてはいたようです。今は提督という立場ですし、恐らく現在の自身の練度も把握しているのでしょう。
「これは‥‥‥もう必要無いかな」
そう呟いて、夕星さんは自身の左手に視線を向けました。徐ろに薬指に手を‥‥‥えっ?ケッコンカッコカリの指輪を外して‥‥‥という事は。
「夕星さん、もしかして」
「大和さんが思ってる通り、かな」
だとすれば。恐らくは、ケッコンカッコカリの力によって限界を突破していた夕星さんの練度が下がっているという事でしょう。私達艦娘にはよく分かりませんけれど、提督の方達の言う所の『レベル99』以下に下がったという事でしょうね。
いえ、待ってください。そんな事があり得るのでしょうか?一度上がった練度が下がる事など。
「妖精さん達の話の通りなら、私の『駆逐艦夕立の魂』が少しだけど小さくなってるっぽいわ」
どういう事でしょうか。確か夕星さんの『駆逐艦夕立の魂』は深海棲艦並みに大きかった筈です。昔、夕星さんが『たぶん、先代の夕立の魂を受け継いだっぽい』と言っていたのを記憶しています。大きかったからこそ『駆逐艦夕立の魂』が解体に耐えられなかった。それが小さくなっているという事は‥‥‥まさか、小さくなった時に失われた魂の一部分が『駆逐艦夕立の魂の負った傷』を肩代わりしていったとでも言うのでしょうか?そんな奇跡みたいな事が?
いえ、私達は艦娘。そんな奇跡も起きるのかも知れません。現に、既に沈んで亡くなった筈の先代鈴谷さんと加賀さんが妖精として蘇っている訳ですし。私自身、過去にもこの目で信じられない出来事を目撃した事がありますから。
夕星さんには心当りは無いらしいのですが、切っ掛けは間違いなく先のレ級戦でしょう。生死の境を彷徨った時に何かがあったに違いありません。一体何が‥‥‥。
「さて、っと。それじゃ大和さん。お願い。演習だけど手加減は要らないわ」
「はい」
はい?そうです。今度は夕星さんと私とで演習です。実戦的な動きで夕星さんがどの程度動けるか、どの程度まで耐えられるのか、の計測です。ある程度データが取れれば後は妖精さん達が数値を出してくれますので。
何故こんな事をしているのか、ですか?それは勿論、夕星さんが出撃する場合に備えたデータ取りです。どれだけ動けるのか、艦娘の活動にどの位の時間耐えられるのか。それを把握しておかなくてはいざという時に危険ですから。夫である東郷平八大将の許可は取りました。高速修復材を使えば時間は掛かりますが他の艦娘同様に入渠での回復が可能なようですし、また暴走されても困りますし。ですから今度はきちんと夫の許可を取れば夕星さんの出撃も可能になりました。と言っても相応の事由でなければ許可されないと思いますけれど。夫も許可を出した時かなり渋い表情でしたし、万全とは言えない夕星さんが出るような事態にならないのが一番ですからね。
では、私達はこれから演習ですので。夕星さんも提督としてのスケジュールが詰まっていますし、定刻通りこなしてしまいましょう。何せ他の鎮守府からの申請書を捌くのまでも夕星さんの仕事ですからね。
演習の結果ですか?フフッ、恥ずかしながら夕星さんの圧勝でした。流石は『化け物駆逐艦』と言われるだけの事はあります。練度が下がっていてもあれだけの強さ。本当に味方で良かったと思いますよ?
はい?不知火さんですか?そう言えば今日はお会いしていませんね。具合が悪いと聞いていますが。後で様子を見に行こうかと思ってはいます。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ふーん、此処が呉の工廠、ね」
『そうよ。貴女の艤装も届いているわ』
陽炎よ。
今は妖精さんの案内で呉鎮守府を見て回ってる所。訓練は明日からの参加になるらしいわ。今日は各施設の把握。それから司令が私のことを後でみんなに紹介してくれるって。初日は環境に慣れる事の方が大事だって司令が言ってたらしいわ。別に初日から訓練でも良かったんだけどね。新人は朝から訓練みたいでさ、途中からの参加だと中途半端だからっていう理由もあるみたい。それにほら‥‥‥司令は本当は不知火と私の為に時間を作ってくれたらしいんだけど、不知火が機嫌悪かったみたいだからね。
『おっ、陽炎じゃん。チーッス』
あっ、熊野さんと一緒に居たエメラルドグリーンの髪の妖精さんが居るわ。そう言えば元々は呉から来た妖精さんだって言ってたっけ。作業服に着替えてるみたい。艤装の点検かしらね?
『す‥‥‥。熊野の方はどうかしら?』
んっ?私の肩に乗ってるサイドテールの妖精さん、今『す‥‥‥』って何か言いかけたわよね?なーんか気になる‥‥‥。
『多分だけど、イケると思う。いも‥‥‥あっ‥‥‥ゴホン。鈴谷の設計図ベースで大丈夫だと思うけど』
エメラルドグリーンの妖精さんの方も?『いも』?なんか今明らかに誤魔化したわよね?何?私に聞かれたら駄目な事でもあるの?妖精さん達だけの機密とか?
って、鈴谷さん?鈴谷さんって言うと、あの『横須賀の問題児』よね?この前の空母水鬼戦で活躍したって聞いたけど。艦娘って見かけによらないわよね。
『そう‥‥‥。ならそれで進めて頂戴。私もこの子の案内が終わったら合流するわ』
『陽炎だって鎮守府ゆっくり見て回りたいじゃん?時間は気にしなくていいからね』
あ、妖精さん達だけで勝手に納得したみたい。まあ、工廠はまた必要になったら来ればいいわね。他に見たい所も沢山あるし。食堂とか、入渠施設とか、色々ね。そう言えば呉には明石さんとか夕張さんみたいに工廠に専門の艦娘って居ないのね?この二人の妖精さんが代わりに担当してるのかしら?
工廠を後にして、今度は入渠施設へ。その道の途中、さっきの工廠での妖精さん達のやり取りを思い出してて思ったんだけどさ。あのエメラルドグリーンの髪の妖精さん、なんか喋り方とか雰囲気とか鈴谷さんに似てなかった?うーん。偶然?
でさ。入渠施設に着いたんだけどね。この入渠施設の窓、何故か鉄格子が填まってるの。何これ?何かの拘束施設なの?
それにね、何故か司令が浴槽に居たのよ。この人なんでこんな時間に入渠してるの?執務は?
「さっきは申し訳無かったわね。不知火さんも本当はあんな子じゃないんだけど、タイミングが悪かったみたいで」
「いえ。それより司令はどうして入渠してるの?」
司令の話だとね、さっきまで大和さんと演習してたんだって。って待って。大和さんと!?一対一で?超弩級戦艦相手に駆逐艦一人でなんて、そりゃ怪我もするでしょ!なんでそんな無謀な事してるのよ!あ、そうだ、この人無茶する人だったんだっけ。
『それで、肝心のデータの方はどうだったのかしら?』
この妖精さんは相変わらず冷静なのね。ん?データ?あぁ、きっと大和さんのよね。
「上々かしらね」って答えてる司令に『そうですか』って表情を変えない妖精さん。あのさ、私の分からない話を私そっちのけで話すのやめてくれないかしらね?
‥‥‥何よ。仕方無いでしょ。この時はまさか司令が『あの夕立』だなんて知らなかったんだから。それに、加賀さんや先代鈴谷さんの事も。教えてくれなきゃ分かる訳ないじゃないの。
でね。司令はもう一度、今度はちゃんと不知火と話せる場を設けるから、って言ってくれてね。まあ不知火と同室に『された』んだけどね。私は不知火と同じ部屋になれて良かったけどさ、不知火はそうじゃなかったみたいでね。この時はそれが司令の私情に由るものだなんて分かって無かった。不知火の心の傷も。はぁ‥‥‥こんなんじゃネームシップ失格よね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「連帯責任です。全員もう1セットです」
神通さんの非情な宣告。私のせいでまたもう1セット!?もう腕が動かないよ‥‥‥。みんなが私に向ける視線が痛いよ‥‥‥。腕立て伏せなんて艦隊戦の何の役に立つの?
「風雲さん。また遅れていますよ」
もう無理だよ。みんなについていけない。もう辞めたいよ‥‥‥。
きっとこのままだと永遠に終わらないと思われたんだよね。私だけ残して、もう1セット終わった他のみんなは午後の訓練あがり。秘書艦の仕事がある神通さんの指導は此処までで、私以外のみんなは解散。それぞれ部屋に戻っていく。
「もう‥‥‥やだよ‥‥‥」
我慢出来なくて。私は遂にポロポロ泣き始めた。やっぱり私みたいな運動音痴に艦娘なんて無理だったのよ。どうしてあの時天龍さんと一緒に居た妖精さんに気付いちゃったんだろう‥‥‥。
「ほら、風雲ちゃん。あと少しだから頑張ろう?」
神通さんの代わりに私を見てくれてるのは阿賀野さん。阿賀野さんだって訓練あがりで疲れてるのに。ごめんなさい、私みたいなのに付き合わせしまって。
阿賀野さんは昔話をしながら懸命に私を励ましてくれた。昔は阿賀野さんも何やっても鈍くて、妹のお世話になりっぱなしだったとか、朝もろくに起きれなかったとか。けど呉に来て神通さんや不知火さんに指導を受けて、少しずつだけど出来るようになっていったって。それで、今では何とか先輩達についていけるようになった、って。
「だから、時間は掛かるかも知れないけど、風雲ちゃんだって私みたいに出来るようになるよ」
でも。阿賀野さんは最新鋭軽巡のネームシップ。私は只の駆逐艦。元の才能が違う。何の取り柄も無い私なんて。
‥‥‥ふと艦舎のほうに視線を向けると、陽炎さんの姿が見えた。あ、鎮守府内を見学してるのかな。陽炎さんって確か、川内教官に特別メニューを受けてたんだっけ。私とは違うんだよね。
天龍さんの嘘つき。私みたいな子でも活躍できるって言ってたのに。艦娘になっても変わらないじゃない。
阿賀野さんに申し訳無いから、凄く時間は掛かっちゃったけど腕立て伏せはやりきった。艦娘になる前だったら、きっと筋肉痛で動けなくなってるんだろうな。入渠すればこの疲労まで回復するんだから凄いよね。
入渠した後に、「頑張ったね」って阿賀野さんが甘味を奢ってくれた。最近横須賀鎮守府に伊良湖さんが戻って来たらしくて、代わりに横須賀に居た間宮さんが呉に来たの。だから、奢ってくれたのは甘味処間宮の最中。甘くて美味しいし凄く嬉しいけど‥‥‥私は本当に頑張ったの?だって、他のみんなは普通に出来る事なんだよ?
天龍さんが呉に異動してくる、って噂を聞いたのは、その日の夜だった。
奇跡の代償は、ポイポイ自身のレベルダウン。ポイポイにあの初代雷や先代ポイヌさんと会った記憶は無い模様。
陽炎は次回から訓練参加。悩めるネガティブ風雲とその元凶天龍が次回着任。
なんでしょうか?作者に落ち度でも?別に艦これがメンテナンス中でin出来ないから更新した訳じゃないですよ?元々更新予定だったんです‥‥‥ほっ、ほほほ本当ですって(汗
※以下ネタです※
◆◆神風さんの受難◆◆
パート‥‥‥あれ?幾つだっけ?
曙「那珂さん、お話があるんですけど」
那珂「なになに~?那珂ちゃんに何でも相談してね♪あと『那珂ちゃん』って呼んでくれなきゃ駄目だよっ★」
神風「あの、二人とも。ここ私の部屋‥‥‥」
曙「初春さん、居ますよね?」
那珂「あ、うん」
曙「あの人、改二ですよね?」
那珂「そうだねっ☆」
神風「あの‥‥‥私の部屋‥‥‥」
曙「あの人よりアタシの方が長く生き残ったんですけど。もっと言うとアタシ、着底はしたけどあの戦争で生き残ったんですけど。解体されたのとか戦後なんですけど」
那珂「アッハイ」
曙「アタシが着底した時一緒に着底した木曾さんも改二ですよね?」
那珂「うん」
神風「‥‥‥あの」
曙「じゃあ!じゃあアタシに改二が来てもおかしくないですよね?運の値だって生存艦なんだからもっとあっていいですよね!?そこの神風さんとか、榛名さんとか位あっていいですよね!?」
那珂「うーん‥‥‥駆逐艦曙の艦歴からすると運は微妙‥‥‥改二は‥‥‥有り?かもだけど‥‥‥」
神風(あ、よかった。認識はしてもらえてるのね)
曙「なんでですか!アタシが運営に何したって言うのよ!もっと優遇されたっていいじゃないの!このクソ四水戦!」
那珂「クソ四水戦!?」ガーン
曙「那珂さんは改二になったからいいですよね。先制対潜とか、よくイベントの切り込み隊長任されてるとか。そんな『アイドル』とかキャラ付けまでしてもらえてるし!」
那珂「キャラ付けとか言わないで!?」
曙「あれっ?限定グラも多いし能力的にも川内さんや神通さんよりも使われやすいし改二にできるレベルも低いから育てられやすいし‥‥‥もしかして那珂さんって運営に優遇されてる?」
那珂「そっ、そんな事ないよっ!曙ちゃんだって頑張ってるでしょ!」アセアセ
曙「だって‥‥‥七駆のグラフィックのテコ入れで株が上がったのって朧と漣だし、なんかアタシだけツンデレとか微妙なキャラ付けだし、クソ提督の前では素直になれないし‥‥‥なんかアタシだけ運営に優遇されてない気がする‥‥‥」
那珂「曙ちゃんだって限定グラいっぱいあるよね!?それにグラフィックテコ入れで曙ちゃんの株だって上がってる筈だよ!あとメタ発言は那珂ちゃんの専売特許だよっ!!!もーっ、那珂ちゃんはツッコミ役じゃないのに!!」
神風(これ私の部屋でやる意味あるの?それにしても限定グラかぁ。二人ともいいなぁ。私にも限定グラ来ないかなぁ‥‥‥水着は恥ずかしいけど)
曙「それから!クソ提督のヤツ、何でこのSSでアタシの一人称『私』にしてるのよっ!」
那珂「あ、それ那珂ちゃん知ってるよ!夕立ちゃんの一人称の『アタシ』と被るのを避けたって言ってたよ。一ヶ所だけ曙ちゃんが『アタシ』って言ってる話があるけど」
曙「あのクソ提督っ!それならそう言ってくれればいいのに!」
神風(あ、司令官あの話は直さないのかな?)※注:27話の事です_ノ乙(、ン、)_
那珂「曙ちゃんと七駆はまだ恵まれてると思うけどなぁ。ウチの提督は吹雪型とか全然育ててないし」
神風(あー、だから吹雪とかあんなレベル低いのね。私も恵まれてる方‥‥‥なのかな?)
曙「そう‥‥‥なんですか?」
那珂「そうだよ!だから自信持って!」
曙「けど改二‥‥‥次こそはアタシの改二を‥‥‥」
神風(神風型は改二いつになるかしら‥‥‥)
‥‥‥漣は兎も角、ボノに改二が来てもいいと思うのは作者だけですかねぇ?
今図鑑見たら那珂ちゃんって限定グラサンタしか無かった‥‥‥何で多いと思ったんでしょうね。